第九話:俺の力を見せてやる!
『――壊れろォッ、<アルヴァリオン>!』
「ッ!」
アクザールが振り下ろした槍が、今にも突き刺さろうとしていた。
<アルヴァリオン>のコクピットをぶん殴った姿勢のまま、その穂先を睨みつけるリーファルミアは――。
すさまじい金属の激突音に目を閉じ、首をすくめた。
「ここまで、か……」
きっとこれは、装甲にあの槍が突き刺さった音。今にも自分を突き刺し殺そうとしているだろう、死に神の笑い声だ。
死の瞬間というのは、何も感じないのか。悔しさや悲しさ、怒りは吹き飛び、リーファルミアはただ、その時を待ち――。
「……?」
おかしい。
いつまでたっても、自分は死なない。傷みもない。
相変わらず激しい金属音が響き渡っているのに。
そっと目を開けて見ると――。
「……っ!?」
コクピットの裂け目から見えるのは、紅い光の膜だった。
目を眇めねばならい程の光が、<アンブロシウス>の槍を受け止めているではないか!
「な、なに!?」
状況が分からずおろおろとあたりを見回していると。
『……らぁッ!!』
急に機体の右脚が跳ね上がり、<アンブロシウス>を蹴り飛ばした。
『――な、うわぁっ!?』
まったく予期していなかった衝撃は、アクザールに盛大な悲鳴を上げさせる。
その衝撃は凄まじく、漆黒の機体は悲鳴を上げ、地面を抉りながら転がっていった。
その隙をつくように、ゆっくりと<アルヴァリオン>が身を起こす。
満身創痍の姿で、しかし全身に闘志をみなぎらせ、真紅の機体が立ち上がる。
そして、リーファルミアの耳に待ち望んだ声が響く。
『すまねぇ。待たせたなリーファルミア!』
クリスタルが発光し、少女の眼前に少年の姿が現れた。
適度に着崩した、不思議な制服。
トレードマークともいえる一房だけ伸ばした髪。
にかっ!と浮かぶ、太陽のような笑顔。
『……クロガネっ!』
泣き笑いの顔で彼を見つめ――。
ギィンッッ!!
<アルヴァリオン>の瞳に、光が戻った。
* * *
『すまん。遅くなった』
<アンブロシウス>の攻撃を寸前で紅い光――<BRAVE>粒子による防御障壁<ディフェンスウォール>で受け止め、<アルヴァリオン>は<アンブロシウス>を蹴り飛ばす。
リーファルミアを護るように立ちはだかり、俺は彼女に声をかける。
泣き笑いの少女はぐいと涙を拭き、
「遅いぃっ!」
と一喝。
「わ、私が危ないって時に、呑気に……寝てるんじゃないわよ……っ!」
『すまん』
余程怖かったのだろう。その声はまだ震えていた。
<ディフェンスウォール>の陰で光っていた何かが肩の方へ移動し、真紅の機体がはっきりとさらされる。
(ダメージチェック。損傷率四十パーセント)
『結構やられたな……』
いくら頑丈なスーパーロボットでも、無抵抗のままボコ殴りにされれば傷つくのは当然だ。
当然だが……我慢ならねぇな。
『――お前……。復活しやがったのか』
絶好のチャンスを捕えそこなった<アンブロシウス>が、憎々しげに吐き捨てる。
『ようアクザール。テメェ、俺が落ちてる間ずいぶん好き勝手やってくれたみてーだな』
『――これからもっと好き勝手やるんだから、も一度落ちろ』
ヤツが槍を構えなおす。
『断固お断りだ。これ以上テメエの好きにはさせねぇ。<アルヴァリオン>も、リーファルミアもな』
<アンブロシウス>が肩を震わせた。
『――はっ!バカ言え。そんなボロボロの機体でなにができる。お前が今更何をしようと、僕には勝てない。それに忘れたか?<アンブロシウス>はお前の力を無効化するんだぞ?』
『ふん……』
アクザールのセリフを聞き、俺は思わず笑っちまった。
このタイミングでそのセリフ言うかね。バカが。
「クロガネ……?」
リーファルミアが不安そうに俺を見下ろしてくる。
確かに、このままでは先ほどの二の舞だろう。
だがアクザールには二つ、知らないことがある。リーファルミアもだ。
だから俺は、二人にそれを教えてやる。
『お前らは二つ、知らないことがある。まず一つ。アクザール、今のテメエのセリフは、いわゆる負けフラグだ』
『――……はあ?』
『主人公機の前でそのセリフを吐いた奴は大抵、ボコ殴りにされる』
そのセリフってのは、ボロボロの機体で云々のくだりだな。
あと誰が主人公かって?決まってる。この俺だ!
