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第七話:奴が来る!

 二日後――。聖(セント)・ネロウ王国には朝から浮ついた空気が漂っていた。

 昨日、王家から急きょ告知された内容のせいだ。

 すなわち、

 『第六王女リーファルミアと専属AIの契約成功と、“救世機”の覚醒。及び同機への紋章描授の儀を執り行う』というものだ。

 要は契約の成功と“救世機”の覚醒はお祝いのようなものだな。

 そして<アルヴァリオン>への紋章の描授とは、パイロットと、パイロットが所属する家それぞれの紋章を機体に描き、それが正式に家の所属機となることを示すものだ。

 今回の場合前者がリーファルミア、後者が王家となるな。

 長らく明るいニュースのなかった聖・ネロウにおいて、この知らせは瞬時に国中を駆け巡った。

 この知らせがどれだけ国民を活気づけたか。

 それは、わずか一日という短時間ながら様々な露店が立ったこの街道(メインストリート)を見ればわかるってもんだ。

 国民皆が少ない材料で最大限街を飾りつけ、豪勢な食事を作り、店を開いたのだ。

 そこかしこに並ぶ露店からは朝から人々の声が途切れず、子供たちが町中を走り回る。

 聖・ネロウ王国は久方ぶりに往年の賑やかさを取り戻している。

 誰も彼もがリーファルミア、つまり王族のAIとの契約成功を祝い、ついに動いたという伝説の“救世機”がその相手という事実に歓喜していた。

 今頃リーファルミアは王宮の自室で儀式のために身を飾り付けている事だろう。

 で――。

 本日の主役の片割れたる俺はといえば。

 『くっせぇ……』

 「文句言うんじゃないよ。アタシだってガマンしてんだ。だいたい、それもこれもアンタが正式に認められたからなんだよ」

 『むむぅ……』

 例の666番格納庫で、昨晩からずっと有機溶剤の匂いに包まれていた。上半身のあちこちに塗料除けのビニールがかぶせられ、身動きも禁じられているこの状態は、昨日の訓練が終わると同時にやってきた。

 そもそも今日の儀式の目玉は、俺こと“救世機”<アルヴァリオン>の正式なお披露目と、その肩に描かれた紋章を広く見せることである。

 それによって聖・ネロウに新たな力が加わったことを世界に知らしめるのだ。

 そう。

 俺の両肩と左側頭部には、神官たちの監視の下整備兵たちが徹夜で描いた三つの絵図が描かれていた。

 唯一自由に動かせる頭部を回して右肩を見れば、そこには『666』の数字が白銀の飾り文字で描かれている。

 左肩には王家の紋章と別の紋章を複雑に絡めあった、厳粛さを感じさせる図柄。

 そして、ここからは見えないが俺の左側頭部には彼らの守護神の絵が描かれているはずだ。

 『ところでリキュエルさんよ』

 俺は白衣の上から塗料除けのビニールをかぶったリキュエル博士を見る。彼女はこの紋章を描く作業にはあまり関係ないが、状況の推移を見守るということでやはり徹夜でここにいる。

 ちなみにさっきまでリコもいたのだが、いい加減眠いなどと言って仮眠室に引っ込んでしまった。眠気を感じるアンドロイドってのは聞いたことないが、どうもあいつは一定時間に取得したデータ量が規定値を超えると、その整理のためにスリープモードになる必要があり、それが『眠い』という表現になるのだそうだ。

 「なんだい、クロガネ」

 溶剤酔い防止用のマスクのせいで、リキュエル博士の声はごふごふとくぐもって聞こえる。

 『この数字やら紋章やらの意味、俺まだ聞いてないんだけど』

 「……はい?」

 リキュエル博士は塗装の乾燥状態を確かめていたが、よっこいせと腰を伸ばし、呆れたように俺を見上げてきた。

 「アンタ、聞いてなかったのかい?夕べちゃんと説明しただろう」

 『すまん。俺も眠くてよく聞いてなかった』

 ごふ~……とマスクから盛大なため息が漏れる。

 「アンタといいリコといい、なんだってアタシの周りのAIはこう、無駄に人間臭い奴が多いのかねぇ。機械ってのはもっとこう、頑固で融通が利かないレベルで物事を見聞きするもんだと思ってるんだけど」

 『つまり一度聞いたら二度と忘れない、とかか?悪かったな。自慢じゃないが俺はそこまで物覚え良くねーぞ。学校でも補習とかくらってたからな』

 そしてその度に楪は俺にノートをねだられてた。

 ちなみに<アルヴァリオン>を制御しているのが俺ということは、俺が覚えていないと(つまりメモリーに記録していないと)当然、機体のデータベースにも情報が登録されない。

 これうっかりするとけっこうやばいよなぁ。何とかしたほうがいいよなぁ。

 「ほんとに自慢にならないね。胸張るんじゃないよまったく」

 リキュエル博士が作業通路の上で両腰に手を当て、俺を見上げる。

 「やれやれ仕方ない、もう一度教えてやる」

 『頼む』

 今度こそ忘れないように、俺はしっかりと記録することにした。

 「まず――左肩のは王家のとリーファルミアの複合紋章だ。剣に盾、右側の菱形は<E・A>の眼を表してる。左側の菱形はリーファルミアの眼だ。金色だろう?その上の三角が耳。外側の意匠はあの子が最も得意な武器である銃を表してる。あとはあの子が生まれた月の花であるリステスとその蔓で囲んでできあがり、ってわけさ」

 『それが、えーと……。グ……グラ……』

 「グランド・エンブレム」

 『ああ、そう!それだ』

 その単語は何となく覚えがある。

 聖・ネロウ王国内での紋章というのは、家の紋――マスターエンブレムと、個人の紋――パーソナルエンブレムの二つからなる。そして全体で一つの紋章となり、これをグランド・エンブレムと呼ぶ。

 マスターエンブレムは家ごとの違いでしかないが、パーソナルエンブレムはその個人によって異なる。

 リーファルミアのものを例にとった場合、“右側の菱形”は<E(エンブレム)・A(アーキテクト)>の眼だが、ここにはその個人の職業が入る。その為仕事が分かるとこの部分も変化する。

 “左の菱形”、これは彼女の眼を表しているが、ここには自分の肉体で最も気にいっている部分が入る。リーファルミアは自分の眼の色が気に入っているそうなので、瞳が図案化されて組み込まれたのだ。一般的にも瞳は多く、次いで耳、シッポ、髪などと続く。

 そして、“銃”。ここは個人が最も得意なことや好きなものが入れられる。例えば馬・鳥といった動物、書物・道具、宝石に装身具といったもの。リーファルミアは長年愛用している銃を意匠化して入れている。

 そうしてできたグランド・エンブレムを使えるのはその家の代表か、AIと契約した<E・A>パイロットだけだそうだ。

 で、次に――。

 『666の数字は?』

 「ああ、それは、アンタと契約したのが666人目、ってことさ。リーファルミアでね。アンタはこれまで665人をフッてきたんだよ」

 ちなみに前回のは三年前さ、と言われる。

 察するに何度も夢の中で見てきた、あのくっそウザイ男どもがそうなんだろう。あんな連中フって正解だろうし、フられて当然だ。

 『知らん』

 実はそれ、夢の中で――なんて言ったところで信じてもらえるわけもないしな。

 「それとは別に、我が聖・ネロウでは666って数字は神聖な意味を持つんだよ。国を御造りになった神を表すのさ。この格納庫のナンバーもそこから来てる。図らずもアンタはそんな数字を背負うことになってるんだよ」

