僕の大好きなお父さん
お待たせしました
満点の星空という夜を真音と共に過ごした翌日、
むくり…
「んん…んんっ…? ふんぐっ…、いくら柔らかいって言っても芝の上で寝るもんじゃあないな…。いててっ…体硬くなってる…」
真音のお父さんはがっちぃーんっと固まってしまった体をごきんごきん起こしながら目を覚ます。いくら柔らかいと言っても芝の上で一夜を明かしたお父さんの関節は完全に固まってしまい、いざ起きようとしても全くと体が言うことを聞かない。それどころか所々がビリビリと痺れており、何だか頭痛もする。
「寝るのならやはりもっと柔らかいものの上じゃあなきゃ駄目か…。ポー・ジャイディも疲労の余り床で寝てた日の翌日は酷かったからなぁ…。あいててっ…せ、背骨が軋んでる…」
お父さんは少し捻っただけでゴキゴキ鳴る体を、手足を伸ばしたり腰を反ったりすることで鎮めながら、辺りの様子を見回す。
いる場所が山であり、しかも早朝なこともあってか、辺りには朝靄にしては少々濃い霧が立ち込めていることにお父さんは気がついた。この霧の中から脱出するには真音の協力が必要不可欠だと考えたお父さんは、隣で寝ている真音に話しかける。
「あっ… 真音。お前は大丈夫か? お父さんはすごく背中が痛くなっちゃったよ…。今晩はもっと柔らかい布団の上とかで…」
しかし、
「真音…? あれ? 真音…っ!?」
そこに真音の姿はなかった。濃い霧の中と言えど辺りに生えている木程度ならば見えるから、全長7mをも超える真音の巨体が見えない筈がない。
「真音ーーッッ!!」
お父さんは口元に手を当てて大声で真音の名を呼ぶが、返って来るのは自身の山彦のみ。諦めずに何度も何度もその名を呼ぶが、一向に真音の声は返っては来ない。
次第にお父さんの顔には焦りが見え始め、もしや何処かで迷子になっているんじゃあないか、意外と寝相が悪くて山の中を転がっていってしまったんじゃあないか、もしそうでなくとも夜の内に何かあったのは間違いない。
「くそっ…ど、何処へ…ハッ」
いなくなった真音を懸命に探すお父さん。すると真音が寝ていた所から、真音のものと思われる足跡が続いているのを発見する。その短い歩幅、浅い踏み込み具合から見て、どうやら大急ぎでこの場を離れなくてはならない状況に真音があったわけではないことをお父さんは悟ると、
「私の側を離れて…いったい何処へ行くんだ… ! 真音ッ」
大慌てでその足を辿った。
だが、
「くっ…こ、ここで空を飛んだ…のかっ…!! これじゃあ追跡なんて出来やぁしないっ…!」
時が経って朝陽も昇り、濃かった霧も薄れつつあり視界もそれなりに確保出来るようになった頃、何と真音の足跡は途中でパッタリと消えていたのだ。真音が空を飛べることをお父さんは知っているから、ここから先には足跡がないと言うことはこの先から真音は空へ向かったことと想像する。
しかしいったい何故真音は空へと行く必要があるのか?
「ま、まさか……っ」
瞬間、お父さんの頭の中には最悪な予想が浮かぶ。真音は相当なことが起きない限り独断で自分の元を離れず、わざわざこんなとこまで歩いて来て空を飛ぶような子じゃあない。
ならば答えは1つ、第三者が眠っている真音を起こし、夜の内に連れ去ったということだ。
そんなことをするような奴は、自分が知る限り1人しかいない。
と、思った次の瞬間、
グゴロロロロッ…カッ!!!
「…っ!!」
ズンッ……!! ズドォンッ……!!! ドグォンッ……!!!
すぐ近くに巨大過ぎて、稲妻がバリバリとその中や外を走る厚く黒い雷雲をお父さんは見た。
そして鈍くも力強い音が、空気を揺らして辺りに轟いていることも感じ取る。
「あれは…まさか、あの雷雲は…」
ダッ!
