8.Marika's Slow Life
なんか、すごく私の理想のスローライフから遠ざかっている。
でも一生ここでも別にいいかも。
なんだかんだ楽しいしさ。
結構楽だし。
ここにいるんだったら申し訳なさすぎるけど。
せめて自分の家がないとだよね。
快適だけど、あくまで私は居候なんだし。
「食欲ない?
浮かない顔してない?」
「え?
いや、全然そんなことないです。
ちょっと考え事を。」
昨日の考え事と似たような内容の。
ちょっと違うけど。
「また俺には教えてくれないやつ?」
だって言えないよぉ。
迷惑かけるわけにはいかないし。
まだ私の身元も何も話してないし。
というかそもそも出会ってから六分の四日だしさ?
「昨日も言いましたけど、いつか、です。
少なくとも今ではないんで。」
「なんでー。
別にいいじゃーん。
そんなに嫌ならいいけどさー。」
この人の喋り方は良心を刺激してくる。
なんなんだ。
そういう戦法?
コンコンコンとドアノック。
「どーぞ。」
「失礼します。
ヴィンソン子爵令嬢がお見えです。
いかがなさいますか?」
子爵令嬢?
私やばくない?
撤退した方が良くない?
どうすんの、トーアさん。
「おかえりになってもらって。
俺今ご飯食べてるからさ。
事前に手紙もないし。
子爵令嬢が伯爵にそれは無礼だよ。」
トーアさん強し。
「かしこまりました。」
どうやって断るんだろう。
そんなわがままな人なら乗り込んできそう。
使用人さんが叩かれたりとかしないかな?
「そんな不安なの?」
「え?
不安な顔してました?」
いつもの顔のつもりだった。
やっぱりトーアさんって人目は気にしないけど人のことは見てるんだな。
「ちょっとね。」
そっか。
まあ心配なのは仕方ない。
私貴族とか会ったことないし。
この目の前の伯爵もどきをのぞいて。
でも対応してる時の目、冷たかった。
まじでびびった。
貴族の顔もできるんだなあ、トーアさんって。
「えー。
マリカちゃんの不安かあ。
ご令嬢が家に来るくらいには仲良いのー?
とか?
トーアさん結婚しちゃうのー?
とか?」
「あ、全然違いますんで安心してください。」
なんだこの人。
そうっていってほしいの?
私全くそんなこと思わなかったんけど。
「え、酷ーい。
俺が今のマリカちゃんだったら不安になるけどなー。」
なんだこの人。
「そういう冗談はいいですよー。
だって、トーアさんはトーアさんで、誰と何しようが私には関係ないですもん。」
今一瞬ナイフの音した?
私の方かなあ。
私テーブルマナーとかわからなさすぎてやばいもん。
極力気をつけてるけど、平民には難しい。
ナイフなんて滅多に使わなかったし。
せいぜい姿勢をよくして慎重に食べるしかできない。
「……まそっか。
つい昨日会ったばっかだしね。」
「そうですね。」
ん?
なんかすごいドタバタ聞こえる。
「お待ちくださいヴィンソン子爵令嬢!」
「うるさいわね!
レイベン伯爵がわたくしの訪問を断るはずがありませんわ!」
ヴィンソン子爵令嬢?
さっきの人だよね。
やっぱり私やばくない!?
「と、トーアさん、どうしま………!」
「レイベン伯爵!」
間に合わなかった!
やばいやばいやばいこっち向かないでお願い。
「ああ、よかったいらっしゃったのね。
使用人が帰れというものですからわたくし、もう………。
あら?
伯爵、このお方は誰ですの?
変わった服装をしているのね。
伯爵に不釣り合いだわ。」
気付かれた!!
ええ、やばいやばいどうしよう。
トーアさん!!
「やあ、これはヴィンソン子爵令嬢。
おかえりになられるよう伝えてくれと使用人に頼んだのだが……。
どうしてこちらに?
私は入館を許可していませんが?」
トーアさん伯爵モード!!
すごい、雰囲気違いすぎる。
なるほど、モテてもおかしくないかも。
「伯爵が?
わたくしに帰るよう申したというの?
……っそれより!
誰ですの、この女は。
どこのお家の方?
初めて見るお顔ですけど。」
「私の客人ですが?
私が誰を招こうが貴女には関係ありますまい。」
伯爵モードのトーアさんすごい。
え、ちょっと見直したかも。
「なっ!
わたくしよりこの方を選ぶというの?
マナーもなってないみたいじゃない。」
うっ、図星……。
っていうか、私別にトーアさんと結婚するわけじゃないんだけど?
「あの、横から失礼します。
私別にトーアさんと恋仲じゃないです!
ちょっと居候させてもらってるだけです!」
驚いた顔をされても……。
どこからどう見ても不釣り合いなのは丸わかりでしょ。
「な、ならなぜここにいるのよ!」
え?
今言ったよね?
お耳が悪いの?
「ですから、居候です。
昨日誘拐されました。」
「ちょっと?
誘拐なんて物騒な言い方しないでよ、保護だって!
昨日の夜も同じような話しなかった!?
人を悪人みたいに言わないでマリカちゃん!?」
でも、誘拐だったよねえ……。
急に名前とか色々聞いてきて、「うちくる?」だもん。
「な、名前を呼び合っ………。
しかも伯爵を愛称で!?
伯爵!?」
「あっやべ。」
やっぱあの人人目を気にしないなあ……。
「もういいですわ!
わたくしに対する態度、後悔なさると良いわ!」
典型的な捨て台詞だ……。
「後悔するのはそちらだと思いますが?
仮にも私は伯爵。
貴女は子爵令嬢。
子爵令嬢が伯爵によくそのような口をきけたものですね。」
おー!
シュバっと護衛が出てきた!
なるほど確かにずっといるんだなあ。
「な、なんですの!?
離しなさいな!」
「詰所まで、彼らが送ってくれますよ。」
トーアさん怖い!
伯爵トーアさんすごいけど怖い!