 せいぜい期待を裏切らないようがんばりな。

 そう言いながらリキュエル博士は白衣のポケットをまさぐろうとして、ゴツい手袋をつけたままであることに気付く。

 「ちっ。タバコが吸えないじゃないか」

 『有機溶剤漂う中で火を使うな』

 ガンプラ塗る時の塗料にもそう書いてあったし。

 「はいはい分かったよ。……そして最後にあんたの左側頭部のもの。これはこの国の四大神が一人、セイル・ロウだ」

 『セイル・ロウ……。そういえば夕べリコがそんなこと言ってたな』

 俺がつぶやくと、途端にリキュエル博士の眼が鋭くなった。

 「アンタ、リコにナニかしようとしたのかい?」

 『は?』

 「セイル・ロウってのはね、守護をつかさどる神さ。恐ろしいことがあった時、助けてほしいときなどに口にされる、一種の祈りの言葉でもある。あとは――そう、女が怯えた時にも口にされるね」

 『……』

 アーメン、みたいなものか?

 「で、何やったんだいアンタ」

 『なんもしてねぇ!』

 心なしか整備兵たちの眼もきつくなった気がしたので、全力で否定しておく。

 実際俺はアイツになにもしてない。ユーレイと間違われて勝手にビビられただけだ。

 『っつーか出来ると思うか!?』

 「なんだい、つまんないねぇ」

 必死で叫ぶと、リキュエル博士がつまらなそうに身を引いた。

 ッつーかなんでロボの俺がこんなに必死にならなきゃいかんのだ。

 「女の一人や二人襲ってみなよ。アンタ男なんだろう?」

 『人を万年発情期みたいな言い方にするなっ。俺は正義の味方を目指してるんだぞ!?』

 大体実体持たない俺にアイツを襲えるわけないだろうが。

 「リコみたいなつるぺた(・・・・)じゃアンタのお眼鏡には適わないのかい?」

 『い、いや……。別にそうは言わんが……』

 確かにリコは発育豊かなラインではない。どちらかといえば――いわゆる幼児体型だ。

 口は悪いが、でもまあ、けっこうかわいいのも認めざるを得ない。

 ま、俺としちゃリーファルミアみたいに出るところ出てた方が好みなんだが。

 「ふうん。貧乳でもいけるクチかい。なら――」

 「ごほん!」

 と、そこで咳払いが聞こえる。

 ザッと整備兵たちが敬礼をしたので何事かと思いきや。

 「まったく、様子を見に来てみればいったい何の話をしているのですか」

 『!?』

 「朝から、それも式典の前に下世話な話はおやめください、リキュエル博士」

 恐らくは儀礼用のパイロットスーツだろう。袖や胸元、体の側面に沿って装飾が施された真っ白な服に身を包んだ人影が、コツコツと近づいてくる。

 式典用にセットされた美しい銀髪と、左腰に下げられた装飾銃が光を弾いている。

 突き出たケモノミミに金の紋章が縫い込まれた真紅のリボンを掛け、お尻のあたりで揺れる尻尾はきちんと毛並みが整えられている。

 そいつは整備兵たちに返礼すると、作業に戻らせた。

 「ああ、すまなかったね」

 リキュエル博士がくるりと振り向く。

 「でもアンタ、こんなところに来ていいのかい?溶剤の匂いがつくよ」

 「大丈夫ですよ。もうほとんど匂いは消えてますし。それに、ご存知でしょう?この溶剤の匂いは、日にあたると五分で自然分解するって」

 「まあね」

 真っ白な人影が俺の前で足を止めた。俺の両肩や側頭部の紋章を見上げ、満足そうにうなずく。

 「ずいぶん恰好がつきましたね、クロガネ」

 『おま……リーファルミアか?』

 「――?そうですよ?」

 小首を傾げ、きょとんとされた。

 ホログラムを作動させ、姿を疑似的に実体化。俺は真っ白な少女こと、リーファルミアの前に姿を現す。

 「他の誰に見えるのです?」

 『いや、だってなぁ……』

 姿もさることながら、その所作、その話し方。まるで別人。モードが切り替わったみたいだ。

 じー。

 お姫様モードのリーファルミアの周りをぐるぐる回りながら、全身を眺める。

 「あ、あまりじろじろ見るのは失礼ですよ」

 『あ、すまん』

 若干頬を染めたリーファルミアが俺をたしなめる。

 「はっはーん」

 リキュエル博士が得心した声を上げる。

 「リーファルミア、あのね。クロガネの奴、アンタに見とれてるのさ」

 「なっ!ば……っ!」

 かあっとリーファルミアの頬が染まる。

 「特にその胸元。きつくないのかい?」

 式典用のパイロットスーツを押し上げる胸元を指さし、リキュエル博士がむふふ(・・・)と笑う。

 うむ。実は俺も気になってるんだ。

 ボタンとか結構パツパツで留まってるみたいだし、突っついたら弾けそうだ。

 「だ、大丈夫ですっ!クロガネ、あんたもいつまで見てるのよ!」

 両腕で胸を隠しながら、リーファルミアが後ずさる。

 『あ、口調が戻った』

 「う、うるさいわねっ!」

 うんうん、やっぱコイツはこっちの方がいい。変に丁寧語で返されるとついいたずら心も湧いてくるしな。

 「そ、それより!準備はできてるの?」

 『ああ、ご覧の通りだ』

 くるっと振り返り、俺の体でもある<アルヴァリオン>を見上げる。

 真紅のボディはピカピカに磨き上げられ、塵ひとつない。わずかな歪みもなく描かれた紋章もすっかり乾き、お披露目の時を今や遅しと待っている。

 リーファルミアが俺の隣に並び、グランド・エンブレムの描かれた<アルヴァリオン>の肩を満足そうに見つめる。

 「そう。今日はよろしく頼むわね」

 『ああ。といっても俺はお前の操作で動くだけだがな』

 「それも……そうね」

 ん?

 そこで俺は、リーファルミアがちらちらとこっちを見ていることに気付いた。綺麗な金色の瞳が、床と俺を行ったり来たりしている。

 『……どうした?』

 「え!?いや、その……」

 くるっと後ろを向き、

 (駄目よ、ダメダメ。ちゃんと言わないと)

