第十話:この世界にもあるんだな
第十話:この世界にもあるんだな
「我が聖・ネロウの宿敵を打ち倒し、我らをお守りくださったリーファルミア妃殿下にぃ――敬礼ッ!!」
ザッ!
戦いを終え、王宮へと帰還した俺達を待っていたのは、カーリック・キースベルト大佐率いる聖・ネロウ王国軍の、ほぼすべての兵達と市民達だった。
格納庫じゃなく王宮にいくつかある広場の一角に案内された俺達は、そこで彼らからの熱烈な歓迎を受けたのだ。
お祭り騒ぎの途中でアークザールの奴が来たからな。街中を見れば屋台も何もそのまま残ってる。っていうか商売が始まってる。
たくましいなぁ。
「リーファルミア様ー!」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
「我らが妃殿下に栄光あれー!」
「あ、ありがとうございまーす……?」
さしものリーファルミアもその熱気にちょっと引き気味になってやがるな。
片膝をついた<アルヴァリオン>から乗降用ロープを使って降りながら、ひきつった笑みで手を振り返していた。
地上に降りた彼女はすぐに軍関係者や侍女たちに囲まれ、姿が見えなくなってしまう。
ただ、彼女を取り囲んだ集団が王宮の方へ向かっているのだけは分かった。
「へっ……。よかったな、リーファルミア」
首を回してリーファルミアの後を目で追いながら、呟く。
あいつの夢を、未来を、現在を。
どうやら俺は守れたらしい。
「お疲れさん、クロガネ」
『うん?』
足元から声が聞こえたので視線を戻すと、そこにはいつも通り白衣を着崩し眠そうな顔をしたリキュエル博士が立っていた。
あぁでも、そこはかとなく笑顔に見えるな。
「一時はどうなるかと思ったけどね。よくやってくれたよ」
『……ああ。俺もどうなるかと思ったけどな。何とか勝てたぜ』
俺の言葉を聞いたリキュエル博士が意外だ、という顔をする。
『ふーん?アンタなら、“俺にかかればこのくらい、なんともないぜー”くらい言うと思ったのに。意外に殊勝だね』
「確かにそう言いたい気はあるけどな。俺だけの力で勝ったわけじゃねーし。リーファルミアやヴィスコットのおっさん、友軍のみんなと、それから――」
あの、謎の光。
あの光のおかげで俺達――いや、俺は窮地を脱したのだ。
演算強化によるプログラムの驚異的な速度での書き換えに、必殺技である<ファイナル・ブレイヴ・ソード>の規制解除。
これが無ければ俺達は負けていたかもしれないのだ。
「それから――なんだい」
黙ってしまった俺を不思議そうに眺める。
『……いや、なんでもねぇ』
「――そうかい。ところで……ずいぶん手ひどくやられたもんだね。あちこち傷だらけじゃないか」
『まーな』
コクピットから外が見えるほどの裂け目をはじめ、<アルヴァリオン>は大小さまざまな傷を負っている。
「こりゃ直すの大変そうだね」
『え、直せるのか?!』
自分でいうのもなんだが、あんたらにとって<アルヴァリオン>は何から何まで規格外だろうに。
だがリキュエル博士は自信ありげに笑って見せる。
「このアタシを誰だと思ってるんだい。解析さえできればなんとかしてやるさ」
『そいつぁ頼もしいぜ』
傷だらけのスーパーロボットってのもカッコイイが、やはり出撃の時はピカピカの新品でないとな。
そうだ、とりあえず外部カメラで写真撮れるようにプログラム書き換えねぇと。
戦いが終わった後のあちこち壊れた姿も収めておきてぇし。
(これをこうしてこうして、っと)
今の俺ならチョチョイのチョイだな。
機能の追加が終わった外部カメラで、ガイナ立ちとカトキ立ち、それにバリ立ちのポーズで写真を撮っておく。
「なにやってんだい」
『俺の雄姿を写真に撮ってんだよ』
「あ、そう……」
一通りいろんなアングルで写真を撮ってから、片膝をついてしゃがみ込む。
「その写真どうすんだい?」
『無論永久保存だ。いずれ写真集めて設定資料集とか作りてぇ」
「……アンタって奴は本当にロボバカだね」
『ふ。そいつぁ最高の褒め言葉だぜ』
できればスパロボバカと言って欲しいところだがな。
ところでさっきから気になってんだが――。
『おいリコ。お前は何をしてるんだ?』
「びくっ」
開いたままのコクピットハッチから潜り込もうとしていたゴスロリ服が、わざわざ声に出して驚いた。
「……なんでリコがいるってわかったですか。はっ!まさかストーキング……!?」
『するかバカ』
普通分かるわ。
「ば、バカ!?」
『違うのか?』
「違うですぅ!バカはお前ですぅ!!」
コクピット内に姿を見せた俺を引っ掴もうとするが、悲しいかな、俺には実体が以下略。
『つーかな、リキュエル博士のいるところリコあり、って言ったのはお前だろうが。それにその服。一度覚えりゃ見つけるのは訳ない』
そもそも<アルヴァリオン>のコクピット周辺は俺の認識範囲内だ。逆になぜ分からないと思った?
