第四十話 立ち上がる時 -Rainbell Side-
久しぶりの投稿です。
悪魔を統べる古の魔王ロズは、恐ろしい悪魔だったと思う。
人間や魔族さえも奴隷にしてしまうんだから。
この時代の人々や魔族はみんな悪魔達の言いなりで、抵抗する事も出来ずにただただ飼い慣らされていたんだ。
だけどこれが偶然なのか運命なのか、あたし達はこの時代へとやって来た。
「魔王ロズは全知全能ではありません! ここにいる皆が力を合わせ、一つになって抗えば倒せる相手なのです!」
魔王ロズは、アストさんの力を恐れてる。あいつは多くの悪魔達を盾にして逃げて行ったんだよ。
自分のしもべだよ? そんなのが魔王だって? ほんと笑っちゃうよね。
アストさんとリラティナスは、ロズを追跡で北へと向かって行った。それであたしとネファーリアは魔族を悪魔の支配から解放していたところ。
奴隷からの解放については、アストさんから魔術解除を教わったからあたし達だけでも悪魔の魔力を解除する事が出来た。
悪魔の支配されていた期間が長かったからなんだろうね、奴隷から解放されたって言うのに魔族達の表情は暗いまま。
ネファーリアはそんなみんなを勇気づけようと、必死に訴えかけている。
「俺達奴隷が神に……抗うのか……?」
「そ、そんな事してみろ! 俺達皆殺しになるぞ!」
「あんたらが何者か知らんが、強いって言うのも分かったし、解放してくれた事にも感謝している。だが魔王様に抗おうなどここにいる者たちは微塵も思っていない。やるならあんたらだけでやってくれよ」
「み……皆さん、勇気を持って下さい! 魔族だけが平和に暮らす、魔族だけの世界を築くのです!」
彼女の言葉に一切目を合わす事なく、なんなら関わりたくないと言う雰囲気さえ漂うこの場に、みんな座り込んでボーッと空を眺めている。
そんな中でネファーリアと視線が合い、溜め息を一つ。
「……いえ、簡単に諦めてはいけませんね」
「ネファーリア…………うん、そうだね」
「本当に魔王を……倒せるのか?」
一人の若い魔族がネファーリアのもとにやって来てそう言った。
ネファーリアの訴えに耳を貸す魔族がいたんだよ。
あたし達は顔を見合わせてお互いニコッと微笑みを交わす。
やったね、ネファーリア。
「はい! わたくし達が力を合わせれば恐れる必要はありません!」
「あんたも魔族なのか? 俺達もあんたのように強くなれると?」
「はい。わたくしも貴方と同じ魔族です。何も特別な存在ではありません」
「やめておけ、ジアン」
別の魔族が話を割って入って来た。
「関わるとお前もただじゃ済まんぞ」
「それでいいのか? 俺達はずっと何年も何年も悪魔達の奴隷として生きて来た。彼女が言うようにこれはチャンスなんじゃないのか? 魔族が独立するチャンスだぞ」
「独立するだと!?」
また別の魔族が遠くの方から野次って来た。
「俺たちゃ造られしモノなんだよ。親である悪魔、ましてやそん中の一番偉ぇ魔王に歯向かうなんぞ無謀にも程があるぜ。ジアン、てめぇが死にたきゃ勝手に一人で死ね」
「そうだ、みんなを巻き込むな」
「元々私達の命なんて、無いようなものよジアン。魔王様の怒りを買うだけ」
そんな簡単には受け入れてもらえないかもしれない。
ずっと首に鎖をつけて飼われていたんだもんね……。
抗うのは難しいかもしれない。怖いかもしれない。
今のあたしには想像出来ないもの。
悪魔によって造られた魔族は、人間と悪魔のハーフ。
だから人間としての心も魔族には宿ってる。
あたし達の時代の魔族は、思想こそ違うけどみんな強い心を持ってた。
ネファーリアやリラティナスはここにいる魔族の子孫で、強い心を持った魔族なんだ。