「……も、もう一つは何?」
こめかみに指を当て、リーファルミアが聞いてくる。
『うん、それはだな。スーパーロボットの力の源が何か、だ』
『――……なんだと?』
『正確には<アルヴァリオン>の力の源だ。お前ら、<BRAVE>粒子だけだと思ってるだろ』
「そ、それは……何?」
アクザールが警戒を強め、リーファルミアがごくりと唾を飲む。
俺やサンガじいさんなら当然知っている事。
だがこいつらは絶対に知らないこと。
それは――。
『いいかよく聞け。<アルヴァリオン>は――スーパーロボットってのはだな…………勇気と気合を燃料に動くんだよ!』
どっしゃああん!
ドヤ顔で胸を張った<アルヴァリオン>の前で、<アンブロシウス>が派手にこけた。リーファルミアも外骨格の中でずるりと滑り落ちちまった。
『ん?あれ?どうしたお前ら』
「……」
『――……』
二人してギャグみたいな恰好のまま、黙っちまった。
なんだ?俺何か変なこと言ったか?
「……あのねクロガネ。一応<アルヴァリオン>も科学の産物でしょ?」
糸の切れた操り人形みたいな恰好で、リーファルミアがジト目で見上げてきた。
『そうだな』
「じゃあなんでそこに精神論が入ってくるのよっ!」
がうっと犬歯を剥いて、リーファルミアが叫ぶ。
いや、なんでって言われても。
『スパロボに必須なのは熱血・気合・必中・不屈、それに根性と鉄壁だろう』
最近だと全部乗せの勇気も入るけど。
「意味わかんないわよ!」
『えー』
相も変わらず漫才を繰り広げる俺達の前で――。
<アンブロシウス>が手に持った槍を、折れんばかりに握りしめている。
『――……毎度毎度、毎度毎度。お前らは……』
地を蹴って立ち上がり、
『――僕をバカにしてるのかあぁぁぁっっ!!』
天に向かって咆哮した。
『――もういい!もうたくさんだ!これ以上お前らを見るのは!声を聞くのは!殺して、壊して、消滅させる!』
あら~……。怒り心頭過ぎて逝っちゃったか?
「や、やばっ……。クロガネ、ちょっとやりすぎちゃったわよ、私達!」
リーファルミアがおたおたと手を振る。
『大丈夫だ。問題ない』
「ありまくりよ!こっちは<BRAVE>粒子が使えなくて、プログラムは書き換え中で、おまけに満身創痍……って、あれ?あれれ?」
例の、プログラム書換完了までの時間を表示させたウインドウ。
びしっとそいつを指さしたリーファルミアが頓狂な声を上げる。
『ふ』
「ど、どういうこと?なんで、こんな速さで進んでるの!?」
彼女の視線の先では――。
残り時間のカウンターがすさまじい勢いで減っている。
六百秒、十分ほどもあった時間が、あっという間に減ってゆくのだ。
「な、なんで?」
『言ったろ。気合と根性だって』
そううそぶくが、俺にはそれが、別の理由だと分かっていた。
<アルヴァリオン>の肩近くにある、あの光だ。あれが<アルヴァリオン>の演算速度を劇的に向上させている。
そして、その効果はプログラム書き換えだけにとどまらない。
『――死ねえぇぇッ!』
スラスターを全開にして、<アンブロシウス>が突っ込んでくる。
振るわれる槍には<BRAVE>粒子の演算阻害機能が働いているし、パイロットが激昂していてもその太刀筋には無駄がない。
的確にこちらの急所を破壊する軌跡を描いている。
『――オオオォォォッ!』
だが!
『無駄だぜ!』
ガキャアアアンッッ!!
