決着
アレクの顔面に向け、拳を突き抜く。自身の攻撃力の低さを拒絶した渾身の一撃は、アレクの頬に入った。アレクは二、三歩よろめきながら後退し、膝を着いた。
それを見た和尚はすぐさま攻撃の矛先を俺に変え、背後から顔面へと回し蹴りをし、俺の側頭部を見事捉えた。だが、自身のか弱さを拒絶した俺の体は、常人であれば首が爆ぜ飛ぶ威力の蹴りも難なく耐えた。
俺の頭に入った和尚の足を掴み、勢い任せに振り回し、地面へと叩きつける。田中も絶叫しながら攻撃魔法をこちらに向けるが、発動前にすかさず懐へと拳を突く。悶絶しながら田中は吐瀉物を撒き散らし、地面に伏す。
呆気に取られてたのは、仲間達だった。
「おい〜・・・室さん、どうしたのその強さ・・・」
「まるで別人だぞ、室田」
「なんだ、やるじゃないか。この若いの」
「驚嘆だな。だが、みんな油断するな。この隙に敵を捕縛するぞ」
エステル達が、警戒しつつアレク達を捕らえようとするのを、俺は立ちはだかって止める。
「なんのつもりだ、室田」
圧のこもったエステルの声にビビりながらも、俺は説明した。
「アレクに渡さなければならないものがある。これは、どうしてもやらなければならないんだ。ほんの少しだけ、待ってくれ」
「室田、冗談を言っている場合ではない。すぐにそこをどいてくれ」
今まで見たことのないエステルの顔だ。表情はいつもと変わらない穏やかな顔だが、その声には怒気が含まれていた。
「頼む、これを渡すだけだ。すぐに終わる」
「そういう問題ではない。私たちの仲間がやられたのだ。それを・・・。なんだ、その手に持っている花は。今まで感じた事のない力だが、凄まじい魔力を感じる。なぜこのような物を持っている?」
「後で必ず説明する!とにかく、これを彼らに渡す」
振り返ると、さっきまで膝を着いていたアレクが、剣を杖代わりにしながらも、もう立ち上がっていた。回復魔法を自分にかけているようだ。回復が早い。
「アレク、君に渡すものがある。これを受け取ってくれ」
アレクのそばに行き、コスモスの花を差し出す。荒い息を吐きながらも、アレクの視線はコスモスの話注がれていた。
「これを俺に託したのは、龍神と花の女神だ。君にこれを渡すように頼まれた」
アレクの息はまだ十分に整わず依然として凝視したままだったが、手を伸ばし、花を受け取った。大きく息を吸い、ため息のような深呼吸をした後、彼は口を開いた。
「あなたの名前を聞いても?」
「室田軍司。ハルモニアの隊員だ」
「・・・そうか。覚えておきます」
アレクは剣を天に向け振り上げた。一瞬攻撃されるのかと身構えたが、彼の剣は天を向いたままピタッと止まった。
「“リザレクション”」
その言葉によって、オスロ全体が薄い青とも緑とも見える光に包まれていった。その光は、敵味方関係なく、触れた人間の体にまとわりつき、発行している。
「今回の襲撃はなかったことにはできませんが、せめてもの罪滅ぼしにこの魔法をかけていきます」
光に包まれた体は、みるみる傷や疲労が癒えていく。しかも、その回復力は並外れていて、俺の気力は今までにないほどに高まる実感があった。
エステル達や和尚や田中にも効果があるだけではなく、傷ついたハルモニアの兵士や民間人にまで及んでいた。驚いたことに、亡くなっていたはずの人達も傷が癒え、息を吹き返していた。
「聞きたいことは山ほどありますが、一旦引いて、状況を整理したい」
そう言い残すと、アレクは和尚と田中を連れ立って、マントの影と共に、ふっと消え去ってしまった。
「異世界転生者最強の名は、やはり伊達ではないな」
エステルは繁々と自分にかけられた魔法を観察している。続々と犠牲者達が息を吹き返す中、事態の収束を確認した銀達は速やかに民間人の保護、誘導を始めていた。
「ぐんちゃーーーん!!」
巴ちゃんの声が耳に響く。
「あっ、巴ちゃん!大丈夫だった?」
「へへ、なんだが私もハルモニアの隊員ぽく戦ええるようになった見た・・・い・・・」
ヘロヘロと地面に倒れ込みそうな巴ちゃんを慌てて抱き支えるが、力の抜け具合からして、相当な無理をしていたことが伺える。こんな小さく細い体で、よくがんばった。
「よかった、本当に。死んじゃったって本気で思ったんだから・・・」
「心配かけてごめん。でもほら、この通り」
「元気そうでよかった。本当に、ほんとうに・・・」
腕の中で顔を埋め、肩を震わせている。俺もそっと抱きしめる。本当によかった。巴ちゃんが無事で。周りでは驚きと喜びの声が入り混じっている。それもそうだ。怪我が治るだけではなく、死んだはずの人間も生き返っているのだから。
「室田、巴、よくやった。落ち着いたら、また仕事を手伝ってくれ。まずは状況の確認と、オスロの復旧をしなければ」
エステルの圧はすっかりなくなり、いつもの表情に戻っていた。じっと自分の手を見て思う。俺たちはポータルを閉じるのみならず、戦闘にまで使えるようになった。神達は“拒絶の力”と言っていたが、 まさか異世界転生者とも渡り合えるとは思わなかった。この力の使い方はどこか空恐ろしいものを感じる。
だが、こうして腕の中にいる巴ちゃんの温もりを感じると、失わなくてよかったと心から思う。どれだけリスクがあろうとも、この力を使いこなさなければ、そう強く思うのだった。