「お前、ゴスロリ萌えだったです?」
『ちゃうわ!』
だからさ……、帰ってきたばかりでこのツッコミ役は疲れるんだっつーの。つーかお前、萌えって分かるのかよ。
待て、そのまえにこの世界にもその概念あるのか!?
ため息を吐く俺を無視してリコはもぞもぞとコクピットに潜り込み――。
「クロガネ」
小さな声でつぶやいた。
『なんだよ』
「ありがとう、です」
『――っ』
膝を抱えて縮こまったリコの瞳から、涙が一滴落ちているのが見えた。
『お、おい……』
思わずリコの小さな肩に近寄る。
「お前が落ちた時、リコは本当に心配で仕方なかったですぅ。このままじゃリーファルミア様が、って」
……俺の心配はよ。
不満げな顔をして見せるが、リコは気付かず言葉を続ける。
「でもミリとリキュエルが、お前を信じると言ったのですぅ。クロガネを信じてくれって。でも……信じるっていうことがどういうことか、リコにはよく分からなかったのですぅ」
ぽつぽつとリコが言葉を落としてゆく。
俺が落ちている間、モニターを見ている人たちにどう諭されたのかを。
「……でも今回の事でそれがどういうことか、少しわかった気がしたですぅ。少し、ヒトに近づけた気がしたですぅ」
だから――ありがとう、なのですぅ。
照れたように頬を染め、リコは俺に、ちょっとだけ笑顔を見せる。
『……そうか。信じるってことが分かったのか。ふ、ふははっ!』
「な、なんですぅ?」
いきなり笑い出した俺を、不審者を見る目つきでリコが睨む。
お前、難しく考えすぎだぜ。
『いや、やっぱさ、ヒトとかアンドロイドとか、全然関係ねーじゃんと思ってな。お前夕べ、自分はニンゲンじゃないからこの国がどうなろうと分からんとか、言ってたじゃねーか?』
「た、確かに言いましたですが、それがなにか……」
『でも今のお前の言葉聞いて分かった。自分は聖・ネロウの人間よりアトランディア帝国のニンゲンのそれに近しいなんてことも言ってたが――。お前、難しく考えすぎだぜ。だって――』
他人が信じられるなら、そいつだって人間だ。
俺がそう言った瞬間、リコが目を見開いた。
お前アイデンティティに悩んでいたみてぇだが、人間とかアンドロイドとか、そんなのどうでもいいんだよ。
<勇者皇帝>にだって、人の心を持ったロボットてのが出てくる。そいつも人ならざる自分をどう定義していいか迷いまくってたが、最後は主人公の言葉で、自分のアイデンティティを確立してた。
だから――俺はさっきああ言ったが、お前も自分がなんなのかは自分で決めるんだ。
できるだろう、お前なら。
『ま、少なくともあのアクザールなんかよりよっぽど、お前は人間ぽいと思うぜ」
いろんな意味で。
「……ふ、ふん!ですぅ!」
照れくさくなったか、リコがコクピットからはい出した。
「ありがと、ですぅ」
もう一度、小さな声で礼を言われるが――。
『あん?聞こえねーなぁ?』
「っ!こ、この……」
『ほれほれ、もう一度言うてみぃ~』
ぐぐ、と小さな手を握りしめ――
「う、うっさいですぅ!」
モニターをぶん殴る。
「~~~~っ!!」
……痛いだろうな、そりゃ。リーファルミアと言いこいつといい、いい加減俺に物理攻撃効かないって分かれよ。
「~~あーん、リキュエルぅ~!」
真っ赤になった拳を押さえ、リコが駆け下りていくと入れ違いに――。
「失礼します」
今度は小柄なメイド服が来た。
「リコさん、なにかあったのですか?」
白衣の裾にしがみついているリコを見て、メイド服の少女が首をかしげた。
『い、いや。なんでもない。手でもぶつけたんだろう』
「?そうですか」
す……と姿勢を正すのは――