<アルヴァリオン>はその剛腕で、槍と雄叫びを受け止める。
「ちょっ!」
リーファルミアが悲鳴を上げるが、すぐ驚きに目を見開く。
「あ、あれ?壊れない!?」
そりゃそうだ。
<アルヴァリオン>の腕は、光り輝く<BRAVE>粒子で覆われているんだからな。
『――バカな!』
アクザールが奴気早に繰り出す攻撃は全て、<BRAVE>粒子に弾かれる。
『――<アンブロシウス>の演算阻害機能は……有効。なのになぜ!』
これが、光のもたらす演算補助の、二つ目の効果だ。
劇的に向上した演算量は<BRAVE>粒子の制御をも補助し、これまでにない精度と速度で粒子をコントロールしている。
それは<アンブロシウス>の演算阻害をはるかに上回っているんだ。
ピーッ!
コクピットに響く電子音。
こいつは、プログラム書き換えが終了したサインだ。
「え、嘘!?終わったの!?」
『よっしゃ!』
そして最後に――。
『おらああっ!』
<アルヴァリオン>が槍を弾き、剛腕を振るう。<アンブロシウス>はひらりとそれを避けたが、距離を取ることを余儀なくされる。
『――くぅっ……』
距離が離れたのを見るや、俺はリーファルミアに全ての操作権を渡す。
『俺の全てを、お前に預けるぜ、リーファルミア』
「え……」
リーファルアミアが縦長の瞳を見開く。
『今のお前なら、俺をうまく扱えるだろう?俺はサポートに回るから、お前が、お前の手で!ケリを付けろ。こいつでな!』
<アルヴァリオン>が胸部の装飾に手を伸ばした。
すると装飾が変形し、グリップと鍔が展開される。
刀身がないが、これは剣の柄だ。
光のもたらす劇的な演算効率によって機体の操作と同調し、使用可能になった新たな武装。
名を――。
『<ブレイヴ・ソード>ォッ!!!』
「あ、あぁ……!」
驚きっぱなしのリーファルミアの眼前で、柄の先――本来刀身がある部分に<BRAVE>粒子が収束していく。
荒野となった戦場を染め上げる輝きと共に――金色の刀身が姿を現した。
『構築成功!粒子固定率百パーセントッ!』
<アルヴァリオン>が一度振りかぶったそいつを、腰だめに構える。
正面から見れば素晴らしくパースの効いた、いわゆる○ンラ○ズ的な構えだ。
ああ、くっそ!
誰かこれ録画してくれ!めっちゃ見たい!客観視点で!
……ごほん。
ともかく、この<ブレイヴ・ソード>は<BRAVE>粒子を固着化して構築させる武装だ。その切れ味は――。
『よっしゃ、いけぇッ!』
「う、うんっ!」
背部スラスターから<BRAVE>粒子を吹き出し、<アルヴァリオン>が吶喊。
「てえやああああっ!」
大上段に振りかぶったそれで<アンブロシウス>に切りかかる。
『――ちぃっ!』
とっさに槍を掲げ、<アンブロシウス>は防御に出る。
しかしその強度、粒子の妨害、全てを無視し、金色の刀身は槍の柄を真っ二つに破壊した。
「す、すごい……っ!それに機体が軽い!」
嬉々とした声を上げるリーファルミア。
プログラムが完全にリーファルミアの動きに対応した今、俺達はまさに人機一体。いや、三位一体というべきか。
俺・リーファルミア・<アルヴァリオン>が全て、一つの生き物のように連動している。
『――んのやろぉっ!』
棒と刃先に分かたれた槍を二刀流のように持ち替え、<アンブロシウス>が俺達に挑みかかる。
「さあ、来なさいっ!」
荒野に、鋼の巨人たちが繰り広げる剣劇の音が響き渡る。
レーダーを見れば――救援に来たのだろうか、友軍の<E・A>とヴィスコット少佐の<ズィーガー>が距離を取り、呆然とこちらを見つめている。
『くっははぁッ!』
ああ、畏怖の視線が身震いするほど心地いいぜっ!
剣と槍が切り結ぶ。
十……!
二十……!
三十……!
