究極の闇 〜前編〜
おまたせしました
ワイワイガヤガヤ
「……」
目の前にはざっと100人近くの人で溢れ返り、わやわやと騒がしく話し合っていた。ツッコミが追いつかない現状に俺はポカンと口を開けて何も言えなくなってしまう。
「えっと…何なのコイツら…」
5分ほど経ってようやく俺は最初に出会った女にそう尋ねることが出来た。それまではずっと頭が混乱してたから、一旦脳を落ち着かせるのに時間がかかったのだ。
「私達は『究極の闇』の力そのもの…いわばご主人様から生まれた存在…とでも言いましょうか」
「……つまり俺の子供ってこと?」
俺から生まれたってことは、つまりコイツら全員俺の子供達なのか? 別に親になんかなるつもりは無いし、そんな覚悟も決めて無い。俺は恐る恐る隣にいる女に聞くと…
「まぁそんなもんです」
とあっさり返された。
「……マジかよ」
まさか腹が空いて鎖を引き千切ったたと思えば、次に意識が戻った時にはいきなりこんな大人数の親になるなんて。
と顔に手を当てて肩を落とすと、何故か痛みが消えていることに気付いた。少し前に顔の皮をベリベリ剥いぢゃったから、触るだけで痛みを感じてたのに。
「なぁお前」
「はい、何でしょうかご主人様」
俺は隣にいる女に自分の顔の様子を指差しながら尋ねた。
「俺の顔、大丈夫か? 傷とかない?」
「特に何もございませんが…? でも顔の裏、頭の中身は随分スカスカみたいですね。心配です」
「……っ!?」
な、何だこの女は!? ご主人様と慕っておきながらいきなり暴言を吐きやがった。動揺を隠せないまま俺は逃げるように辺りを見回していると、別の女と視線が合ってしまった。その女はスタスタとこちらに歩み寄って来ると、
ゴゥォオオオオッ!
「初めまして、ご主人様っ!」
挨拶と言わんばかりに燃え盛る頭の炎を俺の顔面目掛けて突き付けやがった。
「……」
「あっ….も、申し訳ございませんっ! すぐに鎮火し…」
その女はワタワタと慌てふためき自分が燃やしてしまった主人を鎮火しようと俺を燃やす炎に手を伸ばすが…
バジャアンッ!!
「……っ!?」
首の骨がいかれんばかりの大量の水が頭の上から降り注ぎ、体を包んでいた炎を鎮火した。
「まったく…私が近くにいなかったらどうするつもりでございましたの? 不死身とは言え、ご主人様で火遊びしちゃダメでしょう?」
「むぅ〜…別に水を司る闇がいなくてもあっちが何とか出来たもんっ!」
「へぇ、火を司る闇のくせに中々言うじゃない。火が水に勝てると思ってるの?」
「上等、あっちの炎で蒸発させてやるよ」
いつの間にか頭を始め随所随所が燃えてる女と全身が黒い半透明っぽい水みたいな女との喧嘩が始まろうとしている。何か止めないといけないような雰囲気だから俺はやめろやめろと言いながら仲裁に入ろうとするが、
ギチッ…
「んっ?」
何かかったいものが足に絡み付いてその場から動けなくなる。しかもじわじわと足から腰、腹へと徐々に体に巻き付いて行き、ついには指先や喉にまで侵食されてしまった。普段俺の体を拘束したいる鎖以上の強度に俺は顔をしかめていると、
ちゅるっ
「っ!?」
「動かないで下さいご主人様。水分補給の邪魔になりますので」
今度は黒緑色した植物みたいな女に一切の自由を奪われた。するとその女は俺の体に付いた水をジュルジュルとすすり始める。
「ちょっ、おまっ、何して…」
「黙って下さい、気が散ります」
(えぇ…)
この女も俺の子供なのだろうか。随分気性が荒い子もいるんだなぁと思いつつ、俺は黙ってなすがままにした。このまま無理に振りほどいても多分またぐちぐち言われるだけだろうし。
それから10分ほど時が経つと、やっと植物みたいな女は俺の体を離れた。
「ご主人様がチビで助かりました。では、私は妹達の面倒を見なくてはならないので」
「あっ、うん。えっ、妹いんの!?」
「悪いですか?」
「い、いや別に…」
衝撃の新事実を置き土産に植物みたいな女は行ってしまった。さっきの火の女と水の女もどっか行っちゃったし、やっと自由になれたと俺は腰を下ろすと、側にいた最初に出会った女にいくつか疑問を尋ねた。
俺の体はどうなったのか、お前やアイツらみたいなやつらはどれくらいいるのか、1人1人人並み外れた姿をしているのは何故なのか。
そしてあの互いの呼び方は何なのか。
俺の問いに最初に出会った女は1個1個丁寧に答えてくれた。まず俺の体は知らぬ間に不死身で不老不死になっているらしい。これは俺が目覚めた時に得た能力の1つで、どんなことがあっても絶対に死なず、しかも回復機能まで備わっているようだ。つまり皮を剥いだ俺の顔もその能力で治ったのだ。
まぁ、それはまだどうでもよいのだ。全員何人いるかと尋ねたら最初に出会った女は、
「ご主人様含めて、合計108ですかね」
とのことだ。つまり俺は一夜にして107の子供達を作ってしまったことになる。まさか俺はこれから死ぬことも出来ないままずっとこの子達を養っていかなくてはならないのか、と目の前が一瞬真っ黒になる。しかしここはギュッと耐えると、3番目の質問を聞いた。
「んでさ、お前らの姿はだいぶ変わってるよな。それは何か意味があるのか?」
