第二話 友達第一号
あれから1、2、3、4限と至って普通の授業を受け現在、秋良は一人寂しく弁当と向き合っている。
(はぁ、授業は全然問題なかったんだけどなぁ。友達が…、ね、はぁ、友達がな〜)
秋良は一人心のなかで大きなため息をついていた。
今日、秋良は人と全く話していない。人間以外でも良いのなら【どうやったら浮かない自己紹介ができるか】という話題について、AIと話していたぐらいだが、人間限定にすると一文字も会話していない。
実は、秋良は人見知りがかなり強かったりする。そのため、人に話しかけるのはもってのほか、人に話しかけられた時に良い受け答えができたのは片手で数えられる程度しかない。
大人しく弁当箱の蓋に手をかけようとしたとき、
「…なぁ」
と、秋良のすぐ後ろから声が聞こえてきた。
一瞬、振り向こうと思ったが、自分なわけないと思い視線を弁当箱に戻し、秋良はまた弁当箱の蓋に手をかける。
「いや、なんで無視すんだよ」
(……!?)
どうやら本当に秋良に声をかけていたらしい。秋良はやってしまった、と思いすぐに後ろを振り返った。
そこには右手を腰に当てた状態の一人の少年がこちらを向いて立っていた。
「えぇっと、何か用…?」
「お前さ、一緒食べる人いないんだろ?じゃあ一緒食べようぜ?」
「え、、」
「じゃあ弁当持ってくるから」
秋良が返事をする前に、少年は行ってしまった。きっと、すぐにこちらに戻ってくるのだろう。
少年はこのクラスで一番目立っていたのを覚えている。自己紹介の時に一番初めに拍手をしたのは先生だが、その後すぐに拍手をし次に繋げたのは彼だった。
他にも授業のときでは、先生の問いかけに対して毎回反応したり、授業中に先生とよく2人で会話するなどして時間稼ぎをしていた。休憩時間の時でも、常にほかの生徒達で少年の机の周りには壁ができるほどだった。
これだけ目立っていれば意識していなくとも目がそちらに行ってしまうものだろう。
そんなこんな秋良が考えていると、少年が手に弁当の入っているだろうランチバックを持ってやってきた。
「俺、久留飛空兎っていうんだ。よろしくな秋良。俺下の名前で呼ぶから、秋良も俺のこと空兎でいいからな」
「…わかっ…た。よろしく空兎」
空兎と名乗る少年は秋良のその言葉を聞き、一度ニカッと笑ってから弁当を食べ始めた。
(なんだろ、全然嫌な気分にならないな。時々いるよな、こういう相手との距離の詰め方がうまいやつ)
もう一度言うが秋良は人見知りだ。人と話すことなど基本なく、話したとしても途中から気まずい空気が流れ始める。気まずくならずに話すことのできる親友は今まで何人いただろうか。
そんな秋良とは正反対に空兎はとてつもなく人と話すのがうまい。相手に嫌な感情を抱かせず、適切な距離感を保つ。さらには、先に自分から心を開くことで、相手に自分を受け入れようとしてくれていると無自覚に思わせる。
実際、今のところは秋良も気まずいなど一度も思うことはなく、今も会話を続けることができている。
「へぇ〜、じゃあ一人でこっちまで引っ越してきたってことか。一人暮らしか〜。うらやましいわ〜」
「そうなんだ。といっても、昨日引っ越してきたばかりで全然荷物とか片付けられてないんだけどね」
「うわっ、めんどいやつじゃん。家族とかに来てもらって手伝ってもらえば?」
空兎が空の弁当箱に蓋をしながら言う。
「いや、家族が住んでるところはここから遠いからさ、絶対に来てくれないよ」
「ふ〜ん、実家はどこにあんの?」
「実家は―――、」
(あれ、なんだろ。頭にモヤがかかったみたいな……)
数秒の沈黙が2人の間に流れる。
秋良が開いていた口を閉じてしまったためか、空兎が「まぁ、言いたくないこともあるわな」と、気を使って別の話題に移り変わらせた。
その後も会話は続いていたが、頭にかかったままのモヤがずっと気になり続けていた。そのせいで、空兎の話に相槌を打つ程度しかできなかった。
そして、昼休み終了の予鈴がなり、空飛を含めすべての生徒が自分の席へ戻ろうと席を立ち始める。
空兎が「またな」と言って去っていくのを横目で見ながら、モヤについて考え続けていた。
しかし、それから終礼までの間、秋良のモヤが晴れることはなかった。




