Aoi's Night Walking ⒈
湖面に映った満天の星空。
少しの風がそれを台無しにしていく。
でも風がやめば、ほらまた。
まだまだ子供でありながら、実に気ままな暮らしだ。
どうしてかって?
それはわからない。
補導時間にギリギリならない夜九時半。
コンビニに行った帰り。
星の見えない真っ暗な空を見ていた。
都会あるある。
歩き出そうと前を向いた。
けれど、14歳少女、薄紅 葵は見知らぬ小屋の前にいた。
森の中。
湖の上。
そんなところに一軒の家が立っていた。
そこに住んでいるのは魔女だとか。
近くの村ではそんな言い伝えがある。
なぜなら彼女は老いないから。
この前いつの間にやら代替わりしてたそうな。
二人目がいつからいたのかもわからない。
ある青年が二人目を初めて目撃してから5年。
全く姿が変わっていなかったらしい。
恐ろしや。
怖ろしや。
一度村に二人目の魔女が来たこともある。
その姿は一見普通の少女。
でもあれは人間なのか?
マナの塊。
まるでそう。
マナの塊のよう。
魔女の周りはマナが濃すぎる。
恐ろしや。
怖ろしや。
これは、人畜無害な魔女の、とある夜の話。
私が異世界にきて5年。
私にはルーティンがある。
毎晩散歩をするのだ。
これは地球にいた頃と同じ。
5年前にここにきてしまってからも変わらない。
散歩コースは変わったけれど。
“湖の周りを一周しよう。
この湖は大きいから。”
湖の周りを歩き始めたのは、そう思ったのがきっかけだった。
でも毎日同じコースじゃ飽きる。
もう5年も経っているから、何回かルート変更はした。
森に入ってみたり。
近くの村を覗いてみたり。
おかげでこの森のことは把握している。
まあ全部とは言わないけど。
昼間は基本的に森に入るし。
食べられそうな葉っぱを摘んだり。
木の実をとってみたり。
卵を盗んでみようとも思ったこともある。
野生の卵は思い直したけど。
村を訪れたこともある。
なんでかわからないけど怖がられた。
私が老けないのがそんなに怖い?
まだ若いんだからすぐには老けないって。
老けるって言うか、成長っていうか。
身長だって伸びないけど。
一応地道に伸びてはいる。
毎年数ミリは。
伸びるたびに重力に潰される気分。
まだまだ物理的に伸び代はあると思うんだけどな。
「ゆーーやーけーこーやーけーでーひーがーくーれーてーー。
やーーまーのーおーてーらーのーかーねーがーなーらなーーい!」
山と山の間に日が沈んでいく。
でもあの山にお寺なんてない。
というか宗教とかあるのかな。
せいぜい言い伝えくらいか。
「おーーてーてーつーなーいーでーみーなーかーえーろーー。
かーらーすーとーいーーっしょーにーかーえーりーまーしょーー。」
私手を繋ぐ相手いないよ。
てか帰れないし。
いやー。
来たばっかの頃は泣いたなー。
もう今なんかここにずっと住んでたみたい。
少なくとも5年はここに住んでるけど。
「この小屋の家主さんも帰ってこない。
勝手に私の家にしてるけどいいのかなー。
まあいいか。」
この家は大変便利なことに色々減らない。
埃もたまらなければ蜘蛛の巣も張らない。
食べ物や家のものは腐らない。
本にも虫食いひとつない。
魔法みたいだ。
でもこの世界に魔法はない。
でも、魔法ではないけどあるものがある。
それは…………。
「ステオープーン。」
ステータスである。
どう呼んでも出てくる。
そしてステータスに書かれているそれ。
スキルだ。
レベルはないらしい。
私のスキルは
「ああ、こりゃ私だなあ」
と納得するものばかりだった。
【スキル】
〈適応:どんな環境にも瞬時に適応できる。〉
〈散歩:歩くたびにマナを生み出す。〉
〈起床:アラームがかけられる。〉
〈就寝:寝ようと思えばどんな環境でもすぐに寝られる。〉
「うーん、寝ろってことだよねえ。
寝てるけど。
散々寝てるけど。
それはもう至福なくらい寝てるけど。
なんなら散歩もしてる。
でもマナがあるからなんなんだ。」
そこがずっとわからないでいた。
確かにこの小屋の目の前にある湖。
私がこの周りを散歩し始めてからすごい幻想的になった。
水も澄んでるし。
仄かに光ってるし。
でも幻想的になったからなんなんだ。
私にとってはただの生活用水だぞ。
確かに最初の頃に比べて美味しくなった。
水が。
ただそれだけだ。
あ、でも怪我した時に治るのが早いとは感じる。
あとやけに動物が懐いてくる。
でもそれだけだ。
「そろそろ散歩の時間だ。」
黄昏の始まるくらい。
夕方と夜の間。
ただいまと、おかえりの後に。
私はいってきますをする。
何分でも何時間でもいい。
かけられるだけ時間はかけよう。
毎日が楽しくなってしまう。
そのうち湖に遊歩道でも建てる?
でもここ深いから無理だな。
中にモンスターでもいるの?
見たことないけど。
「今日で5年が終わる。
明日から、6年目。
一個の節目だね。
何かあるかな、今日は。」
ケーキは食べれなかった。
卵ないし。
そう卵がない。
鶏でも飼うか。
村で譲ってもらう?
ありだな。
クロゼットに入ってた服を拝借。
これが新品みたい。
ほんとに綺麗だ。
まあ多分家同様魔法か何かがかかってるんだろう。
くるぶしの上まである長いワンピース。
腰の上でベルトを締める。
一応護身短剣。
なんで物騒なものを放置してたんだろう。
そしていつものローブ。
住んでる場所と言い、魔女みたい。
鍋で煮込んでるのはただのスープだけど。
「それじゃあいってきます。」