 ――とかなんとかぼそぼそ呟いている。

 なんのこっちゃ。

 ぺちっと頬を叩いて気合を入れてから、リーファルミアは俺に向き直る。

 「く、クロガネ。あの……」

 『ん?』

 「き、昨日はごめんなさい!」

 ぺこりと頭を下げてきた。

 『き、昨日?お前何かしたっけ?っていうか頭を上げてくれ』

 王族の少女がいきなり頭を――それも一AIに下げたことで周囲の注目が集まる。

 俺はいささか慌てた。

 慌てて頭を上げさせようとしたが、くそ、そういえば実体ないんだった。

 「昨日だけじゃなくて、一昨日も。ううん、正確に言うなら一昨日はごめん、かな」

 それで思い当たる。そうか、こいつ……。

 『……模擬戦の事か?』

 「うん」

 リーファルミアは頭を下げたまま小さく頷いた。。

 「その、式典の前に一言謝っておきたくて。それで今、来たの」

 たぶん模擬戦の時の暴言|(だと思ってるのか)をずっと気にしていて、式典の前にそれをすっきりさせたかったんだろう。

 律儀な奴だなぁ。

 「カーリック大佐に言われて、ずっと考えてた。AIとの間に生まれる信頼ってなんだろうって。私はほら、これが初めての契約だから。その、よく分からなくて」

 『おっさんがそんなことを……』

 そういえばおとといの模擬戦の休憩中、二人が何やら深刻そうな顔を突き合わせていたな。そんなことを話していたのか。

 「私、AIはAIで、人間じゃなくて。だからそんなに気を使うことはない、って考えてて。でもそれじゃいけない。それじゃ互いを理解しあえない。そう言われたの」

 『で、謝ることにしたのか?』

 うん、と、リーファルミアは再度首肯する。

 「あんたは確かにAIだけど、でも人間みたいに接してくれてて。だから私も人としてしっかり誤っておきたかったの」

 思わず笑いそうになっちまった。

 真面目というか、なんというか。

 そこがコイツの美点なんだろうな。

 『……言ったろ。お前は悪くない。俺の作業が遅かったのが原因だ』

 「でも、あんたにいろいろ言っちゃったのは本当だし。だからごめんなさい」

 『だからお前は悪くないというに……。いや、分かった。分かったよ。俺は何も気にしてないから、だから気にするなよ』

 そろそろ頭を上げて欲しかった俺は、彼女の謝罪を受け入れた。元々リーファルミアに怒っていたとか、そういうことはないしな。

 「うん」

 ……ようやく頭を上げてくれたか。

 化粧の施された顔には笑顔が戻っている。

 うん、こいつはやっぱ笑顔が似合う。

 『大丈夫だ。俺はお前を見限ったりなんて、絶対しねぇ。むしろ俺の方がお前に愛想尽かされたと思ってたくらいだからな』

 頭の後ろで腕を組み、冗談めかしてそういうと、今度はリーファルミアのほうが慌てた。

 「そんな、そんなことない。あんたは私の願いに応えてくれたんだもの。こっちからお願いしておいてこっちから愛想尽かすなんて、絶対にしないわ。私の名に懸けて」

 きゅっと手を握り、俺に迫る。

 『へっ。堅苦しい奴め』

 「う、うるさいわね。人がせっかく真面目に言ってるのに」

 『わーってるよ』

 ごほん、とリーファルミアが咳払いを一つ。

 「と、とにかく。これで愁いはなくなったわ。改めてよろしく、クロガネ」

 『おう』

 俺と拳を突き合わせるリーファルミアだったが……ん?足やシッポが小さく震えている。

 俺は彼女の耳元に移動し、囁く。

 『リーファルミア』

 「な、何?」

 『緊張してるのか?』

 「……うん、少しね」

 おや、意外にあっさり認めたな。てっきり誤魔化すと思ったのに。

 「王族としていろいろな式典やパーティーに出てきたけど、ここまで大きなものは初めてなの。それに今回の主役は私だし……」

 誕生日でさえここまでじゃなかったわ、ともじもじしている。

 俺はそっと、実体のない手をその肩に置く。

 『大丈夫だ。俺がついてる』

 「……うーん」

 困った顔で、リーファルミアが俺を見る。

 『なんだよ』

 「あまり大丈夫そうに聞こえない」

 『うわ、ひでぇ』

 「嘘よ。ありがと」

 『――』

 くすりと笑う彼女は、なんというかすごく魅力的で――。

 リキュエル博士の言じゃあないが、俺は思わず見とれてしまう。

 「はいはいアンタ達。いつまで見つめ合ってるんだい。そろそろ時間じゃあないのかい?」

 パンパンと手を叩く音で俺たちは我に返った。

 「っ!」

 『おっと』

 リーファルミアがびくっと跳ね、俺から距離を取る。

 「そ、そうだった!じゃない、そうでした。ごほん」

 咳払いをひとつして、リーファルミアはお姫様モードに戻った。

 「そ、それではクロガネ、そしてリキュエル博士。また後程」

 『おう』

 「ああ、しっかりね」

 軽く会釈すると、リーファルミアは尻尾を翻して(・・・・・・)待機場所に戻っていく。

 「いい子だね」

 『ああ、そうだな』

 その背中を見ながらリキュエル博士がポツリとつぶやく。

 「なあ、クロガネ」

 『あん?』

 振り向いたリキュエル博士の顔は、ここ数日見てきた眠そうな顔ではなく、とても真剣だった。

 「アタシゃ口下手だからうまく言えない。だからこれだけ、言っておきたい」

 『お、おう』

 ――すでに塗料の匂いはほとんどなくなっている。

 リキュエル博士は暑苦しいマスクを脱ぎさり、素顔で俺と向き合った。

 「リーファルミアを頼むよ。あの子を助けてやっとくれ。戦場でも私生活でもね」

 『……』

 リコと同じようなことを言われたぞ。

 「あの子がよちよち歩きのころから、アタシゃあの子を見てきた。だからアタシにとっちゃ娘みたいなものさ。そんな子が今日、アンタという兵器を得て戦場に立つことを皆に宣言する。こいつぁ結構堪えるんだよ」

 俺は黙ってうなずき、話を続けさせる。夕べリコに言われたこともそうだが、これも心して聞かなくちゃあいけない話だ。

 「戦場ってのは、要するに殺し合いの場だ。そんなところに女の子が立つなんてありえないだろう?それも娘みたいに思ってるような子が、さ」

 『……あぁ』

 それには同感だぜ。これはアニメやマンガじゃねぇ、現実なんだからな。都合よく弾ははずれねぇし、運悪く死ぬことだってある。

 無論俺が全力で守るが、どこかで『運悪く』ってのが起こらないとも限らねぇ。

 「これから先、あの子はいろんな苦難にぶつかる。だからアンタにいろいろ助けてもらいたいのさ。戦場ではもとより、私生活に置いてもパートナーとしてね」

 幸い、と彼女は俺に顔を近づける。

 「アンタはとても優れたAIだ。本当に人間みたいにね。だからあの子の相談にも乗ってやれるだろう?」

 真摯な瞳に、口の端を釣りあげてみせる。

 『――ああ、全力で約束するぜ。俺がアイツを守る。何があってもな』

 拳を突き出す。

 「ふん……」

 リキュエル博士も拳をつきだし、俺と突き合わせた。

 任せろよ。そのために俺はいるんだぜ。ヒロインを守って戦いを繰り広げた<勇者皇帝(ブレイヴカイザー)>の主人公のように、俺がリーファルミアを守り抜いてやるぜ。

  一人炎を胸に抱く俺を眺めながら、リキュエル博士が拳を収める。

 「ああそうだ。もう一つ」

 『あん?』

 っておい。なんだそのイジのわるそーな笑みは。

 「あの子に惚れるのは仕方ないとしてだ。ナニをする前にはちゃんとアタシの許可を取るんだよ」

 ぶっ。

 『はぁっ!?』

 いきなり何を言いだすかね、このおばさんは!

 『できるわけねーだろうが!!』

 「だって惚れてるんだろう、あの子に。なら当然触ってみたいとか思わないかい?アレとか、アレとか」

 ニヤニヤと笑いながら俺を突っつく。

 『い、いやそれは……』

 すまん。めっちゃ思う……ッ!

 別に惚れてるとかはないはず……だけど!

