エステルの昔話
「なぁ、銀。昔話もいいけどよ、俺の刀も見てくれよ」
俺は小林。栄えあるハルモニアの突撃部隊の自称切込隊長だ。実際、戦場では銀と共に先陣を切って敵を切り倒しているし、不思議と銀とだと無意識レベルで連携をとることができている。きっと俺たちが仲良いからだろう。
「まったく、少しは俺たちの昔話に耳を傾けてもいいと思うぞ。なんといっても勇者の話だからな。お前と同じ日本人で、剣術使いでもあったわけだからな」
「それはそうだけどよ」
「まぁ、良い。刀を見せてみろ。・・・うむ、これはもう使いもにならんな。予備の刀はないのか?」
「これが最後だよ。さすがに鎧ごと叩き切ってたのはまずかったか」
「見事な切り口だったよ。さすがというべきだ。だが、どうだろうな・・・。エステルよ、小林にあの刀を授けるというのはどうだ?」
エステルがピクッと反応をした。
「あの刀か・・・。だが、あれは」
「このままでは宝の持ち腐れだ。師匠もきっとそう言うだろう」
エステルは少し考えてから、小さくため息をつき、ローブの後ろから日本刀を一振り取り出した。
「どこにそんな刀を隠し持ってたんだ?」
「魔法で作った亜空間に荷物をしまってあるのさ。これは私にとってとても大事な刀だ。勇者ヨシオの・・・。私の愛する者が最後まで手にしていた刀だ」
思わず、唾を飲み込む。その刀は一眼見て業物と分かる威風を見せていた。刀は、刀を振う者にとって魂のようなもの。年季の入り方だけではなく、手入れ一つとっても、大事にしていたことが分かる。俺はその刀を受け取り、刀を抜き刀身を見る。
「これは凄い。まさに二つとない逸品だ。おまけに、勇者って人はどうも俺と似たような手入れの癖があるな。一緒に酒が飲めそうな気がする」
「それは良かった。大事にしてくれよ」
「それはもちろんだ。でも、そういえば勇者ヨシオってのはどんな人だったんだ?大雑把にしか聞いてないから人となり知らないけど」
「それはエステルに聞くといい。俺は他の隊員たちの様子も見てまわりたいから、席を外すよ。あぁ、そうだ。師匠は、お前によく似ていたよ」
そう言い残し、銀は焚き火から離れ闇に溶けていった。
「師匠かぁ・・・。銀の剣術の師匠は、その日本人だったのか。会ってみたかったな」
「・・・彼は本当に素晴らしい人だったよ」
「ん〜・・・。人となりは気になるが、やっぱり話を聞くってのは複雑な気分だな」
「そうか?どうして?」
「エステル、俺の気持ち分かってるだろ?もうハルモニアでは俺がエステルに惚れてるってのは有名な話だ。恥ずかしいけど。エステルだってその話は聞いたことぐらいあるんじゃないか?」
「あぁ、そうだな」
微笑むエステルを見てくそ可愛いと思いつつ恥ずかしさで顔が赤くなる。
「でも、エステルは俺をお茶会に招いてくれた。どころか、また来いといってくれた。これはご都合主義にも程がある。俺だってそこまで鈍くはないつもりだ。何か、理由があるんだろ?」
「小林の好意は、素直に嬉しいよ。それは誓って言える。・・・だが、その通りだ。私には、君と会おうと思った理由は、他にもある」
前半は俺も素直に嬉しい。だが、後半はいただけない。一体どんな理由なのか、胸がドキドキして聞きたくな異様な聞きたい気持ちに襲われる。
「初めて小林を見た時に、似ていると思ったんだ。魂の波長が」
「魂の波長?」
「中核世界で例えるなら、生体情報の一つとして言える。指紋のように、同じものは二つとしてない。だが、今、勇者の刀を持ったお前を見て確信したよ。小林は、勇者ヨシオと同じ魂を持っている」
「そんなバカなッ!!って、でもそれおかしくないか?同じ魂が時代を超えて二つも存在してるって。転生したとしても、年が合わないし・・・」
「あぁ、だからこそ私は信じられなかった。君の魂を見た時に、心底驚いたよ。だが、ありえないことだ。同じ魂が二つも存在するなど聞いたこともない」
「人違いだと思うよ。銀から聞いた話じゃ、俺はその勇者ほどの剣の腕はないし、そもそも名前だって違う。俺は小林ヨシロウだ。ヨシオじゃない。そもそも顔だって違うだろ?」
「ヨシオと初めて会った時、彼は瀕死の重傷を負っていた。私の家の近くにポータルが開いた気配があったので様子を見にいったら、ヨシオが原っぱに倒れていたんだよ。全身に重度の火傷で、見れたものではなかったよ。顔も焼け爛れ、骨格や筋肉を頼りに私が回復魔法を施したから、素顔もわからない。おまけに、過去の記憶もほとんど無くしていた」
「なかなかエグい登場の仕方だったんだね・・・」
「ただ、その右手にはしっかりとこの刀を握りしめていた。私たちがポータルを開けたのは、ひとえにこの刀のおかげだ。ヨシオの持つ異世界の刀が、ラークスと中核世界を繋げるポータルを開いたのだから」
「そっかぁ・・・。俺が勇者ってことになると、色々矛盾が出ないか?そもそも時系列が・・・」
エステルは俺の話を遮るように、その両手で俺の顔を包み込んだ。
「今回ばかりは、私の予想は外れて欲しいと願っている。なぜなら、予想が当たるということは、私は愛する者を二度失うことになるからだ」
「エステルさん?顔近くないですか?」
嬉しいが、恥ずかしいし、何よりエステルの目が艶かしくギラついてるのもちょっと怖い。だが、積極的なエステルに胸のドキドキがおさまらない。
「こうすれば、分かるさ」
エステルは俺の首を引き寄せ、唇にキスをした。俺の頭は沸騰寸前で感触を味わう余裕すらない。気づいた時には、エステルは俺の体を抱きしめ、かすかに肩を震わせていた。
「ずっと会いたかった。ヨシオ・・・」
俺はまだ自分がその勇者だとは思ってないし、エステルの思い違いだと勘繰っている。だが、聡明なエステルが男がらみで判断ミスするようにも思えない。
だが、胸の中でなく女性を無碍に引き剥がすことも到底できず、俺はそのままエステルをこの胸の中で慰めるしかできなかった。




