解散会議
冬の終わり。
遠征帰りの宿。
雪解け水の音が、
静かに窓の外から聞こえていた。
その夜。
小野 耕作が、
珍しく真面目な顔で言った。
「そろそろ」
「パーティー解散を考えよう」
空気が止まった。
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ロナルドが眉をひそめる。
「……急だな」
小野は濁酒を少し飲む。
「いや」
「前から考えてた」
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## 理由
小野は静かに続ける。
「練度は上がってる」
「連携も良い」
「判断も昔よりずっと上手い」
そこまでは全員理解していた。
だが。
次の言葉が重かった。
「でも」
「瞬発力が落ち始めてる」
誰もすぐ否定できなかった。
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## 老化
ロナルドは、
ここ数年、
回避の初動がわずかに遅くなっていた。
本人も気づいている。
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ドナシアンは、
長時間戦闘後の疲労回復が遅い。
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フレデリック・ラメーも、
魔力制御集中時間が少しずつ短くなっていた。
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アクセルは、
頭痛頻度が増えている。
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小野は全員を見渡した。
「昔なら避けられた一撃を」
「いつか避け損ねる」
「その一回で死ぬ」
静かな声だった。
だが。
全員、
現実として理解できた。
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## 冒険者の終わり
若い冒険者たちは、
引退を敗北だと思っている。
だが。
長く生き残った者ほど知っている。
“引き際”が一番難しい。
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小野は言った。
「冒険者ってな」
「成功して辞める奴、少ないんだ」
「大体は」
「借金」
「後遺症」
「仲間の死」
「判断ミス」
「無理な依頼」
「そのどれかで壊れる」
酒場の喧騒が遠かった。
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## 第二の道
バルテルミが小さく聞く。
「……でも、何をするんです?」
小野は少し笑った。
「だから今考えるんだよ」
「壊れてからじゃ遅い」
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## それぞれの未来
### フレデリック
資料整理能力。
依頼分析。
危険予測。
ギルド戦術補佐適性。
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### ロナルド
新人盾役指導。
護衛訓練。
槍術教官。
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### ドナシアン
地方防衛隊。
治安補助。
対魔物巡回。
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### バルテルミ
正式錬金術師。
補給部門。
薬剤工房。
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### アクセル
荷運管理。
街道警備補助。
危険察知役。
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### 小野
酒造。
宿経営。
地方情報仲介。
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## フレデリックの沈黙
しばらく誰も喋らなかった。
最初に口を開いたのは、
フレデリックだった。
「……怖いですね」
小野は頷く。
「うん」
「終わるの怖い」
そこには、
変な格好つけがなかった。
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フレデリックは続ける。
「でも」
「確かに最近」
「“事故る未来”を考えるようになった」
それは、
長く生き残った冒険者だけが持つ感覚だった。
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## 戦争設計国家の価値観
大滝王国では、
少しずつ価値観が変わっていた。
昔。
「最後まで戦う英雄」
今。
「壊れる前に次へ移る人間」
それもまた、
尊重され始めている。
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戦争設計から始まった思想。
“現在の犠牲”と“将来の危険”。
それは国家だけではなく。
個人の人生設計にも、
浸透し始めていた。
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## 最後の遠征計画
小野は最後に言った。
「あと一年ぐらいかな」
「そこで綺麗に畳もう」
ロナルドが苦笑する。
「商売みたいに言うな」
小野は酒を飲む。
「人生、店じまいも大事なんだよ」
誰も笑わなかった。
だが。
誰も反対もしなかった。
それが。
長く生き残ってきた者たちの、
静かな現実感だった。




