第二十一話 街道にて
陽の落ちた街道を、ガタゴトと馬車が走って行く。
街道脇に等間隔で設置された獣避けの先端が、淡い光を放ち、暗闇の中を走る馬車に街道の存在を知らせていた。
日本の街頭のように辺りを明るく照らし出すような光ではないが、周りに光源のない平原の中、淡い光はその役割を存分に発揮していた。
馬車の御者台の背面には左右にランタンがぶら下がっており、走る馬の足元を照らしていた。
夜の道を走ることに慣れているのか、馬を操る御者の手綱捌きは淀みがなく、馬も御者を信頼してか馬足に躊躇いは無い。
馬車の中には四人の男女が乗っていた。
四十代の男が一人と、十代後半の男が二人に女が一人。
異世界に召喚された元達と、三人の先導役であるグリーだ。
陽も落ち街道脇の獣避けが光る光景を、初めて見る元達は暫く興味深そうに眺めていた。
暗闇に染まった世界は地面の存在さえも消し去り、獣除けの放つ淡い光のみが浮き上がっていた。
空には雲が掛かっているのか星が見えず、頼る光は馬車のランタンと獣除けのみ。
そんな幻想的な光景に目を奪われていた元達だったが、陽が落ちてから何時間も経った今では興味も薄れていた。
列車を降りた街から馬車で出発してから既に七時間程。
途中で休憩の為に村に立ち寄った以外、、ずっと馬車に揺られているのだ。
あまり代わり映えのしない景色に変化があったのは陽が落ちた時だけで、その変化にも慣れてしまった。
座っているだけなので体力的に疲れてはいないが、精神的には疲れが溜まっていた。
「なぁグリーのおっさん。暗くなってから随分経つけど、まだ着かねーの? 」
暇を持て余している柏木がグリーにそう投げかけた。
元や荒岩も同じ意見なのか、三人はグリーに視線を向ける。
『先程、最後の分かれ道を過ぎたから、もう暫くしたら着くはずだ。通行証は持っているから、外門が閉まっていても町の中には入れる。焦っても道は短くならんし、借りた馬の脚は速い。もう少し我慢しろ』
腕を組み目を瞑っていたグリーが、三人に目を向けそう告げる。
それだけ言ってまた目を閉じた。
「こう辺りが暗いと進んでるのかも不安になんだよなぁ。地図とかあれば安心できるのによ」
「いや、地図があっても俺たちはこの世界の街とか知らないんだから。意味ないだろ」
柏木の発言に元がそう返す。
「気分の問題だよ、気分の」
それでも柏木は納得する事なく、愚痴を吐く。
長時間の移動で不満が溜まっているのだ、無理もない。
元も気持ちが分かるのか、それ以上の訂正はしなかった。
「スマホでもあれば暇潰せんだけどなぁ。ポケットにでも入れとけばよかったぜ」
「授業中に、召喚されましたから。しょうがないです」
元達の通っていた高校は、当たり前だが授業中の携帯電話の使用は禁止していた。
持ち込みを禁止はしていなかったが、授業中は鞄に携帯電話をしまう事、と校則で決められていた。
そう言った理由で、召喚された者達の中で携帯電話を持っている人数は多くなかった。
全く居なかった訳では無いのは、制服のポケットに入れていた生徒がいたからだ。
最も、そう長く電池が持つ事は無かったので、今では使える携帯電話は無いのだが。
そもそもの話。
「電波が無いんだから意味ないだろ… 」
元の言う通り、この世界にまで電波が届かないので使用できる機能はごく限られた。
手の平に収まるメモ帳兼、時計。
写真と録音といった機能程度だろうか。
充電できない以上、それもあまり意味は無かったが。
「不便な世界だぜ、まったく」
現代日本に育った柏木としては、スマホが使えない現状に不満顔だ。
元も荒岩も同じ環境で育った現代日本人なので、携帯電話は使っていた。
しかし元は日々の稽古でゲーム等をする時間は無かったし、荒岩は読書が趣味なのでやはりそこまで携帯電話に依存はしていない。
二人は柏木程、携帯電話の無い現状に不満は無いようだ。
「無いものはしょうがないだろ。俺たちが知らないだけで、この世界にも似たような物があるかもしれないし」
元は慰め半分でそう言った。
「魔道具って奴か。まぁ魔法なんてのがあんだもんな。向こうとこっちじゃ発展の仕方が違うんだから、あるかもなぁ」
「ゲームとかは期待しないほうがいいだろうけどな。娯楽がそこまで発展してるようには見えないし」
「列車も電気で動いて無かったしな。電気はあんまり普及して無いのかね」
「どうなんだろうな。それこそ魔道具ってのは魔法で動いてるんだろうし。そもそも魔法の仕組みが分からないんだ、なんとも言えないな」
柏木と元は暇潰しとしてこの世界のことを話し始める。
「街の中には、街灯がありましたけど。点いてる所は見てないので、電気なのかガスなのか、魔法なのかわからなかったです。私たちの常識で、考えない方が、良いんじゃ無いでしょうか」
荒岩も話に乗ってくる。
何も無い道中、暇なのは皆同じようだ。
「おっさんの話しじゃ、向こうの国に着いたら教えてくれんだろ、魔法の使い方。戦争に参加はしたくねーけど、魔法は使いてーわ」
「魔法にも適正ってのがあるみたいだから、使えるか分からないけどな」
「そこは希望を持っていこうぜ。大体の人は使えるみたいだし。属性ってのもあるみたいだけど」
「魔法は楽しみ、です。戦争は、怖いですけど」
元達の興味はやはりと言うべきか、魔法にあるようだ。
元達のいた世界では存在が確認されていない魔法への興味は、大きい。
漫画やアニメ、小説、映画。
創作物の中でしか見たことのないものが、この世界には存在している。
そんな力を自分で使うことが出来るのだ。
興味を持つなと言う方が難しい。
元も、未知の力への興味は尽きないようだ。
(もっとも、俺の力もこいつらからしたら魔法みたいなもんだろうけど、な)
元は口に出すこと無く、そんな考えを頭の中だけで呟く。
今の所、必要に迫られる事柄が起こっていないので、元がこの世界で力を使う機会は無かった。
不必要に力を誇示したいとも思わない。
日本にいた頃と違って、頑なに隠そうとも思ってはいないのだが。
必要な場面に立ち会うことになったら、躊躇う事無く使うと決めてはいたが。
三人が魔法について話していると、御者台に通じている小窓が開き御者が馬車内に声をかけてくる。
「/&j○町が見え〆>°s。・€°<<着く"g」
所々聞き取れるようになったこちらの世界の言葉だが、まだ全てを聞き取れはしない三人。
しかし「町」と「着く」と言う言葉が分かった元は、目指していた港町が近いことを理解した。
『テレルの町が見えたみたいだな。宿の手配はしてあるから、手荷物だけ忘れないようにしろ。今日は宿に泊まって、明日の朝には船に乗る予定だ』
グリーはそう言って自分の荷物を、馬車内の座席の後ろにある荷台から引っ張り出す。
元達もそれに習い各々、自分の荷物を取り出し膝の上に乗せ、いつでも降りられるように準備する。
馬車は町の外門に着き、グリーが門番に通行許可証を馬車の窓から見せると、閉まっていた外門が開門する。
そのまま馬車は町の中へと入っていったのだった。




