↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/15

13 こはるの家は大屋敷

 こはるを自宅に送り届けるため、俺は彼女と下校した。また、ふたりきりの機会を利用して告白しようと思っていた。


 ところが、なぜか九条玲がついてきた。


「なんでついてくる?」


 迷惑だという表情を全面に出して九条に言った。


「ぬらりひょん様に用事があるのだ」


 さも当然のように答える九条だが、頭上のミニ九条は違うことを言う。


『ふたりのそばにいることで、あたちもこはるちんの帰還に貢献したと思わせる作戦でしゅ』


 こいつ、意外とセコいぞ。


 一方、こはるは気にする様子もなく、九条と楽しく会話している。そんなふたりの横を、俺はふて腐れながら歩く。


 仕方ない。告白はまた次の機会にするか。


 やがて景色が住宅街から田園へ変わっていった。

 波打つ田んぼを眺めていると、その向こうに巨大な建物が見えてきた。


 漆喰《しっくい》の塀が横に長く伸びて、その奥から瓦屋根の古風な建物が聳《そび》え立っている。まるで戦国時代のお城の風情だ。


「あれなんだ、歴史的文化財とか?」


 俺は建物を指さしてこはるに聞いた。


「私の家よ」


 あれが家……、こはるの住んでる場所なのか。

 あまりに時代劇じみた佇まいで、電気やガスが通ってる想像ができない。


 急に空気が冷たくなってきた。

 天気は変わったわけでもないのに、どういうことだろう。


「ナオくん、どうしたの?」

「温度が下がった気がする」


 答えたのは九条玲の方だった。


「この辺は妖怪のテリトリーだから、空気が変わったのだ」

「テリトリーって?」


「この町の住人はほとんどが人間だ。でもここから先は古来より妖怪しか住んでいない。土地柄の違いが空気の違いになってる」


 どこにでもある田園風景だけど、いま俺は異世界に足を踏み入れてるのか。


 すると突然、足元がグラついた。


「地震!?」


 慌てる俺の目の前で、地面がせり上がる。


「うわああああーーーっ!」


 俺は急いで後ずさる。こはると九条はその場に立ち尽くしている。


「ふたりとも離れろ!地殻変動だ!」

「心配するな。地震ではない」


 九条が落ち着き払って言う。


 揺れが止むと、俺たちの前には進路を塞ぐように大きな壁ができていた。


「どけ塗壁《ぬりかべ》!」


 九条が壁をガンガン蹴ってる。


「塗壁《ぬりかべ》って、妖怪の?」

「そうよ」


 壁をよく見ると、小さなふたつの目が俺たちを見下ろしてる。


「これが塗壁かあ……名前どおり壁だな。なんで俺たちの進路を妨害するように現れたんだろう」

「妖怪ハンターが来たから警戒してるのよ」


 そう言ってこはるは屋敷に目をやった。釣られて俺も見ると、屋敷のまわりをカラスが飛び回っている。

 いや違う。顔と羽はカラスだけど、身体は人間だ。


「あれ、お祖父ちゃんの護衛のカラス天狗たち」


「騒いでる原因は俺か」

「安心して、私と九条さんがいるから。ナオくんに手出しはさせない」


「こはる、塗壁どうにかしてくれ。殴っても蹴ってもビクともしない」

「任せてちょうだい。ナオくんは少し離れてて」


 言われたとおり、こはるから距離をとる。


 するとこはるの身体が、見上げるほどに巨大化した。

 

