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転移の法則〜二十歳で始まりいつか終わる〜  作者: 水たまりに傘と青
檜田 茉莉花の桧暮らし(願望)〜家主によって邪魔される居候のスローライフ〜
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12/30

12.Marika's Slow Life





 あれから約一週間。

 茉莉花は地球への帰還も、スローライフも、独り立ちも、叶わずにいた。

 昼寝はできている。

 桧かおるログハウスで日向ぼっこしながらという理想とはかけ離れた場所で。

 窓から差し込むわずかな陽光の他に光源のない部屋。

 ランプとかつけていないだけだが。

 お日様の匂いなんてしない、甘い匂いのする布団。

 多分毎日香水かけられてる。

 知らんけど。

 ラフに半袖短パンなどではなく、無駄に長いひらひらの寝巻き。

 あんまりひらひらは好きじゃない。

 でも女性といえばひらひららしい。

 さすが異世界。

 そして起きた時に何故か布団の横に屈んでこっちを見ているキツネ!!

 朝もいたんだけど!!


「なんでいるんですか!」


 とりあえず枕を投げつけておいた。

 この人はすぐに人の部屋に入ってくる。

 たまにとんとんしてくるんだがそれで起きることもある。

 いや寝てる人のこと勝手に触るなよ。


「マリカちゃんの寝顔見てて飽きないんだもん。

 あとこの部屋なんか空気いいじゃん?

 マナをたっぷり含んでて。

 俺もここで寝たいくらい。」


「え、絶対嫌です。」


 マナに関しては心当たりがある。

 二度寝スキルとかいうやつだ。

 マナに変えるからなんなのか、いまだによくわかっていない。


「あ、マナってわかる?」


 異世界人カミングアウトをしてから二人の時ならこうして色々教えてくれる。

 人目を気にしないと思ってたけど、大事なことの時は気にするらしい。

 常に気にして欲しい。


「わかんないです。

 スキルの説明に、マナがどうたらとは書いてあるんですけど。

 マナがなんなのかは書いてません。」


「へー、なにそれ。

 スキルの説明?

 なんか本でもあるの?」


 やっぱり他の人には見えてないんだ。


「いえ、私がステータスオープンと言えば現れる青色の板の話です。

 みんなにはスキルとかないんですか?」


「ああ、ステータスか。

 マリカちゃんにもあるんだ。

 俺にもあるよ。

 スキルは俺三個くらい。」


 私のスキルは思ったより多かったらしい。


「んでまー、マナってのはだな。

 スキルを使うのに必要なんだよ。

 それと、マナが豊富なところだと怪我の治りが良くなるよ。」


 じゃあ怪我人は私の横に寝かせておけばいいのでは?

 でもあんまり嫌だな。横で死ぬかもしれない人が寝てるの。


「そうなんですねー。」


 つまりは永久機関じゃない?

 私が寝ることによって成り立つ。

 最高だ。

 のんびりお昼寝スローライフに近づいた。

 でもまあ、衣はともかく食住にあてはないわけだけど。


「ねー、青い板は俺もあるからわかるんだけどさー。

 スキル説明にマナに関して書いてあるって何?」


 説明したほうがいいのかな。

 マナに変換を?

 うーん、問題にならないかな。


「見てもらったほうが………。

 いや!

 やっぱ自分で言います。」


 あの睡眠に関するスキルの数々を見られたら笑われる。

 絶対に。

 笑わなかったら偽物を疑う。


「えー、急にどしたの?」


「ゼッッタイ笑われるんで。

 そんななら見せたくないです。

 見せ方も知らないし。」


 でもさ。

 私の願望を話すちょうどいい機会になるのでは?

 でも笑われたくないしなー。

 絶対ずっと擦ってくるしさー。

 このキツネはそういうやつだ。


「右下に点が3つあるところ押せばいいよ。

 いろいろメニューあるから。」


「見せないって言ってますよね!?

 えーっと。

 出でよステータス〜。」


 は!?

 出たんですけど!?

 なんで!?


「これ何言っても出るの!?

