"ストライカー"
「ねぇ? 少し付き合ってくれない?」
広場の真ん中にある水飲み場の石段に腰掛けて、焼いた魚とパンを頬張っていたボルトに誰かが声をかけた。ボルトが見上げると、そこには最近女性冒険者の間で流行っている、胸と腿を強調する服装の二人の女が立っていた。
「何の用だ?」
ボルトは魚の残りをばりばりと噛み砕き、水を一杯飲む。
「あんたが魔女のところの人と聞いて探してたの」
二人のうちの背の低い方が言う。よく見ると二人は似通った顔をしている。姉妹か、とボルトは思った。
「だとしたらどうする?」
「あたしらが作ったものを見てもらいたいの」
「?」
ボルトはこの二人が何を言っているのかわからなかった。
「俺は職人じゃない。何かの値段を見定められるような眼は持ってない」
「いや、あんたじゃないとわからないものなのよ」
「俺じゃないと?」
ボルトは少し興味が湧いてきた。この二人は自分に何を見せようと言うのか。まぁ、これを口実にした強盗か何かだったら撃てばいい、とも思った。
「あたしはスカルド。こっちは妹のイレドルド。両方とも魔法使い」
「ふむん」
「作ったものは外にあるわ」
「魔法使いが何を作ったのかは知らんが、俺に見せたいだけの価値はあるんだろうな?」
「その辺は保証する」
スカルドがウィンクする。
「これがあたしらが作った『装甲騎兵』よ」
街の外。馬車の馬などを休める下草の生えた広場にそれは置かれていた。人の数倍の背丈があり、ずんぐりしたシルエットの背中からは、複数の煙突状の物が突き出している。胴体は傾斜した金属板で構成され、1機は太い腕に棘付きの鉄球を、もう1機はドリル状の武器を装着していた。
ボルトはあんぐりと口を開けてそれらを見ていた。あまりにも想像外のものだったのに驚くと同時に、あまりにも馬鹿げていると思ったからだった。
「なんだこれは?」
ボルトの言葉にスカルドが応える。
「魔法使い一人でも戦えるようにするものよ」
スカルドがえへんと胸を張る後ろで、イレドルドがドリル状の武器を搭載した緑色の機体に近寄る。装甲の一部を触ると機体の胸が開き、彼女はその中に潜り込んだ。
「パワーと防御力を兼ね備えた機体に、破滅的なまでの破壊力を持つ武装。あんたのとこの"白銀"ほど小さくはできなかったけど、負けないほどの戦闘力があるわ」
「それはいいが、なぜ俺に見せた」
「どこが悪いのかを教えて欲しい」
ボルトはなるほどと思った。この世界で動甲冑を作った、もしくは作ろうと思っている人物は少ないのだ。それにはいろいろな技術的ハードルが立ちふさがっており、ラチェットの"白銀"はそういう意味では奇跡の機体だと言えた。それも、長い時間をかけてラチェットとその父親が改良を続けた結果である。ボルトはその事を、ラチェットから聞いていた。
ボルトとスカルドの後ろで、緑の機体が立ち上がる。背中の煙突から空気をゆらめかす熱い排気が吐き出される。
「動力には魔鉄炉を使ってるの。本当は魔銀炉を積みたかったけど、そこまでのお金が無くてね」
機体はギリガリと音をたてて歩き、背を屈めて停止する。そしていきなり左腕を振り上げると、カニのハサミに似た構造のアームを展開する。そしてそこから轟音とともに衝撃波を放った。指向性のあるそれは地面を揺らしながら前方に向かって走り、大木を揺さぶった。その直後に右腕のドリルを発射する。ドリルは回転しながら飛翔し、大木に命中するとバラバラに引き裂いた。ドリルはそのまま後方に飛行し、右腕に戻った。
ボルトは眼を見張った。これがただの張りぼてやおもちゃではないことを理解した。
「では、こっちも同じような事が出来るんだな?」
「そう。あたしのは火炎弾とモーニングスターの組み合わせよ」
「で、どこが悪いかを教えろと」
「白銀と比べて、というのもあるわ」
ボルトはオレンジ色の機体に手を当てて、振り返りつつ言った。
「最大の問題点は──でかすぎる」
ボルトは手を頭の上にかざして、背丈の話だと示して見せた。
「これじゃぁ、地下迷宮に入れない。その時点で役目を果たせない。魔鉄炉を背負っているというのも原因だと思うが、必要以上に防御力が高すぎるんだ」
「でも、そうしないと死んでしまうわ」
「防御は必要最低限でいいんだよ。それ以上の装甲は単なる死重だ。それに」
ボルトは機体の左手に手をやる。