『確か、ミリ、だっけ?リーファルミアのメイドさんの』
「はい、ミリ・エクレールと申します。きちんとご挨拶するのは初めてですね」
無作法をお許しください、と宮廷侍女風のあいさつをしてくれる。
『ご、ご丁寧にどーも。城井クロガネだ』
「はい、伺っております。……クロガネ様とお呼びしても?」
『様はいらんよ。クロガネでいい』
そんな大層な立場じゃね―しな。
「はい、クロガネ。それと……」
『ん?』
「初対面の際の無礼を、どうかお許しください。大変失礼なことを申しました」
『初対面……。あぁ……』
骨董品とか無礼なAIとかって、アレか。
「申し訳ありませんでした。姫様と共に戦う救世機のAIを相手に、私は、その……」
心からすまなさそうな顔を浮かべるミリ。
俺は気にするなとばかりに笑ってやった。
『顔を上げてくれよミリ。俺はそんなこと気にしちゃあいねーからさ。お互いの事をよく知らなかったんだから仕方ねーよ」
「そ、そう言って頂けると助かります」
ようやくミリが笑顔に戻ってくれた。
「なにしろ姫様とは幼少のころからご一緒させて頂いてまして。とてもその、心配だったのです」
『分かるぜ。ちょっと危なっかしいところあるからな」
そそっかしいとかじゃなく、ガンコっつーかなんつーか。
はっきりと肯定することはできず、ミリが言葉を濁して苦笑した。
『で――そのメイドさんがどうしたんだ?リーファルミアの傍に居なくていいのか?』
こくりとミリが頷く。
「はい。姫様には侍女長がついておられます。今は身を清めておられることでしょう。その間にお時間をもらい、あなたにお会いしに来たのです」
ミリはきちんと俺の目線に合わせたあと、ぺこりと頭を下げた。
「改めましてクロガネ。我が主、リーファルミア様をお助け下さり、ありがとうございました。姫様のお力となり戦って下さり、本当に、ありがとうございました」
ぞんざいなリコと違い、ミリは洗練された礼をしてみせる。
「本来――AIにはここまでのコミュニケーションが取れない上、ただの機械と考えるものも少なくありません。ですが、あなたは全く違う存在だと方々でお聞きし、ならばとこうしてお礼に伺ったのです」
正解でした、とミリ。
『そう、だったのか。いやこっちこそありがとな。リコから聞いたぜ。俺の事信じてくれって、言ってくれたんだろ』
ミリがわずかにはにかむ。
「はい。敬愛する我が主があなたを信じている。なれば、主の侍女たる私があなたを信じることも当然です」
リーファルミアが“俺”を信じるなら、自分もまた“クロガネ”を信じるってことか。なるほどね。
『……まあ、いろんな奴の助けがあって勝てたようなもんだがな。あんま気にしないでいいぜ』
「……殊勝なのですね」
ミリまで意外だという顔する。
「てっきり、もっとこう、“俺のおかげだぜがっはっは”とでも言うかと思っておりました」
『抑揚なくそういうセリフを言わんでくれ、怖いから。あと俺ってそこまでエラそうに見える?』
「いえ、冗談です」
割と本気で落ち込み肩を落とすと、ミリが笑って慰めた。
「ともかく、ありがとうございました、クロガネ」
『あいよ』
笑顔には笑顔を。
俺の顔を満足そうに眺めたミリは、最後にもう一度一礼してコクピットを出て行った。
『やれやれ……。ん?』
ふと気づくと、<アルヴァリオン>の周囲に軍人以外の姿がちらほら―じゃない、山のように集まっている。
『な、なんだ?』
きょろきょろとあたりを見回すと、敷地内に続々と市民たちが詰めかけている。
「おぉ!これがかの伝説の……!」
「なんと雄々しい……」