 え、一旦しまって………。

 ひ、ひらけごま。

 ………出た!!」


「何一人で騒いでるの?

 なんなら言わなくてもいいし。

 自分で出そうと思いながら何かするだけで出るよ。

 俺はいつも指パッチンしてる。」


 と言って指パッチンする。

 虚空を見つめてるから、多分ほんとに出てる。

 なんで??

 え、じゃあ私は右人差し指と中指でやるか。

 ゲームとかによくあるやつ。


「おー!!

 出たー!!

 初めて知った!

 最初呼び出そうとした時全然出なかったのに!」


 そういえば、最初はジェスチャーもボイスコマンドもダメだった。

 なんでお風呂で使えるようになったんだろう。

 もしかして、この世界の「人」に触ったから。

 とか?

 待ってよ。

 人に触りさえしなければ、帰れてた説。

 それか、あの路地にはテレビがある説。

 帰れるんじゃない?

 地球に。

 日本に。


「そうそう、これでしたっけ。

 えーっと。

 見ている夢をマナに変換する。

 らしいです。」


 帰らなくて、いいや。

 今が一番楽しい。

 これまで生きてきた中で、きっと。

 だから、いいや。

 まあテレビあるか探したいけど。

 あったら壊す。

 地球に行く人がいないように。

 地球から来る人がこの先出ないように。


「えー、超便利すぎるじゃん。

 それなんてスキルなの?」


 言いたくねー。

 絶対言いたくねー。


「言わないとダメですか?」


「ほら、俺も一個教えるからさ。」


 言いたくねー。

 興味あるけど言いたくねー。

 言ったら負け。

 言ったら負け。


「嫌です!!」


「お願い!

 そこをなんとか!

 気になるじゃん!!」


 嫌だ。

 絶対言わない。

 ぜーーったい嫌だ。


「いやですよ笑われる!」


「笑わない!!

 笑わないからお願い!!」


 なんでそんなに気になるんだよ!

 笑わないとか言って笑うくせに!


「絶対ですよ?

 表情ぴくりとでも動かしたらチクりますよ?」


「何を?」


 お忘れだろうか。

 私は、昼寝していたのだ。

 そして昼寝から覚めたらキツネがいたのだ。

 つまりこいつは今、仕事をサボっている!


「仕事サボって人の昼寝を覗きにきたこと!

 何回も「こらー!」ってされてますよね!

 ベリルさんとマイラさんから!

 今頃お二人が探してるかもしれませんよ!?

 なんなら代わりにやってくれてるかもしれませんよ!?」


「え、怒られるの言い方可愛い。

 「こらー!」ってされる可愛い。」


 ムカっときた今。

 呼ぶか。

 ちょっとドア開けて叫ぼう。


「待って待って待ってごめん!

 ごめんだから許して!

 褒めたの!」


「褒めてない!

 笑ってた!

 …………はあ。

 ともかく、表情ぴくりとでも動かしたら呼びますんで。

 それでもいいなら見せます。

 あっ。

 罰足りなさそうなので増やします。」


 すでにニコニコしている。

 いや、ニヤニヤ?

 なんの罰にしようかな。

 しばらく散歩についてくのやめるか。


「えー。

 なんでよー。

 ごめんってばー!」


「表情ぴくりとでも動かしたら散歩ついてくのやめます!

 しばらく!

 あと全力でベリルさんとマイラさん呼びます!

 わかりましたか!」


 私この人のお母さんじゃないんだけどな。

 お姉ちゃんでもなければむしろ5歳年下なんだけど?


「わかった!

 表情ぴくりとでも動かさない!」


 幼稚園児かよ!

 23歳のいい歳したおにーさんだろ!


「よくできました。

 ちなみに今だけじゃないですからね?

 スキルに関して人に言ったりとかダメですからね?

 あとこの話が終わった後に笑うのもダメですよ?」


「酷くね?

 それはちょっと酷くない?」


 酷くない。

 何笑う前提で話してるんだこの人。

 笑うなよ人のスキルを。

 まったく。


「えっと、右下でしたっけ?

