2.Marika's Slow Life
「うっっっわひっっっろ。」
お屋敷だった。
そりゃ人たくさん必要だ。
独り立ちした結果が大所帯なのか?
「ね?
人多いでしょ?」
ふんふん頷いて同意を示す。
もしかしてこの人は何かの貴族ではなかろうか。
平民にしては家が大きすぎないか。
「俺一応いいとこの坊ちゃんでさ。
言ったろ?
人気だって。」
多分男爵どころではなさそうだ。
そりゃ人気にもなる。
権力と金に飢えた令嬢に。
「おかえりなさいませ。」
「ただいま。
こちら路頭に迷ってた少女マリカちゃん。
しばらくうちの居候になるよ。
世話してあげて。」
「紹介の仕方おかしくありません?
ってしばらく!!?
待ってそれは初耳なんですけど。」
びっくりである。
何勝手に住まわそうとしてんだこの人。
「え?
でも家ないんでしょ?」
仰る通り家なし一文なしである。
「で、でもそんなに迷惑かけるわけには………。」
「迷惑じゃないから安心してよ。
俺も食卓とかいつも寂しいからさ。
話し相手になってくんない?」
断りづらいぞそれは。
この人は大変卑怯なのかもしれない。
「………。
わかりました。
私の仕事と家が見つかるまでです。
それまでなら居候します。」
居候する側がなんで偉そうなこと言ってるんだろう。
というか、仕事ってさ。
のんびりから遠ざかってない?
多分一生この人の下にいれば(いられれば)のんびりできるんだろうけど。
流石にそんなことできないし。
「やった。
俺の勝ち。
じゃこれからよろしくね、マリカちゃん。」
「ちゃんつけられると鳥肌立つんでやめてください。」
どうしてこんな人が人気になるんだろう。
貴族のご令嬢の趣味ってわからない。
「えー、じゃあ俺も呼び捨てしてね。」
「いやトーアさん絶対貴族じゃないですか。
嫌ですよ、貴族呼び捨てにした不敬罪で死罪とか。」
そんなことになったら地獄に落ちてでもこの人を呪い続ける。
あっ、でも死んだ先がどんなところかにもよるかも。
ほら、ぽかぽか暖かいところで永遠お昼寝とか素敵。
「そんなことなんないって。
大丈夫だよ伯爵ごとき呼び捨てにしても。」
とんでもないこと言い出した!!?
伯爵ごときってなんだ!
伯爵ってすごいお偉いさんじゃない?
もしかしなくてもこの辺りの領主様じゃない!?
子爵とかかなあと思ってたら、伯爵!?
「よ、よよよよよよくないですよ!!!
待って今までの態度で不敬罪とかなりませんよね。
どうしよう人生詰んだ?
私のお昼寝スローライフはどこへ!?」
「あれくらいで不敬罪とかマリカ心狭いんだね。
ねえやっぱちゃんづけでいい?
俺が違和感あるんだけど。」
私の心は狭くない。
ラノベとかの貴族たちの心が狭いだけだ。
私の中の貴族といえばラノベの貴族だから。
「え、好きにしてください。
私一般以下の平民なので逆らえないんですけど。」
「やった。
マリカちゃん弱い。」
え、ずっと手のひらの上で踊らされてる?
無性に腹立つんだけど。
こんな人の手のひらの上で踊らされてる?
不敬罪とか構わなくていいかな。
「あと俺が伯爵って知ったからって態度変えないでよ。
俺そういうの嫌だから。」
うわ!
初対面は普通に親切な人だったのに蓋開けたらこんななのか。
ずっと手駒に取られてる気がしてほんとに腹立つ。
「変えませんよ。
え、けどなんか言いくるめられてる気がして癪なので変えていいですか。
でも変えたら伯爵様とかって呼ばないといけないのか。
それも癪だな………。」
「急にひどくない?」
だってすごくムカつくから。
この人なんなんだよ。
人気って言ってるけど、このままならお嫁さんかわいそう。
「トーアさんがモテてるのって伯爵だからとかですよね。
結婚したらお嫁さんがかわいそう。」
「いや、俺イケメンだからさ。
君も第一声そうだったでしょ?
