第五話 知りたければ自分で探せ
ゴールデンウィーク1日目!
汚れ一つないドアノブを引いて家の中へと入る。
「だだいま」
その返答を返してくれる人はこの家におらず、ただただ秋良の独り言が中に響くだけだった。
秋良もそんなことはわかっているので、特に気にすることなく寝室へ向かう。部屋に入って右側にベッド、それから横にクローゼット、勉強机と並んでいるだけのなんら変哲もない部屋だ。そこで荷物を降ろし、部屋着に着替える。
それからは夕飯を作って食べたり、風呂に入ったり、課題をするなど、今までと何ら変わりない時間を過ごしていた。秋良にとっては初めての一人暮らしなのだが、思っていたよりもすんなりと受け入れられている。そんな自分に秋良は少々驚いていた。
やるべきことを終え、10時。秋良は電気を消してベッドに潜り込んでいた。
(ハグレ、か。正直な話信じたくはないよな…。ひとみさん…だったけか、あんな奴が他にもいることとか。でも見ちゃったからな〜、信じないなんてできないか)
仰向けの状態で手を天井に向かって伸ばす。
秋良は今日ハグレというバケモノに出会った。今まで生きてきた経験では説明のつかない体験をしたのだ。いや、幽霊のようなものに説明を求めること自体が間違っているのかもしれない。
ハグレについて考えていたからか、ひとみさんのおぞましい姿が脳裏に浮かんでくる。思い出したくもないその姿を払いのける様にして伸ばした手を勢いよく横に振り切る。
「……!?、……痛ったぁぁ……!」
勢いが強すぎたのかそのままの勢いでベッドの枠に手をぶつけてしまった。反対の手でぶつけた手を押さえながら1人ベッドの中で悶える。今手には包帯が巻かれており、包帯の下には爪が食い込んだ傷跡がある。痛みは引いていたのだが、今の出来事で復活してしまった。そんな痛みのせいで秋良の目には涙が浮かんでいる。
痛みが来てしまったが、ハグレを脳裏から消すことはできたようで不幸中の幸いとなった。不幸のほうが大きいような気もするが。
(まぁとにかく今考えても仕方がないし、明日空兎から色々聞き出そう。うん、そうしよう)
痛みを忘れるために自分に言い聞かせ、眠るために目を瞑る。だがヒリヒリとした痛みのせいでなかなか夢の中へと落ちることができず、かなり長い間、目を瞑るだけの状態になってしまった。
これは明日寝不足だなと、秋良は暗闇の中一人考えていた。
「おーい、秋良ー、起きろー」
「……ん〜」
机で突っ伏して寝る秋良の肩を空兎が揺さぶっていた。
今日秋良はやはりというべきか授業中はずっと睡魔と戦っていた。頭がコクンコクンとなるたびに重いまぶたを上げ、気づいたらまた頭が下がっているという状況を繰り返していたのだ。
そして今、終礼後に少しでも目を閉じていたいと思い、こうして空兎に肩を揺さぶられるような状況になっていた。
「お前なー、ハグレについて聞きたいんじゃないのかよ」
「いやちょっとだけ、あと、あと3分だけ」
顔を伏せたまま答える。
秋良が学校に来た時にはもう既に空兎は教室に着いていた。そこで秋良は、放課後昨日のことについて教えてくれ、と空兎に頼んでおいたのだ。
「いいや待たない、ほら、行くぞー」
「あー、やめてくれー、引っ張らないでくれーー」
痺れを切らした空兎が秋良の首根っこを掴んで机から引き剥がした。秋良はしょうがなく諦め、自分の荷物を持って空兎と共に学校をあとにした。
「なぁなんでここに来たんだ?」
その大きな建物を見上げながら秋良が1つの疑問を漏らす。
「なんでってそりゃー、ここで調べたほうが早いからな」
「えぇ……」
今2人は家の近くの図書館に来ていた。どうやらここでハグレについて知ることができるようだ。
とりあえず中を見て回ろう、と初めてくる秋良に気を回してか空兎がそう言う。秋良はその言葉に甘え、空兎の案内で中を軽く見て回ることにした。
中を見学している間に空兎が色々なことを話してくれた。
空兎は何度かここに来たことがあるらしく、その時にハグレについて興味を持ったらしい。ハグレについての情報源はすべて図書館にある本からで、今日は秋良にもそれらの本を読んでもらおうと思ったと言っていた。何でも教えてくれるほど空兎は甘くないようだ。
「ここが怪談のゾーンだ。ここらへんにハグレについての本があるんだけど、ハグレ以外のものもあるからそこは自分で見分けてくれ」
