ゴールデンキングダムの住人
ポータルの中にいる農民はアレクの姿を確認すると、歓喜の声を上げ応えた。
「アレク様ー!こんなところでお会いできるとは、光栄です!」
元気に手を振りながら、農民はアレクに大きく手を振り続けている。アレクも気さくに手を振り返している。
「日本語を話しているのか・・・?」
聞こえてきたのは、流暢な日本語で間違いない。異世界にも独自の言語があるはずじゃないのか?ラークスはそうだった。ベイルもだ。だが、この農民は違った。
「彼は、ゴールデンキングダムの住人です」
アレクは俺の方を見て、そう答えた。じっと俺の目を見ている。俺は、彼を思いっきり殴りつけた手前、目を見つめられると視線を逸らしたくなるが、隙を見せるわけにもいかず、じっと見つめ合う形になってしまった。だが、その目には敵愾心は感じられなかった。
「女神の花を届けてくれた方ですね」
「あ、あぁ・・・」
「アレクです。先日は、大変なご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
アレクはそう言うと静かに頭を深々と下げた。
ハルモニアの隊員達からは、怒号が飛ぶが、銀や市村が必死に抑えこんでいる。
「お名前をお伺いしても?」
「俺は、室田軍司という」
「室田さんですか。まさか、中核世界にチートクラスの能力者がいるとは思いませんでした」
「いや、俺も女神達に会ってからだよ。あんな能力が開花したのは」
「あの方達は正真正銘の神ですからね。能力を授けるくらいのことは、いともたやすくやってのけます。さすが世界の創造主様です」
一同にざわめきが起きた。あの二柱の神がまさか世界まで作っていたなんて言われても、唐突に重大発表されても受け止めきれない。
「おーい!すまないがこちらに来てくれるか?お願いしたいことがある!」
アレクは農民を呼び寄せようと声をかけた。ハルモニアには動揺が広がっている。アレクの意図が全く読めないからだ。
「白い猫の獣人・・・あなたが指揮官ですね?あの緑の髪のエルフの方をここに呼んでいただけませんか」
「一体、何が狙いだ?」
「見て欲しいものがあるんです。きっとあなたもすぐにわかるとは思いますが」
そうこうしているうちに、農民はアレクの元へと小走りでやってきた。なんと、家族まで連れてきている。
「アレク様、まさかこんなところでお会いできるなんて。どうか息子達とも話してやってください」
農民そういうと子供の背中をそっと押し、恥ずかしがる少年をアレクの前に立たせた。
「やぁ、はじめまして」
アレクは片膝をつき、少年と目線の高さを合わせ和やかに会話している。会話は相変わらず日本語だ。明らかにこの農民とその子供は北欧風の顔立ちをしているのにも関わらずだ。
動揺はさらに広がっている。特にラークス人の隊員達からだ、銀はカルフやアーロン達主力メンバーと何か話し合っている。ラークス人にとって何か気掛かりなことでもあるあるということか。
「アレクよ。今エステルを呼んでいる。こちらも貴様には聞きたいことが山ほどあるが、そこのゴールデンキングダムの住人とは、いかなる存在か。魂の気配を感じない。その者たちは、人間なのか?」
「やはり、ラークス人であればわかりますか」
今度は中核世界人の隊員に動揺が広がる。
魂の存在。これは中核世界では否定されている概念だった。俺もハルモニアに入ってようやく魂が存在することを知り、今はなんとなくその存在を信じているだけだが、中核世界の人間はまだまだ魂の実在を実感を伴ってはいない。俺はこの間死んで否応なく実在を突きつけられたが。
「確かに、ラークス人は魂の存在を感知できる。さて、アレクよ。これが私たちに見せたかったものなのかい?」
突然エステルが気配もなく現れ、アレクと対話を始めた。次々起こる展開に、もはやハルモニアからは闘争の雰囲気が消えつつある。
「あなたがハルモニアの首魁、エステルさんですね。先日は・・・」
「いいさ。分かっている。君の魂を見れば、おおよそのことは察しがつく。その件はあとでゆっくり話そう。それより、確かに奇怪だな。肉体はあり生きているというのに、魂が籠っていないとは・・・。おまけに使用言語も日本語とはね」
「えぇ。私も、最初は神から授けられた力で異世界の言葉が勝手に翻訳されて知覚できているものと思ってました。ただ、俺も魔法の研鑽を積むにつれ、最初からは彼らは日本語を話していた事実を知りました。魂の無い存在というのは、薄々気づいていましたが、あの花・・・。コスモス様のメッセージを受け取って、確信しました」
「室田が神から託されたという花のことだね」
「はい。あの花には神々からのメッセージが込められていました。それには、この世界の真実と、そしてこれから起こる災いの予言も含まれています。まずは、僕らが渡った魂なき異世界についての真実をお見せします」
アレクは、所在無さそうにしていた農民親子と向き合い、ポツリとごめんなさいと呟いたように聞こえた。そして、手をかざし、呪文を放った。
「・・・“サンダー”」
閃光と雷鳴が轟き、農民の息子の脳天に雷撃が直撃した。子供は体の内から灼かれ、崩れ落ちていく。絶命した息子を目撃した父親は叫び、泣き、狂乱し、子供の遺体に縋り泣きつく。
「アレク様。な・・・なんでこんな事を・・・!」
「・・・これはただの実験さ。君のその感情は本物なのかい?その抱き抱えている子供も。本当に君の子供なのかい?」
この問いかけを聞いた農民は、先ほどの狂乱が嘘のように落ち着いていき、涙は止まり、感情もどんどんと消えていき、人形のように無表情になってしまった。
アレクは農民の反応を確認すると、今度はその農民に同じく雷撃の魔法を放ち、絶命させた。あたりには人の肉が焼ける匂いが立ち込める。
もはや、ハルモニアの面々はアレクの気でも狂ったのかと身構えているが、エステルはじっと様子を観察している。
「・・・かりそめの存在、か」
「はい、中核世界ではNPCなんて言い方をしたりもします。世界観を演出する、舞台装置の一種みたいなものです。その証拠に、見てください。彼らの死体を」
一同の視線が農民親子の遺体に注がれる。遺体はまるで霧が消えていくように霧散していき、跡形もなくその痕跡を消してしまった。
「ゴールデンキングダムだけじゃありません。この一週間、確認できるだけの異世界に直接足を運び確認しました。中核世界の人間が渡った異世界が、こうしたNPCのような存在がいる箱庭のような世界でした。これも全て、レッドドラゴンの仕業です」
あまりに壮大な話に、もはや誰もついてこれていなかった。エステルですら、顎に指を添え考え込んでしまっている。だが、アレクは続けて言った。神々が異世界を創造したのは、来たる災厄から中核世界を守るためだったのだと。ま