火花を散らして切り合うたび、俺たちの優勢が強くなる。
得意だというだけあって、リーファルミアの剣捌きは素晴らしかった。力だけに頼らず、押し、引き、受け流し、また押す。
五十……!
七十……!
百!
剣戟の余波が地を抉り暴風を起こし砂を巻き上げる。
『――くそッ!』
手数で勝る<アンブロシウス>を、<アルヴァリオン>は完全に圧倒していた。
「このまま押し切るわっ!」
<ブレイヴ・ソード>を振るい、リーファルミアは<アンブロシウス>を押し込んでゆく。
『っ!気を付けろ、リーファルミア。ヤツの後ろに大量の反応がある。……<SOCom>だ!』
さらにその後ろには例の巨大陸上戦艦。
アクザールの不利を見て取ったか、総勢三百ほどの<SOCom>が、列を上げてきている。
『――ヴァルターか!』
『――殿下、お下がりを!体勢を立て直します!』
<アンブロシウス>から別の男の声。アクザールの部下だろうか。
「させないわ!えぇいっ!」
リーファルミアが切りかかる。
<アンブロシウス>が斬撃を受け止め、その衝撃を利用して大きく飛び退った。
『ちっ!気を付けろ、砲撃が来る!』
<アンブロシウス>が下がったことで射線を確保した<SOCom>共が、一斉に砲撃を開始した。
支援戦闘用なのか、大型キャノンやミサイルランチャーを装備した機体が多い。そいつらが一斉にマズルフラッシュを咲かせる。
「くぅっ!」
リーファルミアが唇を噛み、鋭い動きで砲撃を躱す。
驚いたな。数百はあっただろう砲弾が、一発たりとも当たらない。
彼女の動きに、<アルヴァリオン>は完璧に追従しているからな!
「素敵だわ。気持ちいいくらいに動く!」
『だろう?これが、本当の<アルヴァリオン>だ!』
「っ……ふっ!」
獰猛な笑顔を浮かべ、迫るミサイルにリーファルミアは<ブレイヴ・ソード>を一閃。直撃コースにあったそれらが剣圧ですべて薙ぎ払われ、空中で大爆発を起こす。
爆炎が機体を染め上げる。
圧倒的な戦闘力。
とはいってもこちらは一機。三百もの大軍を相手にするのはいささか……。
『――これで形勢逆転だ!』
勝ち誇るアクザールが<SOCom>からもぎ取った突撃砲とミサイルランチャーを手に、こちらを照準。フルオートで撃ちまくる。
「っきゃぁぁぁあっ!?」
避けきれなかった弾丸とミサイルが<アルヴァリオン>周囲に着弾し、盛大に爆発。<アルヴァリオン>の姿をかき消す。
『――ひ、姫様!?』
ヴィスコット少佐の悲鳴が聞こえる。
『ふはははっ!!無駄無駄無駄ァ!!』
しかし、爆炎が去ったあとには、
『――む、無傷ぅ!?』
剛腕をクロスさせて防御した、無傷の<アルヴァリオン>。
<BRAVE>粒子がかつてないレベルで使えるようになった今、これまでのようにいくと思うなよアクザール。
リーファルミアの動きとも完全同調したことで、俺達の戦闘力はついさっきまでとはけた違いになってるんだ!
