10.Marika's Slow Life
「えー、なんで寝てんの?
どこでも寝るのこの子?
すごいね逆に。
あ、気絶とかじゃないよね?」
トーアさんの声する。
何時間経ったのかな。
てか、なんでトーアさんの声がするの?
「あの女のために、どうしてそこまでするのです!?
平民でしょう、あの女!」
「貴女がやったのは立派な犯罪ですよ。
私が気に入った人間を助けて何が悪いのです?
それに、彼女は領民ですよ。
政治問題にも発展し得ますが。」
ヴィンソン子爵令嬢だ。
相変わらずの金切り声だなあ。
なんか揉めてる声するや。
もうちょっと寝ていいかな。
全然起こされないし………。
「おーい、マリカちゃーん?
起きてるー?
起きてー。」
「んふふんふ」
目を開けながらそう言ったけど、聞き取れてなさそう。
早くこの布外してよ。
てか、一応起きてますって言ったんだよ?
そんなキョトン顔で見ないでよ。
「起きてるならいっか。
今外すからねー。」
口より先に手足の方を外してください。
そしたら自分でなんとかなるはずなんで。
「結び目堅すぎー。
ちょっと布切るからねー。」
えっ、こわ!?
顔切れない?
切れたら寝たらいっか。
回復するらしいし。
え?
待ってそれ不審に思われるルートでは!?
絶対動かない。
「よしOK。
次手いくよ?」
やっと口が開放された。
使ってないけど、妙に疲れたな……。
ずっと固定されてたから?
「はいじゃあ次足ねー。」
結局全部切るらしい。
そのナイフは携帯しているんだろうか。
さすが貴族。
護身用ナイフか……。
「おしまい。
痛いとかない?」
「平気です。
わざわざこんなとこまで来てもらって。
もうこれ一生分の貸ですね。
まだ出会って二日目なのに最悪だ。」
家にご飯にお風呂にお金に……。
ほんとに返しきれない恩だ。
「あー、ごめんそっか。
三日目だよ。
遅くなっちゃったよね、ほんとごめん。」
「え?」
三日目?
2日目の昼だったよね、私誘拐されたの。
あれからずっと寝てたの?
「いや、助けてもらった側なんで別にいいです。
もうそんなに経ってたんですか?」
「そうよ。
せっかくわたくしが何回か来たのに寝ているんだもの。
本当に一度顔でも切りつけて………。
ご、ごめんなさい。」
え?
切りつけられたの?
痛くないけど。
「未遂で済んだのでまだよかったですが……。
女性なら、その事の重大さがお分かりでしょう?
ひとまず貴女は、騎士団に引き渡します。」
騎士団!
すごくファンタジー!
ここに来てやっと!?
見てみたーい!
「お、大事おおごとではありませんこと!?
騎士団だなんて!」
「伯爵邸への不法侵入。
誘拐及び監禁。
詰所では反省されなかったようなので、しかるべき処置では?」
やっぱ伯爵モードのトーアさんこわ……。
絶対敵に回したくない。
でもさ、相手は子爵令嬢でしょ?
最悪子爵家全体を敵に回すんじゃない?
そうなったら、さすがのトーアさんでも………。
「じゃあマリカちゃん帰ろっか。
途中でどっかでご飯食べよ。」
「食べます。
あっ、そういえば。
もらったお金………。
カバンがどこにあるのかわからなくて。」
私は持ってなかった。
つまり、置いていかれたか、持ってこられたか。
「あー、あのカバン?
なんかそこに置いてあるよ?」
三メートル右……。
すごい近くにあるじゃん。
慌てた自分がバカだった。
「なんか、誘拐されて監禁されたとは思えないなあ……。
ほぼ寝てただけだし何もされてないし。
結局目的ってなんだったんですかね?
トーアさんを誘き出しただけでは?」
「もっと何かするつもりだったんじゃないかなー。
何かは知らないけど。
例えばさっき言ってたみたいに切り付けるとかー?」
怖すぎる。
絶対嫌だ切りつけられるなんて。
「ま、なんもなかったしいっか。
ところで、ここどこなんです?」
「ん?
領都の次に栄えてる街。
クエントの古い民家の地下室だね。」
へえ、あの街じゃないんだ。
そりゃ馬車にも乗るか。
地下室っていうのが周到だと思う。
私が叫んでも外に聞こえないでしょ、全然。
「服ならこっちのがマリカちゃんの趣味に合うかもね。
ここで買ってこっか。」
なんでこの人こんなに優しいんだろ。
なんでほんとにここまでするんだろ。
「ありがとう、ございます。
…………。
どうして、わざわざこんなとこまで助けに来たんです?
