勇者ヨシオ召喚
コスモスの大量の花びらが舞い踊り、エステルの前に渦を巻きながら人の形になっていく。その花びらがちょうど人間ほどの大きさになった時、一陣の風が吹き、花を散らしていった。
花の渦から現れたのは、白衣の剣士だった。その腰には、さっきまで小林君が差していた刀があるが、顔は無地の木の面で窺い知れない。
「ヨシオ・・・、ヨシオなのか?」
エステルは白衣の剣士に呼びかける。銀も目の色を変え、師匠と叫び呼びかけている!そして、その掛け声は次第に広まり戦場を包んでいった。
「久しぶりだな。俺にとってはこの戦場は50年ぶり。まさかこんな未来が待っていたとはな。苦労をかけた、エステル。それにしても、なんて無茶をしたんだよ」
「会いたかった・・・ヨシオ。ずっと・・・お前に会いたかった・・・」
声もなく泣き続けるエステルを、勇者ヨシオは抱き止めた。
「いくら長命だからといって、寿命を俺に分けることで召喚するなんて、なんて無茶なことをする」
「私にとっては、数千年の寿命などいらない。ヨシオがいない世界で一人で生きていくより、命を削ってでもヨシオと共に生きる時間を選ぶ」
勇者は、優しくエステルの頭を撫でている。ゆっくりと俺に視線を向けると、聞き慣れた声で「やぁ、ムロさん」と声をかけてきた。
「小林君なのか?でも、名前が違うのに・・・」
「あ〜、それね。あのレッドドラゴンにやられて異世界に飛ばされたんだが、その先が50年前のラークスだったんだ。異世界に渡った時には死にかけてて意識朦朧としててさ。ラークスに飛ばされて若きエステルに見つけられて介抱してもらったのはいいんだけど、全身の大火傷で名前をうまく言えなくて。それでヨシロウがヨシオになまっちまったんですよ。おまけに、記憶まで無くして、向こうで寿命を迎える直前まで記憶を取り戻すことができなかったんですよ」
木面を外したその顔は、確かに小林君その人だった。まさか、ラークスの英雄が小林君だったなんて。まさかこんなことがあるなんて思いもしなかった。
「さて、レッドドラゴンやい。50年前の戦いの続きをしようじゃないか」
小林君はレッドドラゴンに向き直ると、刀を抜き構えた。
「エステル、その女神の花を身につけている間は、女神の力が供給され続ける。仲間を回復させてやってくれ。みんなで、昔のように戦おう」
エステルは力強く頷き、ハルモニアの全軍に対し回復魔法をかけた。瀕死の兵士までもが立ち上がり、意気軒高となった。
「師匠・・・。お久しぶりです。またこうして共に戦えるとはなんとも光栄です」
「なんだか恥ずかしいな。小林でいいよ。そのほうが、気楽だ」
「はっ、はぁ・・・。なんだか慣れませんが」
「なぁ〜に、気にすんな、戦友!いくぞ」
「・・・よし分かった!いくぞ小林!」
「ムロさん、巴ちゃん!俺たちでレッドドラゴンを抑える!だが、ドラゴンの魔岩は二人にしか壊せない。頼みましたよ!」
「了解だ!」
ハルモニアの突撃部隊が再びドラゴンへと攻撃を始めた。小林君を先頭に連携の取れた戦いが展開される。さすが、長年一緒に戦ってきただけある。一糸乱れぬ連携はもはや芸術だった。絶え間ない攻撃、魔法によるサポート、どれをとっても付け入る隙がない。
レッドドラゴンは再びドラゴンへと姿を変え応戦するが、弱点は俺たちばかりに火炎を吐きかけてくる。
「巴ちゃん、いくよ!」
「はい!」
俺たちは拒絶の力でドラゴンの火炎を防ぎ、接近していく。外見からでは魔岩の位置は特定できない。その時、小林君の刀が、ドラゴンの胸を切り裂き、その傷口から光る物体が姿を現した。禍々しく紫に光る水晶のようなもの。あれが魔岩か。
だが、ドラゴンの回復力は凄まじい、一瞬で切り口が回復してしまった。次々に仲間が襲い掛かり、ドラゴンを圧倒しながら切り刻んでいくが、それでもドラゴンの回復力の前には歯が立たなかった。
明らかに、ドラゴンは焦っていた。徐々に後退し、間合いを取ろうと躍起になっている。小林君はその隙を逃さなかった。ドラゴンの胸元深く入り込み、その首を根本から一閃、首を切り落とした。
だが、切り落とされた首は地面に落ちると同時に灰のように掻き消え、切ったはずの首元から新たな首が一瞬で生え再生してしまった。
「キリがねぇな。こいつ、どうしてやるか」
「小林君、ちょっと耳を貸してくれ。さっき魔岩の位置は分かった。小林君と銀とでドラゴンの胸を切り開いてくれ。動きさえ封じてくれれば、あとは俺と巴ちゃんであの魔岩を打ち砕く」
「さすがムロさん、わかりやすくていいぜ!俺たちに任せてくれ。ラークス仕込みの戦いを披露してやりますよ!」
小林君は、仲間に指示を出し、一斉に攻撃を仕掛けた。まずは、エステル達魔法使い組が地面に穴を開き、攻撃魔法でドラゴンを穴へと追い詰めていく。羽ばたき空へ逃れようとするドラゴンの翼を銀やウォルフが切り刻んでいき、カルフがその手に持つ斧でドラゴンの頭をかち割った。
脳がやられた瞬間、ドラゴンの行動も一瞬止まり、その隙に俺と巴ちゃんの斥力でドラゴンの体を穴へと落とし込んだ。瞬く間に首を回復させたドラゴンは明らかに狼狽し、体を屈ませ魔岩を摩耗とするが、即座にカルフが斧を振り上げ、ドラゴンの首を天へと跳ねた。ガラ空きになったその胸を、小林君と銀が刀で捌き、ついに魔岩が顕になった。
「今だ!ぶちかませ!」
小林君の合図で、俺と巴ちゃんは魔岩に取り付き、拳を打ち込んだ。
岩がぶつかり軋むような悲鳴が俺たちの心の中に伝わった。同時に、紫色の光が魔岩から漏れ、霧散していった。
レッドドラゴンの胸からゴトリと魔岩が落ち、レッドドラゴンの苦しむ吐息が聞こえてきた。魔岩がなくてもこれだけの生命力があるとは、ドラゴンとはなんとたくましい生き物か。
『火燈よ、我が声が聞こえるか』
天から声が聞こえる、金色の龍の声だ。レッドドラゴンに語りかけている。
「おぉ、この声は兄者か。懐かしい・・・」
『貴様の悪夢もここでようやく終わる。俺の元へ帰ってこい』
「相わかった。本当に悪夢だった。魔に魅入られ、行った悪行は数知れず・・・。濯いでも濯ぎきれぬ罪穢れを清め、罪を贖おう」
レッドドラゴンは静かに小林君の前にその長い首を垂れ差し出しこういった。
「紛うことなき英雄よ。この首は貴様のものだ。我を討ち取り、あまねく天下に戦いの終わりを告げよ」
その言葉を聞いた小林君は、静かに刀を上げ、一刀でレッドドラゴンの首を切り落とした。静かに広がる歓声の中、レッドドラゴンの体は優しく炎が燃え広がり、灰となって天へと昇っていた。
ベイル軍兵士も、魔岩が滅びたことで、洗脳が解けたらしい。戦場のあちこちで投降し始めている。
「終わったのか・・・」
「終わったね・・・」
俺は巴ちゃんの手を握ると、彼女もまたぎゅっと握り返した。




