第五十四話 戦士として -Julius Side-
「お、おい! ユリウス! 俺達も戦わなくていいのかよ!?」
俺達は再びエスハイム城へと踵を返した。
「あの数を見たでしょう? こちら側は数でも圧倒的に少なくまさに猫の手も借りたい状況ですよ。加勢に行くべきなのでは?」
またクズ達が何か言い出したな。
さっきも言っただろうが! お前達が行ったところでプラスにもならないんだよ! それに俺の命令に一々反対するなクソが!
「私は皆を守る盾、聖騎士ゼノスだ。何もせずに戦場を離れる訳には」
「あぁぁ〜! も〜面倒臭い奴らだな! そんなに死にたきゃ勝手に死ねよクズどもが!!」
「あの……我々は」
「一緒に死ねよ!!」
俺はゼノス達を置いて、一人で城へとかかる橋を渡る。
住民の群れが邪魔して先に進めん……。
怒りのボルテージが振り切れそうだ……どいつもこいつも俺の邪魔をしやがって!
そんな俺に向かってまるで聴かせるように周りの住人が話し出した。
「あの人上官よね? なんで部下だけ向かわせたのかしら……」
「エスハイムは国王でさえも、戦場で指揮を執ってると言うのにラムリースのお偉いさんは高みの見物とはな」
「部下に向かって〝死ね〟だなんて……酷すぎる」
ただ生きてるだけの雑魚が! お前達全員魔物の餌になりやがれ! お前達みたいなクズが俺の崇高な考えは分からんだろうからな。
「どけ! ほらどけよクズどもがっ!!」
「いだぁぁぁい!! いだいよぉぉ〜!!」
女子供、老人関係なく城へ進む為の障害になるものは、突き飛ばして無理やり道を作る。さっさとどけよ無能市民ども!
「きゃあ! ちょ、ちょっと!! 押さないでよ!!」
「貴方何してるんですか!?」
「うるさい!! 邪魔なんだよ!!」
「な、なななんて人なの!?」
「おい! 最高司令官だかなんだか知らんが、俺達は一般人だぞ! しかもあんな小さい子供を突き飛ばして、あんた本当に血の通った人間なのか!?」
「ただここで突っ立ってるだけの無能市民が、最高司令官に口出しするんじゃない!!」
「あんたもただ突っ立ってるだけじゃないか!! 部下は戦場で命を懸けて戦ってるんだろ! 部下の方が優秀じゃないか!」
「なんだと!? 貴様! 二度と喋れないようにしてやろうか!!」
俺は背中の聖剣ギグドラーンに手をかけ、引き抜く。
「……なに!? ぐっ……ぐぅぅ……抜けんぞ……」
聖剣ギグドラーンが鞘から抜けない……。
こんな事初めてだ。聖剣までも俺の事を拒否しやがるのか……!!
なら、お前も必要ない!
おい! タニス!! お前の仕業か!?
と、周りを見渡すがタニスの姿がなかった。
魂の契約をしてるからそんな遠くには行く事が出来んはず。
そう言えばいつからいなかった?
「おい……さっきあいつが投げ飛ばしたのって聖剣ギグドラーンじゃないのか!?」
「聖剣!? じゃ、じゃああいつ勇者なのか!?」
「ふっふっふ、そうだ! 俺は勇者ユリウスだ! 分かったらさっさとどけよムシケラ!」
「こ、こんな奴が勇者……俺達の希望だなんて」
「勇者に逆らう奴がいるならかかって来るんだ。天罰が下ってもいいならな」
「く……くそぉ」
「そうだ、分かったなら道を開けろ」
ふん、クズ市民どもが。やっと俺がどれほど偉大な存在なのか気づいたか。
市民どもを端っこに寄らせてまるで花道のように俺はその中を歩く。
さっきまで言いたい放題言ってた奴らも完封した。
相手が平伏した時のゾクゾクした感覚、凄まじく気持ちがいい。快感だ。
さあ俺はエスハイム城で一番見晴らしのいい所に行って戦況を見てみるとしよう。
ゼノス達も命令通りについて来てれば今頃ここから高みの見物が出来たって言うのに、他国の市民を助けたところで何の得にもならんぞ。
お前達にそんな力もないと言うのに、本当に馬鹿だな。
◆
-Zenos Party Side-
エスハイム城下町中央広場はまさに戦場と化していた。
ゼノス達が駆けつけた頃、それぞれの目に映っていたのは同じエスハイムの兵士、人間同士の殺し合いだった。
「お、おい! どうなってんだよあれ……味方同士でやりあってんぜ!?」
「う、うむ……。シャドウの姿も見当たらんぞ」
「まさか、操られてるかも知れませんねぇ」
「シャドウにか!? でもそうだとしても、どっちが本物で操られているのか見分けられねぇぞ!」
「一人ずつ確認する訳にもいかんしな……私達に出来る事はないのか」
「ゼノス! あそこに王子がいるぜ! 囲まれて殺されそうになってる!」
