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紛異者  作者: ソリアド
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第六話 月の想い出

ゴールデンウィーク2日目!

「おい秋良、そろそろ帰るぞ」

「……あぁ、分かった」

(え、こんなに時間経ってたのか……)


 秋良は自分の腕時計を確認する。その針は夜の9時を指していた。

 あれから秋良はハグレに関する本を見つけては読んで、見つけては読んでを繰り返していた。だが、そのほとんどが初めに読んだ図鑑のようなものばかりだった。

 得られた情報といえば、ハグレの中には悪さをしない者もいるということだけだ。だが秋良はそのことを信じてはいない。初めて遭遇したハグレがあれだったのだから仕方のないことだろう。

 しかし、そんなことは些細なことで、秋良にはもっと気になることがあった。


(ハグレがタイトルにある本には必ずアノニモスの名前がある。このアノニモスって一体何者なんだ?)


 実は秋良の読んだ本の作者はすべてアノニモスと記載されている。一人の作者が同じようなジャンルの本を何冊も出しているというのは別に不自然なことではない。だが、今回に至っては違う。

 今回秋良が読んだ本はすべて内容が酷似していた。ところどころに違う内容が入っている場合もあるが、9割はどの本も同じであった。そんな本を何冊も出していても作者の得にはならない。

 秋良にとってはそれが不思議でたまらなかった。


 もう少し調べたい気持ちもあるが、もう図書館を閉める時間らしく、先ほどから司書の人に睨まれ続けているためそれは叶わない。

 仕方がなく空兎と共に秋良は外に出た。


「なぁ空兎、アノニモスって何者なんだ?」

「あぁ、秋良も気づいたのか。でもわるい、それは俺も知らねぇんだ」


 暗い夜道に2人の足音だけが響く。

 それなりに夜も遅いため町中はとても静かで、少しの音でさえ簡単に聞き取ることができた。


「なぁくう―――」

「おっ!秋良!見てみろよ、今日満月だぜ!」


 秋良の声を遮って空兎が空に向かって指をさす。その指の先には遠慮なんてものを知らない星々が光り輝く夜空が広がっていた。そしてその中に、空兎の言う通りきれいな丸の形をした月がこちらを見下ろしていた。


「きれいだよな〜、月って。ほんとにきれいだ」

「……あぁ、そうだな」


 秋良は少々驚いていた。

 月を見る空兎の目はまるで好奇心旺盛な子供のようだった。

 まさか空兎がこうも月を見ることが好きだとは秋良は思ってもいなかった。

 

 そんな空兎の様子を見て秋良は思い出に浸っていた。


―――――――――――――――――――――


 ある日、車の中で何気なく夜空を見上げていた。それぞれの個性を出しながら輝いている星たちのなかで一際輝く月を一生懸命見ていた。のちに月が自分で輝いていたのではないと知ったときは相当驚いていたのを覚えている。しかし、そんなことを知らない子供の時は一生懸命に月を眺めていた。


『ねぇ、どうしてお月さまはずっと僕たちのことを追いかけてくるの?』


 確か俺はそんなことを聞いたはずだ。車に乗っている自分たちを、追いかけてくるように見える月が不思議で仕方がなかったんだ。

 そうあの時聞いたんだ。

 ■■■に。あれ、確か■■■に聞いたんだったよな。あれ、誰に聞いたんだっけ。あれ、あれ、あれ―――。


―――――――――――――――――――――


 秋良はまた頭にモヤがかかる感覚に襲われる。


(あれ、あれ?誰に聞いたんだっけ……)


 思い出そうとするたび、それはだめだとモヤが訴えかけてくる。それでも抗い、必死に、必死にモヤを振り払おうとする。

 そして―――、


「月ってさ、いいよな」


 空兎のそんな一言が秋良の考え事をモヤと共に振り払った。秋良は驚いたような表情で空兎を見つめる。


「光るって、輝くってこと以外を知らない。暗い部分ってものを知らない。ほんとうに眩しいよなぁ」


 月に対して〈眩しい〉という言葉を使う人がこの世には居るだろうか。少なくとも秋良は使ったことはない。

 そして、月は自分では光っていない。太陽の力を借りて輝いている。自分だけでは輝けないから。

 そして、月にも暗い部分はある。月の半分には常に光が当たっていない。太陽もすべてを照らしてあげることはできないから。


 空兎も高校生だ。そんなことは常識として知っているだろう。だが、そんな常識がどうでもよくなるほど月には思い入れがあるのだろう。

 そんなことは今の言葉で簡単に汲み取ることができた。


 秋良にとってはそんな空兎のほうが眩しく見えた。








「ほら走れ〜〜、おいっ!そこ!歩くな〜!」

「「はーーい」」


 みんなが走っている中、歩いていた2人を鬼灯(ほおずき)先生が大声で注意する。

 鬼灯(ほおずき)先生とは秋良のクラスの担任だ。鬼灯(ほおずき)は名前ではなく、どっかの誰かが先生の人柄からつけたあだ名のようなものだ。普段はそれなりに優しい先生だが、授業になると鬼のような形相になるため、〈鬼〉という字が入る鬼灯(ほおずき)を使ったらしい。それでも美人であることには変わりなく、鬼灯(ほおずき)の花言葉である〈自然美〉もぴったりだということで、生徒たちのなかではそう呼ばれている。



  今秋良たちは体育の授業中でグラウンドを走っている。この学校では毎時間体育の始めにアップでグラウンドを男子は3周、女子は2周するようだ。


(いや、こんなの毎回やってたらスポーツする前に力尽きるわ!)


 グラウンドは1周250メートルなため、男子はアップで750メートル走っていることになる。

 秋良は別に体力があるわけではないので、2周目を超えたあたりからそうとうバテていた。



 もたつく足を頑張って動かし何とか走りきった。呼吸を落ち着かせるため前かがみになり、両手を膝の上において休む。

 

「なんでそんな死にかけてんだよ」


 呼吸一つ乱れていない空兎が秋良に話しかけてくる。いや、走り終わったときには少しぐらい息切れしていたと思うが、空兎がゴールしてから秋良がゴールするまでに1分以上の時間があったため、息を整えるには十分な時間だったのだろう。


「俺はっ……お前みたいにっ……体力が……あるわけじゃないんっ………だよっ!はぁ……はぁ……」

「お、おう。でも、そんなんじゃ今からのサッカーで活躍できないぞー?女子にいいとこ見せなくていいのか?」

「すぅーーー、はぁーーー、……うっせ、別に興味ないって……」


 空兎の茶化しに塩対応で答える。

 すると、空兎はフッと人を馬鹿にするような笑みを浮かべて、


「そんなこと言って、ほんとは興味あるんだろ〜?それかあれか、ただサッカーが無理なだけかぁ」


 秋良に簡単な挑発をする。

 そんな空兎の挑発にムカついてしまい、秋良は無理やり息を整え、姿勢をもとに戻し、空兎と視線を合わせる。


「そんなに言うならやってやるよ。ちゃんと見とけよ、俺のスーパープレイ」


 そう言って空兎の視線の外にいき、秋良はグラウンドの方へと自信満々に歩いていった。

 そんな秋良の姿を遠くから眺め、空兎はつぶやく。


「え、ちょろ」


 空兎のつぶやきは周りの生徒たちによってかき消され、秋良には届かなかった。

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