第3話 地下に眠るルーン
第3話 地下に眠るルーン
「うわあああああっ!」
レオンの叫び声が、暗闇の中に響いた。
「レオン! どこだ!」
「ここだ、ガル!」
「どこだよ!」
「分からない!」
「お前も分からないのか!」
二匹は真っ暗な空間を、ひたすら落ち続けていた。
「長いぞ!」
「俺に言うな!」
「猫って高いところから落ちても平気なんじゃないのか!?」
「高さによる!」
「じゃあ今の高さは!?」
「知らん!」
「役に立たないな!」
「お前も犬だろ!」
その直後――。
ドサッ!
「ぐっ!」
ドサッ!
「うおっ!」
二匹は何か柔らかいものの上に落ちた。
「……助かった?」
レオンがゆっくり目を開ける。
「ガル、無事か?」
「……ああ」
ガルが身体を起こす。
「だが……」
「なんだ?」
「俺たち、何の上に落ちた?」
二匹の下には、大量の古い布が積み重なっていた。
レオンが一枚を前足でめくる。
その下から、古びた石板が現れた。
「これは……」
石板には、見たことのないルーンが刻まれている。
レオンが近づいた。
「読めるか?」
「少しだけな」
ガルが目を細める。
「これは……ᛟ《オセル》」
「オセル?」
「ああ。『故郷』や『受け継がれるもの』を意味するルーンだ」
レオンが石板を見つめる。
「故郷……」
その瞬間。
石板が青白く光った。
「うわっ!」
二匹が飛び退く。
石板の奥から、低い声が響いた。
『選ばれし者よ――』
「しゃべった!?」
レオンが驚く。
ガルは冷静だった。
「古代の魔法装置だろう」
『この地には、かつて猫と犬が共に守った――』
「猫と犬が?」
レオンの耳が動く。
『古代ルーンの聖域が眠っている』
「聖域……!」
第2話で人間たちが探していた場所。
レオンとガルは顔を見合わせた。
「俺たちは、そこに落ちたってことか?」
「たぶんな」
しかし次の瞬間――。
ドンッ!
巨大な音が地下に響いた。
「……今の音、何だ?」
ガルが振り返る。
奥の暗闇から、何かが近づいてくる。
ズシン。
ズシン。
ズシン。
「来るぞ」
レオンが身構える。
暗闇から現れたのは――。
巨大な石の犬だった。
「……犬?」
ガルが目を丸くする。
石の犬は二匹を見つめると、大きな口を開いた。
「侵入者ヲ確認」
「しゃべった!」
「侵入者ヲ排除スル」
「ちょっと待て!」
レオンが叫ぶ。
「俺たちは侵入者じゃない!」
「侵入者デアル」
「なんでだよ!」
「地下ニ勝手ニ落下シタ」
「事故だ!」
「事故デモ侵入者デアル」
「融通が利かないな!」
ガルがため息をつく。
「レオン、戦うしかないぞ」
「分かってる!」
レオンがルーンを構える。
「ᛋ《SOWILO》!」
光が石の犬へ向かって飛ぶ。
しかし――。
カキンッ!
「効かない!?」
ガルが前へ出る。
「なら俺が――」
その瞬間。
石の犬がガルを見つめた。
「犬型生物ヲ確認」
「……俺のことか?」
「同族認定」
石の犬が、すっと座った。
「え?」
レオンが固まる。
「同族……?」
「歓迎スル」
石の犬は尻尾まで振り始めた。
「…………」
「…………」
ガルが困った顔をする。
「レオン」
「なんだ?」
「こいつ、俺のこと仲間だと思ってるみたいだ」
「よかったじゃないか」
「でも――」
ガルが石の犬を見る。
「俺、猫と一緒なんだけど」
石の犬がレオンを見る。
「猫型生物ヲ確認」
「……」
「敵性反応ナシ」
レオンが胸を張る。
「ほらな!」
石の犬が続ける。
「ただし――」
「ただし?」
「猫ハ信用シナイ」
「なんでだよ!」
ガルが吹き出した。
「はははっ!」
「笑うな、ガル!」
「いや、これは無理だ!」
レオンが石の犬を睨む。
「俺たちは世界を守るために来たんだぞ!」
石の犬は少し考え――。
「……猫ニシテハ立派」
「褒めてるのか、それ?」
「タブン」
「なんで曖昧なんだよ!」
そのとき、地下のさらに奥から光が差し込んだ。
壁がゆっくり開いていく。
その先には、巨大な扉があった。
扉には、猫と犬。
そして、その中央には一つのルーンが刻まれている。
レオンは息をのんだ。
「……これが」
ガルも扉を見つめる。
「古代ルーンの聖域への入口か」
二匹が扉へ近づく。
その瞬間――。
扉の中央に刻まれたルーンが光り始めた。
そして、地下全体に声が響く。
『資格を示せ』
レオンが顔を上げる。
「資格?」
ガルが周囲を見る。
「どうやら、ここから先は簡単には進ませてくれないらしいな」
レオンは拳を握った。
「だったら――」
その隣で、ガルが突然くしゃみをした。
「ハックション!」
静寂。
レオンが振り返る。
「……ガル」
「なんだ?」
「今の、資格判定に影響しないよな?」
「知らん」
すると――。
扉が、
ゴゴゴゴゴ……。
と開き始めた。
レオンとガルは顔を見合わせた。
「……まさか」
扉の向こうから、古代の声が響く。
『資格を確認した』
レオンが目を輝かせる。
「やった!」
『くしゃみが大きかった』
「そこかよ!」
地下に、レオンのツッコミが響き渡った。