「立ち上がんなさいよ! ずっと奴隷のままでいいの!?」
「…………」
「あたし達の時代じゃ魔族は!!」
「レインベルさん!」
あぁそうだ……名前を呼ばれて、はっと気づいた。
未来の話は出来るだけしないようにってアストさんに言われてたんだった。
歴史が変わるかも知れない、あたし達がここにいるだけでもイレギュラーなのにって。
だからあたし達の事や未来の話はここではしてはいけないんだ。
「例え悪魔に造られし産物であっても俺達には感情がある。生きる権利がある。俺はこの者たちの言葉を信じる。立ち上がるなら今しかないぞ!」
このジアンって魔族、若いのにとてもリーダーシップを感じる。
彼の言葉に徐々に賛同する数も増えていった。
神に抗う、彼らにとってまさに無謀な挑戦だよね。だってまともに魔力の扱える者もいないし、そもそも戦い方を知らない。
だけど大丈夫、あたしとネファーリアである程度教えればすぐに身につくはず。
魔族には悪魔の血も入っているんだから。
-Ast Side-
「先生、あそこの穴から地下に潜ったみてぇだな」
「うん。何か罠を仕掛けてるかも知れないから、慎重に行くよ」
魔王ロズ、やっと追い詰めたぞ。
自分の下僕を盾にして逃げた救えない悪魔。地形を知り尽くしているあいつと、初めて踏む僕達。リラもお手上げ状態だった。
初っ端はどんどん突き放されてたけど、でも何とか追いかけて来られたな。
丁度ロズの城から北に二日くらいの地点、綺麗に丸く形取られた洞窟、いや、リラの言う通り穴だな。
底が見えず、どこまで続いてるのか分からないがロズはこの下にいるんだ。
僕達は警戒しながらもその穴を降りて行く。
降りると言うよりも落ちると言った方が正しいだろうな。
最初はそんな感覚、それで段々と落ちている感覚が麻痺してるのか宙に浮いてる……? いや、そもそも落ちてるのかこれ。
「随分と深い穴だな……」
「先生……もしかしてこの穴って」
「リラ、何か知ってるのかい?」
「あたしも話でしか聞いた事ないけど、多分あいつは〝魔界の心臓〟に向かってる……」
「魔界の心臓?」
「あたし達の時代じゃ、魔王以外は入る事が許されない禁じられた地なんだ」
「魔界の心臓には一体何が?」
「魔界の心臓には、〝魔導神〟様がいるって言い伝えがあるんだ」
「魔導神……」
確か、ネファーリアが前に言ってた気がする。
導師が人間を導く存在なら、魔族を導く存在が魔導神。
つまり状況から見て、ロズは魔導神に助けを求める為にこの穴に入った。
魔界の心臓に。
だとしたら厄介だな。魔導神がどんな力を持ってるか分からないし、僕と同様……いやそれ以上かも知れない。
「先生、見ろよ! あの光から物凄い魔力を感じるぜ」
この穴に入ってずっと続いていた真っ暗な空間が終わり、光の玉が足下に見える。
と言っても地面に足がついてる感覚はないから、もしかしたらまだ僕達は落ちているんだろうか。
「ロズは? 先生、ロズの魔力を感じない」
「あそこだ。あの光の前にいる」
余りにも大きい魔力が近くにあるからロズの魔力が拾えないんだ。
ん? あの光が魔導神か?
そんな時、僕はふと脳裏にあるイメージが浮かんで来た。
「コア……スピリタス」
コアスピリタス、僕はこれを知ってる。それは星のエネルギー、命とも言える。
魔導神は、コアスピリタスの事だったんだ。
でも何で僕はそれを知ってるんだろう? 僕よりも前に一人だけ導師に目覚めた者がいた。その者の記憶も僕は引き継いだんだろうな。
そう納得するしかなかった。
コアスピリタス。
ロズは星のエネルギーを使おうとしてるのか?