「火炎弾は魔法をチャージする形式か?」
「そうよ。4回分をチャージしてる」
「その後は?」
スカルドはえーっとという顔をした。
「これも死重だ。使えない腕をぶら下げて歩くだけ、力の無駄になる」
ボルトは自分を指さした。
「戦うにはこれぐらいで充分なんだ。人が死ぬ最大の原因は、頭と胴体をやられることだ。だから、ヘルメットとボディアーマーでそこを護る。それ以外は捨てる。機動性を優先するためにな。そして、装備も最低限だ。銃とその弾倉。予備武器。銃剣。そしてその他装備を詰めたバックパック。これだけでいいんだ」
言葉に圧倒されているスカルドに、ボルトは笑いかける。
「発想は確かに面白いさ。魔法使いが装甲を身にまとって、こんななバカでかい武器を振るうっていうのはな。やりようによっては、そこらへんの戦士よりも強くなるかもしれん」
「……どうすればいいかな?」
スカルドの横に、機体から降りてきたイレドルドがやってくる。姉が少ししょんぼりしているのを、妹は何が起こったのかと心配げな顔をする。
「そうだな。とにかく死重になっている部分を排除するかな。やり方によっては、魔鉄炉そのものを下ろせるかもしれない」
「そうか! 今までは魔鉄炉ありきで考えていたけど、逆に無しと考えれば……」
その声を聞いていたイレドルドが画板を取り出し、そこに姉が話すことをメモしていく。
「この機体自体は悪くはねぇんじゃないかな? そこら辺を散歩するには大仰すぎるが」
「たしかにあんたの言う通りだね。何でもかんでも詰め込んだのが悪かったみたい」
「戦闘なんてそんなもんさ。腕は二本、目は二つ、考える脳みそは一つしかない。その能力以上のものは全部邪魔にしかならないわけだ」
ボルトは近くの岩に腰掛け、大きくあくびをした。そして、ポケットからMREのアクセサリーに入っているレモネードの粉末を水筒の水で溶いて、話し込んでいる姉妹を見ながらちびちびと飲んだ。
数日後。
スカルド姉妹の頼みで街に逗留することになったボルトは、連絡を受けて街の外に行った。
「これでどうかな?」
そこには姉妹が立っていた。胴体を傾斜した装甲の鎧で覆っている。両脚も同じような装甲に覆われている。
「その格好は?」
「いろいろ削ってみて、最終的の残ったのがこれだけになったわけ。胸と腹を護る分の鎧。でも、斜めにした装甲板を組み合わせているので、見た目より軽くなってるの。さらに軽量化の魔法もかけているわ。いざとなれば、防御障壁も張れる」
スカルドはくるりと回った。背中には装甲が無い。
「背中が丸出しだ」
「背中にはバックパックを背負うから、それが装甲の代わり。場合によっては装甲板を間に挟めばいいかと」
ボルトはへぇっと声をもらした。自分たちが着ているプレートキャリアも、場合によって増加装甲板を入れ込むことができるようになっている。収斂進化という言葉は知らなかったが、ボルトはこんなに似たようなことが起こるのだと感心した。
「脚はどうなってる?」
「上半身が重くなる分を支えるためのユニットにしてみたの。炉は積めないけど、魔晶鉄を使って動力を確保してある。動作は──のっしのっしとなるけど、その分重い武器も持てるわ」
「で、武器はどうしたんだ?」
ボルトの言葉に、姉妹は顔を見合わせてぷぷっと笑った。
「何か隠してるのか?」
「こういうこと」
姉妹は武器を手に振り返った。それぞれ右手にモーニングスターとドリルを持ち、左手にハサミ状のアームを持っている。
「武装はそのままよ。ここだけは引けないから」
「ま、まぁ、その辺はしょうがないな」
ボルトは自分も武器にはこだわりがある。そう言うしかなかった。
「これで、敵の攻撃を受けつつ前進できるわ」
「もはや、魔法使いとは言えんな」
「何かいい名前はないかな?」
姉妹に見つめられ、ボルトは少したじろいだが、そうだな、とつぶやいた。脳裏に以前魔女に見せられたとある装甲車輛の事を思い出した。8輪装甲車の無人砲塔にむき出しになった戦車砲を積んでいる車輛だった。軽快に動き、火力を提供する目的の車輛である。
「……ストライカー。それでいいんじゃないか?」
「ストライカー? それは、マリンコの言葉?」
「そんなところだ」
スカルド姉妹は口の中で何度か名前を転がすと、満足げな顔をした。
ここに新たな戦闘スタイル──ストライカーが誕生したのである。