「りょーかい」
空兎の案内によって怪談ゾーンにやってきた。たくさんの本棚が並んでおり、これらはすべてホラー系統の本のようだ。ここにハグレの本があるらしく、秋良と空兎はこれからその本を探すようだ。
空兎と別れ一人になり、軽く本棚を見てみると、
〈必見!都市伝説の対処法!〉
〈嘘みたいな実話 怪談話〉
〈おばけの出る家の特徴 あなたの家はどうかな?〉
などなど怪談といっても様々な分野の本があるのがわかる。
そのまま数分間、本棚とにらめっこを続けていると、一つの本が秋良の目に止まった。その本を手に取り、表紙を向ける。
〈逸れてしまったその理由は?ハグレ物語〉
(逸れてしまった理由っていうのはよくわかんないけど、ハグレ物語ってやっぱそれ系の話だよな)
黒の背景にところどころ真っ赤な血のような模様があり、表紙に縦で題名が書いてあるだけの普通の怪談本のようだった。かなりきれいな状態で保管されており、あまり手に取られていないことがわかる。
その本が自分の目的の本ではないかと考えた秋良は特に迷うことなく、その本を近くの机に持って行った。
(作者アノニモス、聞いたことない名前だな。まぁいっか)
初めて聞く作者名だったが特に気にすることはせず、空席に座ってページを捲り始めた。
この本には大きく分けて3つのことが書かれていた。
1、ハグレの名前
2、そのハグレの性質
3、そのハグレの過去話
過去話というのはそのハグレがなぜハグレになってしまったのか、というもののことだ。
軽く流し読みしながらページを捲っていくと一瞬だけ見覚えのある名前が見えた。少し通り過ぎてしまったため、数枚ページを戻す。
(25 ひとみさん……)
そのページは秋良が初めて遭遇したハグレのページだった。
〈XXV 目無しのハグレ【ひとみさん】〉
ひとみさん、4時丁度にある裏路地を2人以上で通っていると現れるハグレ。複数人の中から1人が選ばれ話しかけられるが、何も返答しなければ何もされない。返答してしまえば目を盗られるという話だが、真相は分かっていない。質問の内容から何か、もしくは、誰かを探しているようだがそれも分かってはいない。生前のことが関係していると思われる。
(ここらへんは空兎から聞いた話と一緒だな。じゃあ次は……)
左のページは空兎から聞いていた話とほとんど同じであり、そのまま過去話のある右のページへと視線を移す。しかしそこにあったのは、決して気分のいいような話ではなかった。
〈ひとみさんの過去話〉
ひとみさんには一人の娘がいた。夫と共に助け合いながら育て、その甲斐もあり、娘はすくすくと育っていった。そして、そんな娘も高校生になる。娘の入学式へ向けてひとみさんは熱心に準備を重ねた。
そして当日、ひとみさんは死んでしまった。
娘のいる高校へと向かう途中、何者かに裏路地へと連れ込まれ殺害されてしまった。遺体には至る所に刺し傷があり、全身の血が抜け、肌は青く染まっていたらしい。さらにその遺体には眼球が無く、むごたらしい惨状だったという。
ひとみさんはその恨みからハグレになってしまったらしい。今でもハグレとして現れるのは自分を殺害した者を探すためなのだとか。
そこに書かれてあったのは、かなりむごたらしい話であった。
(あまり読んでて気分のいいものではないな…、だけど、ここに書かれてるものが本当なら色々と辻褄の合うところがある)
あなたは誰?と聞いてきたのは自分を殺した者を探すため。わざわざ聞くのは目が見えず聞くことしかできないから。そして、目を盗るというのは自分に目があれば見て探す事ができるからなのではないか。そう秋良は考えた。
正直な話結構当たっているのではないかと秋良は思う。
しかし、まだハグレというものに対しての情報が少なすぎる。ひとみさんについてはまだまだ気になることばかりだが、この本ではここまでで終わってしまっており、次のページからはまた別のハグレの話が続いている。
一度考えるのをやめた秋良は別の本でも探そうと思い、軽く最後まで読み流したあと、元の場所へと本を戻した。
ゴールデンウィークは頑張って毎日投稿します。
3、4日は後輩の試合を見に行くので、もしかしたらできないかも……。そこは了承お願いします。




