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紛異者  作者: ソリアド
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第三話 帰り道

「気をつけ、礼」

「「「ありがとうございました」」」


 ルーム委員長の号令がかかった途端、一斉に生徒たちが教室を出ていく。といっても、それなりの人数が一度に出ていこうとするため、扉付近では渋滞が起きている。

 秋良は自分の席でリュックを背負ったまま、その様子を眺めていた。


(今はもう消えてしまったけど、結局あのモヤみたいなものの正体は分からなかったな。)


 秋良は昼休み、空兎から実家について聞かれたとき、思い出すのを邪魔するかのように頭にモヤがかかったのだ。

 “答えること”を邪魔するのではなく、“思い出すこと”をだ。

 考えずとも実家の場所など誰もが答えることができるだろう。しかし秋良は、その誰もができるであろう事をモヤが邪魔したことでできなかったのだ。

 まるで、そのことについて思い出すな、と何かに言われているかのように。


 秋良は一度モヤについて考えることをやめ、もう一度扉の方を向いてみると、生徒たちはほとんどいなくなっていた。

 そろそろ帰るかとリュックを背負いなおし、扉の方へと体を向け、足を一歩前に踏み出そうとした。


「よっ!秋良、一緒に帰らね?」


 が、足を少し上げたところで上機嫌そうな空兎がいきなり秋良の正面に現れた。


「うん、全然いいよ」


 しかし、秋良はまるでそのことを予想してたかのように一切驚く素振りを見せず、空兎の誘いを了承し、また歩き出した。

 秋良が全く驚かないことに戸惑っているのか、空兎はその場でポカンとしている。だがすぐに正気に戻り、少し先にいる秋良の隣に慌てて並んだ。


「お前すげぇな。結構ビビらせるつもりで近づいたのに全くビビんねぇじゃん。せっかく気配消しながら近づいたのに…」


 空兎が体をダランとし、残念そうに言う。

 その様子を横目で見ながら秋良は、


(………あぶねー!ほんとに心臓止まるかと思った。やめてくれよ空兎、俺を殺す気か?)


 心のなかで空兎の愚痴を言っていた。


(全然ビビってない?そんなわけないじゃん。めっちゃビビってたわ。ビビりすぎて逆に体が固まってたわ)


 実は秋良は相当ビビりだ。怖いものは大丈夫なのだが、驚かされるということに対してはとてつもなく弱い。だが空兎ように、秋良は驚きすぎて身体が硬直してしまい、よく人に肝が据わっていると勘違いされてしまう。

 秋良はよくそのことで悩んでいた。


「秋良の家って図書館の近くだったよな。じゃあ帰り道は同じだな」


 校門から出ると目の前には住宅街が広がっており、正面、右、左と分かれ道がある。秋良の家は図書館付近にあるため、図書館のある左へと曲がる。

 秋良の家の場所については昼休みに話していたため、空兎は知っている。秋良の家も空兎の家も学校から歩いて登下校ができる距離にあるため、2人とも歩いて帰っている。といっても秋良は今日が初めてなわけだが。

 今の季節は夏だ。秋良は今日が初日なため学ランを着ているが、空兎を含め下校している周りの生徒もほとんどが白のカッターシャツや白のブラウスを着ている。

 夏といってもまだ6月なためそれほど暑い訳では無いが、まだ3時半だということもあり、それなりに暑い。時々横を通り過ぎていく自転車通学の生徒はたいていが汗をかいている。


「なぁ空兎、1つ聞いてもいいか?」

「あぁいいぞ」

「なんで俺と一緒に帰ろうと思ったんだ?」


 そんな事を聞かれるとは思っていなかったのか、空兎は軽く上を見ながら少し考え始める。

 その後秋良の方へ顔を向け、


「そりゃー帰る人がいなかったからな。どうしよっかな、とか思ってたら1人で帰ろうとしてる秋良がいたから、じゃあ一緒帰るかって思って」

「ほんとに?」

「ほんとほんと」


 空兎が両手を頭の後ろで組みながら言う。

 実は声をかけられたときから秋良は、そのことが気になり続けていた。空兎は帰る人がいなかったと言っていたがそれは嘘だ。

 秋良は空兎が他の友達から一緒に帰ろう、と誘いを受けていたところを目撃している。だが空兎はそのすべての誘いを断り、今こうして秋良の隣を歩いている。


(一体空兎は何がしたいんだ?)


 ただ恥ずかしくて一緒に帰りたかった、と言えなかったという可能性もなくはない。だが今日話して分かった空兎の性格からしてそれはないだろう。思ったことをはっきりと言葉にするタイプだ。それでいて相手が気を悪くするような発言は絶対にしない。これは男女問わず人気があるのも納得できる。

 そんな空兎がわざわざ誘いを断ってまで自分と帰っているのだ。何が目的なのか。

 同じ状況なら誰もが同じことを考えるだろう。


「空兎は何がしたいん―――」

「秋良、こっちに行ってみないか?」


 秋良の言葉を遮るようにして空兎が指を差しながら言う。その指の先には狭い一本の道があった。


 その道は建物と建物の間にある裏道だった。人が2人並んで通れるかどうかというほどの狭さで、光がほとんど入ってきておらずとても薄暗い。

 そんな道を空兎はズカズカと進んでいく。秋良は置いて行かれないように少し小走りになりながら後をついていく。

 周りが静かなため自然と2人も喋らなくなった。そんな時間が数分流れ、沈黙に耐えきれなくなった秋良は気になっていることを聞くため口を開いた。

 

「なぁ空兎、ここは一体―――」

「そろそろか」


 秋良の言葉に重ねるようにして空兎が腕時計を見ながらそう呟いた。


「え?そろそろって何が―――」

「秋良、これから俺がいいって言うまで何も喋るな」


 何度も自分の言葉を遮ってくる空飛に苛立ちを覚え、空との言葉を無視してさらに問い詰めようとする。


「だから、一体何が―――」

『アナタはダァレ?』


 だが次に遮ったのは空兎の声ではなく、もっとどんよりとした薄暗い声だった。

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