中年冒険者加入
雨上がりの夕方。
冒険者ギルド併設酒場。
依頼帰りの冒険者たちが、
騒がしく酒を飲んでいた。
その隅で。
一人の中年男が、
ぶつぶつと独り言を言っている。
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「失敗したな……」
「もっと若返らせてもらえばよかった……」
「六十ぐらい希望したつもりだったんだが……」
「この世界だと完全に老人扱いだ……」
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ロナルドが小声で言う。
「……変な奴だな」
だがフレデリックは、
少し興味を持った。
男の座り方。
視線。
周囲確認。
酒場慣れしている。
ただの酔っ払いではない。
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## 小野耕作
小野 耕作
四十八歳。
黒髪交じり。
少し腹は出ている。
だが妙に姿勢が良い。
彼は元々、
地方都市で酒屋を経営していたらしい。
配達。
仕入れ。
酔客対応。
商会交渉。
地回りとの距離感。
長年、
“面倒事を悪化させない仕事”をしていた。
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さらに奇妙なのは。
「剣術と柔道の資格を持ってる」
という点だった。
この世界では聞き慣れない単語も混じる。
だが実際。
小野の動きは妙に実戦的だった。
重心が低い。
距離感が近い。
無駄に力まない。
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## 加入の理由
普通なら。
中年新人冒険者など、
敬遠される。
体力低下。
反応低下。
夢見がち。
死にやすい。
だが。
フレデリックは別の部分を見ていた。
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アクセルは戦場経験。
ロナルドは持久型。
ドナシアンは安定剣士。
バルテルミは管理能力。
だが。
“年長者の知恵”が足りない。
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フレデリックは知っていた。
若いパーティーは、
判断が直線的になる。
熱くなる。
突っ込みすぎる。
空気を読み間違える。
だから。
「一回失敗した大人」
には価値がある。
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フレデリックは話しかけた。
「冒険者、始めたんですか?」
小野は苦笑した。
「老後の趣味……と言いたいが」
「半分、本気かな」
「こっちの世界、酒が美味いし」
「外も見たくなった」
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ドナシアンが聞く。
「戦えるんですか?」
小野は肩をすくめる。
「若い頃ちょっとね」
「でも今は反応遅いよ」
その言い方が、
逆に信用できた。
本当に危険な人間ほど、
自分を過大評価する。
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## 試験
フレデリックは、
模擬戦を頼んだ。
相手はロナルド。
当然。
体力ではロナルドが上。
だが。
始まってすぐ。
小野は距離を潰した。
槍の内側。
肩。
肘。
崩し。
ロナルドが体勢を崩される。
「うおっ!?」
完全勝利ではない。
だが。
“近づき方”が異様に上手い。
アクセルがぼそっと言う。
「……人間慣れしてる」
それは、
戦場系とは違う技術だった。
喧嘩。
制圧。
酔客処理。
そういう“近い距離の対人技術”。
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## フレデリックパーティー再編
### フレデリックパーティー
* フレデリック 中級魔法使い リーダー
* ロナルド 槍使い
* ドナシアン 剣士
* バルテルミ 錬金術初級
* アクセル 荷物持ち(元傭兵)
* 小野 耕作 中年新人冒険者
ギルド職員は二度見した。
「……平均年齢どうなってるんです?」
若手中心の冒険者界隈では、
妙なパーティーだった。
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## 小野の価値
加入してすぐ、
小野の真価が出た。
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### 酒場交渉
依頼後。
他パーティーと報酬揉め。
普通なら乱闘寸前。
だが小野が入る。
「まあまあ」
「誰が損してるか整理しましょう」
「全員ちょっと得する形あるから」
結果。
揉め事終了。
ロナルドが呆れる。
「なんで止められるんだ?」
小野は笑う。
「酒屋は毎日こんなのだよ」
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### 買い物
装備店。
小野は値段だけでなく、
“修理性”を見る。
「これ壊れた時面倒」
「この革は湿気で駄目になる」
「この店はアフター対応雑そう」
バルテルミが感心する。
「生活知識が強い……」
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### 若者制御
ドナシアンが少し危険な依頼に興味を示した時。
小野は静かに言った。
「英雄ってね」
「だいたい若死にするんだよ」
妙に重かった。
前世経験が混じっている。
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## 夜
宿。
小野は一人で酒を飲みながら呟いた。
「しかしなぁ……」
「三十代ぐらいにしてもらえばよかった……」
「膝が重い……」
フレデリックが苦笑する。
「十分動けてますよ」
小野は遠い目をした。
「前世だと、老人が“若返った感覚”だったんだよ」
「でもこの世界、平均寿命短いから」
「完全に“おっさん”扱いだ」
全員少し笑った。
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だが。
その場には安心感もあった。
戦争設計国家で生まれた、
奇妙な冒険者パーティー。
若者だけではない。
壊れた兵士。
中年新人。
地味な管理役。
そういう、
普通なら弾かれる人間も混ざっている。
それでも回っている。
いや。
むしろ。
“壊れにくい”方向へ、
少しずつ完成し始めていた。




