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転移の法則〜二十歳で始まりいつか終わる〜  作者: 水たまりに傘と青
檜田 茉莉花の桧暮らし(願望)〜家主によって邪魔される居候のスローライフ〜
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1.Marika's Slow Life

 高校三年も終わりに近づき始めた残暑の11月。

 どうにも最近秋がなくなりかけている気がする。


 私は秋が一番好きなんだけどな。


 などと考えながら、檜田(ひだ) 茉莉花(まりか)は駅に向かういつもの道を歩いていた。

 今日は塾もないので、閑散とした茜の街に時代遅れなローファーを響かせている。

 近頃は遅くまで塾があるせいで、街灯や店の灯りに灯されたところしかあまり見れていなかった。


 道を曲がり気の向くまま進んだ先はどこか懐かしみを感じる古い商店街。

 あまり賑わいもなく、シャッターの降りた店が多い。

 心なしか寂しく感じる。

 やってる店にでも、少し寄り道して帰るのもいいかもしれない。





 シャッターの開いた暗い家電屋。

 照明はついていない。

 このままだと盗られてしまいそうだ。

 けれど、店の中にあるのは一昔前のものばかり。

 ショーケースに並ぶ古いテレビたちが暗い画面を茉莉花に向けていた。

 そこに映る自分は、疲れた顔をしていた。

 だからこそ、塾のない今日はゆっくりしようと思った訳だけど。


 しばらく画面を眺めていた。

 するとだんだん目の前が真っ暗になって、平衡感覚がなくなるような感覚がした。

 まるで自分も暗く染まったような感覚になる。

 その感覚が不快になって、目を逸らした。


 もう少し奥に行った先の精肉店でコロッケでも買うかな。


 そう思ったのに、目を逸らした先は商店街なんかじゃなかった。

 どこかわからない、石造りの路地。

 大きな通りも見当たらない。

 見慣れない風景に不安を感じてひとまず足を踏み出した。





 何度も何度も曲がって、時に階段を登り、時に屋根を渡り、何分も歩いてやっと路地を出た。

 その先で茉莉花を待っていたのは、商店街ではなかった。

 いや、ある意味商店街と言えるだろう。

 日本人が見慣れたような商店街ではなく、アニメにあるような露店だらけの商店街だが。

 話している言葉は日本語と同じ。

 もしかしたらご都合展開でそう聞こえるだけかもしれないけど。





 さらにしばらく歩いて、ここが日本ではないことは確定した。

 というより、地球ですらないかもしれない。

 日本語を公用語にする国もあるらしいから、そう言うところを期待したけれど。

 ちなみに日本語を公用語にするのは、パラオのアンガウル州らしい。

 聞き馴染みのあるような言葉も通じるのだとか。

 学校、とか。

 テストのことはエラバイというらしい。

 テストは一度燃え尽きればいいと思う。


 そんなことはともかく、つまりここは異世界ということらしい。


「らしい?

 え、これからどうするの?

 スマホは?

 使える?

 使えないねえ。

 いや使えはするけど圏外だねえ。

 え、わたし速攻死ぬくない?」


 こういう時はパラオ語だとアタマカトリセンコーというらしい。

 頭が蚊取り線香のようにぐるぐるする感じの意味らしい。

 つまり今の茉莉花の脳内だ。


「ちょっ、ちょっまっ………。

 え??????

 異世界?

 は?

 のんびりは?

 え?

 異世界でのんびりしろってこと?」


 もちろん神様からの返事なんてない。

 つまりだな。

 わたしはここにポンと放り出された。

 そして今私が求めているのは、ゆったり昼寝できる最高の環境。

 思えば、異世界には受験も塾もテストも何もないのだ。

 最高に自由ということでは?


「わたしに思う存分休めっていう神様からの啓示?」


 状況が整理できたらまずやること。

 所持品やこの世界の仕組みの確認。

 仕組みとは言っても、例えばラノベみたいに


 『ステータスオープン!』


 とかそういう呪文がないか探すだけだけど。


 まず、通学鞄を見よう。

 教科書やノート、筆箱、ファイル、財布、スマホ、折りたたみ傘………。

 役立つもの皆無。


 次にステータスウィンドウとか探そう。

 右手の人差し指と中指以外握って縦に振る。

 失敗(FAIL)。

 左手でやる。

 失敗(FAIL)。

 人差し指で丸を描く。

 失敗(FAIL)。

 人差し指と中指で丸を描く。

 失敗(FAIL)。

 それぞれを左の手で。

 失敗(FAIL)。


「手の動きとかないやつですかこれ」


 やはり呪文か?


