第十二話 銃口
「…ですね。皆さんにお渡ししたスキルは、非常に便利、かつ強力な物です。召喚された先の地でも役に立ってくれるでしょう」
アクリミナは三十人程の男女に向かって異世界やステータス、スキルの説明をしていた。
三十人程の男女は皆同じデザインの服、高校の制服を着ている。
男は学生服、女はセーラー服だ。
一人だけポロシャツにスラックスの三十代半ばに見える男もいるが。
周りから先生と呼ばれていることから、教師のようだ。
男女は各々仲の良い同士で固まり、アクリミナの話を聴き逃すまいとして、アクリミナを半円形に囲むような位置に固まっている。
集団から少し離れた場所には一人、横になって寝ている人物もいるが。
「お前らいいよな、戦闘スキル選べて。なんで俺はあの時チョキ出しちまったかな」
「ジャンケンで負けたお前が悪い」
「いやいや、補助スキルでもすげーの貰えたじゃん。贅沢言うなって」
「2つ持ってる奴が言うなよ」
「日頃の行いがいいんだよ、俺は」
「言ってろ」
「見て見て!すごーい!壁できてるよ、壁!
見えないのに壁がある!堅ーい!」
「マジウケる。ゆり達サイキョーじゃね。かわいくてサイキョーとかもうサイキョーじゃね」
「回復とかちょーつまんない。あーし痛いのカンベンだから怪我するよな事しねーし。あ、でもアツシの怪我とか直したらマジ女神じゃない?」
「チー子が治してくれんなら俺もう無敵よ、
無敵。負けるとかねーから」
「全員でボコしたら終わりっしょ。アー君に勝てっ奴いねーし」
「…ネコミミとかイヌミミとかシッポモフモフ」
「エルフでしょ、エルフ。スタイル完璧なエルフ」
「エルフはオークとセットだろ?」
「バッカ勿体ねーだろ。そういうのは薄い本だけでいいわ。オークから助けてイチャコラすんだよ」
「ネコミミとイヌミミでしょ」
「奴隷達でハーレムだろ?」
「王道として姫とか助けたい」
「イケメン騎士いるかな?」
「異世界だもの、いるでしょ」
「女人禁制?」
「女とか邪道。騎士×騎士。異論は認める」
「私はやっぱ王子かなぁ。王子とそれを守る騎士」
「おじ様とショタは…」
「ないわー」
各々が好き勝手異世界への希望を話している。
教師の男が「静かにしろー」と言うと、ざわついていた生徒達が静かになる。
「それでは皆さんを召喚された地へ送りますね。異世界での健闘を祈ります。」
アクリミナがそう言うと生徒達の足下に青い魔法陣が展開される。
生徒達が「うわっ」「おぉ、すげー」などと驚いていると、光が強くなり辺りを照らす。
青い光が収まると、白い空間には消えていく魔法陣とアクリミナ。
そして寝ている男、元のみが残った。
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生徒と教師が魔法陣からの光に咄嗟に閉じた瞼を開けると、景色は一変していた。
足下には教室程の大きさの円形の魔法陣らしき模様が描かれ、青空が広がり、その周りをコの字型に人々が囲んでいる。
生徒達の正面には、白衣を着ている人やスーツを着ている人もいるが、取り囲んでいる人々は主に軍服らしい揃いの服を着ている。
青地に縁を白の線で彩り、ボタン式の詰襟の上着。
同じく青地のズボン、側面には白の線が引かれていて、腰にはベルト。
靴はブーツだ。
二列に並んでいるらしく、前列は片膝立ちになり、後列は立ったまま、生徒達に銃口を向けている。
「なっ!」
生徒達は驚き、周りを見渡す。
正面には銃口を構えた兵らしき男達、左右を見ると鎧を着た者達が槍を構え、穂先を生徒達に向けている。
槍を構えた者達は、射線を阻害しないよう生徒達からは離れて隊列を作っている。
「なんだよこれ…」
平和な日本で暮らして来たただの学生にとって、武器を向けられる事など日常の中で無かった事だ。
それは教師も同じく、少しずつ生徒達はざわついていく。
「静かに!」
一人の兵士らしき男の大声がざわつく生徒達の耳を打った。
生徒達に銃口を向けている隊列の横に、一人の男が歩み出てくる。
「私の言葉が理解できるのであれば、そのまま静かにしていて貰いたい」
男はそう言って生徒達を見回す。