街の入り口付近でリーベルト王子がエスハイムの騎士やギルドの戦士達に取り囲まれているのをゼノス達が発見する。壁に追いやられ成す術をなくしていた。
ゼノス達は周りに気をつけながら、リーベルトへと向かっていく。
その途中で黒い影のシャドウが一般市民の中に入って行くのを見た。その後まるで獣のように襲い始めたのである。
「お前達今のを見たか!?」
「お、おう……! シャドウの奴、取り憑きやがった」
「やはり憑依して操られていたんですねぇ」
「我々も憑依されないように、あの黒い影には近づかないようにしよう!」
と、その時、背後から忍び寄るシャドウの影が。
最初に気づいたのはクウォンだったが、二人に知らせる頃には十二体のシャドウが周りを囲んでいたのだった。
レベルゼロのゼノス達には、シャドウのスピードについていけず、瞬きの間に瞬間的に出現したように目に映る。
相手にするには余りにも差があり、その事をシャドウは理解しているのか絶望の表情を見たいが為と言わんばかりに少しずつジワジワと詰め寄って来る。
「フシュシュシュ。キョウフヲカンジテイルナ。ワレワレガコワイカ? ニンゲンヨ」
「嘘だろ……おい聞いたか今の! こいつら喋ったぜ!?」
「急に現れた事も含めて、ただの魔物ではなさそうだ。くそ……このままでは取り憑かれてしまう」
「ソウダ。オマエタチニトリツイテ、コノクニヲハメツサセテヤロウ」
「キョウフシタニンゲンハ、トテモウマイ。モットキョウフシロ。フシュシュシュ」
ゼノス達はお互いに背中を預けいつ襲って来るか分からないシャドウに対して、ただただ身構えるのみである。
突っ込んで行っても敵わない事は分かっている。かと言って逃げる事も出来ない。
シャドウに憑依されるのが早いか遅いかの違いでしかない。
「ゼノス! ヴァール! 俺はどうせやられるなら一発でもぶん殴ってやりたい! どうだ? 乗らねーか?」
「あら、奇遇ですねぇ。私もそう思ってたところだったんです」
「……本当かよヴァール」
「ええ。私の場合は一人でやろうとしてましたけどねぇ」
「クウォン、ヴァール、私達は最後まで勇者パーティーだ。人々を守る事は出来んかったが、戦士として死にたい」
「へへ、だな! よっしゃあ! そんじゃやるか!!」
ゼノス達は持てる限りの力を振り絞って、シャドウに向かって行った。
もしかしたら奇跡が起こってシャドウに致命傷を与えられるかもしれない。なんて誰も思わない。憑依される、殺される、どっちにしても敗れる事には変わりはない。
それは皆分かった上で突っ込んで行ったのだ。
戦士として戦う事を選んだ、前に向かって進んだと言う誇りの為に全てを懸けたのである。
彼らの攻撃はどれも命中さえしなかった。そして一撃で地面に倒れてしまう。
重い一撃だ。シャドウはただ向かって来た体に対して拳を当てたに過ぎない。
ゼノス達はその辺の兵士達よりも遥かに貧弱なのだ。
地面に転がり天を仰ぐ。
彼らの目には青い空、輝く太陽は映らない。
黒い影、そして赤く光る二つの目。
「ツマラン。オマエタチ、ゼンゼンキョウフヲカンジテイナイ」
「ワレワレヲキョウイデアルト、オモッテナイノカ」
「……あぐぅ……あ、当たり前……だろうが……へへへ」
「ナラバ、モウスコシイタメツケテヤロウ」
「うがぁ!」
「が……は……ぁ……」
「がふ……!?」
十二体のシャドウは一斉に物凄い速さでゼノス達を袋叩きにする。
たった一撃で相当のダメージを受けていたゼノス達、それがいつ終わるのか分からない程何発も何発もその体に受けるのだ。
抵抗する力も気力も失い、心も体もボロボロになってもまだまだその攻撃は止まない。
命の灯火が消えようとした時、それはまさに奇跡のように城下町に降り注いだ。
白く輝く光に次々とシャドウ達が黒い煙を残して蒸発していく。
憑依していたシャドウも苦しみ地面にのたうち回りだした。
「な…………んだ……あの……輝」
ゼノスは輝く空から降りて来る二人の姿を目に映した。
その内の一人は女性で魔族のような姿をしていたが、もう一人はよく知っている人物であった。
以前は共に魔王を倒した仲間。それからは自分から能力を奪い取った大罪人として追ってきた憎むべき存在。
しかし、今目の前に立っていたのは大罪人ではなくこの絶望から救い出してくれる救世主。本能でそう感じたのである。
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