『――なんなんだよもう!』
アクザールが頓狂な声で叫びつつ――再び突撃砲を撃ちまくる。
<アルヴァリオン>は<ブレイヴ・ソード>の陰に機体を隠し、防御の姿勢を取った。
『――な、なんと……あれで無傷とは……』
『へっ!俺を舐めんなよ!』
とはいえ流石に弾幕が濃くなってきたな。
刀身を構成する<BRAVE>粒子を、強度をそのままに薄く延ばし、一種のシールドを形成させる。
これでしばらくはもつだろう。
「どうするのクロガネ。いくらなんでも、これじゃ動けないわよ?」
『ふむ。そうだな……』
――だいじょうぶ。あたしも手伝うよ――
『っ!?』
いきなり――。
思案する俺の頭に、あの声が聞こえた。
何度も俺に語りかけてきた、あの声だ。
「な、なに!?今の声……!」
驚いたことに、この声が聞こえたのは俺だけではなかったらしい。リーファルミアがケモノミミをぴんと伸ばし、あたりを見回している。
『お前にも聞こえたのか!?』
「え、クロガネも!?」
二人で顔を見合わせる。
『いったい誰だ……?』
――ふふ。言ったでしょ。そのうち分かるよって。それと、みんなも手伝ってくれるみたいよ。ほら……――
コクピットに鋭い電子音が響く。
「な、なに?」
『後方からの接近警報だ。だがIFFは……』
敵味方識別装置は、友軍の信号をキャッチしている。
『こいつは……<ズィーガー>だ!』
「ヴィスコット少佐が!?」
『――私だけではありませんぞ!』
モニターにケモノミミのおっさんが映る。<アルヴァリオン>の活躍を見て興奮しているのか、その顔が実に楽しそうに輝いている。
『――王族守護隊の面々も姫様を援護しております』
レーダーを再確認すると――<ズィーガー>は<アルヴァリオン>に向かってきているが、その他の<E・A>達は俺達を半円状に囲むように展開している。
いや、これは<SOCom>を囲もうとしているのか。
『――おぉぉぉぉぉぉぉッ!!』
通信機から響く雄叫び。
「み、みんな……!」
リーファルミアが瞳を潤ませ、感動を露わにした。
『お前ら……』
仲間との共闘。これこそ<勇者皇帝>シリーズで俺が最も興奮したシチュエーションだ!
まさか自分で経験できる日が来るとは思わなかったぜ。
『――彼奴等、お二方の戦いを邪魔するものは我らで食い止めます。姫様は狂乱王子との決着を!』
防御の姿勢を取ったままの<アルヴァリオン>の頭上を、四足歩行型の<ズィーガー>が飛び越えた。その姿はまさに、獲物に飛び掛かる獣の如く。
放たれる弾幕を人型では到底不可能な俊敏さで回避し、<アンブロシウス>に迫る。
アクザールが回避運動を取るが……あれは避けらんねーな。<ズィーガー>の追尾性能が異様に高い。
『――これは先日のお返しですぞ!』
<ズィーガー>がくわっと口を開き、口腔内の機刃を作動。
脇を駆け抜けざまに左腕を噛みちぎった。
『――っ!き、貴様ぁッ!この、獣風情がッ!』
『――ふっ!』
背後から放たれるアクザールの反撃までも、<ズィーガー>はやすやすと躱す。機体のポテンシャルに加え、パイロットのすさまじい技量が成せる技だ。
あのおっさん、やっぱすごい人だったんだな。普段あんまり目立たないけど……。
――撃て!
そして、ヴィスコットの号令がかかるや否や、展開を終えた<E・A>達が一斉に、取り囲んだ<SOCom>目がけて砲撃を開始。
両側面から熾烈な弾幕を浴びせかける。
集団戦の得意なさしもの<SOCom>達も、<アンブロシウス>を守りながらこの攻撃を裁くのは無理だろう。
次々と撃破され、あるいはターゲットを<E・A>や<ズィーガー>に移さざるを得なくなり、<アルヴァリオン>への攻撃が一気に薄れる。
『いいねぇ!絶好のチャンスだぜ!』
――次はあたしだね――
謎の声と共に<アルヴァリオン>の武装方面の演算が急速に強化され――。
『……こいつぁ驚いた。これまで使えるようになったのか……』
驚いたことに<ブレイヴ・ソード>最強の攻撃が使用可能になった――いや、された。
――これで決めちゃえ、二人とも――
『お、おう!』
なんだかわからんが、使えるなら使わせてもらうぜ!
