第五章 国王就任の日
猫と別れてから、十数年の月日が流れました。
少年はもう、少年ではありません。
立派な青年となり、そして――
この国の王となっていました。
今日は、国王就任の日です。
王は、国王として初めて国民の前に姿を現そうとしていました。
その前に、王は静かに自分の頭に手をやりました。
そこには、あの日とは別の王冠がありました。
ふと、昔のことを思い出します。
自信がなくて、いつも下を向いていた少年。
いじめられて、
「僕が王様になれば、あいつら全員倒してやるのに」
そう思っていた自分。
王は、誰もいない部屋で小さくつぶやきました。
「もし君に出会わなかったら、僕はどんな王様になっていたのかな」
「僕を傷つけた人たちを、許さない王様かな」
「自分を認めない人たちを、力で従わせる王様かな」
「誰かに負けることを恐れて、誰よりも強くなろうとする王様かな」
王は、しばらく黙りました。
そして、静かに笑いました。
「……そうなっていたら、僕はどんな人間になっていたんだろうね」
王は、あの日の水色の猫を思い出しました。
髪を整えろと言った猫。
背筋を伸ばせと言った猫。
服を選べと言った猫。
勉強を頑張れと言った猫。
王様スマイルを練習させた猫。
「君は……」
王は、そっと王冠に触れました。
「僕がそんな王様にならないように、あの日、僕に会いに来たのかな」
しばらく沈黙が続きます。
そして王は、静かにつぶやきました。
「……僕の王様」
その言葉を最後に、王は静かに目を閉じます。
コンコン――。
「王様、お時間です」
その声とともに、大きな扉がゆっくりと開きました。
扉の向こうには、どこまでも続く赤い絨毯。
王は静かに立ち上り
一歩、踏み出しました。
レッドカーペットを、ゆっくりと歩いていきます。
その先にあるのは、光り輝く大きな扉。
王は立ち止まりました。
そして、胸を張ります。
十年前、猫に教えられたように。
**王様は、下を向かない。**
王はまっすぐ前を見ました。
今日は――
**国王就任の日です。**
この物語は、「自己皇帝感」という言葉から生まれました。
自分が皇帝だと思って仕事することです。
「皇帝は無理でも、王様ならできるかも」
そんな発想から、少年と猫の物語が始まりました。
最初の少年は、何もかも人のせいにしていました。
でも猫と出会い、少しずつ自分を大切にし、努力することを覚えていきます。
王様になった少年が手に入れたのは、権力ではありません。
「自分ならできる」と思える心――自己肯定感です。
これは、そんな少年の成長の物語です。