「ステータスオープン!」


 失敗(FAIL)。


「ステータス!

 ウィンドウ!

 ひらけごま!

 オープン ジ ウィンドウ!

 顕現せよ!

 アピーア ステータス!!」


 全て失敗(FAIL)。

 もしやないのでは。

 ステータスウィンドウというものがないのでは。


 通行人の冷たい視線を浴びながら途方に暮れて座り込む。

 時々同情めいた視線を送る人もいるけど、通り過ぎていく。

 お腹空いてきた。

 いつもなら夜ご飯の時間だろうか。

 通行人も減っていく。


「今晩の宿どうしようかなあ。

 お金も日本円しかないからなあ。

 通貨日本円だったりしないかなあ。」


 流石に道端で寝たくない。

 うずくまって膝に顔を埋めていると、ひとつの足音が目の前で止まった。

 「なんだ冷やかしか?」と思いながら、顔を上げてその人を見る。


「えすっごいイケメン…。」


 思わず口からぽろっと溢れてしまった。

 慌てて立ち上がって謝る。


「御免なさい!

 お、驚いてつい口が………!」


「ふはっ。あははははは!」


 何かおかしなことを言っただろうか。

 それとも直前に何か変なものを食べていたのだろうか。

 ポカンとした顔で見上げていると、不意に目があった。

 笑って出た涙を拭いながら、その人はまた笑う。


「えっと、あの………。」


 人の目も気にせずひとしきり笑った後、ようやくその人は話し始めた。


「わ、わるい。

 あんまり必死に弁明するもんだから、面白くって。」


 失敬な。

 割と真面目に慌てたのに。

 面白いの一言ですますなんて。


 そう考えている間にもまた思い出したのか、くすくすと笑う。

 アッパーを決め込むべきか………。

 空手歴8年(だった人)を舐めないでほしい。


「君さ、なんでそんなとこで座ってたの?

 親とか、家は?」


「もう独り立ちして、親からは離れてる。

 家は…………。

 ついさっきなくした。」


 間違ってはいまい。

 ついさっき、この世界に来たから帰れなくなった。


「…………。

 俺トーア。

 君名前は?」


 日本人にいても驚かない名前だ。

 漢字で書くとしたら「冬亜」だろうか。


「茉莉花です。

 檜田茉莉花。」


「へえ、不思議な名前。

 マリカちゃんね。

 何歳?」


 初対面なのに距離が近い。

 嫌ではないけど、なんというか驚く。

 あと、不思議な名前って言われたけどそんなに変わらなくないか。

 トーアもマリカも同じだ。


「18歳です。

 トーアさんは?」


 年齢だけ見ると、自分って大人だなと思う。

 実際一人暮らしだし、生活も大人かもしれないが。

 一人暮らしといっても、親のご近所のアパートだけど。

 合鍵を渡しているから、母親が急に来ることも少なくなかった。


「18か、まあまあ大人かあ。

 俺23。

 まだまだ若いよ。

 人気だから早い者勝ちな。」


 いや別にいらないし………。

 でも、5歳も離れてたんだ。

 もう少し若いかと思った。

 若い人って年齢が掴みづらい。


「家ないなら、見つかるまでうち来る?

 こんなとこで座ってるってことは、宿屋行けるほどお金ないんでしょ。」


 誠に図星である。

 お言葉に甘えてしまおうか。

 いや待て茉莉花。

 相手は男ぞ。

 油断大敵なり。


「ですが、さすがに………。」


「ご飯も食べてないでしょ。

 ………あっ、俺が男だからか。

 安心してよ、うち人多いからさ。」


 空腹なのもバレてしまった。

 というより、家に人が多いって。

 23にもなって独り立ちしてないのかな………。


 結局、お邪魔することにした。

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