第十三話 召喚
「待たせたな」
ファルマンは近づきながら田畑に言う。
「君達のステータス及びスキルの確認が終わった。正直なところ、君達のスキルは非常に有能だ。君達はスキルについて何処まで把握している?」
ファルマンは田畑に率直に聞いてきた。
「スキルについてですか。私達が生活していた世界では無かったものなので…。便利なものだとは聞かされたんですが、正直、よく分からないと言うのが本音ですね…」
「ふむ。スキルのない世界か。…ん?今〝聞かされた″と言ったか?どう言う事だ。誰に聞いた!」
田畑達は今しがたファルマン達の前に召喚されたばかりだ。
そのはずなのに、目の前の男は誰かからスキルについて聞かされたと言う。
その矛盾に対してファルマンは警戒を強め、左足を後ろに引き半身になって左手を腰に構える。
「言え!何を隠している。言わんのならば…」
そう言いながらファルマンは右手で銃隊にいつでも発砲できるように指示する。
威嚇のため、ただ銃口を向けていただけの兵士たちは、ガチャリと音を鳴らし田畑達に狙いを定めた。
「!!い、言います!言いますから!女神様から説明を受けたんです!」
「女神だと?」
田畑はここに召喚される前、白い世界で出会った女神アクリミナから聞かされた事、スキルをもらった事などを早口に捲し立てた。
「成る程。では君達はそのアクリミナと名乗った女神からスキルを直接貰い受けてからここに来たと言うのか」
「え、えぇ。そうです。信じてもらえると嬉しいのですが…」
「生憎私はすべての神の名を知っている訳では無いので、鵜呑みには出来ないが…。今回の召喚に際して神職に就いている者を呼んでいなかったのが仇になるとは」
ファルマンは少し考え込み、右手で銃隊に攻撃態勢解除を指示する。
指示を受けた銃隊は銃口を田畑と生徒達から外し、銃口を空に向ける。
「過去の召喚の記録ではそのような事は記載されていなかったはずだが、なにぶん二百年以上前の事だ。記録の消失か、神の気まぐれか…」
田畑は銃口を外された事により緊張が解け、ファルマンの言葉を聞いていない。
いくら便利かつ強力なスキルを持っていても、生徒達も含め田畑達はスキルの使い方をちゃんと分かっている訳では無い。
不穏分子として敵対行動に出られたら、勝ち目はない。
勝手に喚んでおいて酷い話だが、日本の法律が適用される訳でもない。
生きた心地がしていなかったのだ、安心して気を緩めてもしょうがあるまい。
(確認することが増えたな。だがまぁいいだろう。見た所戦闘訓練を受けた者は居なそうだ。代表者も意思が強そうには思えない。虚勢を張ってる者もいるが、此方の言う事は今の所素直に聞いている。少人数に分けて懐柔していけばいいだろう)
ファルマンは言葉に出さずにそう考えた。
抵抗の意思がある者がいた場合、見せしめに何人か殺す事も想定されていた。
幸いな事に皆大人しく従っている。
ファルマン個人としては若い命を無駄に散らす事が回避され、安堵していた。
「女神の名の確認もある。ここでいつまでも話している訳にもいかないので、移動する事にしよう。君達に抵抗の意思がない事は分かったが、監視として何人か兵士を付ける。了承して貰おう」
「わ、わかりました」
「では五、六人程のグループを作ってくれ。兵士を二人づつ監視として付ける」
言われた生徒達は素直にグループを作っていく。
田畑はファルマンに個別に付いてくるよう言われたのでグループには入っていない。
グループ毎に部屋を与へ、個別に懐柔する時のためだ。
代表者を集団から引き離し、意思の統一をさせない。
また、個人を優遇しているように見せ、代表者と集団との間に不和を発生させようと目論んでいるからだ。
「では移動する。付いてきてくれ」
歩き出すファルマンに従って生徒達は移動を開始する。
男子も女子も兵士に挟まれ、緊張しながら歩いている。
コンクリート製に見える正面の建物へ向かって一同が歩いていると、突然耳鳴りがし始める。
耳鳴りは大きくなり、生徒、兵士を問わず耳を抑え、耳鳴りが酷い者はその場で蹲る。
五分ほど経った後に鳴り始めと同じように突然耳鳴りは治った。
ファルマンが見回すと魔法陣の近くにいる者達も耳を抑えている。
何があったのかと困惑していると田畑から話しかけられる。
「あの、何があったんでしょう?」
「!」
ファルマンは田畑が何を言っているのか理解できなかった。
ファルマンは慌ててスキルを使用しようとする。
ファルマンのスキルは言語統一。
自分の半径五十メートル以内の人物達の言語を無理やり統一、意思疎通可能にするスキルだ。
そのスキルが今、作動していない。
先程の耳鳴りに気が散ってスキルを解除してしまったのかと思い、再度使用しようと試みるが作動しない。
スキル阻害の攻撃でも受けているのかとステータスの確認をしようとして…。
(ステータスが開かない!?なんだこれは、こんな攻撃は聞いた事もないぞ!)
生徒達のスキルを調べた時、確かに見た事もないようなスキルもあった。
しかしステータスを攻撃するようなスキルなど今まで聞いた事がない。
そもそも、ステータスは無機物にも存在する物だ。
そんなステータスを攻撃できるスキルなど神の力に等しい。
そもそも、スキルが使えなくなっているのだ。
何が起こったのか理解が出来なかった。
『隊長!召喚陣が!』
部下の声に我に返り、召喚陣の方を向く。
召喚陣には空から一筋の光が差していた。
『馬鹿な、召喚の光だと!どこの馬鹿だ陣を起動させたのは!そもそもこの者達を召喚して陣は死んでいるはずだ!起動するわけがない!』
『で、ですが…』
『クソ、何が起きているんだ』
ファルマンは苛立ちまじりに吐き捨てる。
召喚魔法に使われる召喚陣は一度使ったら壊れる。
召喚魔法には様々な道具が使用され、天候、季節、時間、場所とその仕様には制限が多い。
一度の起動で大量の魔力も使う為、連続使用できるようなものではない。
そもそも召喚陣は壊れているはずだ。
スキルが使えず、ステータスの確認も出来ない。
更には2度目の召喚の光だ。
想定外の出来事が立て続けに起こり、ファルマンは苛立ちを抑えられないでいた。
ファルマン達や召喚陣の周りにいる者達が皆光を注視していると、空からの光が一瞬強く光り、消えていく。
光が消えた召喚陣の上には一人の男が立っていた。
ファルマンの見つめる先では、見慣れてきた男子生徒が着用している物と同じ服装をした男が一人。
男を見た生徒達の誰かがポツリと言った
「あ、あいつじゃん」
陣の上には荒木元が立っていた。




