3.Marika's Slow Life
メイドさんたちはすごく優しい。
どこぞのイジワルな伯爵よりも好きになる。
「ふひーー………。
ちがれた。
くそー、あのキツネ伯爵いつかギャフンと言わせてやらー。
……にしても、異世界かあ……。」
メイドさんたちは多分着替えの準備をしているのだろう。
手際が良くて助かる。
「こうして風呂に入るとさ、現実味増すよなー。
んだよー。
なんでよりによって私。
受験生やぞこちとらー。
たくもー。
あのテレビふざけんな。
あのテレビぶっ壊してー。」
声に出してみると案外すっきりする。
単純に愚痴が楽しいだけかもしれない。
これがJKの怖さだ。
女子はほんとに怖い。
私が一軍じゃなくて良かった。
「にしても、どーすっかなー。
すー⤵︎てー⤴︎たす⤵︎お⤵︎ぷー⤴︎ん⤵︎。」
なんて言ったってステータスウィンドウなんて…………。
「え?」
は?????
「え?
…………え???????
ええええええ!!!!?????
うそなんか出た!!!??」
「どうかなさいましたかマリカ様!」
大変大声だったらしい。
「あ、いやなんでもないです!
あ、改めてお風呂大きすぎて……。」
苦し紛れすぎる言い訳。
この青い四角いの見えてるのかなあ。
「何もなくて良かったです。
お着替えの準備は整いました。
ごゆっくりどうぞ。」
「あっ、はい。」
急かされてるように感じたのは私だけだろうか。
仕方ないのでこの青い板は寝る時に色々みると言うことで、早くあがろう。
「あ、来た。
マリカちゃんおっそーい。」
うっわ風呂出てすぐこの人かあ。
風呂のあの清々しい気持ち吹き飛んだんだけど。
なにが「おっそーい」だよ。
「……お待たせしましたネ。」
「じゃ、ご飯にしよっか。
あと思ったより女物の服なくてさ。
それ俺のだけど許して。
新品だから。」
は??????
え?
は??????
だから異様に裾長いんだ?
長すぎて普通に今彼シャツ状態よ?
「え?
はあ??????
え?
まっ……。
はず。
ちょっ、セーラーに着替えてきます。」
「セーラーって何?」
待て待て待て墓穴掘った。
そうだ。
異世界人にセーラーって伝わるのか?
伝わらないよなあ。
「さっきまで来てた服です。」
「ああ、多分それ今洗ってるんじゃない。
だって明日着るものなくなるじゃん。」
当たり前だったわ。
え????
は?????
「いやだから新品だからそんなに睨まないでよ。」
「いや!!
気持ち的にさあ!!
つい1時間2時間前に会ったような男の人の服着たくないじゃん!?
怖くない!?
私すでに結構怖いんだけど!?
無駄に優しいしさ!?」
やっべ。
いらんことまで言っちゃった。
でも事実だよね。
数時間前に会った知らん男の人の服、新品とはいえ気が引けるよね!?
「あ、そっか。
そりゃそうか。
当たり前か。
でも着れるものないよ?
メイドたちとか執事たちの服くらいしか。
メイド服よりマシじゃない?
マリカちゃんが言うなら俺別にメイド服着ててもらってもいいけど。
マリカちゃん結構何着てても似合うしね。」
なんだこいつ。
急に口説きに来た。
ざけんな。
つか普通に気づくのかよ。
認めるのかよ。
「…急に褒めないでください。」
「先にマリカちゃんが褒めてきたでしょ。
お返しだよー。」
うっっわ。
素直に喜んだ自分がバカだった。
最悪だ。
恥ずすぎる。
穴掘ろうかな。
「じゃあまあ、ご飯冷める前に食べよ?」
「まだ運ばれてきてないですよ。」
すっかり空腹のこと忘れてた。
胃が昼寝から目覚めたみたいに急に空腹を訴えてくる。
黙ってろ。
水さえ飲んでれば飯食べなくても一週間は生きられるんだから。
いじわるーいトーアのせいで自分の口がかなり悪くなっていることに茉莉花は気づいた。
けどやっぱりこの人には優しくしたくない。
「ああ。
多分そろそろじゃないかなー。
マリカちゃんがあがってくる前に頼んだし。」
「メイドさんもそうですけど手際いいですね。
トーアさんはなんで無駄に手際がいいんですか。
私の誘拐も手際早かったし。」
用意周到すぎて驚いた。
私なら無理だ。
「そんな物騒な言い方しないでよー。
助けたって言って?