 巨大こはるは塗壁の端を両手でつかむと、地面から引っこ抜いた。塗壁の、図体の割に小さな足がパタパタ暴れる。

 巨大こはるは塗壁を道の脇に丁寧に置いた。


「ここにいてね」


 そんな様子を、俺は口をあんぐり開けて見ていた。巨大化したこはるを見るのは二度目だが、それでも圧巻の巨体だ。

 そして、俺の立ち位置からスカートの中が丸見えだ。


『うわあ、ナオちんてばこはるちんのパンツをガン見してましゅ』


 振り返ると、九条が腕組みして、半目で俺を見ていた。頭上のミニ九条はゲスな笑みを浮かべている。


「違うんだ九条。見えてしまったんだ」

「私は何も言ってないぞ」


 そうだった。九条玲の頭上に座るミニ九条を認識できるのは俺だけだった。


「ナオく~ん」


 こはるの声が降ってきた。


「どうした?」


 見上げると、こはるは答える代わりに少し腰を落とした。そして顔の前で腕を交差させる。


「ジュワッ!」

「……?」


「……ジュワ」

「あ、はいウルトラマンね」



          ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



 屋敷に近づくにつれ、周囲にたくさんの気配を感じるようになった。

 道と平行して流れる川には、水面に矢尻のような波がいくつも現れ、反対側の林では草を踏む音が聞こえる。


 屋敷の前に到着すると、両側に櫓《やぐら》を配した大手門がゆっくり開く。


 その向こうに見えたのは、カラス天狗の集団だった。みんな金剛杖をこちらに向けて、俺に襲いかかる気が満々だ。

 地上にかぎらず、上空でもカラス天狗が旋回してる。


「どけカラスども、この方は客人だ!」


 九条が声を張ると、カラス天狗たちは戸惑いながら道を開ける。


「さあナオくん、行きましょう」


 こはるが俺の手を握って歩きはじめる。

 向けられた敵意に腰が引けていたけれど、こはるに引っ張られる形で門を潜った。

 

 隙を見て近づくカラス天狗を、九条は手で払ってけん制する。

 塀の向こうから牛の頭を持つ鬼がこちらを覗いている。天守の屋根には鵺《ぬえ》が陣取り、庭に掘った心字池《しんじいけ》では何匹もの河童が顔を出している。


 俺はいま、妖怪の世界にいる……。


 誰かに背中をツンツンと突かれて、思わず立ち止まる。振り返ると5歳くらいの女の子が俺を見上げていた。


「お兄ちゃんだあれ?」


 おかっぱ頭に真ん丸の目。縞模様の着物に、上から赤いちゃんちゃんこを羽織っている。百年前の子供が現代にタイムスリップしたみたいだ。


「私の妹よ」


 こはるが女の子の頭を撫でる。


「妹いたのか」

「ええ、千歳《ちとせ》っていうの」


「もしかして、この子も」

「千歳《ちとせ》は座敷童よ」


 住み着いた家に幸福をもたらす座敷童。

 この子がそうなのか。言われてみれば福々しいキラキラを纏ってる。


「俺は白石直人、こはるの幼馴染でだな……」


 改めて自己紹介するが、終える前に千歳が叫ぶ。


「知ってる!こはるお姉ちゃんの好きなひとだ!」

「んなっ!?」


 こはるの顔が一気に沸騰した。余計なことを言わせまいと、両手で千歳の頬をギューッと挟んだ。


「にょおおおお~~!」

「ちいちゃん!何言ってるの!」


 そんなバタバタを断罪するように、低い声が響く。


「……こはる」


 俺たちは一斉に声のした方を見た。そこにはカラス天狗たちを従えたぬらりひょんがいた。

 九条がぬらりひょんの前に歩み寄る。


「こはるを連れて参りました」

「……こはる、こっちへ来なさい」


 こはるは険しい目つきでぬらりひょんを見る。それから俺の手を握る。


「ナオくん、私をお祖父ちゃんのところへ連れて行って」

「わかった」


 俺はこはるの手を引いてぬらりひょんの前に立った。


「ナオくんに説得されて、帰ってきました」


『や、ヤバいでしゅ!こはるたんがそんなこと言ったら、あたちの手柄が無くなるでしゅ』

「私も手伝いました」


 九条がすぐ便乗する。


「直人くんも玲もよくやってくれた」


 ぬらりひょんは身を翻すと、こはると千歳を伴って天守に向かった。


「待ってくれ」

「……なにかね?」


 ぬらりひょんは立ち止まり、身体を捻って俺を見た。


「俺はあなたの依頼を達成した。見返りがほしい」

「見返りか……何がほしい」


「これからも、こはると一緒にいたい。その許可をもらいたい」

「ふむ」


 ぬらりひょんは顎に手を当ててしばし考えたあと、


「許可を出すには、いましばらく時間が必要だ」


 俺がこはるの隣に立つ男として相応しいか、しばらく見極めるつもりらしい。


「とりあえず、これを受け取ってくれ。こはるを家に送ってくれた礼だ」


 そう言って、ぬらりひょんは懐から何かを取り出して、俺に放って寄越した。

 何だかわからないまま受け取って確認すると、


―――市松人形だった―――


 全体から禍々しい気配が滲み出し、切れ長の目がじっとりと俺を見上げていた。

 これ、絶対呪われてるやつだ。


「ワシがくれてやったのだ。捨てるなよ」


 有無を言わせぬ声だった。


「もっとも捨てたところで、すぐ戻ってくるがな」


 俺は手の中の人形を見下ろす。


 ひやりとした重みが、手のひらに伝わってくる。



お読みいただきありがとうございます。

ブックマークと、下の☆での評価で応援してもらえると励みになります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。