うちの主人は死神様
おまたせしました
翌日、俺は新しい仕事の面接に行った。面接官は俺が入って来た時、まず全員目を丸くした。まぁ地獄最恐と謳われた鬼が死神になりたいって来たら誰しも驚くだろうけど。
面接の内容はどれだけ無情になれるかとか、命を捨てる覚悟はあるかとか、または何日も帰れなくなった場合どのように対処するかとか色々だった。100年前から今の今までずっと罪人を嬲って来たのだから無情になれるかなんて今更の話だったけど、何日も帰れないって問いにはその間妻の安全を友人に頼むと答えた。自分のことなどその次でいい。
しかし命を捨てる覚悟ってのはまるで無かった。そもそもそんなものがいったい何の役に立つのか、まるで想像が出来ない。自分が死んだら何も残らないだろうし第一守りたい者を守れなくなる。だから俺は、そんな覚悟は無い、どんな状況でも自ら命を捨てることはしないと答えた。面接の時間はせいぜい5分ほどだっただろうか、意外にもあっさり終わってしまった。
そして部屋を出ようとすると、最後に面接官の1人が、
「君に合う鎌を考えておこう。明日から来たまえ」
と言った。どうやら1発採用だったようだ。俺は失礼しますと言って扉を閉めると、そのまま真っ直ぐ元作業場所へとその足で向かった。
もう更衣室のロッカーに俺の服は無かった。
「おう、私服で来たのか」
「だって俺の服もう無いんだろ?」
「ああ、突然お前が仕事辞めるって言うもんだから他の奴らは大慌てだ。んで、新しい仕事は? そういや何すんだ?」
「『死神』、今日面接して来た。もちろん1発合格、明日から来いってさ」
『死神』の仕事とは、主に現世の霊をあの世に連れて行くことだったり、人知を超えた怪物の処理だったりと色々だ。まぁ、ざっくり言えば人間達の手に負えない怪物達の相手をしろってことだ。俺がそう説明すると、ロボはふぅんと興味無さげに返し、受刑者の処刑と同時並行で話を続けた。
「んで、嫁さんの反応は?」
「今より給料いいって言ったら文句無しだってよ」
「たははっ、流石だな。にしてもお前さ、随分良い女手にしたんだな。スリーサイズとかドレス越しでも結構エグかったぞ、良い意味で」
「前に体調ついでにスリーサイズも測ったんだけど、たしか胸囲19.7あったんだよな、当人はスンゲェ喜んでたけど」
俺がそう言うとロボはまた大笑いして俺の右薬指を突っついた。そこには指輪を付けて出来た跡が薄っすらと残っている。
「はぁ〜あ、まさかお前が結婚してそんで転職すっとはなぁ。何が起きるか分かったもんじゃねぇよほんっと」
「本当になぁ、俺だってまさか女作って結婚するとは100年前は考えなかったよ。なにせ性欲無いし、女なんてまるで興味のない俺がだぜ、100年前の俺が見たら驚くんだろうなぁ」
俺は過去…というより今でも性欲皆無の自分がよく1人の女性と繋がれたことを不思議に思った。付き合ったとしてもどうせ俺との馬が合わず、すぐに破局するものだと思っていたのに。そう思っていると、不意に央力のことが頭をよぎる。今まで央力の暴走を止めていたのは同じ力を持つ俺だけだった。もし俺がいなくなったらそれをいったい誰が止めると言うのだろうか。
「つか俺がいなかったら央力どーすんの。流石に何も考えて無いっつぅことは無いだろ」
俺はロボにそう尋ねる。そもそもこうして転職をするというきっかけを作ったのはロボが上から新しい仕事が来ていると言ったからだ。もしもロボがそう言わなければその内容を見ても転職なんてしないだろうって思っていたのだ。
そう尋ねると、ロボはニヤニヤ笑いながら拳をグッと握って見せた。
「まだ試作だし、性能試しても無いけど、一応新兵器開発したんだよね。良い研究データを提供してくれた人のおかげでね」
「…それで負けたら笑い者だな。んじゃ地獄は任せたぜ」
「ああ、お前も気が向いたらいつでも帰って来ていいぜ。残飯処理ならいくらいても困らないからな」