 あー、あったこれか。

 ………。

 笑わないでくださいよ?

 これです。」


 可視化できただろうか。

 多分できたはずだ。

 手にとって読んでいる。

 今のところ、真顔。

 ………今!!

 ニヤッとした!

 急げ!!


「あっ!

 今のなし!

 ちょっとマリカちゃーん!?」


「ニヤッとしましたもん!

 なしじゃな………!

 へぶっ!!」


 すごい変な声出た!

 ベッドに座ってたから、移動しづらくて手こずった。

 おかげで足が使えない。


「ベリルさーん!マイラさ………!」


 口も塞がれた!

 こいつ自分で笑わないって言ったのに!

 了承してただろ!

 ずるいぞ!


「待ってほんとにごめん。

 ちが、不意打ちだって。

 ねえチャンスもう一回!」


「んーーーー。」


 喋れませんけどー。

 あれ、足音する。

 ベリルさん来た!?


 コンコンコンとドアノック。

 この家の人たちみんな律儀。


「マリカ様どうかなさ………。

 ほぇ、失礼しました!!」


 どっか行っちゃった!

 帰って来てー!

 それかベリルさんたち呼んできたー!


「…………。

 側から見たら結構やばいなこれ。

 俺がマリカちゃんの口塞いで上に乗ってる構図。」


 え。

 あ、そっか。

 え。

 え???

 え?????

 なっ。

 クソはず!

 それ見られたの!?

 というか何してんの!?

 早く退いて!?


「ねえ。

 ベリルとマイラ来ると思う?」


 全然離してくれないので頷いておく。

 離した瞬間に叫ぶとでも思ってるのかなこの人。


「だよねー。

 離しても叫ばない?

 叫ばないなら離す。」


 離さないままベリルさんたちが来たほうがトーアさん的にはやばいのでは?

 まあ離されたら走ってドア開けて叫ぶけどね。

 いや、結構うるさいか。


「ねえ、足音聞こえない?」


 確かにちょっと普通より数の多い足音が。

 この部屋に来てるのでは?

 ベリルさんたちが来たのでは?


「こちらにいらっしゃったのですね旦那様。

 お仕事に戻られま………。

 えぇ????

 どういう状況ですか?」


 結局最後まで私の口は解放されていなかった。

 それを見た全員が唖然。

 約数名額を抑え、約数名目を逸らす。


「あっ。

 やあベリル。

 いや、これはだな。

 マリカちゃんが叫ぶっていうから………。」


「言い訳は後ほど聞かせてもらいますね。

 ひとまずマリカ様から離れてください。

 しばらく接近禁止にしますよ。」


 大人しく離れて行った。

 そしてベリルさんの方へ歩いていく。

 だいぶしょげてる。

 やっぱりしょげると犬だ。


「ちなみにトーアさん。

 しばらく散歩の同行もしないお約束でしたよね?」


「酷いよー!

 あれはマリカちゃんが悪いでしょー!」


 責任転嫁はやめてください。

 約束を破ったのはトーアさんなのに。

 ちゃんと予め言ってたし。


「トーアさんが悪いですね。

 約束を破ったのはトーアさんですよ。」


「そんなー。

 散歩が暇になるー。

 へクスはなそー?」


 それ護衛隊長さんじゃないっけ。

 気軽に話せる人なの?

 いつも全然見えないけど。


「しばらく寂しい思いをしているといいですよ。

 護衛対象が護衛から逃げ出してしまった分の罪も罰が必要ですから。」


「あんまりだー!」


 連行されていった。

 自業自得でしょ。

 まったくもう。


「マリカ様何もされてません?

 大丈夫ですか?」


 メイドさんはあの人のことをなんだと思ってるんだ。

 さすがのトーアさんでもあの状況じゃ何もできないでしょ。

 何もの中身によるけど。


「平気ですよー。

 起きたらトーアさんがいてからかってきただけです。

 ゼッッッタイ笑わないって言ったのに…………。」


 まだ密かにメラメラとしていた。

 もう二度と見せない。

 絶対に。

 今度はどんなに強請られても見せない。

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