5.Marika's Slow Life
久しぶりにぐっすりと寝た。
茉莉花の脳内では穏やかな音楽が流れている。
スキルの効果だろう。
夢の記憶がだんだん薄れ、意識が浮上する。
「ん…………。
…………ふゎ……。
んんぅ………………。」
まだ寝ていたい。
できることなら寝たいけどスキル効果だろうか。
だんだんと頭が冴えてきた。
夢がカケラも残さずに消えていくような感覚。
「おはよ、マリカちゃん。」
「ひぁぁっ!!!?」
待って待って待っておかしいおかしい!!
なんで!!?
今トーアさんの声した!?
え!?
部屋違うはずなんですけど!?
なんでいるの!?
慌てて飛び起き、布団を掴んで投げつける。
その隙に急いで枕を掴んでベッドから降りる。
そしてそのまま距離を取る。
「酷いなー。
朝からすごい機敏に動くじゃん。
もう驚いちゃった。」
「とっさすぎて何したかほとんど覚えてませんけど。
てかなんでいるんですか!!?
夜間は誰もいないのでは!?
覗き見!?
変態!?
ストーカー!!」
勢いに任せて枕を投げつけておいた。
そして軽々キャッチされる。
なんだよ運動もできるのかよ。
やばい。
あっ、寝癖たってない?
大丈夫っぽい。
髪の毛長くてよかった……。
短くしてた時の寝癖本当にやばかったから。
「そう、夜間は誰もいないから俺が入れた。
あと最後の方ちょっと言い過ぎね。」
「お、ぉぉお?
ごめんなさい?
いやいやいや!
謝るのそっち!
勝手に部屋に入られて怖くない女子はいないって!
マジで怖いんだけど。」
朝起きたら半日前にあったような男の人が目の前にいるドッキリ。
最悪すぎる。
しかもこの人全く悪びれもせずに。
どうしよう。
これからは夜でもメイドさんにいてもらった方が………。
そっか使用人だからこのキツネに逆らえないんだ…。
そう思うとこの家の人たちって不憫だな。
「そっか。
俺も嫌だわ。
起きたらよくわからん女が「おはよ」なんて言ってきたら。」
じゃあなんで私に「おはよ」ってやった!!?
「お、お母さんに教わりませんでしたか!?
自分のされて嫌なことは人にしない!
モラルの中でも一般常識ですけど!?」
「何事ですか!」
騒ぎすぎてメイドさんと執事さんがきちゃった。
こんな朝から申し訳ない……。
「侵入者です。
起きたら、トーアさんが、横に、いて……。
えまじでやばい。
待って涙出る。」
「え、待ってそんなに?
ちょっと驚かすつもりが泣くほど?
大丈夫?」
やばい涙腺が。
なんの涙だこれ。
「旦那様、女性との距離はもう少し慎重にどうぞ。
最悪トラウマを植え付けてしまうかもしれませんので。」
「いや、平気です。
多分ちょっと驚いただけで…。
気が抜けたんだと思います、人が来たから。」
はあ。
まじでびびった。
やべ、とりあえず座ろう。
めっちゃ疲れた。
ベッドに顔乗せときゃいいや。
「ごめん、そんなに、その……。
ほんとごめん。
次から気をつけるよ。」
「気をつけるって何をですか。
謝る時はそこが大事ですよ。」
私もよく言われたなあ。
ごめんはもうしませんって意味なんだよって。
何が悪かったか自分でわかってるのって。
私トーアさんのお母さんじゃないけど?
「もう横で寝転がってたりしないから。」
やばいしょげてる犬に見えてきた。
可愛い。
垂れてる耳とへたってる尻尾が見えてきたかも。
やばいもう怒れないじゃん。
「ふはっ。
あははははは!
い、犬じゃん!
あははははははは!
腹痛ぇ!」
ひとしきり笑ったあと、妙にニコッとしているキツネが見えた。
なんか怖い。
やばいかも。
「やっとマリカちゃん笑ったね。
全然笑わないし、ずっと結構落ち着いてるじゃん?」
心の中はどこかの伯爵様のせいで落ち着いてないけどね。
あとその笑顔やめてください。
何が起こる?
「じゃ、俺一旦着替えて仕事してくるね。
好きに過ごしてていいよ。
じゃーねー。」
お前着替えてねえのかよ。
それ寝巻きかよ。
着替えてから普通部屋出ない?
日本というか私の家だけ?
そんなことないでしょ。
てか、こんな朝から仕事するんだ。
見に行ったら邪魔かな。
仕事してるキツネとかイメージできないんだけど。
キツネが仕事してるのは可愛いけどさ。
キツネ伯爵が仕事してても可愛くないよな。
「行っちゃった。
…………。
朝がらづがれだー。」
使用人の皆さんもどっか行ったし、着替えるか。
私の服どこだろう。
とりあえずクロゼットを開け…………。
「なんだこの服の量。」
おいちょっと待て。
昨日の夜キツネなんて言ってた?
『思ったより女物の服なくてさ。
それ俺のだけど許して。
新品だから。』
は???
え、あるじゃん。
え????
どれも趣味じゃないからセーラー着るけど。
あるんじゃん。
は???
「あとでキツネの邪魔しに行こう。」
メイドさんに聞いてみる?
この服なんですかーって。
本人に聞いた方が早いか。
マジなんなんだあの人。