「どうやら問題なく言葉は通じるらしいな。私の名前はファルマン。今回の召喚の儀式を取り仕切っている。いきなりの事に戸惑っている事だろうが、そのまま聞いてほしい」
ファルマンはそう言った後、もう一度生徒達を見回した。
ファルマンは金髪碧眼に精悍な顔つきをしていた。
三十代程に見える顔の顎周りに髭を生やし、目つきは鋭い。
鍛えられた身体つきは服の上からでも分かる胸板の厚みによって想像できる。
「ふむ、皆若いな。揃いの服を着ているところを見ると、何かに所属している一団か?誰か、この集団の代表者は居ないか?」
そうファルマンが問いかけると、生徒達の中から三十半ば程の男が恐る恐る歩み出てきた。
「あなたが代表者で良いかな?一人だけ年齢が高いように見えるが」
「…はい、私が代表です」
「名前を聞かせていただいてもいいか?」
「はい。私は田畑健介。教師をしています」
「タバタケンスケか。教師ということは後ろの子達は学生…か?」
「はい、そうです。皆んな十六、七の年齢ですね。ところで、武器を向けられていると落ち着かないというか。我々に抵抗の意思はないのですが…」
「すまないが武器を下げることはできない。勝手に呼びつけておいて申し訳ないが、我々は互いに理解できていないことが多い。見た所、戸惑っている者や震えている者が多いが、戦力の比較ができない以上、安全策は取っておきたい。暫く待って貰えばあなた方のステータスの確認が済む。こちらの安全が確保されたら、直ちに武器は収めよう」
「そうですか…」
ファルマンの言葉に納得はできなかったが、荒事に慣れているわけでも、ましてや武装した大勢の兵士に対して何を言えるわけでもなく、田畑は頷く。
安全が確認されれば武器を収めてくれると言うのだ、lv1の田畑達を脅威だとは思うまい。
「ファルマン隊長、結果が出ました。過去の記録通り召喚された者達は皆、lvは1です。ですが保持スキルに問題が…」
ステータス検査の結果が出たのだろう。
白衣を着た研究者のような男がファルマンに近づき報告する。
「スキルが…?タバタケンスケ、少し待っていてくれ」
そう言ってファルマンは田畑をその場に残し、検査装置らしき物がある場所まで白衣の男と連れだって歩いて行く。
「これ程とは…」
「見たことがないスキルも…」
「lv1の状態で二つ持ちも…」
「これは分配で…」
ファルマン達の方を向いて田畑が聞き耳を立てていると、ファルマンが田畑をチラリと見る。
慌てて田畑が視線を逸らす。
視線を逸らしながらも田畑はファルマン達の会話を聞こうとする。
「**dp°〆j_.."…」
「<*°-taa/…」
「s:&;8**##な°…」
急にファルマン達が何を言っているのか理解できなくなる。
驚いてファルマンを見る田畑だったが、ファルマンはもう田畑を気にする素振りも見せない。
田畑は何が起こったのか理解できず、質問をできる雰囲気でも無かったので、ファルマンに言われたように待つ事にした。
銃口や槍を向けられ落ち着かない気持ちを宥めようと、生徒達の呟きを聞くともなしに聞きながら。
「あれ、あいついなくね?」
「あいつ?」
「いつも寝てるやつ」
「あー、あいつか。さっきのとこでも寝てたな」
「よくあの状況で寝られるよな」
「ある意味大物だよな」
「で、あいつがどうした?」
「いや、いなくね?」
「後ろの方で寝てんじゃね?ここからじゃ見えねーけど」
「すげーな、あいつ」
田畑もその会話を聞いて思い出した。
荒木元という問題児を。
荒木元は素行が悪いわけでも成績が悪いと言うわけでもない。
授業態度が悪いのだ。
授業中に騒ぐわけでも、授業に出席しない訳ではない。
ただひたすら授業中に寝る。
注意しようが叩き起こそうが、気付くと寝ている。
そのくせ成績は悪くないのだ。
田畑は嫌味交じりに聞いた事があるが、返ってきた答えは「教科書に書いてある」だった。
そんな態度だから、荒木元を嫌っている教師は多い。
田畑もその一人だ。
嫌ってはいても状況が状況だ。
寝ている元をいつも通り叩き起こそうと、生徒達の中へ戻ろうと思った所でファルマンが戻って来た。
クラスメイトに名前を呼んでもらえない主人公…




