第四章 王様との別れ
何日か前から、猫がそわそわしていました。
少年が猫に目を向けると、
「なんでもないにゃん」
と、毎回ごまかします。
でも、少年には分かっていました。
何かを隠している。
そして今日こそ、ちゃんと話をしよう。
少年は猫を捕まえました。
「ねえ、猫」
少年は猫の肩をつかみ、顔を合わせようとします。
けれど猫は、なかなか目を合わせようとしません。
「ねえ、猫」
少年はもう一度、呼びました。
「……時間が来たんだね」
長い沈黙のあと、猫がぽつりと答えました。
「……そうにゃん」
「王様だもん。仕事、たまってるんでしょ」
少年は笑おうとしました。
「僕のことは気にしなくていいよ。早く帰りなよ」
猫は黙ったまま、少年を見ました。
そして、ぽつりと言いました。
「猫は、君といるのが好きだったにゃん」
少年の顔から、笑顔が消えました。
「……うん」
「嫌いだから、いなくなるわけじゃないにゃん」
「うん……」
少年はうつむきました。
すると猫は、すくっと立ち上がりました。
そして、まっすぐ少年を見つめます。
「猫は、風来坊にゃん」
「風来坊?」
「そうにゃん。風のように、どこへでも行くにゃん」
猫は少し笑いました。
「だから、風になるときが来たにゃん」
少年は、少し寂しそうに笑いました。
「君は、どこにでも行けていいね」
その声には、憧れが混じっていました。
すると猫は言いました。
「君だって、どこへだって行けるにゃん」
「僕が?」
「そうにゃん」
猫は少年の胸を、ぽんと叩きました。
「何者にだってなれるにゃん」
「何者にでも……?」
「王様にもなれるにゃん」
「魔法使いにもなれるにゃん」
「魔法使い……」
「賢者にだってなれるにゃん」
猫は笑いました。
「未来は無限だにゃん」
少年はしばらく猫を見つめました。
そして、小さく笑いました。
「……うん」
猫も笑いました。
二人は、それ以上何も言いませんでした。
やがて猫は、風に乗るように歩き出しました。
少年は、その背中を見送りました。
もう、追いかけませんでした。
ただ、胸を張って。
猫に教えてもらったように。
**王様は、下を向かない。**
そうして――
少年と猫は、別れました。
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