「でもボロボロだぜ?」
「バカ、それがいいんじゃないか!」
「リアル汚し塗装に傷表現……。素敵……」
む、最後のセリフの少女。君とはいい酒が飲めそうだな。未成年だが。
『……じゃない。こりゃ一体どういうこった』
と一人困惑していると。
『――クロガネ、聞こえる?』
聞きなれた声が通信機から流れた。
『あぁ、リーファルミア。今どこだ?っていうかこりゃ一体どういうことだ?』
あたりを見回しても、人、人、人でさっぱり分からない。
『――王宮の窓から見てるわ。なんでも戦勝会ってことで、この広場を一時的に開放することにしたんですって。シャワー浴びたら私も戻るつもりだったんだけど――無理みたいね……』
ちょっと困惑気味の声が返ってくる。
ああ、見つけた。王宮の窓――地上二十階近い高さの窓から銀髪がぴょこりと飛び出し、手を振っている。
片膝ついたまま手を振り返してやると、市民たちが一斉にそっちを見た。
「ちょ、目立つからやめて!」
銀髪が慌てて引っ込んだ。
『――で、ついでに街中の出店もこっちに移して、王宮の周辺で臨時のお祭りをするんだって。まったく、フィナンシェ兄様ったら……』
最後は完全にボヤキが入ってる。
察するにそのフィナンシェ兄様とやらが、この状況を作った張本人ってことか。
まあそれはいいんだけどよ。
『で……俺はどーすりゃいいんだ』
ちょっとでも動くと誰彼かまわず踏み潰しそうなんだが。
『――悪いんだけど、人が落ち着くか規制が入るまで、そこでじっとしててくれる?』
『……』
まじか。俺じっとしてるの苦手って言っただろうが。
『――ほんと、ごめん』
銀髪がそろそろと現れ、窓の向こうで心底すまなそうに手を合わせている。
あーもう、そんな顔されたら文句言えないじゃあないか。
『いいぜ。分かった。ここにいるよ』
仕方なく俺はうなずいたのだが――。
結局俺は、日が暮れるまで片膝をついたまま、彫像と化すことになるのであった。
* * *
そして夜半―。
ようやく人も落ち着き、注目の的だった<アルヴァリオン>の周囲も隙間が目立ち始めたころ。
護衛にカーリック大佐をつれ、リーファルミアがとことことやってきた。
「お疲れ様、クロガネ」
『ぉぉ……リーファルミアか……』
なにしろあれだけの激闘の後、休眠状態になることもできず数時間もの間、歓声と喝采の真っただ中にいたんだ。
返す返事も疲れ切り、ぼんやりしてるのは許してくれ。
「だ、だいぶお疲れみたいね?」
『あぁ、さすがに疲れた……』
市民・軍人が分け隔てなく、<アルヴァリオン>を囲んでのどんちゃん騒ぎ。
酒を飲み、肉を食い、音楽に合わせて踊りまわる。吟遊詩人みたいなのまで現れる始末だ。
子どもたちは走り回るか、何時間も飽きずに<アルヴァリオン>を眺めていた。
『なんつーか――タフだよなぁ、みんな』
特に軍人のみなさん。いまさっき戦いが終わったばかりだぞ?
「いや、申し訳ない。兵士たちまで浮かれてしまいましてな。何しろここしばらくで一番のニュースが立て続けに起こったものですからな」
というカーリックも顔がわずかに赤らんでいる。
『飲んできたな?』
「はっはっは。バレましたか。まあこれも付き合いというものですよ」
幾分気の良さそうになった声で笑う。
「カーリックさんだけじゃないわ。私もお付き合いで結構飲まされちゃって……。ちょっと風に当たりに来たのよ」
『そりゃまあ、ごくろーさん』
ふと会話が途切れ――俺達はそろって空を見上げる。
どの世界でもかわらない、満天の星空が視界いっぱいに広がっている。月も出ているが、これは俺のいた世界より……ちょっと大きいか?