「そうですねぇ、私達1人1人にはそれぞれ『司る力』というものが存在いたします。故にそれに特化した姿をしているのでしょう。あ、申し遅れました。私は『2番目、始まりを司る闇』でございます。以後、お見知り置きを」
「ふぅん、2番目ってことは、俺が1番ってことになるの?」
「その通りでございます。ご主人様は『1番目、究極を司る闇』、主人にふさわしき絶大な力を有しておられます」
つまり俺の子供達には1人1人にそれぞれ固有の能力が備わっているのか。さっき俺を燃やしたのは『火』、そんで鎮火したのは『水』、その水をすすったのは『植物』って感じだろうか。何かとんでもないやつらを生んじゃったと自分の力に少し不信感を抱いてしまう。
それはさておき、最後の質問だ。あの子達がお互いの呼び合い方は何なのだって話だ。
「アイツら…自分らのこと番号で呼び合ってんのか?」
「ええ、ご主人様も私のことは『2番目』とお呼び下さい。もちろん先ほどのように『お前』でも構いませんが…」
「……俺が1番目ってことは『4番目』もいるのか?」
「はい、『4番目』はたしか、『大地を司る闇』でしたね」
そう聞いた瞬間、俺は俯いて黙ってしまう。『製造番号04』に『受刑者番号2C0442-16』、誰も名前で呼んじゃくれない。番号ってのは名前以下、いわゆる見分けの対象に過ぎない。
俺ならともかく、それを子供達がやってるのはダメだ。子供達には番号じゃなく、それぞれの名前を呼びあって欲しい。それに俺だって自分の子供を何番目とか何番なんて呼びたくないし。
「なぁ…お前らの番号ってお前らにとってすごく大事だったりするのか?」
「…いや、別に。私達の番号はあくまで識別程度ですので」
「そうか…だったらちょっと頼み事がある。3番目と4番目を呼んで来てくれないか?」
「あっ、はい」
そう言って『始まりを司る闇』はスタスタと集団の中へと消えていった。改めて見ると本当に凄い数だ、果たして俺は全員にちゃんとアレを与えられるか少し不安になって来る。しかしここは俺が親としてちゃんとしなくては。不死身というのはいわば永遠の時間、子供達とは共に永遠に暮らさなくてはならない以上、お互いを番号で呼び合うなんてそんなことはさせない。
と思っていると『始まりを司る闇』は2人の闇を連れて来た。
「そろったか。えー、じゃあ、自己紹介して。『始まり』はもう聞いたから、あと他2人」
「あっ、じゃあまずはあっちから。さっきご主人様には炎ぶっかけちゃってごめんなさい。あっちは『3番目、火を司る闇』です」
「だいちは『4番目、大地を司る闇』です。地形変えたくなったらいつでも言ってくださいね」
「なるほどね…『始まり』に『火』に『大地』か…」
俺は3人に目をやりながら各々の顔を確認する。その顔はそれぞれが司る闇を思わせ、まさに俺の力の化身であることを認識される。
「なぁ、俺には名前があるだろう? 『佐藤 央力』ってな、知ってるか?」
「えぇ、まぁ、私は」
「あっちも知ってるよ」
「愚問だな、だいち達の主人の名を知らぬわけがあるまい」
そのことを聞いて安心した。どうやらこの子達は『名前』というものを理解している。なんなら話が早い、と俺は3人に近づくと、まず手始めに、
「じゃあ…お前ら3人、番号1個ずつ繰り上げな」
「「「ええっ!?」」」
「別に大したことじゃないだろ? 今日から『始まり』が1番目、『火』が2番目、『大地』が3番目、んで『俺』が4番目な」
俺は3人の前でそう言ってやった。自分の中で『始まり』が2番目ってのは何かしっくり来なかったし、そもそも『4』という数を子供に背負わせたくはなかった。まぁ、108人いるって言うから44番目の子はどうしてもってことになっちゃうだろうけど、そこは次なる手を打つから問題ないと思いたい。
「し、しかし…ご主人様が4番目というのは…」
『始まりを司る闇』は少し動揺しながらこちらに視線を送るが、そもそも自分の口に番号に深い意味は無いってんだから変えたところで別に大丈夫だろう。
「いいじゃん別に。それといちいち番号で呼ぶのめんどくさいから、俺がお前ら全員に名前を付けてやる。まずは『始まり』、今日からお前の名は『アダム』だ。いいか? 『アダム』だぞ。俺は『1番目』とかなんて呼ばないからな」
「えっ…はっ、はい…」
始まりを司る闇はコクコクと首を縦に振る。次に俺は『火』に視線を移す。
「んで『火』、お前の名前は『イリェ』だ。覚えたか? 『イリェ』だ、忘れんなよ」
「へいっ! あっちは『イリェ』…何で『イリェ』?」
「2番目だなんて呼びたかねぇんだよ俺は」
「なるほど納得」
火を司る闇はメラメラと頭の炎をたぎらせながら頷いた。そしていよいよ3人目だ。
「『大地』お前の名は、『アンバー=クロゥム』、分かったな? 『アンバー=クロゥム』」
「分かりましたっ、『アンバー=クロゥム』ですね。覚えておきます」
これにて3人の名前は付け終えた。しかしまだ子供達はあと104人もいる。こっからさらに名前を付けて行くとなると大変だろうが、でも俺は不死身で不老不死なのだ。時間なんていくらでもある。
次回の投稿もお楽しみに