「な、なに?何が使えるの?」
<BRAVE>粒子のシールドにあたる弾幕がほぼゼロになった。弾着の衝撃に歯を食いしばっていたリーファルミアがようやく口を開く。
俺はその眼前に、ウインドウをポップアップ。
「こ、これ……?」
『そうだ!こいつが今の<アルヴァリオン>の必殺技だ!』
三割程度の同調しかできていなかったはずのそれが、超演算の補助を受け一時的に使用可能になっている。
『チャンスは一度だ。俺の合図でやるんだ!』
「よ、よく分からないけど、分かったわ!」
俺は弾幕が切れるタイミングを慎重に見極め――。
『今だリーファルミア、剣を地面に叩きつけろ!』
「っ!」
<アルヴァリオン>が<ブレイヴ・ソード>を振りかぶり、
「せぃやっ!」
刀身を地面に叩きつける。
すさまじい衝撃が地面を伝わり、溢れだした<BRAVE>粒子の斬撃が地面をたたき割りながら<アンブロシウス>目がけて走っていく。
『――小癪なっ!』
手負いの<アンブロシウス>が飛び上がり、斬撃を躱す。
『そこだっ!<ブレイヴ・ビイィィィムゥッ>!!』
空中で逃げ場のない<アンブロシウス>に向かって高出力のビームが襲い掛かる。
当てるつもりはない。牽制だ。
漆黒の機体が身をひねり、これも躱す。
『――っは!』
驚いたことにヤツは空中での回避中に突撃銃で反撃してきやがった。
何発かが<アルヴァリオン>に命中し、ガンガンと着弾の音を響かせる。
「き、きゃぁあっ!?」
『大丈夫だ。なんてこたぁない!』
悲鳴を上げるリーファルミアを励ます。
反撃しながら<アンブロシウス>が着地。すぐさま<SOCom>達がその周囲を取り囲み、アクザールを守る。
「ヴィスコット少佐!」
『――了解、攪乱します!』
<ズィーガー>をはじめとする友軍機が射線を調整、固まった<SOCom>どもを無理やり散開させる。
『――お二人の邪魔はさせんと、言ったはずだッ!』
ヴィスコットが吼え、俺達の進路を切り開いてくれる。
そしてついに、俺たちの目の前に一本の道が出来た。道はアクザールに――<アンブロシウス>に続いている。
それが俺の待っていた瞬間だった。
『今だぁッ!』
<ブレイヴ・ソード>を握り直し、コマンドを入力。
『決めるぜ、リーファルミア!』
「うんっ!」
胸部のクリスタルが輝きを増し、<ブレイヴ・ソード>に大量の<BRAVE>粒子を圧縮してゆく。
粒子の圧縮衝撃からセンサーが集まるフェイス部を保護する為、<アルヴァリオン>の口元にフェイスガードが下りる!
『いいかお前ら、よく見ておけ。こいつが俺の、<アルヴァリオン>の、チカラだ!』
「見せてもらおうじゃない。……さぁアクザールッ!最後の勝負よッ!!」
俺が不敵に笑い、リーファルミアが牙をむく。
『――げふっ……上等だ!来いッ!』
アクザールがせき込みながら槍を構える。
<アンブロシウス>の光が強まり、周囲の<BRAVE>粒子を全力で無効化し始めた。
唸りをあげる槍を右腕一本で構え、俺達を迎え撃つ。
『フル・ブーストッ!!』
光り輝く<ブレイヴ・ソード>を構え、背部のスラスターから<BRAVE>粒子を吹き出し、真紅の機体が一条の閃光と化す。
『ターゲット、ロック・オン!!』
狙うはただ一人、アクザール・アローガンス・アトランディア。粒子の制御妨害もなんのその。
『ぬんっ!』
空高く飛び上がった<アルヴァリオン>が、二回り以上巨大化した必殺の剣を大上段に振りかぶり――。
『必ィッ殺!<ファイナル・ブレイヴ・ソード>ッッ!!』
「てえぇぇりゃああああッ!」
両者の距離が一気に縮まるッ!
<アルヴァリオン>が唸りを上げて剣を振りおろし、<アンブロシウス>が風を纏う穂先を突き出す!