俺らはそうして別れを告げ合った。ロボの言うデータというのは恐らくあの力のことだろう。それをものにした、もしくはそれに近い力を手に入れたってんなら少しは頼もしい存在になってくれているはずだ。というより、そうでないと困る。
さて、明日から俺は大鎌片手に霊を払い続ける生活になる。除霊の仕方とかコツとか、後は鎌の振り方とか色々覚えなきゃいけないだろうから頑張っていかないと。今までは罪人達が相手だったから無情に潰せていたけれど、霊が相手となるときっとそうはいかない。あの世に連れて行くには暴力以外にも手を考えなくてはならないのだから。
俺は地獄を後にすると、そういや昼飯がまだだったことを腹の虫が暴れ出す。今まではクソ不味い残飯を処理していたからそれで済ませていたのだが、今はもうそれすら口に出来ない。財布の中身は冷え切っており、せいぜいコンビニのパン2つに化けるくらい出来無かった。
家に帰っても美奈の分の昼食しか作ってないし、ただでさえエンゲル係数ヤバい状態なのに一食増やすなんてもっての他だった。そういえば死神の仕事に昼食のことなんて何も書いて無かったから、今後昼食の確保が保証されない可能性が大きい。
「あぁ〜、俺の生命維持に関わる…」
美奈を養うことと家計のことばかりに頭を持っていかれ過ぎて自分のことをすっかり忘れていた。このままでは仕事どころでは無くなってしまう。仕方ないからここは涙を呑んで、なけなしの金をパンに変える他ない。俺はパンを頬張りながらトボトボと家に帰った。家に帰ったら布団敷いてソッコー寝る、エネルギーの無駄を極限まで抑えなければ。
「あっ、穏雅随分と早いのね。新しい仕事はどうだった?」
「1発合格だよ。つかちょっと寝るから、夕食作る時間になったら起こして」
俺は家に帰るやいなやすぐに布団を敷いてその中に潜り込んだ。今は徹底して体を動かさず、エネルギーの消費を極限まで減らさなくては。そうして俺は目を閉じるとそのまま寝てしまった。美奈の呆れと不満が混ぜ合わせた言葉が何度も投げかけられた気がするけど多分それは気のせいだ。
そしていよいよ仕事当日、我が家の家計のためにも頑張らなくては。
「今日から死神? ガンバ〜」
「まぁ、悪霊とか話の通じない動物の霊相手には拳使っていいらしいから、適当に頑張って来るよ」
「夕飯までには帰って来なさ〜い、絶対ね〜」
「はいはい、まぁ初日だし。今日は感じ掴むってだけだと思うから大丈夫だよ」
俺は家を出てスタスタと昨日面接に行った施設を訪ねた。そこからは何やら怪しげな雰囲気を感じさせるオーラが滲み出ており、いかにも死神の仕事場らしい感じだった。
「よろしくお願いします」
俺は頭を下げて入室すると、
「待ってたよ、早速君の鎌を渡そう。やり方は普通の鎌と同じ、これで霊を切り裂くんだ。まぁ、やってるうちに慣れるよ」
と昨日の面接官の1人に大鎌を渡された。何とも死神らしいシンプルな鎌だった。この重厚感と刃先の静かな艶が魂を無情に切り裂いていく、という死神らしい雰囲気を出している。
「それじゃ、この建物の裏に現世に通じる穴がある。くれぐれも生者は狩るんじゃ無いぞ? たまにノルマを達成出来ず、そんな横暴に走る輩がいるからな。本当は君の肉体を作り、あっちでも使えるようにしたいのだが、いかんせん君の体は凄く厄介だからな。完成までもう少し待ってくれ」
「あっちでも使える体って…要するに生き返るってことですか?」
「そう思ってくれていいだろう。何せ死神は時に生きている怪物も相手にしなくてはならないからな。とにかく今日はあくまで霊のみを相手にするように」
「分かりました、それじゃ行ってきます」
俺はそう告げてから現世に通じる穴を目指して歩き出す。これから俺の新しい仕事が始まるのだと、鎌をぎゅうと握りながら。
次回の投稿もお楽しみに