 「ほうら」

 赤くなった俺を突っつきながらリキュエル博士が詰め寄ってきた。

 「興味あるんだろう?アタシがアンタ用の義体作ってやろうか?」

 人体の機能を完全再現(・・・・)したやつとか。

 『できんのかよ!どこの近未来漫画だよそれ!』

 「アタシを誰だと思ってるんだい。そのくらいお手の物だよ。リコ作った時データは集めたからね。男女ともに」

 『恐ろしい奴だなあんた!』

 っていうかそのデータ使って何したんですかね。

 『ん、ごほん!さ、さて、時間だから準備しようぜ!な、な?』

 義体化には興味あるが、このままだとそれ以前にあることないこと聞かれちまいそうだ。

 リキュエル博士は未だ食い下がってくるが、俺は完全に無視して背を向け、そそくさと<アルヴァリオン>に引っ込むことにした。




*  *  *

 

 「これより、聖(セント)・ネロウ王国第六王女、リーファルミア・ネロウ・アーデルローテ様専属機への、紋章描授の儀を執り行う!」

 赤い垂れ幕で飾られた、ひときわ高く作られた檀上で、式典服に身を包んだ神官が大声で宣言した。

 同時にこれを取り囲んでいる市民たちから大きな歓声が上がる。

 聖・ネロウ王宮前広場。

 都市の大動脈ともいえる、メインストリートからまっすぐ王宮に向けて伸びる街道の、ここはちょうど中間点に位置する、今回のような市民を交えての式典や執政院からの発表など、公的な行事に使われるための広場である。

 「議員の方々、並びに市民諸君は起立し、姿勢を正してお待ちを。聖・ネロウ第25代国王エスペディート陛下のお成りでございます!」

 普段は質素を家訓としている国王も、この時ばかりは豪華な礼服を纏って現れた。片手を上げて市民に手を振りながら、壇後方の階段を上がってくる。

 ――ああ、やっぱ国王にもケモノミミとシッポがついてるのな……。

 だいぶくたびれていたが、王の頭部にはリーファルミアとよく似た形の耳があり、シルバーを通り越しグレーに近いシッポが、腰の下から力なく外に垂れていた。

 手入れはしているのだろうが艶やかさはなく、毛並みも堅そうだ。

 ちなみに市民はもとより、神官や執政官たちにも当然ケモノミミとシッポがついている。おっさんおばさん関係なくだ。

 なんというか、やっぱシュールだ。

 (やっぱこういう萌えアイテムは女の子に限るべきだよなぁ……)

 「聖・ネロウ王国第六王女、リーファルミア・ネロウ・アーデルローテ様、御登壇でございます!」

 なんてことを考えていると、その女の子が現れた。

 ひときわ大きな拍手と喝采が上がる。

 国王の後ろから、やや近況した面持ちながらも笑顔で手を振るリーファルミア。

 二人はひとしきり壇上で手を振りながら周囲を見回し、着席する。

 時刻は<アルヴァリオン>の内蔵時計で午前十時初ちょうど。

 初夏の風が吹き抜けるそこで、リーファルミアを主役とする式典が始まった。

 壇上には国王を中心とし、左に執政官や議員たちがずらりと並ぶ。

 リーファルミアは例の真っ白な式典用パイロットスーツ姿で、国王の右隣に座っていた。

 彼女の右に座っているのが第一王子や第一王女といった、リーファルミアの兄姉たちだろう。

 彼らはリーファルミアより格上だが、今回の主役じゃないからな。先に登壇し着席していたんだ。

 んで、王族たちの後ろに用意された、巨大なやぐら。

 矢張り真紅の垂れ幕で四方を覆われたその中に、俺こと<アルヴァリオン>は立像の如く立っている。

 幕で外が見えずとも、市民たちの熱気は容易に伝わってくる。

 (な、なんか俺まで緊張してきた……)

 そもそも――<E・A>のAIと契約し機体を得る時にこれほどの式典を行うのは王族のみだ。

 市民からパイロットになったものはそれぞれの家ごとでささやかな祝いを開く程度だし、貴族であっても自分たちの城の中でパーティーをする程度。

 そんな中で市民・貴族の隔てなく人を集めてまで式典を催すあたりは、流石王家と言わざるをえない。

 さっきリーファルミアが来たときは偉そうに励ましてやったが、実際にこんな舞台に立つと自分がものすごく場違いなところにいる気がして仕方ない。

 なにせこの間までただの一高校生だったんだ。多少なりとも場馴れしているリーファルミアとは比べ物にならん。

 (うーむ。トイレ行きたい、とかならんのはいいが……)

 幸い――と言っていいのか、俺には生身の肉体が無いのでそういう生理現象は発生しない。

 壇上では次に、来賓あいさつが行われていた。

 契約の成立は大変喜ばしく――とか、このよき日を皆と共に祝えることが――とか、ぶっちゃけ元いた世界の議員のあいさつと大して変わらん内容だ。

 (いかん、眠くなる)

 転生してもこれは学生のサガだな。こういうお偉いさんの話を立ったまま聞いているとどうにも眠気が来る。

 一瞬まぶたを閉じかけ、慌てて思い直す。

 (いやいや、何やってる俺。王様の前で寝るとか流石にやめろよ)

 まあAI(俺)が寝ていても外見(ロボ)的には何も変わらんのだが。

 リーファルミアに呼ばれた時に無視してたん(反応ないん)じゃいろいろやばい。

 来賓と国王のあいさつだけで四十分くらいが経過し、俺も最初の緊張がほぐれて暇を持て余し出したころ、ようやく壇上に動きが出る。

 「聖・ネロウ王国第六王女、リーファルミア・ネロウ・アーデルローテ様のお言葉!」

 「はい」

 聞きなれた足音が響き、こつりと止まる。

 リーファルミアだ。どうやら演台の前に立ったらしい。

 パイロットの生体情報をベースに位置を割り出し、音響センサーをそこに集中させる。

 すぅっ……と小さく息を吸う音。

 身体情報は軽度の緊張を示しているが、大きな呼吸や脈拍の乱れはない。さすが、お姫様というだけあるな。

 「敬愛する父上、エスペディート陛下、お兄さま、お姉さま。執政院の方々。本日は私(わたくし)、リーファルミア・ネロウ・アーデルローテの為にこのような場を設けていただき、心から感謝をいたします」

 垂れ幕の向こうでリーファルミアのあいさつが始まった。滑るように流れる言葉はゆったりとして優しげ。

 声の感じからすると彼女は柔らかな笑みを浮かべて、この広場にいる全員に語りかけている。

 「そして本日お集まりの、親愛なる国民の皆様。日々の貴重なお時間を私の為にお使いいただき、感謝いたします」

 場は静まり返り、涼しげな風の音と小鳥の声が聞こえてくる。遠くからは屋台の準備の音だろう、人のざわめきや食器の音、肉や魚を調理する香りが漂ってくる。

 センサーに感じるこいつは――炭火の匂いだな。それだけでも祭りの空気を感じさせるぜ。

 その様々な音や香りの中で、朗々と、リーファルミアは自らの覚悟を謳いあげてゆく。

 まずは初戦となった先日の戦いで敵国を撃退し皆を守れたことへの喜びと、亡くなった兵への哀悼。

 次に王家のみならず国として長年の悲願だった“救世機”との契約を果たせたことの報告。

 そして、圧倒的な力を得た自分が何をしたいのか。

 それらをゆっくりと、内に秘めた熱さが伝わるように語りかける。

 市民たちは一様に彼女を見つめ、その言葉に耳を傾けている。

 彼らの眼にはリーファルミアへの信頼が浮かんでいるが、同時に彼女を本当に信用していいのかという、人を見定める意思を持っている。

 それは失礼か?