「ありがとうね、クロガネ」
リーファルミアがぽつりとつぶやいた。
『うん?』
「あなたのおかげで、みんなは今日を楽しめた。後から聞いたんだけど、正直、今日はかなり危なかったんだって。ほら、先日の戦いからそんなに日が開いてなくて、部隊の編成が追い付いてなかったの」
『ああ……そうだったのか』
以前も聞いたが、俺が<アルヴァリオン>として目覚める数か月前からアクザール率いる部隊が断続的に戦いを仕掛けていて、聖・ネロウはここ数十年で最も疲弊した状態にあった。
そこに来て先日の戦いと、今日の新型機<アンブロシウス>の襲来だ。軍上層部にはいよいよここまでかと覚悟を決めた者までいたそうだ。
「でも、貴方がいてくれたから私たちは勝てた。本当に、ありがとう」
『ふ。それが俺の役目だからな。……でも、俺はお前がいたから力を発揮できたんだぜ』
機体から離れられるギリギリの距離で映像化し、俺はリーファルミアの隣に並び立つ。
『あの時――契約どうこうじゃなく俺の全てをお前に預けていいと思えた。だから<ファイナル・ブレイヴ・ソード>も使えたんだぜ』
「え……」
金色の瞳をきょとんさせ、俺を見下ろしてくる。
<ブレイヴ・ソード>は使えるようになったが、その最大出力形態である<ファイナル・ブレイヴ・ソード>が使えたのはあの時だけで、今はまた同調調整中に戻っている。超演算による制限解除は、やはり一時的なものだったのだ。
そしてこれは後でわかったことだが、<ファイナル・ブレイヴ・ソード>の使用条件は単に制限解除されるだけではなかった。もう一つ重要な条件があり、それは――。
『ありゃあパイロットと俺――つまりAIとのシンクロ値が一定以上ないとダメなんだ。ありていに言えば“心が一つに”ってやつだな』
「それってつまり……」
『互いが互いを信頼してないとダメってこった』
このシンクロ値が一定量を越えない限り、調整中の表示は消えず使用も不可能だ。
ほうっとリーファルミアが息をつく。
「そっか……。私を信頼してくれたんだ」
『まーな。お前もだろう?』
「そう、なのかな。……うん、そうかも」
制限解除直前の俺達の精神は、間違いなく一つだった。
俺はリーファルミアなら<アルヴァリオン>を使いこなせると感じたし、多分リーファルミアも『今ならできる』と感じていたはずだ。
だからこそ<ファイナル・ブレイヴ・ソード>が発動できたんだ。
俺を単なるAIと見なし自分を押し付けるだけのリーファルミアだが、少しずつパートナーが何かを理解し始めた――ってことだろう。
儀式直前に俺に謝りに来たことも、その一つかもしれねーな。
「そうか、そういうことなのかな……」
うんうんと一人頷いている。
……虚無ったわけじゃないよな?
「何か掴めましたかな?」
黙って俺たちの話を聞いていたカーリックが、そっと会話に入ってくる。
「ええ、大佐のおかげで。ありがとうございました」
「はい」
胸に手を当て、敬礼してみせる。変に謙遜しないところも好感が持てるぜ、おっさん。
「――ところでクロガネ。一つ聞きたいことがあったんだけど」
『なんだ?』
<アルヴァリオン>の肩のあたりを見上げ、リーファルミアが首をかしげている。
「あの時の光はなんだったの?変な声も聞こえたけど……」
『っ』
思わずびくりと反応してしまう。
こいつが言っているのは間違いなく、<アルヴァリオン>の演算強化を施してくれたあの光の事だろう。
そして俺の意識を引っ張り上げ、俺達に語りかけてきたあの声。発していたと思わしき、女の姿。
そして――。
(あの髪留め。まさか、まさかだよな……)
いや、あいつのはずはない。姿はずっと大人びていたし、髪も伸びていた。喋り方も違う。
何より、あいつがここにいるはずはないのだ。ここは俺が見ていた夢の世界、なんだから。
「クロガネ?」
『あ、いや。そうだな、俺にもよく分からん』
リーファルミアに顔を覗きこまれ、俺は急いで頭を振った。
確定情報じゃねーし、なにより俺がさっぱりわかっていないことだ。こいつに話しても仕方ないだろう。
『案外お前らのカミサマかもな。なんたっけ、ほら、守護の……』
