新たな仕事へ
おまたせしました
それから結婚式はと言うと、ほぼほぼ美奈の独壇場だった。あれから唇を重ねた後、スルスルと観客席に降りていった彼女は、央力とロボの前にずんっと立った。
「…あんだよ、俺に何か用か」
「お前じゃ無い。おいロボ、穏雅が死んだのは何で?」
「唐突だなぁ、ま、央力が殺し…」
ロボは隣で雁字搦めにされている央力を指差した瞬間、
バチンッ!!
「っ!?」
「っ!!」
「っ!」
「よくも穏雅を殺したわねっ!!」
美奈の強烈なビンタが央力の頰をぶっ叩いた。鎖に繋がれているのと突然のことなので央力も俺らも反応出来ず、なすがまま見ているしかなかった。
「この野郎っ!! ぶっ飛ばしてやるっ!!」
ギチギチギチッ
「いででででっ! おい、髪引っ張んなっ!」
怒れる美奈は央力が抵抗出来ないのをいいことに髪の毛をグイグイ毟り始めた。その光景に俺は慌てて観客席に飛び降りると、暴れる彼女を強引に引き剥がすため後ろから掴みかかると、
「邪魔だっ!!」
バキッ!!
「痛ぇっ!」
彼女の渾身の肘打ちが鼻頭にクリーンヒットした。俺はヨロヨロと鼻を抑えながら後退り、一度体制を立て直す。すると俺に変わって今度はロボが美奈を抑え込む。しかし彼女も長い身体をホコリまみれの中でドタンバタンと暴れるもんだから、辺りにはもうもうとホコリが煙となって立ち上がった。それに俺ら全員の目はやられ、雨の中にも関わらず全員外に避難せざるを得なくなった。
サァアアアッ
「ゲホッ! ゲホッ! ….っくしょいっ! もぉっ、何なのよあの式場はっ! ひんどいホコリだしっ!」
「仕方ねぇだろ、ドレスと婚約指輪、それにこの式場を借りるだけで精一杯だったんだから」
「…くそが、こんな鎖無かったらすぐにでもぶちのめしてやるのにぃ…」
「なぁ、これ一応結婚式なんだろ? なんか、もうこれコントじゃん」
俺らは建物の入り口付近で雨宿りしながらそんな風に言い争っていた。美奈は建物の汚さや今日の式の酷さに文句を言ってるし、央力は先ほど彼女に殴られた恨みを込めた眼差しを彼女に向けているし、ロボと俺はこの状況に呆れ返っている。しかし、こんな汚くてボロい建物でも一応借りて式を挙げているので、いつまでもいたら延滞料金を取られ兼ねない。雨はザァザァ降りだが、ここはもう家に帰る他ないだろう。
「美奈、帰るぞー。このままいたら延滞料金が発生するからな」
「えーっ、でも雨凄いじゃん。傘とか車なんて用意して無いんでしょ? 私濡れるの嫌なんだけど」
「分かってる、だからちょっと待ってろ」
俺は物陰に隠れて服を脱ぎ、上裸の状態になる。美奈は急に何してんだって顔をしながらこっちを見る。
「…何してんのよ急に服なんか脱いで」
「まぁ、濡れんなって言われたらこうするしか無いからね。ちょっと変身」
グググッ…ブァサッ!!