 いや、俺はそうは思わねぇ。<勇者皇帝(ブレイヴカイザー)>シリーズの中で、主人公が時の首相に言った言葉がある。

 市民は黙って政治を受け入れていればいいといった彼に対しての反論はこうだった。

 『――市民が自ら考えない政治や国など、烏合の衆でしかない――』

 ああ、全くその通りだと思う。

 自分たちの命を預けている政治について、それを見定めることができなきゃ未来は先細る。

 だがこの聖・ネロウの人々は戦時下という特殊な状況の中、王や執政院を無条件に信じることなく、自ら考える力を持っていると見たぜ。

 (――いい国なのよ)

 リーファルミアがそういっていたことを思い出す。

 あいつは雰囲気だけでなく、そういう国民たちがいることも含めて、いい国と言ったに違いない。

 コクピットの中で腕を組み、目を閉じて演説を聞く俺はそんなことを考えていた。

 「――という覚悟を持って、私は皆様を守り、皆様と共に戦う所存です。私の戦いを、どうか見守っていてください」

 リーファルミアが一歩下がって頭を下げ、挨拶を終えた。

 同時に静まり返っていた広場に拍手と歓声が響き渡る。

 いきなりの大音量に驚いた鳥たちが街路樹から飛び立ってゆく。図らずも鳥たちはリーファルミアの背後を舞い、祝福しているかのように空高く飛んで行った。

 ふ、偶然だろうが、なかなか粋な演出だぜ。

 「それでは最後に、妃殿下専属の機体となった“救世機”の除幕を行う!」

 わあああっ!とひときわ大きな歓声。

 『い、いよいよか……』

 今まで視線を集めていたのはリーファルミアだったが、この後それは俺に向く。すでにないはずの心臓がドキドキと暴れまわるような気がする。

 『ぉぉぉやべぇ。めっちゃ緊張してきた……!』

 壇上では国王が立ち上がって脇にずれ、リーファルミアがやぐらの左に立つ。

 俺はコクピットの中でそわそわと動き回った。

 「――古より伝わる救世の機体。リーファルミア妃殿下と共に、その力を国の為、民の為に振るい、我らを助けたまえ。偉大なる創造神の名のもとに、汝に名を与えん!」

 するりと幕が落ち始める。

 神官は息を吸い直し、両手を広げた。

 「その名は、<アルヴァリオン>!!」

 ザァァァァァ……ッ。

 幕が落ちきり、真紅の巨体が衆目に晒される。磨き抜かれた機体はまぶしく陽光を弾き、描かれた紋章がそこに居る全ての人間の視線を集める。

 <アルヴァリオン>は圧倒的な存在感を持ってそこにあった。

 「「「……………………」」」

 広場は一瞬静まり返り――。

 俺は一瞬、音響兵器でも炸裂したのかと思った。装甲をビリビリと震わせる大音声が、俺に襲いかかってきたからだ。

 『ぬぉぉっ!?』

 コクピットの中で、俺は慌てて音響センサーを調整した。リキュエル博士に言われて、機体と俺の間にある動作リンクを切っておいてよかった。でなければ<アルヴァリオン>はお披露目と同時に歯を食いしばり耳をふさいでいただろう。

 壇上を見下ろせば、リーファルミアが苦笑して俺を見上げている。たぶんあいつは、俺がものすごく驚いていることに気付いているんだろう。

 予想通りの歓声の嵐に、リーファルミアはもとより国王まで笑みを漏らしている。

 「それでは市民諸君、解散し自由に見学と宴を楽しんで――ッ」

 やはり苦笑しながら解散を促す神官の言葉が、急に途切れた。耳元に手をやり、どこかからの通信を聞いているらしい。他の執政官たちも、各所に配置されている護衛官たちも、一様に耳元に手をやっている。

 市民たちが何事かと見つめる先で、神官たちの顔はみるみる青ざめて行った。

 壇上に男が一人、上がってくる。あれは……カーリック大佐か?

 式典服を纏ったカーリックがゆっくりと、しかし心持ち慌てた様子で姿を現した。

 国王と神官、そしてリーファルミアの前で敬礼し、何事かを伝える。国王の顔色は変わらなかったが、リーファルミアはみるみる表情を曇らせた。

 同時に――軍本部からだろう、不吉なサイレンが鳴り響く。

 『これは……』

 「クロガネ!」

 名を呼ばれて見下ろすと、リーファルミアが俺を手招きしていた。

 ぎょいーん。

 やぐらを壊さないように注意して身をかがめ、片膝を立てて彼女に近寄る。

 『何があった?』

 ハッチを開き、映像化して聞くと、彼女はこわばった表情で一言だけ返した。

 「あいつが――アクザールが来たわ」




*  *  *

 

 アトランディア帝国所属の大陸上戦艦“ヴルドガーズ”は、聖・ネロウ情報部の予想を大きく裏切り、わずか一週間ほどの間をおいて再びその直近に姿を現していた。

 ブリッジではアンドロイド兵たちがせわしなく通信しあい、着々と戦闘準備を進めている。

 なにもかもこれまでと――そして先日と同様。

 だが、その中で一つだけ違っていることがある。この艦の主、アクザールその人だ。

 これまでであれば軍服を纏い退屈そうに艦長席に腰かけているだけだった彼は今、生き生きとして立っている。

 来ているのも軍服ではない。アンドロイド兵たちにとって――そういう感情はないが――見慣れぬ格好である彼の服は、体にフィットした軟質素材のスーツである。要所要所に装甲を配し、急所を防護している。二の腕・背中・胴体・ふくらはぎの各所にボルトの差込口のようなパーツがある。

