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タイムマシーン・ロッカー  作者: MMPP.K


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3/4

第三話 忘れていく痛み

 彼女が俺の名前を呼ばなくなって、三日が経った。


「おはよう」

「……おはよう」


 その間が、日に日に長くなる。


 放課後。

 彼女は教室の窓際で、ぼんやりと外を見ていた。


 声をかけると、彼女はゆっくり振り返った。


「……あ、ごめん。えっと……なに?」


 胸が痛んだ。


「どうしたんだよ、最近」

「わかんないの。ほんとに」


 彼女は自分の胸に手を当てた。


「きみのこと、忘れちゃいけないはずなのに……思い出せないのが、怖い」


 その声は震えていた。

 俺のせいだなんて、言えるわけがない。


「きっと大丈夫だよ」


 そう言うしかなかった。

 でも、彼女は首を振った。


「大丈夫じゃないよ。だって……きみの顔を見ると、胸がぎゅってなるのに……理由が思い出せないんだよ」


 涙が滲んでいた。


 俺は、何も言えなかった。


 その夜。

 家に帰っても、彼女の言葉が頭から離れなかった。


 ──忘れちゃいけない気がするのに。

 ──思い出せないのが、怖い。


 ロッカーの張り紙が脳裏に浮かぶ。


 失われたものは返らず、残るものは音のみ。


 俺がロッカーを使ったせいで、彼女は忘れていく痛みをひとりで味わっている。

 その事実が、胸の奥に重く沈んだ。


 翌日。

 彼女は保健室の前に立っていた。


「大丈夫か?」


 声をかけると、彼女はゆっくり首を振った。


「……ねえ」

「うん」


「私、きみのこと……好きだったのかな」


 その一言で、世界が止まった。


「なんで、そう思うんだよ」

「わかんない。でも、きみを見ると……泣きそうになるの」


 彼女は自分の胸を押さえた。


「きみのこと……忘れたくない」


 涙が頬を伝う。


 俺は、その涙を見て悟った。

 俺がそばにいる限り、彼女はこの忘れていく痛みをずっと味わい続ける。


 それなら。


 最初から、俺なんていなければよかった。

 その結論は、絶望じゃなかった。

 彼女を守るための、静かな決意だった。


 その日の放課後。

 俺は旧校舎へ向かった。


 十三号ロッカーの前に立つ。

 張り紙の文字が、いつもより重く見えた。


 開閉は三度まで。


 あと一回。

 それで、彼女はもう苦しまなくて済む。


 扉に手をかける。


「……ごめんな」


 ガコン。


 金属の噛み合う音が、廊下に深く響いた。


 その瞬間、俺の世界は静かにほどけていった。

 


毎週月曜日 お昼12:00更新(全4話)

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