精霊女王VS俺
社畜営業マンの斉藤啓鬼(26歳・童貞)は、営業先で刺されてあっけなく死亡……したはずが、異世界の溶岩地帯へ転生していた!
『ワンチャン熱くないかも』という謎の理論で泡立つマグマへダイブした結果、チートスキル【絶対再生】を獲得! 死なないどころか次々とスキルが生えてくる体質となった啓鬼は、さっそく手に入れた【精霊召喚】を試すが——目の前に現れたのは、凄まじいオーラを纏う謎の美女だった!?
「——お主が、転生者か?」
目の前に立っている赤髪の女性が、鋭い眼光でこちらを射抜くように問う。
というか……めちゃくちゃ可愛すぎる! マジですっっっごい美人だ。
だが、華奢な見た目とは裏腹に、彼女が纏っている気配は人間とは一線を画していた。
もっとも、自分の体から溢れ出しているオーラも、客観的に見てかなりバケモノじみているのだが。
ひとまず、このオーラの量からして俺がただの人間ではないことだけは確定していた。
「ああ、そうだ。俺が転生者だ」
とりあえずそう答える。
「ほう。どうやら人間ではないようだな……って、何!? 私よりもオーラが多いだと!?」
赤髪の美女は、目を見開いて絶句していた。
自分でも内心かなり驚いている。俺ってそんなに凄まじいオーラを出しているのか?
「……そんなに凄いことなのか?」
純粋な疑問として尋ねてみる。
「凄いも何も、精霊に魔素量で勝つ『鬼人』など存在しないはず……!」
ここで初めて、俺は己の種族が『鬼人』であることを知った。
ということは、俺の頭には角でも生えているのだろうか……?
だが、目の前の精霊もかなりの大物だ。並の精霊とは桁が違うと、直感が告げている。
「でも、お前のオーラも凄い量だな。ただの精霊じゃないだろ?」
軽めのノリで問いかけてみたが、返ってきたのは予想外の答えだった。
「ふん、私をそこら辺の下位精霊と一緒にするな。私は初代精霊女王であるぞ」
は……? 精霊女王? しかも初代!?
そりゃそこら辺の精霊とは格が違うわけだ。
じゃあ、その精霊女王以上の魔量を持っている俺は一体何者なんだ……!?
俺が戸惑っていると、精霊女王は不敵な笑みを浮かべて提案——いや、ルールを口にした。
「ところで、精霊を召喚したということは仲間にしたかったのだろう? だがな、私のような超位精霊は、自分より弱い者には従わない決まりなのだ。……どうだ、今から私と勝負をせぬか?」
勝負、か。
転生したばかりで、まだこの身体にも世界にも馴染んでいない状態で、“初代”を名乗る精霊に勝てるのだろうか?
まあ、何事も経験だ。やってみるとしよう。
「俺が勝ったら、お前は俺の仲間になるんだな?」
「ああ、良いぞ。お前が勝ったなら潔く従おう。……まあ、勝てるはずもないがな!」
言い切ると同時に、音速を超える速度で迫ってくる精霊女王。
しかし——俺の目には、その動きがまるでスローモーションのようにゆっくり見えていた。
(精霊女王なのに……こんなにも“遅い”のか?)
これなら、武器どころか素手で十分だ。
「かかって来いよ」
不敵に笑って挑発してみせる。
「くっ、なんという無礼な奴……! よろしい、叩きのめしてやる!」
一瞬で懐に潜り込み、振り下ろされた絶大な威力の拳。
俺はその拳を、片手で受け止めた。
「なっ……!?」
驚愕に目を見張る女王は、すぐさまもう片方の腕を振り下ろしてくる。
俺はその隙を突いて距離を取り、逃げ惑う“ふり”をしながら彼女の周囲を素早く旋回し始めた。
「逃げてばかりでは私には勝てぬぞ!!」
焦りから大振りになった拳が振り下ろされようとした瞬間——すでに俺の拳は彼女の鼻先へと迫っていた。
「くっ……!?」
寸前で身を翻し、難を逃れる女王。
「今のは惜しかったぞ、鬼人よ!」
体制を立て直して再び向かってこようとする彼女に、俺は静かに告げた。
「そうだな。まあ——もうお前の負けだけどな」
言葉の意味が理解できずイラつきを見せる女王だったが、直後にハッと息を呑む。
彼女の周囲には、いつの間にか幾重もの『俺の拳の残像』が、まるで時間が止まったかのように固定されていたのだ。
「お主……まさか、逃げていたのではなくこれを狙っていたのか!?」
危険を察知した女王は慌てて範囲外へ跳ぼうとするが、まるで透明な壁に阻まれたかのように弾き返される。
「戦闘開始時にさ、新しいスキルを2つ覚えたんだ。【残像保存・再生】と【防御壁】っていうんだけどな」
「一瞬でスキルを……2つも!?」
打つ手を無くし、唖然と立ち尽くす精霊女王。
そろそろ遊ぶのも終わりにしよう。
「幕引きだ、精霊女王!」
俺が合図を送ると、保存されていた無数の残像が一斉に動き出す。
四方八方から容赦なく降り注ぐ拳の雨。
「くっ……うわああああっ!?」
なすすべもなく攻撃を受け切った精霊女王は、その場で崩れ落ちた。
それから数時間後。
横たわっていた女王が、ゆっくりと目を覚ました。
「目を覚ましたか。で、どうなんだ? 俺の勝ちでいいか?」
「……ああ、私の負けだ。約束通り、お前に従うとしよう」
さすがは女王、負けを認めると潔い。
こうして、俺の異世界生活で『初めての仲間』が誕生したのだった。