 後頭部を覆う装甲からは一本のワイヤーが伸びていた。

 「悪くないんだけどさ。ちょっと地味だよこれ」

 「申し訳ありません。なにしろ突貫で用意したものですので――」

 “ヴルドガーズ”のブリッジで、普段ともう一つ異なっている事。それはアクザールの他にもう一名、“ニンゲン”が乗り込んでいる事である。

 こちらは帝国の軍服に身を包んだ、肩幅の広い男。アクザールの副官であるヴァルター・ブリストスだ。

 「黒は好きだからいいけど。次までに装飾がもっとほしいな」

 アクザールはスーツを引っ張って見せながらぼやいた。

 「アハトバーム博士にはそのように伝えておきましょう」

 『――目標地点まで、残り十分。<SOCom>各機の出撃準備は完了』

 アンドロイド兵が報告する。

 艦の運用セオリーでは、艦砲射撃ののち艦載機を発艦させて制圧――の流れになるのだが。

 「了解した。待機させろ」

 『――アイ・サー』

 主と視線を合わせたヴァルターが、<SOCom>部隊に待機を命じた。同時に“ヴルドガーズ”も停止させる。ここは“ヴルドガーズ”の主砲射程ギリギリの位置だ。

 なにしろまたぞろ爆弾を仕掛けられてはたまらない。

 その忌々しい爆弾御解除には、アトランディアの技術を以ってしても三日間もの時間がかかったのだ。

 アクザールは同じ愚を犯すつもりはなかった。

 「じゃ、僕は行くよ。ヴァルター、後を頼む」

 「心得ました、殿下。……あの機体は試作機です。決してご無理をなされませんよう」

 「アハトバームもそう言ってたね。分かってるよヴァルター」

 出立前に、前線基地で念を押されていたことを思い返す。

 「では、ご武運を」

 「うん」

 敬礼をしてくるヴァルターにぞんざいに手を振り返し、アクザールはブリッジを出ていく。行先は艦の格納庫だ。そこに彼を待っているモノがある。

 エレベータと階段で移動しいくつかの隔壁を抜けると、巨大な人型兵器がずらりと並んだ場所に出る。

 戦闘待機中に格納庫(ここ)に来ることはめったにない。来るとすれば挙動のおかしなアンドロイドを叩き直す必要がるときくらいだ。

 歩を進め、低い唸りを上げる待機中の<SOCom>の間を抜け最奥部にたどり着く。

 文字通り人形のように立つアンドロイドからタブレットを受け取り、機体の状態をチェック。

 ――異常なし―

 簡易エレベータに乗り、機体の胸部まで行くと、アクザールは惑うことなくその中に潜り込んだ。

 後頭部から延びるケーブルをシートに接続すると、彼の脳内にいくつかのスクリーンが映し出される。

 ステータスバーが伸び――表示が百パーセントに。これでこの機体とアクザールの間にリンクが確立した。

 漆黒の機体の表面に紫色のラインが走り、頭部のツインアイが鋭く発光する。

 まさに機体と一体化した状態のアクザールの耳に、ヴァルターからの通信が入った。

 『――殿下。準備はよろしいですかな?』

 「いつでもいいよ、ヴァルター」

 『――了解しました。では、ハッチを開きます』

 「ああ。ここの<SOCom>どもは任せたからね」

 『――はい。お任せを』

  今回、必要に応じて艦載機を操るのはヴァルターの役目だ。<SOCom>のシステムはすでに彼のブレインチップとの同期を果たしている。

 アクザールはシートの上で体を動かし、すわり心地を調整する。

 ――さて、行こうか。雌犬とお仲間を調教しに、ね!――

 前かがみの姿勢でレバーを握り、アクザールは通信機に叫んだ。

 「アクザール・アローガンス・アトランディア、<アンブロシウス>、出るぞ!」




*  *  *

 

 「市民の避難を最優先させろ!」

 「出せる<E・A>は全て展開!指揮はカーリック大佐に!」

 「バカ野郎!誰がライフルを持ってこいといった!?オレが頼んだのはランチャーだ!」

 リーファルミアを収容した<アルヴァリオン>のコクピットには、リンクした全ての機体の通信がなだれ込んできた。

 そのあまりの多さと乱雑さにリーファルミアが顔をしかめている。

 「クロガネ、部隊間通信だけに絞ってくれる?カーリック大佐のよ」

 『あいよ』

 チャンネルを規制し、入ってくる通信量を減らす。

 『さて、状況は、と』

 教えてもらったコードを使い、軍のメイン・コンピュータにアクセスし、戦況情報を取得する。

 うん?こりゃ変だな。変つーか、普通ありえねぇ。

 「どう?」

 『――妙だ。敵の反応が少ない――っつーか一機しかいねぇ』

 「え?」

 二人で首をひねる。

 例の陸上戦艦はもちろん、前回大量に湧いて出てきた<SOCom>共が、今回に限ってほとんど展開していない。全て戦艦の周囲に固まっている。

 進軍してきているのはたったの一機、だが。

 『だがこの一機、速度が異常に早い。少なくともこの間の<SOCom>の三倍。アクザールの奴が新型だとか言ってたのより、さらに速いな』

 通常の三倍。お前は赤いナントカか。

 「また新型?」

 パイロットスーツとはいえ、式典用。

 リーファルミアが、座りが悪そうにお尻をもじもじ動かしている。

 「クロガネ、小物入れみたいなのない?この銃が引っかかっちゃって」

 腰に下げた銃を、ホルスターごと外したリーファルミアが周囲を見回す。

 『あるぜ。シート右横の――そう、そのフタだ』

 指を伸ばしたリーファルミアが俺の示したフタをあけ、中に銃を放り込む。ついでに彼女は耳から下げていたリボンも、丁寧に畳んでしまい込んだ。

 「ありがと。これでだいぶ動きやすくなったわ」

 『ん』

 映像化したままの俺はリーファルミアと共に正面を睨み、戦術を考える。

 さて、どうしたものか……。

 『――姫様、聞こえますかな?』

 「カーリック大佐!」

 モニターにケモミミのおっさんが映った。

 「今回私はこの司令部で指揮を執ることになりました。ヴィスコット少佐を直衛に回してありますので、ひとまず合流を。ポイントは――そう、こちらで」

 戦術マップに光点が追加される。そこは都市外壁から少し距離のある広場だった。

 「クロガネ」

 『おう』

 リーファルミアが俺を見て頷き、意図を察した俺は<アルヴァリオン>を歩かせ、指定されたポイントに向かう。

 足元ではすでに規制線が張られ、市民は軍隊によって誘導され避難を始めている。

 慣れているのか、パニックも暴動もなく、皆おとなしく従っている。

 「カーリック大佐、リーファルミアです。現在指定座標へ移動中。……でも私が前に出たほうがいいのでは?」

 何せ王国最強の機体に乗っているのだ。相手がせっかく一機で来てくれているんだ。なら守るより攻めたほうがいいに決まってる。

 そう考えたんだろう。俺もそう思う。

 しかしカーリック大佐は首を振る。

 『――敵の狙いが読めません。単機で戦いを挑んでくるなど、アクザールの戦術とはかけ離れすぎている。彼奴はこういった無謀なことはしませんからな』

 敵とはいえ、カーリック大佐って人はアクザールの手腕を評価していると聞いた。

 幾度も戦いを重ねた相手だ。その戦術はマニュアルが作れるほどに調べつくしているんだろう。

 その経験から言えば――単機吶喊など、あの男がするはずはない。故に、何らかの策を練っているはず。

 カーリック大佐はそう考えているらしい。

 が。

 『なーに。大方こないだの戦いでぶっ壊してやった<SOCom>の補充が間に合ってないんだろ。戦艦周囲の機体も、前回の半分くらいだしな』

 俺は至って気楽に考えていた。なにしろ前回、あれだけの部隊を実質<アルヴァリオン>のみで撃退しているのだ。

 奴らの武器はこちらに効かないが、こっちの武器は大ダメージを与えられる。

 おまけに数も少ないとなればこれはもう、勝負は決まってるようなもんだ。

 「甘く見てるわねクロガネ。でも、私はカーリック大佐の意見に賛成よ。あいつは何の考えもなしに来ることなんてありえないんだから」

 『そんなもんかね。っと、指定ポイントに到着だ』

 さっさと暴れたくてうずうずしている俺は話半分だ。

 (後方レーダーに反応。IFF・友軍機。識別コード<ズィーガー>。搭乗者:ヴィスコット・フォン・サトー少佐)