あと無駄じゃないからね?」
さらっと流された。
「はいはい助かりましたありがとうございます。
いや現在進行形で助かってます。」
「すごい素直じゃん。
俺素直な子好きよ。」
「トーアさんの好みを知ったところで興味ないです。
ご貴族のご令嬢方に教えてあげてくださいよ。」
一瞬トーアさんが固まった気がした。
気のせいか。
と言うところで料理が来た。
ちょっと豪華すぎて食べきれない。
「酷いなー。
貴族の令嬢だっていい人ばっかじゃないんだよー。
それならまだ領民と話してた方がマシかなー。」
そういえばトーアさんの中で私は領民なのだろうか。
領民に名簿があれば載ってないのが一発でわかりそうだ。
思ったよりも警戒しないといけない人に出会ったかもしれない。
「ところで、いつもこんな豪華な料理なんですか?
ちょっと食べきれそうに……。」
「無理だったら残していいよー。
むしろ少しは残さないと使用人のご飯が少なくなるからねー。」
なるほど、下げ渡されるのか。
人が食べた後のものなんて、あまりいい気はしないだろうに。
私だったら嫌だ。
「ご心配なく。
旦那様はお優しいのでいつも別でご用意してくださりますから。」
「いえいえ、どれもこれも、美味しいですから。
皆さんにも食べてもらいたいです。」
本当に美味しい。
腕のいい料理人を雇っている。
この人本当に伯爵なんだなあ。
こんなにキツネなのに。
信じられない。
「そう言ってもらえてゼビアも嬉しいだろうね。
あっ、ゼビアって言うのは料理人な。」
「一人だけなんですか?」
一人でこの量を作ったとなると、大変だ。
「だってまあ、人少ないし。
この家の貴族俺だけだよ?」
「態度は全然貴族じゃない……。
いや、ある意味貴族なのか?
思ってた貴族よりのほほんとしてますけどね。」
オブラートに包まずに言うと、お気楽だ。
けどこの人はこの人で苦労しているんだろう。
「俺もちゃんと領主様やって、貴族やってるのになー。
マリカちゃんやっぱ辛辣。」
トーアさんやっぱキツネ。
いや、ちゃんとやってるのはわかるんだけど。
とりあえずご飯美味しい。
最高の昼寝場所ってここなのでは?
やっぱり神様からの啓示なのでは?
休むためにこの世界に移してやったからその屋敷で暮らせって。
やっぱ啓示だってこれ。
けどなあ。
同居人がキツネなのはなあ。
ちょっとなあ。
「なに、悩み事?」
「え?
いや、ちょっと考え事を。」
そう、あなたがいなくて私のお昼寝スローライフは成り立つのかと。
この屋敷が最適なのは分かったけどさ。
家主キツネじゃん。
家主いないと成り立たないし。
家主が稼いでるし。
「なになに、俺にも教えてよ。」
「え、絶対嫌です。」
だってそもそもお昼寝スローライフの話すらしてないし。
あ、いや。
なんかぽろっとこぼしてたな、そういえば。
まあまずは私がこの世界のことをいろいろ知る番だからさ。
情報落としてもらう側なのにたくさん落とすわけには。
「即答だ。
なんでダメなの?
はっ……!
もしや今は亡き家族を想って………。」
「勝手に殺さないでもらっていいですか?」
うちの両親及び弟は多分ピンピンしているはずだ。
私が失踪したことを除いて。
もう知っているのだろうか。
それとも今日はうちに来ていないか?
「え、生きてんのに路頭に迷ってたの?
実家帰らずに?」
「はいはいそーです。
親いませんよ。
親いるのに帰らないなんてバカですよ。
アホですよ。」
もしかしたらキツネ本人がそうだったかも。
ちらりと様子を伺うけど何考えてるかわからない。
この人本当にキツネすぎて掴めない。
「あーよかった俺騙されてなかった。」
「騙すも何も言い出したのトーアさんですけど。
親は?家は?名前は?年齢は?
独り立ちした、なくした、茉莉花、18。
全て答えましたが?
何も騙してないですよー。」
ちょっと捲し立てたみたいで反省。
まあ私親いないって言ったけど死んだとは言ってないんだよね。
基本的にあんまり嘘はつきたくないし。
「たしかに。
むしろ最初騙したの俺かー。」
ごもっともである。
心の中では自分は被害者だと主張する茉莉花であった。




