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王様とネコ  作者: 夢灯
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第三章 ①本物の王様

そうして、少年と猫は一緒に暮らしておりました。

そんなある日のことです。


「仕事をサボって、何をしているんです。

王様」


突然、声がしました。


「え?」


少年が振り向くと、そこには一匹の大きな犬が立っていました。


きちんとした服を着て、白い手袋をしています。


まるで立派な執事のような姿です。


しかも、その犬は猫の首根っこをつかんでいました。


「にゃあああ!」


猫の体が、ぶらーんと宙に浮きました。


「何するにゃん!」


「何する、ではありません。王様」


犬はため息をつきました。


少年は驚いて聞きました。


「王様って……?」


「この猫は王様ですよ」


「ええっ!?」


少年は猫を見ました。


猫は宙ぶらりんのまま、胸を張りました。


「そうにゃん!」


「この猫が、本当に王様なの?」


「そうにゃん!」


犬は猫を床に下ろしました。


「まったく。王様が仕事をサボって何をしているんです」


少年は、ふと気になりました。


「ねえ……王様って、仕事をサボったら死刑なの?」


すると犬は、ものすごく驚いた顔をしました。


「死刑?」


「う、うん……」


「どこの野蛮な国です、ガウ!」


犬は呆れたように言いました。


「仕事をサボったくらいで死刑になどしません。

おやつ抜きくらいです。」


「よかった……」


すると猫が小さな声で言いました。


「おやつ抜きはいやにゃん……」


犬はため息をつきました。


「まったく、困った王様です。ガウ」


猫はしょんぼりとうつむきました。

「おやつだけは許してほしいにゃん……」


犬は少年のほうを向き、深々と頭を下げました。


「申し遅れました

私は王様の執事をしております」


「執事?」


「はい。狼属の者です。ガウ」


少年は狼をじっと見ました。


「君、狼なんだ」


「はい。狼です」


「羊じゃないんだ?」


狼は少し考えてから答えました。


「羊ですか?」


「うん。羊のほうが、王様のそばにいると優しそうだから」


狼は少し笑いました。


「羊も気のいい連中ですよ」


「じゃあ、羊でもいいんじゃない?」


「いえいえ」


狼は首を横に振りました。


「羊には、羊の弱点があります。ガウ」


「弱点?」


「ええ」


狼は真面目な顔で言いました。


「猫と一緒に昼寝してしまいますし」


「……」


「重要な書類を食べてしまいますし」


少年は目を丸くしました。


「書類を食べるの?」


「羊ですから」


「それは困るね……」


「はい。ですから私なのです。ガウ」


狼は自分の鼻を指しました。


「狼であれば、この鼻で王様がどこにいても探し出せます」


「なるほど」


少年は感心しました。


「じゃあ、他の動物はどうなの?」


「他の動物?」


「うん。王様には、もっと王様らしい動物がいるんじゃない?」


狼は少し考えました。


「ライオンですか?」


「うん」


「ところ構わず女性を口説かれても困ります」


「……それは困るね」


「象も困ります」


「どうして?」


「真っすぐ進むのは結構ですが、緊急時に何でも壊してしまわれては困ります」


「なるほど……」


狼は猫を見ました。


「その点、猫はのんびりまったりしています。ガウ」


猫は胸を張りました。


「そうにゃん」


「緊急時には、きちんとしていただければ問題ありません」


少年は猫を見ました。


「猫さん、本当に王様なんだね」


「そうにゃん」


少年は自分の頭に手をやりました。

そして、頭にかぶっていた王冠を外しました。


「じゃあ、この王冠は君の物なんだ」


「そうにゃん」


「……じゃあ、返すよ」


少年は王冠を猫に差し出しました。


猫は、しばらく黙っていました。


「……にゃん」


そして、王冠を受け取りました。


少年は少し寂しそうに笑いました。


「今まで、ありがとう」


そう言って少年は、ひとりで家へ帰りました。


---


家に着き、自分の部屋のドアを開けます。


「……ただいま」


返事はありません。

少年はベッドに腰を下ろしました。


「静かだな……」


いつもなら、そこには猫がいるはずでした。


そのとき――


「ただいまにゃん」


「えっ?」


少年が振り向くと、そこには水色の猫がいました。


「猫……?」


「そうにゃん」


「王様の仕事は?」


「今日はもう終わったにゃん」


猫は、いつものように笑っています。


少年も、少し笑いました。


「……おやつ、食べる?」


猫の目が輝きました。


「食べるにゃん!」


少年は笑いました。


「じゃあ、一緒に食べよう」


「そうするにゃん!」


王冠がなくても。


王様と呼ばれなくても。


二人はいつものように、並んでおやつを食べました。


次話 明日更新

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