 『ん……』

 振り返ると、背後のビルの陰から四足歩行型<E・A>、<ズィーガー>がのしのしと現れた。

 『――姫様、遅くなりました』

 「ヴィスコット少佐」

 歩を進める<ズィーガー>は俺達と並び、“お座り”の状態で待機姿勢を取る。

 ……うわー、すんごい犬っぽい。つか、なんかかわいい。

 『――ヴィスコット少佐と合流したようですな。こちらはまず、他の部隊を動かし、包囲・殲滅を試みます。姫様は現ポイントで待機を。ヴィスコット少佐、頼んだぞ』

 『――はい、大佐殿』

 いったん通信が切れる。

 リーファルミアは腕を組んで状況を見守っている。

 俺は――。

 『ともかく、機体のアップデートを随時せにゃならんな。くそ、あと少しだってのに……』

 「今どのくらいまで進んでるの?」

 『七十八パーセント、ってところだな』

 ピッ、と、リーファルミアの前にステータスバーがポップアップ。これが、昨日までの機動データを基にした、プログラム最適化の進行状態である。

 これが百パーセントになった時、<アルヴァリオン>は完全にリーファルミアの動きとシンクロする。

 「完了までの時間は?」

 首筋のロックを外し、さらに動きやすくスーツを調整しながらリーファルミアが聞いてきた。

 『ざっと二……いや、一時間か』

 「……まだそんなにかかるのね」

 『戦闘機動がなければ、の話だがな……」

 正直今回の作戦では前に出さないでもらえるとありがたいんだが、アクザールの野郎が来てるんならそうもいっていられんだろう。

 戦術マップを見ると、展開を終えた友軍<E・A>部隊が単機で吶喊してくる謎の<SOCom>に攻撃を開始した所だった。

 『なんとかなる、だろ。向こうは一機だし』

 「だといいけど……」

 攻撃部隊の後方に控えたモニタリング用<E・A>から、戦場の映像がリアルタイムで届く。

 「市民の様子はどう?」

 『大丈夫だ。あらかた避難し終ってる。――っていうか、なあおい。お前さっきからなにをもぞもぞしてるんだ?』

 美しい毛並みのシッポを前に持ってきて、リーファルミアは外骨格の中でごそごそ動いている。

 「だ、だって……。せっかくミリが毛並みを整えてくれたのに……」

 『だぁぁ……』

 ずいぶん余裕あるな。戦いの真っ最中だってのに、シッポの毛並み気にしてたのかお前は。

 元々彼女達亜人種用に作られた<E・A>のシートにはシッポ置場ともいえるくぼみがあるが、外骨格操縦式の、しかも普通の(・・・)人間ように作られた<アルヴァリオン>にそんなものはない。

 幸い外骨格の形状は尻尾を挟んだりするようなことはないだろうが――。

 「あーあ……」

 自分のお尻と金属の棒の間でつぶされている尻尾を見て、リーファルミアがしょぼくれる。

 だがそれを慰めてやる暇はなかった。

 『む!?』

 いきなり、俺の耳に緊急回線が入ってくる。リーファルミアに提供していない――つまり聞こえるようにしていない回線からだ。

 「どうしたの?」

 『緊急回線だ!』

 急いでそいつをオンライン化させ、コクピットに音声を流す。

 途端に。

 『――うわぁぁぁぁっっ!!』

 『――ぎゃあああああぁっ!』

 大量の悲鳴が俺たちの耳を打った。

 「な、何事!?」

 リーファルミアが、きょときょととあたりを見回す。

 『映像、映像を見ろ!』

 リアルタイム映像のモニターを拡大する。

 そこには――。

 「な、なによ、これ……?」

 すでにスクラップにされた<E・A>達が、見るも無残な姿で転がっていた。頭部が引きちぎられ、腕がねじ切られ、胴体に大穴があいている。

 『こいつ、は……!』

 映像が必死に敵の姿を追いかけるが、相手が早すぎて黒い影としか映らない。

 「!」

 『!!』

 そして、出撃した三十機の<E・A>を瞬く間に破壊した謎の敵は、最後にモニタリング<E・A>を破壊した。

 映像が途切れる直前、紫色の鋭いツインアイが画面に広がり――。

 『やられた、か……!』

 「な、なんなのよ今の!?」

 部隊間通信も、全体通信も静まり返っていた。誰もが、事の異常さに思考がおいつていない。

 『――……く、くくく……』

 「?」

 その静まり返った回線に何者かの声。

 『――……くくく。っくっくっく、くはぁ~っはっはっはぁ!!』

 高らかに響く狂気を孕んだかのごとき笑い声は、誰のものかなんて考える必要もねぇ。

 「アクザール……」

 リーファルミアが呪詛のごとき声を漏らす。

 『――殿下を付けろよ、愛玩動物。なあなあなあ、もう終わりなのか?』

 『――申し訳ありません。回線を一部、乗っ取られたようですな。幸い映像はありませんが』

 苦りきった顔のカーリックがモニターに現れた。

 『――こないだの借りを返しに来たんだ。まだまだ、こんなもんじゃ返しきれないんだよ、お前らの作った貸しはさぁ!』

 耳に響く不快な叫び声。

 『――……だから、出てこいよ愛玩動物。それと――<アルヴァリオン>』

 『っ!』」

 俺とリーファルミアが同時に反応する。

 『まさか、あいつの目的は』

 「私達だって言うの……?」

 一瞬顔を見合わせ、“SOUND_ONLY”のモニターを睨みつけた。その向こうにヤツがいる。

 『――どういうことですかな、アクザール。我が国に戦いを挑んできたのではないのですかな?』

 部隊の再展開までの時間を稼ぐつもりか、カーリックが会話を試みる。

 『――んー、それももちろんあるさ。でもそっちの方はおまけだね。この機体の力は見ただろう?もうお前ら<E・A>じゃ歯は立たない。つまり、抵抗なんぞないも同然なのさ』

 ぎりっ!とリーファルミアが歯を食いしばる。倒れた同胞の事を想っているのだろう。

 『――だから、今僕の最大の目的は、最大の脅威にしてこのあいだ僕をコケにしまくってくれたお前らをぶっ壊しぶっ殺す事さ』

 だ~か~ら~。

 まったくもって不愉快な声で、アクザールはもう一度俺達を名指す。

 『――さっさと出てきなよ<アルヴァリオン>。それとパイロットの愛玩動物』

 繰り返されるその単語に。

 ぶちっ。

 リーファルミアより、カーリックより、通信を聞いている兵達より先に、俺が切れた。

 『だぁぁぁ、うっせぇ!テメェさっきから愛玩動物愛玩動物って!リーファルミアを動物扱いすんじゃねぇぞこのヤロウ!』

 「え、ちょ、クロガネ?」

 昨日まで俺とリーファルミアの関係は手探り状態だった。お互いに考えていることが分からずイライラしていた。喧嘩状態と言ってもいいくらいだ。和解したのもついさっきだ。

 しかし、しかしだ。

 だからといってアクザールごときに侮辱されて黙っていられるほど、俺はこいつを嫌っちゃあいねぇんだ。

 『こいつは俺の相棒で、俺が守ると誓った大事な女の子だ!テメエごときが動物呼ばわりしていい奴じゃあねーんだよ!わかったかバーローッ!』

 ぼんっ。

 リーファルミアの頬が真っ赤に染まった。

 『『――……』』

 一瞬、アクザールが言葉をなくし、その開いた隙間にひゅーひゅーと間の抜けた口笛の音がする。たぶん聖・ネロウの兵士たちだろう。

 あ、そういえばこれ、緊急回線繋いだから全体通信とおんなじなんだっけ。つまり、俺の宣言はまた、全ての軍用端末から流れ出たに違いない。

 静まり返る通信機。

 最初の時もそうだったが、全体通信やマイクのオン・オフはちゃんと確認しよう。俺との約束だ。

 ……俺のバカ!