あと地味に遠回しに貶してくるのやめてよ。
悲しくなるよ。」
確かにイケメンなのは否定しない。
私の趣味ではないけど。
チャラ男より普通の人がいい。
「確かに顔の良さは否定しないですけど性格が。
すごーくムカつきます。」
「やっぱり不敬罪にしとく?
衛兵に突き出そうか?」
やばいそれされたら死んじゃう。
「大変誠に申し訳ございませんでしたトーア伯爵様。
え?
なんか言い方おかしい。
トーアさん名字何ですか。」
とりあえず日本人最高の誠意の見せ方、土下座をした。
けどそういえば名字知らないことに気がついた。
貴族って名字呼びが多いし、大事じゃない?
「あはははははは!
あーやっぱ面白いわマリカちゃん。
ちなみに俺はトーアって名前じゃないよ。」
「え。」
え?
嘘つかれてた?
え?
ふざけんなし。
「シュートーア・レイベンでしたー。
本気でトーアだって信じててマジで笑うかと思った。」
うっっっわ。
クソムカつくなにこいつ。
にしてもゲラすぎないか。
しょっちゅう笑うじゃん。
「〜〜〜!
もう土下座してやんない!
自分でトーアって名乗っておいてそれは酷いです!
まったく。」
これからシュートーア様って呼んだらいいのかな。
でも様付けで呼びたくないな。
シュートーアも長いし。
けど嫌がらせにはなるのかな。
「土下座って何?」
「え?
シュートーア様知らないんですか?」
結局はシュートーア様にした。
「え、普通にトーアでいいよ。
むしろやめてよ。」
「私からの嫌がらせです。
甘んじて受け入れてください。」
どうしようずっと待たされてる使用人の方達が可哀想なんだけど。
「えー、マリカちゃんが俺をいじめるー。
これは報告するしかないかなー。」
「権力を盾にするのやめてもらえませんかね。
………もー、トーアさんでいいんでしょ。
さっきからずっと使用人の方達困ってるんですけど。」
こいつなんなんだよほんとに。
狐みたいだ。
ちょっと糸目気味だし。
「やった。
また俺の勝ち。
三勝ゼロ敗。
執事長部屋は?」
「用意できております。」
何勝手に戦ってんだあの人。
なにが三勝ゼロ敗だ。
こちとらゼロ勝やぞ。
「じゃあマリカちゃんお風呂行ってらっしゃーい。
ユウとミレーお願い。」
「「かしこまりました。」」
え?
急に風呂?
「いや、家主から入るべきでは?」
「んー?
俺も入るよ?」
は????
あっ、なるほど。
それぞれの部屋に風呂がついてるパターンか。
さすが伯爵。
金のかかるものをたくさんお持ちで。
「そっか。
平民の家には風呂も珍しいんだっけ。」
この世界の平民不憫すぎる。
どうやって風呂入ってるの?
もしや風呂入ってない?
そんなまさか。
汚すぎる。
私だったら絶対嫌だ。
寝て起きて風呂入ってご飯食べて何かしてご飯食べて風呂入って寝ての生活をしたい。
「じゃ、おっきいところ使っていいよ。
その方が贅沢でしょ?」
私に贅沢させて何がしたいんだこの人。
ただの人助けにしては怖すぎるんだが。
私対価求められないかな平気かな。
「助けてやったんだから言うこと聞け」にならないかな。
このひとならやりそうじゃん。
「助けたから屋敷で働いてねー」とか。
なさそうでありそうなのやめてほしい。
嫌だよ。
私ゆくゆくは一人で森でスローライフするんだから。