「セイル・ロウ?」
『そう!それそれ。そのセイル・ロウじゃないのか?』
「そう……なのかな」
『きっとそうさ!』
俺の態度になにがしか思うところはあったようだが、リーファルミアは肩をすくめて引き下がってくれた。
「……古来より、助けを求めるところに守護の神ありと言われますからな。クロガネ殿の言うことも一理あるかもしれません」
<アルヴァリオン>側頭部の――まさにそのセイル・ロウの絵を見ながら、カーリックが顎を撫でた。
って、そうだ。一つ言いたいことがあったんだ。
『カーリックさんよ。俺の事はクロガネでいいぜ。殿なんてつけられると背中がかゆくなっちまうよ』
ほう、と、ちょっと驚いた顔をするケモノミミのおっさん。
「いやはや全く、私のAIカアル・ロウとは大違いですな。奴は未だに敬称を付けろとうるさい時がある。パートナー同士、そこまで堅苦しくすることなないと常々言うのですが」
『そ、そうか。苦労してんな』
どっちも。
ついでに敬語もいらないぜ、というと、カーリック大佐はニヤリと笑う。
「承知した、クロガネ。ならば私も名前で結構。なんならおっさんでも結構だ」
『え、いや、それはさすがに』
意外にフランクだ、この人。
「おや。確か戦いの最中そう呼ばれたような気がしたのだが?」
『…………あ』
言われてみれば。
アクザールの誘いに乗るかどうかの時、確かにそう呼んでしまった気がする。
『その、すまんこってす』
「はっはっは、気にするな。私としてもこう、息子に言われたようでおもしろかったぞ」
ただの高校生ごとき(今はロボだが)が、遥か年上の――しかも大佐を、おっさん呼ばわりしちまったのだ。
冷や汗を流しながら謝ると、腕組みしたカーリックのおっさんは豪快に笑い飛ばしてくれた。
よ、よかった。怒ってないっぽい。
「そういえば」
と、俺達のやり取りを横目に見ていたリーファルミアがふと思い出したように言った。
「あんたって私のこともリーファルミアって呼んでるわよね。それも最初から。敬語なしで」
『え、え?』
確かに、俺は最初から敬語なしでこいつを呼んでたが……。
「一応私王族で、普通は敬語で接するべき存在なんだけど」
『す、すまん!なんかつい……』
むすーっと頬を膨らませているケモミミ少女にぺこぺこ頭を下げる。
リーファルミアはひとしきりそんな俺を見つめ――。
「いいわよ別に。ちょっと言ってみただけだから」
と言った。
『え?』
「クロガネって、あなたの名前なんでしょ?家の名前じゃなく。カーリックさんの話じゃないけど、パートナー同士敬称付に敬語で話すのも堅苦しくてヤダし。だから」
これからもリーファルミアって呼んでいいわ。
ぷいっとそっぽを向いてしまうが――その頬が夜目でも分かるほど赤くなっている。
俺も今更ながら女の子を名前で呼び捨てにしていたことを自覚して頬が熱くなる。
『わ、分かった。じゃあ改めて――よろしく頼むぜ、リーファルミア』
「……うん、こちらこそ。クロガネ」
せっかく呼んでいいというなら、ありがたく呼ばせてもらおう。その方が親しみやすいしな。
「む、上がりましたぞ」
大佐改め、おっさんとなったカーリックさんが夜空を指さす。
それを追うと――。
ドオォォォォォン…………・ッ!
爆発音と共に、光の大輪が咲いた。
『花火、か……?』
「よく知ってるわね。そうよ」
知ってるも何も、夏の風物詩じゃねーか。
『……この世界にもあるんだな……』
俺は花火のことだけではない意味を込めて、そう呟いた。
花火は次々に上がり、漆黒のキャンバスに鮮やかな光の輪を描き出す。
かがり火でライトアップされた王宮に、風に乗ってくる華やかな音楽、人のざわめき。
まるでどこぞのエンターティメントパークのようだ。
「あ、見つけたですぅー!」
「ちょいとリコ、待っとくれ。足元が……っとと」
「の、飲みすぎですよリキュエル博士!」
「やはりこちらでしたか、大佐殿」
リコ、リキュエル博士、ミリ、そしてヴィスコット少佐がこちらに向かってくる。
『賑やかになりそうだな』
「ええ、そうね」
花火に照らされたリーファルミアと顔を見合わせ――俺達はにやりと笑いあった。




