第8話 死神が示す変化
第8話 死神が示す変化
巨大な扉の向こう。
黒い光が神殿全体を覆っていた。
レオンは四つのルーンを見つめる。
ᚨ《アンスズ》。
ᚱ《ライド》。
ᛏ《ティール》。
ᛒ《ベルカナ》。
「今までと……何か違う」
ガルが低く唸る。
「敵の気配が重い」
ミレイはタロットカードを握っていた。
先ほど引いたカード。
『死神』
その意味は――変化。
「気をつけて」
ミレイが言う。
「今までの戦い方では、通用しないかもしれない」
「だったら、やってみるしかない」
レオンが一歩前へ出た。
その瞬間。
ドンッ!
黒い光の中から、一匹の巨大な獣が現れた。
猫でも犬でもない。
全身を黒い鎧で覆った獣。
その額には、赤いルーンが刻まれている。
「……何だ、あいつ」
ガルが目を見開く。
獣が口を開いた。
「我が名はヴァルド」
「しゃべった!?」
レオンが驚く。
ヴァルドは低く笑った。
「貴様らと同じく、ルーンの力を使う者だ」
レオンの表情が変わる。
「猫や犬じゃないのか?」
「私は人間によって造られた」
ガルが驚く。
「造られた……?」
「そうだ」
ヴァルドの身体に黒いルーンが浮かぶ。
「人間は、猫や犬のルーンを研究し、その力を人工的に再現した」
ミレイが息をのむ。
「だから、あんな力を……」
ヴァルドが前足を地面につけた。
「ᚦ《スリサズ》」
巨大な衝撃波が発生する。
「来る!」
レオンが叫んだ。
「ᚨ《アンスズ》!」
敵の動きを読む。
しかし――。
「速すぎる!」
ヴァルドが一瞬で距離を詰めた。
「ぐっ!」
レオンが吹き飛ばされる。
「レオン!」
ガルが飛び出す。
「ᛏ《ティール》!」
ガルの身体が赤く光る。
正面からヴァルドに突撃した。
ガキンッ!
しかし、ヴァルドはびくともしない。
「な……!」
ガルが押し返される。
「ティールの力だけじゃ足りない!」
レオンが叫ぶ。
「ガル、左!」
「分かった!」
レオンがᚱ《ライド》を発動する。
「ᚱ《ライド》!」
光の道がガルの足元に伸びる。
ガルはその道を一気に走り、ヴァルドの横へ回り込んだ。
「今度こそ!」
「無駄だ」
ヴァルドが振り返る。
黒い光が爆発した。
ドォォン!
ガルが壁に叩きつけられる。
「ガル!」
レオンが駆け寄る。
ガルは立ち上がろうとするが、足が震えていた。
「……悪い。少し休ませてくれ」
「分かった」
レオンがベルカナを発動する。
「ᛒ《ベルカナ》!」
光がガルを包み込む。
だが――。
傷が完全には治らない。
「そんな……」
ミレイが叫ぶ。
「レオン!」
「どうした?」
「ベルカナだけでは駄目よ!」
ミレイがタロットを引く。
カードは――。
『節制』
「力を一つだけ使うんじゃない!」
ミレイが叫んだ。
「四つを組み合わせるの!」
レオンがハッとする。
「……そうか」
今までレオンたちは、四つのルーンを順番に使っていた。
だが――。
「同時に使う!」
レオンが立ち上がる。
「アンスズで敵の動きを読む!」
敵の動きが見える。
「ライドでガルを動かす!」
光の道が伸びる。
「ティールで攻撃!」
ガルが再び突撃する。
「そしてベルカナで――」
レオンがガルを包む。
「傷ついても立て直す!」
ガルが笑った。
「これならいける!」
ヴァルドが突進してくる。
「遅い!」
レオンが叫ぶ。
「右!」
ガルが避ける。
「ライド!」
光の道を使い、背後へ回る。
「ティール!」
ガルの一撃がヴァルドを捉える。
ドンッ!
ヴァルドが初めて後退した。
「何……?」
レオンが叫ぶ。
「今だ!」
ガルがさらに踏み込む。
しかし――。
ヴァルドの額のルーンが突然輝いた。
「ᛞ《ダガズ》」
眩しい光が神殿を包む。
「うわっ!」
三匹が目を覆う。
光が消えたとき――。
ヴァルドの姿は消えていた。
「逃げた……?」
ガルが周囲を見る。
ミレイは首を振った。
「違う」
「え?」
ミレイが一枚のカードを見せる。
『死神』
「死神が示していたのは、敵が消えることじゃない」
「じゃあ……何だ?」
「戦いそのものが変わったのよ」
レオンはヴァルドが消えた場所を見る。
「人間は、俺たちのルーンを研究している」
ガルが唸る。
「だったら、これからはもっと強い敵が出てくるな」
「ああ」
レオンは拳を握った。
「だから俺たちも、もっと強くならないといけない」
そのとき。
神殿の奥から、小さな音がした。
カタン。
三匹が振り返る。
床に、一枚のルーン石が落ちていた。
レオンが拾い上げる。
そこには――。
ᛞ《ダガズ》
先ほどヴァルドが使ったものと同じルーンが刻まれていた。
レオンは驚いた。
「……なんで聖域に、敵と同じルーンがあるんだ?」
ミレイの表情が曇る。
「それが――」
彼女はルーン石を見つめた。
「この聖域に隠された、本当の秘密かもしれない」
三匹の前に、また新たな謎が生まれた。
そして遠く離れた場所で――。
黒い鎧の獣、ヴァルドが静かに目を開けていた。
「……四つのルーンを同時に使う猫か」
ヴァルドは笑う。
「面白くなってきた」
その額で、ダガズのルーンが赤く輝いた。