一瞬の交錯。
そして――静寂。
……。
槍を突きだし、剣を振り抜いた姿勢のまま、鋼の巨人たちは背を向けあう。
唐突に――<アルヴァリオン>の膝がガクリと折れ、<アンブロシウス>がさっと振り向いた。
勝者は――。
『……ふ』
『――……なッ!そんな!?』
ズッ……。
アクザールの悲鳴と共に、<アンブロシウス>の胴体がズレる。
一拍おいて真っ二つにされた機体からスパークが迸った。
『――バカな……そんなバカなぁぁぁッッ?!』
<ファイナル・ブレイヴ・ソード>は見事、<アンブロシウス>を真っ二つに切り裂いていた。
『…………』
「…………」
俺もリーファルミアも、黙って正面を睨み続ける。こちらからかける言葉は、ない。
『――……っ覚えてろよ、貴様ら……』
通信機からアクザールの最後の言葉。
<アンブロシウス>のエンジンが暴走しているんだ。もう間もなく大爆発を起こすだろう。
『――この借りは、必ず……ッ』
ッ!!
断末魔の痙攣を続けていた<アンブロシウス>が、大爆発を起こした。
爆発を背に、<アルヴァリオン>の瞳がギラリと光を放つ。
爆風の中立ち上がった<アルヴァリオン>が、元の大きさに戻った<ブレイヴ・ソード>を一振り。
刀身を粒子に還元し、柄を胸部に格納する。
『……悪いがなアクザール。そのセリフは次回の負けフラグだぜ』
「次回なんてないわ。もうあいつの顔を見るのはまっぴらごめんよ」
通信機から溢れる歓声をよそに、俺達は静かにアクザールを送る。
リーファルミアが背を向けたまま、聖・ネロウ式の敬礼をした。彼女をトレースしている<アルヴァリオン>も同じ動作をして見せる。
いけ好かない敵とはいえ、奴は王族。
俺にとっては初戦の相手だが、聖・ネロウやリーファルミア達にとっては過去何度も刃を交えた宿敵ともいえる男だからな。
最後くらいは礼を持って見送ってやるのも、ヒーローの務めだろう。
友軍<E・A>部隊の面々が、機体の両腕を振り回しながら走ってくる。
ヴィスコットの<ズィーガー>がその後ろから続いた。
ふ、どうやらあのおっさんも、無事だったみてぇだな。
「勝ったのね、私達……」
『あぁ』
レーダーを見ても<アンブロシウス>の反応はなく、<SOCom>も戦艦も後退を始めている。指揮官を失った今、もう攻めてくることはないだろう。
「勝った……。勝てたのね……」
『あぁ』
リーファルミアの金色の瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。
「私、みんなを守れたのかな」
『……ああ!』
力強い頷きを返してやる。
うるるっとリーファルミアの瞳が潤み――。
「~~~~やった。やった、やったぁっ!!」
『お、おい!?』
感情を爆発させたリーファルミアが俺に抱きついてきた。映像だからダメージが――じゃない、感触がない。
今、一つ気づいたことがある。
……くそ。めっちゃくやしい!そうだよ、叩かれてもダメージがないってことは、互いに触れられないんだ!
ぁぁあ、なんてことだ!、せっかくこの瑞々しい女の子の体を、合法的に抱きしめられるチャンスだってのに!生殺しってのはこのことか!?
「わ~ん!ありがと、ありがとう、クロガネぇ~!」
リーファルミアが小さな俺に顔をすり寄せてくるせいで、頬は触れている(はずの状態だ)し、下半身は豊かな胸に埋まっている(はずの状態だ)。
「おう、おう」
ぺちぺちとリーファルミアのほっぺたを叩きながら俺は、
(リキュエル博士に義体、作ってもらおうかなぁ)
などと、半ば本気で考えていた。
* * *
――うーん。ちょっと妬けるなぁ――
はた目には抱き合っている二人を見つめながら、謎の声がぼやく。
すでに<アルヴァリオン>から離れ、戦場を俯瞰できるほどの高さまで登ってきていた。
――クロガネってば、本当に変わらないんだから――
ヒーローオタクでスパロボバカ。熱血漢のくせに頑固で、でも女の子には優しい。
――うん、変わってない。よかった……――
もっとも自分が連れてきたのは、その変わっていなかった時のクロガネなのだから、当然と言えば当然だ。
――クロガネ、その子をちゃんと守ってあげるんだよ。それはこの国を護ることになり――そして世界を救うことでもあるんだからね――
そしていつかは――。
――ううん、それはいいや。今はまだ、ね――
謎の声―光の玉となった存在は、名残惜しそうにくるりと宙を旋回し、どこへともなく消えて行った。




