第9話「一匹で四つの力」
第9話「一匹で四つの力」
ヴァルドが消えたあと。
レオンたちは、古代ルーンの聖域に残された巨大な石碑を調べていた。
「なあ、ミレイ」
レオンが石碑を見上げる。
「さっきのヴァルド……どう考えても普通じゃないよな」
「ええ」
ミレイはタロットカードを一枚引いた。
「普通のルーン使いなら、あれほど多くの力を同時に扱うことは難しいわ」
ガルが首をかしげる。
「じゃあ、なんであいつはできたんだ?」
ミレイが答える。
「人間が作ったから……かもしれない」
「作った?」
その瞬間――
ドンッ!!
聖域の奥から、大きな衝撃音が響いた。
「また来たのか!」
レオンが振り返る。
だが、現れたのはヴァルドだけではなかった。
黒い魔法陣の中から、ヴァルドがゆっくり姿を現す。
「……まだ終わっていない」
ヴァルドの身体には、複数のルーンが赤く浮かび上がっていた。
レオンが目を細める。
「アンスズ……!」
ᚨ《アンスズ》の力で、ヴァルドの動きを読む。
――右腕。
次の攻撃が来る。
「ガル、右だ!」
「おう!」
ガルが避ける。
しかし――
ヴァルドの背中に、別のルーンが浮かんだ。
ᚱ《ライド》。
「なっ……!」
ヴァルドの身体が一瞬で横へ移動する。
「ライドまで使えるのか!」
ガルが驚く。
ヴァルドはそのままガルの背後へ回り――
ᛏ《ティール》。
拳に強烈な力をまとわせる。
「ぐあっ!」
ガルが吹き飛ばされる。
「ガル!」
レオンが駆け寄る。
すると今度は――
ᛒ《ベルカナ》。
ヴァルドの傷が、わずかに修復されていく。
ミレイが息をのむ。
「……四つ」
「何?」
「アンスズ、ライド、ティール、ベルカナ」
ミレイがヴァルドを見る。
「あなたたちが仲間と分担している四つの役割を……」
一呼吸置いて。
「ヴァルドは、一匹で使っている」
レオンの顔が険しくなる。
「つまり……」
「そう」
ミレイが静かに答えた。
「ヴァルドは、一匹で軍隊と同じ戦い方ができる」
「マジかよ……」
ガルが起き上がる。
「それ、ずるくない?」
「猫の俺に言うな」
「なんで俺に言うんだよ!」
ヴァルドが再び突進する。
レオンはアンスズで動きを読む。
「ガル! 正面から受けるな!」
「分かった!」
レオンがライドで道を作る。
ガルが横へ回り込む。
そして――
「今だ!」
ガルがティールを発動。
「うおおおおっ!」
ヴァルドに一撃を叩き込む。
しかしヴァルドは倒れない。
逆に身体に浮かんだルーンが、不規則に明滅し始める。
「……?」
レオンが気づく。
「待て」
ヴァルドの身体がわずかに震えている。
「さっきまでと違う」
ミレイもヴァルドを見る。
「ルーン同士が……干渉している」
ヴァルドが苦しそうに息を吐く。
「……問題ない」
しかし、その声は明らかに苦しそうだった。
「人間は……私に力を与えた」
ヴァルドの身体に、さらにルーンが浮かぶ。
「戦うために」
レオンが叫ぶ。
「だから、お前は強いのか!」
ヴァルドは答えない。
ただ、身体を震わせながら再び構える。
ミレイがタロットを引く。
出たカードは――
「節制」
「無理に力を重ねれば、いずれ壊れる」
レオンがカードを見る。
そして、ヴァルドを見る。
「……だったら」
レオンが拳を握る。
「俺たちは、あいつより長く戦えばいい」
ガルが笑う。
「俺たちは四匹……じゃなくて三匹で役割分担できるからな!」
レオンがツッコむ。
「三匹って言うな! 猫と犬と猫だ!」
ミレイが冷静に言う。
「私を頭数に入れて」
「そこは入れるのかよ!」
戦いは、まだ終わっていなかった。
だが――
ヴァルドの身体に刻まれた**ᛞ《ダガズ》**だけが、他のルーンとは違う光を放っていた。
ミレイが呟く。
「……あのダガズだけは、他のルーンと違う」
レオンが振り返る。
「どういう意味だ?」
ミレイは答えない。
ただ、タロットをもう一枚引く。
カードは――
「隠者」。
「この聖域のどこかに……」
ミレイが静かに言った。
「ヴァルドの秘密を知っている者がいる」
そして聖域の奥から――
「……待っていた」
という、誰かの声が響いた。