「…ツノが生えて髪が白くなった…それに羽も…」
俺は『究極生命体の力』を発揮し、肩甲骨と肋骨の一部を弄って背に大きな黒翼を生やした。ついでに爬虫類型の尻尾も生やす。そして目を丸くする美奈を抱き抱え、尻尾の先も地面に付かないよう絡み付かせた。
「じゃ俺はこれで、今日はわざわざ来てくれてありがとな」
俺はロボにそう告げてから、生やした翼を傘の代わりにして降りしきる雨の中を歩いた。パラパラと翼に雨が当たる音がブライダルカーの代わりとして演奏してくれる。俺は美奈が濡れないよう、よりぎゅっと強く抱きしめると、
スルッ…
「んっ」
「ちょっと寒いから、もっとくっ付いてくれると嬉しいな…」
彼女の方から腕を伸ばして、より強く抱きしめ合った。
「おらっ、俺らも帰るぞ。お前をずっと外に出してると叱られんだよ」
「……」
それとほぼ同時刻、ロボも央力を牢獄に戻さんと繋がれた鎖を引っ張っていた。しかし央力は降りしきる雨の中、遠くを呆然と眺めているだけで中々歩こうとしない。
「どうした、風邪でも引きたいのか」
ロボは頑なに動こうとしない央力にそう尋ねる。
しかし央力はロボと目線を合わせないまま、ジッと一点を見つめ何かブツブツと呟いている。
「…ぃぃなぁ」
「あん? 何か言ったか?」
「いや、何も…」
ロボは雨音の聞き間違いだと思い、そのまま央力を連れ帰った。
そしてロボが央力を牢獄に収監したとほぼ同時刻に、花嫁と花婿は自宅へと戻った。
「ふぅ〜う、まさかあんな最悪な結婚式になるとは思わなかったわ。体もすっかり冷えちゃったし、穏雅お風呂沸かしといてよ」
「その前にちょっと翼拭かせろ。結構水浸しになっちゃったから、ちゃんと拭かないと後々大変だからな」
俺は風呂を沸かすとそのまま浴室で翼を振るって雨水を落とす。一応翼自体はそれなりに水を弾いてくれるが、その隙間にはかなり入って来る。だからしっかり水を落とさないと重くなって翼として機能しなくなるのだ。
そうして雨水をある程度出し終えると、風呂が沸いた音が浴槽に響いた。それを聞きつけて美奈はガラッと扉を開けて入って来る。
「やっと沸いたのね。もう体が冷えて、寒くて寒くて」
ドボンッ
「はぁ…あったかい、生き返るわぁ…」
美奈は暖かい湯船の中にめいいっぱい身体を広げ、とろけた表情で呟いた。
「俺、出た方がいいかな?」
彼女の邪魔をしては悪いと俺は風呂から出ようとするが、
「別にいいよ。穏雅も一緒に入ればいいじゃん。もう夫婦なんだからさ」
とペシペシ浴槽の縁を叩きながら来るように催促する。多分拒否しても強引に入浴させられるだろうから、仕方なく俺は服を脱いで一緒に入ることにした。
「にしてもさ、さっきの姿なんなのよ? あんなの見たこと無いんだけど」
「ん? ああ、『究極生命体』のことか。俺が生前に手に入れた凄い力だって思ってくれたらいいよ」
入浴中、美奈はくるっと振り向いてそう尋ねて来た。しかし彼女にこの力の全容を説明するには、彼女の頭のキャパシティが足りないだろうから適当に強い力とだけ言った。しかし彼女はその力に興味を示したのか、距離を寄せてさらに尋ねて来た。
「えー、でもツノ生えてたし…髪真っ白になってたし」
「もしかして…怖かった?」
ひょっとして美奈を怖がらせてしまったのでは、と俺は少し不安になる。たしかに『究極生命体』に変身した時の俺は普段と比べて明らかに姿形が変わるし、額からツノまで生えてしまう。
生前俺が鬼として謳われたのも、残虐非道かつ極悪最低で強大な力を持っていたこともあるが、やはり額にツノを生やす白髪鬼と化したのも大きな要因だろう。何でこの力を使うと白髪になってツノが生えるのかは分からないが、万物を助ける役目を負っている割には他者を恐怖させている事実は否めなかった、人間からは特に。
俺は恐る恐る美奈にそう尋ねたが、
「別に。むしろあの時の方が優しい顔してたよ」
と首を横に振りながらそう答えた。その答えに俺はホッと胸を撫で下ろすことが出来た。なにせあの力を使う自分の姿がもしかして美奈を怖がらせてしまうんじゃないか、と少し恐れていた自分がいたのだから。
「そういや話変わるけど、俺さ転職しようと思うんだよね」
「唐突ね、何で?」
「リフォームの借金もあるし、何しろ今の仕事じゃ返し切れる額じゃないし。何しろちょっとエンゲル係数が…」
「…エンゲル係数? なにそれ」
実はここ最近分かったことだが、美奈の体格が変わったおかげで自分の計算以上に家のエンゲル係数が跳ね上がったのだ。そのせいで処刑執行人な仕事では返し切れない可能性が浮き彫りになり、ちょっと家計が苦しくなりつつあるのだ。毎日のように央力と激突してボーナスを貰いまくってもいいのだが、それだと多分1週間も持たずに地獄が崩壊し仕事どころじゃ無くなり兼ねない。
だから俺はロボから手渡された新たな仕事をやってみようと思ったのだ。
「まぁ、要は今より給料のいい仕事に就きたいって話だ。明日ちょっと連絡して行って来る」
「ふぅん、ちなみに何て仕事なの?」
「『死神』」
次回の投稿もお楽しみに