 『……あー、なんだ、その。ごほん』

 咳払いで誤魔化すが、ものすごく気まずい。

 「……」

 振り返ると、頬を染めたリーファルミアがうつむいてもじもじと指を突き合わせていた。

 だ、だいじな……とかなんとか、ぼそぼそと呟いている。

 『――クロガネ殿。とりあえず姫様のことで怒って頂いたこと、感謝します』

 こめかみを押さえたカーリックが、ため息と共に会話を再開してくれた。

 『――前半はともかく……後半はなかなか心地のいい啖呵でしたな』

 『お、おう。ありがとよ?』

 ふと見ると、モニターの中でヴィスコットが横を向き、口元を押さえて肩を震わせている。

 ぶんっ。

 ぽりぽりと頬をかく俺の頭を、復活したリーファルミアがドついた。

 ザザ、と映像が乱れる。

 「あ、あ、あんたねぇ……!こんな大勢の前でそんな、恥ずかしいこと大声で言わないでくれるっ!?」

 がうっと犬歯を剥いたケモミミ少女に真っ赤な顔で猛抗議される。

 普通の少年だったら真っ赤になってごめん、とかいうところだろうが、あいにく俺は自称主人公。この程度で萎縮したりはしないのだ!

 『いや、すまん。だが事実だぜ?』

 だから悪びれもせずに言ってやったら、

 「まだ言うかこのっ!このっ!」

 また殴られた。

 リーファルミアは外骨格から引っこ抜いた腕で俺を叩こうとするが、映像は乱れるだけ。ダメージはない。

 いい加減覚えろってば。

 『――……やる気なくすわー』

 ガン、と鋭く金属を打つその音に、漫才を繰り広げていた俺達と、その様子に耳をそばだてていた兵士たちが飛び上がった。

 『――僕はそんなクソみたいな漫才聞きに来たんじゃないって、何度言えばわかるんだ?いいからさっさと来い。でないと――』

 突如襲う大きな揺れ。

 『うぉぉっ!?』

 「きゃあっ!?」

 慌てて<アルヴァリオン>のバランサーに介入して踏みとどまる。

 「何事なの!?」

 『外壁に着弾した!かなり強力な砲撃だ』

 <アルヴァリオン>のセンサーは、ヤツの放った攻撃で強固な外壁が破壊されかかったことを示している。

 友軍が皆動けなくなる中、アクザールの声が静かに流れた。

 『――このまま蹂躙されたくなかったら、こい』

 『――ちぃっ……』

 リーファルミアを見つめる。

 彼女もまた、俺を見ていた。

 『――姫様。挑発に乗ってはなりませんぞ。私達は軍人であり、犠牲は覚悟の上です。あなたがおひとりで戦場に赴くことはないのですよ』

 俺たちの間の空気を察したか。

 ヴィスコットが幾分慌てた声でたしなめた。

 『――ヴィスコット少佐の言うとおりです。彼奴の戦力はこれまでとは違う。決して侮れません。部隊の再編が済み次第、彼奴には全力で攻撃を――』

 「ううん。行くわ」

 『――っ!』

 リーファルミアは顔を上げ、モニターに映る二人を見返している。

 『さっきの私の演説。私の戦う理由。二人とも聞いたでしょう?』

 圧倒的な力を手にした自分は、国と民の為のみならず、戦争を終わらせるために行動する。

 彼女はそう言っていた。

 「でも戦争を終わらせるには、まずアイツを倒さなきゃ。何度も聖・ネロウに苦杯をなめさせてきたアイツと決着をつける。まずは、そこからなの」

 『――ですがっ』

 「お願い、カーリック大佐。私に一歩を踏みださせて。せっかくアイツが決着を付けたがってるなら、私は応える」

 それに――。

 俺を見つめて、リーファルミアが微笑んだ。しばらくぶりに見た気がする、柔らかな笑みだ。

 「クロガネもいるし、ね」

 『……ふ』

 俺は黙って口元を釣り上げた。

 そうだ。お前には俺がいる。宣言通り、俺がお前を守りお前の手足となって戦う。

 だから、さあ、行こうぜ。

 『俺からも頼むぜ、カーリックのおっさんよ。あんにゃろうは俺達を指名してきてるんだ。ここで逃げたら、<アルヴァリオン>の名が泣くぜ』

 (壁外より再攻撃。危険)

 俺とリンクしているセンサーが危険を伝えてきた。

 『!?――リーファルミア、踏ん張れ!』

 「くっ……!?」

 着弾し、爆炎と轟音があがる。

 アクザールからの、二度目の砲撃だ。

 『――あと十秒以内に来い。来なかったら侵攻を開始する』

 「カーリック大佐!」

 ケモノミミのおっさんはしばらく黙考し――。

 『分かりました』

 首を縦に振った。

 『――大佐殿!?』

 驚くヴィスコットを、カーリックが制止する。

 『――少佐。クロガネ殿の言うとおりだ。我々の任務は国と王族を守ることだが、彼奴は我が国の王族を戦いの相手として指名してきている。敵とはいえ彼奴もまた王族。であれば、ここで姫様が戦わなければ礼を失したことにもなり、アーデルローテ王家の名と聖・ネロウの名に傷がつく。そうですな、姫様』

 どこか、自らを納得させているような言い方だ。

 だがそのとおりだぜ、おっさん。

 こくり、とリーファルミアも頷く。金色の瞳は強い意志の光を放っていた。

 「だから、私は行くの」

 『俺もだ』

 まあ正直なところ、俺は王家の威信とかよりアクザールのことがムカついてしょうがないだけだ。野郎、思い切りぶん殴ってやるぜ。

 『時間がない。ヴィスコット少佐。貴様は負傷兵の救援に回れ。いいな』

 『――……わかりました。ご命令とあらば。姫様、御武運を』

 「ありがとう」

 リーファルミアはふっと微笑み、

 (<BRAVE>粒子、活性化(アクティベート))

 「じゃ、行くわよっ!」

 足に力をため――

 (稼働再開(イグニッション))

 <アルヴァリオン>は思い切り地を蹴り、空に舞った。

 城壁の手前で一度着地。もう一度力をため、

 吹き出す<BRAVE>粒子の煌めきと共に城壁を飛び越え、外へ躍り出る。

 眼下にはアクザールの駆る漆黒の機体。その足もとに転がる<E・A>が見えた!

 『生体反応がある。あの機体のパイロット、まだ生きてるぞ!』

 「もちろん助けるわ!てぇぇぇぇいっ!!」

 拳を握りしめ、リーファルミアの雄叫びと共に<アルヴァリオン>が地面に突っ込む。

 擱座した<E・A>を守るように立ち上がる<アルヴァリオン>。その姿は初陣を彷彿とさせる。

 ふ、やっぱスパロボってかっこいいぜ。

 『――きたね……』

 その俺達の正面で、漆黒の機体が槍を構えている。

 そいつを見た瞬間、俺達の中に戦慄が走りぬけた。

 『こ、こいつは!?』

 「なんてこと……」

 黒い機体が無言で槍を振りかざす。

 毒々しい紫の光に彩られた、悪魔的な外見の機体はまるで――。

 「く、黒い……」

 『<アルヴァリオン>……』


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