第一話 新しい学校生活
「今日からこの学校に転校してきました。染井秋良です。よろしくお願いします」
そう言い秋良は、黒板を背にして生徒たちに向かって礼をした。そして、拍手のような何か反応があると思い視線を固定する。
だが、数秒待っても教室は静まり返ったままだった。
(あれ、こういうのって礼をしたら、パチパチパチって聞こえてくるもんじゃないの?何も反応がないんだけど…、どう、しよう)
教室にはいる前に一度静めたはずのうるさい心臓の鼓動がドクドクと蘇ってくる。
秋良が机と机の間の床から視線を動かせないでいると、いきなり右後ろからパチパチと拍手が聞こえ始めた。その音を起源とし、パラパラと拍手が聞こえ始め、さらには教室が手をたたく音で埋め尽くされるほどまでになった。
秋良がゆっくりと体勢をもとに戻し、右後ろを見てみるとそこにはこのクラスの担任がいた。今日から秋良の担任でもあるのだ。
秋良が自分を見ていることに気がついたのか、担任が秋良に向けて左手の親指を立て、グッジョブとしてくる。
秋良はこの人に一生ついていこうと思った。
自己紹介も終わり、秋良は担任の指定した席へと移動した。その席は教室の一番後ろの席で、窓際の席……ではなく窓から一席分空いた2列目の席だった。
(なんで窓際の席じゃないんだよ。誰もいないんだからいいじゃん……)
秋良の隣の席、一番後ろの窓際の席には現在誰も座っていない。というより、そこには何もないのほうが正しいだろう。誰もが一度は憧れる最高席は現在空白なのだ。
秋良がなんでなのか考えていると、突然違和感を感じた。その違和感の方向に視線を向けるとそこにはこちらを見る担任がいた。
ジーっと秋良のことを見ている。
気まずくなってそろそろ視線を外そうかと秋良が考えていると、それより先に担任が視線を外した。
(なんだったんだろう。まぁ転校生だし先生も気にかけてるのかな)
担任はひとことで言うと美人だ。髪は太陽のように紅く、とてもツヤツヤとしている。今は後ろで髪を結んでポニーテールのようにしているが、ほどいたときにはサラサラなロングヘアーが出現するだろう。
目はヒマワリのように明るく、初対面の人は髪よりもその目の美しさに目を奪われるだろう。
いかにも体育教師です、という見た目なのだが、その肌は太陽のような髪とは反対に、一切の日光も受けつけないような綺麗な白色をしている。どれだけ努力をしたらそこまでになるのだろうか。
その3つがこのクラスの担任を美人たらしめる大きな要因なのだろう。
秋良も初めて担任のことを見たときは、その美しさに思わず目を奪われるほどだった。おそらく、着ている服が体操服のようなジャージとズボンではなく、きちんとした正装、もしくは私服なのであればもっとモテるのだろう。
今日転校してきた秋良でもそのくらいのことはすぐに分かった。
周りの生徒たちと同じ様に、先生が教室から出ていくのを目で追いながら、授業の準備をしようと手探りで机の中を漁り始めた。
その様子を窓の外から一羽のカラスが、白目のない、真っ黒な瞳に映しているのを秋良は知るよしもなかった。