知り合ったばかりなのに。」
貴族の顔してる時みたいな、冷たい目。
目だけ、笑ってない。
なんでそんな顔するの?
ほんとにこの人、よくわからない。
「言ったでしょ。
マリカちゃんいなくなると俺話し相手いなくなるんだって。
だから俺は何があっても助けに来るよ?
どんなとこにいてもね。」
怖すぎる。
なんだその執着。
話し相手って理由だけにしちゃ、重すぎる。
…………。
そろそろ、言ってもいいかな。
早いかな。
けどさ。
チャンスは今しかないと思うんだ。
「トーアさん。
お話があります。」
「何?
そんな改まって。
珍しいね。」
なんだ普段はしっかりしてないと言いたいのか。
「トーアさんにだけ、話します。
信用できる人が、トーアさんだけだし、トーアさんなので。」
「理由になってないけど。
………。
護衛も出たから、安心して。」
だってそうとしかいえない。
ユウさんやミレーさんに言えるかと言われたら、頷けない。
それと気遣いができすぎるこの人。
「他に言いようがないんですもん。
あとありがとうございます。
…………。
私、この国の人じゃありません。」
「うん。」
反応薄くない?
最後まで聞くよって、意味?
「この世界の人でもありません。」
「……うん。」
流石に驚いたかな。
顔を見たら、真剣な顔してた。
ちょっと笑う。
「いわゆる異世界人なんです。
あの日に、気づいたら路地にいました。」
「うん。」
人の話聞く時は、思ったより真面目なんだな。
ちょっと見直した。
「………。
何も言わないんですか?」
「何か言って欲しいの?」
ぐ。
そう言われると言葉に詰まる。
「君が領民じゃないことも知ってた。
家を無くしたんじゃなくて、もともと家なんてなかったのも。
君の親らしき人が死んだ記録もなかった。
君が何者なのかは、それでも何一つわからなかった。」
「…………。
はい。」
全部知ってるだろうとは思ってた。
領主だから、簡単に調べられる。
でも、態度が変わらなさすぎてほんとに調べたのか疑ったけど。
「俺が思ってたより、大変な思いして来たんだね。
何一つ知らない場所で、どんな思いだったか。
俺があの時君を助けたの、後悔してないよ。」
「………はい。」
確かにこりゃ、モテるわ。
前に、ご令嬢の趣味は変わってるって言ったけどさ。
全然日本人と同じかも。
「ほんとに、うちを出てくの?」
「……はい。」
どうして、急に。
「そっか。
家とか、手配するよ。
働かなくても、お金もある程度は融通する。」
「良くないですよ、領主様?
そんなことしてちゃ。」
そんな援助は受ける気もない。
そんな卑怯なことするなら、自給自足する。
それか、勝手に働く。
だって、申し訳ないし、トーアさんにも立場がある。
私だって甘えてちゃいけない。
「自分のことは自分でできますか………。」
「マリカちゃんさ。
貴族になる気ある?」
何言ってんだこの人?
なりたいわけないじゃん、面倒くさそう。
「いや、別に………。」
「………。
そうだよね。
だいたい知ってた。
ごめん頭がぼんやりしてたかも。」
じゃあなんで聞いた。
どうしたのかな。
元気ない?
「帰ろっか。
そろそろお昼だよ。
せっかく朝から出て来たのにさ。」
「あ、朝?
いつここだってわかったんです?」
いつもの笑顔に戻った。
でもやっぱり元気ないよね。
「今日の早朝。」
「それまでずっと探してたんですか!?」
もしや徹夜じゃなかろうか。
体に悪い。
「まあね。
寝不足だよ。」
「寝不足どころじゃなく寝てないでしょ。
ちゃんと帰ったら寝ましょうね。」
今日くらい、仕事サボってもいいでしょ。
どうせ午前は仕事してないんだし。
「えー、でも仕事あるよ?」
「今日くらいサボってもバチは当たりません。
私が保証します。
その代わり、明日からはヴィンソン子爵令嬢とか、忙しいですよ?
多分ですけど。」
いろんな後処理に追われるだろう。
私も無関係ではいられない。
居候の分際で、だいぶ迷惑をかけた。
早く独り立ちしなければ。
「そうだったー。
大変なのが残ってたー。
騎士団に丸投げしたい……。」
「当事者なんで無理ですよ。」
私も。
明日は忙しいかもしれない。
「じゃあマリカちゃんも一緒か。
ならまだ頑張れる。」
「基準どうなってんですか。
全く………。」