「真音ーーーーッッ!!」
その瞬間、お父さんは雷雲目掛けて走り出していた。嫌な予感よ、当たってくれるなと一縷の望みに賭けながら。
――
時は遡り、まだ夜空に星々が瞬いている頃、
トントンッ…
「ん…? んんぅ……? くぁあっ…ふぁあ〜あ……」
何者かに体を叩かれたことで真音は深い眠りから4つの目を覚ます。
「やっと見つけた…。探したよ」
すると寝ぼけ眼の4つの目が捉えたのは、
「ふあっ…あ〜〜あ……。お父さんの友達さん…? どうしたの……?」
大好きなお父さんの友達だと言っていた複製だった。たしか、由美ヰを倒せと自分のお父さんから伝言を預かっていた複製だったかと真音は思い出すと、一対何用かと尋ねる。
「どうやら君も君のお父さんも無事だったか…。よかったよかった。あの怪物から逃げられたんだね」
「う、うん…。お父さんがアイツとは戦うなって言って、僕と逃げてくれたから…」
話を聞くと、どうやら複製もあの水魔から逃げて来たらしく、お互い無事であったことを確認しに来たらしい。真音はお父さんが自分と逃げてくれたから助かったと答えると、その複製は安堵しながらも少し悔しそうな顔で続ける。
「そうか…でも悔しくはないのか? 本当は勝てるって思ったんじゃあないのか? 戦わずして逃げるなんて…」
「それは…そうだけど……。でも…お父さんが自分に心配かけてくれるなって言うから…僕は…」
複製は真音に戦わずして逃げるなんて真似をして悔しくはないのか、勝てると思った相手から逃げて何とも思わないかと、強く言った。しかし真音は、たしかにちょっとは悔しいけれど、お父さんが自分を心配させるような真似なんかするなと怒られたから、本気で叱ってくれたから、と答える。
だが間髪入れず、真音の言葉を遮るかのように複製は言った。
「そんなんでいいと思っているのかっ? それに、あの怪物がまた来ないとも限らないっ。あの怪物に勝てるくらい強くなって、お父さんに心配かけないようにならないとは思わないのかっ?」
「…ッ!」
「君は強くなるんだ、ならなければならない。お父さんを守れるくらい、お父さんに心配をかけないくらい、誰にも負けないくらい強くなるんだっ。分かったかっ!?」
「は……はいっ……」
お父さんを心配させたくはない、お父さんとずぅっと一緒にいたい、その想いと複製の言葉に真音は、力無くはいと答えてしまう。
「よぉし、よく言った。それなら私と一緒に来い。君をちゃんと強くしてやるからな」
「えっ…で、でもお父さんは…」
「大丈夫、君のお父さんだって君に強くいて欲しいさ。ちゃんと後から迎えに来るよ」
「う…は…はい……」
まさに子供の誘拐、そうして真音は複製に連れられお父さんの元を離れていった。今よりも強くなったら、お父さんには心配かけたくない。だどもその想いがあっても、真音は今ひとつ煮え切らずにいた。今はお父さんから離れたくないのに、お父さんと一緒にいたいのに。
でもお父さんが僕に強くいて欲しいと言うのなら、そう思っているのならば、僕は頑張ってみせる。
と、連れ去られる中、真音は煮え切らない想いを静かに固めていた。
そして、
「うわっ…ま、眩しい……。でも…綺麗……。ね、ねぇ…たしかあれって…朝? あれが朝陽…なの?」
「そんなことどうだっていいだろ、とにかく来い。強くなるためには私の言うことを聞くんだ。私の、君のお父さんの友達である私の、な」
「あ…は……はい……。ごめん…なさい……」
朝陽も昇り、真音は複製に連れ去られるまま、お父さんの友達だと言う複製の言うことを聞くよう頭を下げた。強くならなくっちゃあいつまでもお父さんとは一緒にいられない。だから頑張ってこのお父さんの友達の言うことを聞いて強くならないと、と。
「よぉしそれじゃあ…ん? あれは…ふふっ、何と好都合」
念のため真音を開けた平原まで飛んで来させた複製は、辺りに手頃な相手がいないかと探した。するとそこへ偶然か必然か、上空に1つの小さな影を見つけた。その者は長い白髪を1束に纏め、特徴的な空色の羽付き帽子を被っている。
間違いない、その者こそ自分らの敵、悪魔の能力を持つ羽田美月であった。
「おい、お前。上に1人の悪魔が飛んでいるのが見えるだろ?」
「あ、あれ? は、はい…見えるよ…たしかあの子は…」
「アイツを倒して来い。分かったな」
「はっ……はい……」
複製は空を舞う美月を指差し、アイツを倒して来るよう真音に命じる。それを聞いて真音ははいと頷くと、
ドンッ!!!
思い切り大地を蹴って、空にいる美月に襲いかかった。
「…ったく、あんの巨乳バカ二世が言ってた怪獣ってのが、どうやら次の相手ってわけか…。強くはないがどんどん強くなるから厄介だっつってたな。神気はここいら感じられっから…早めに見つけて潰しとかねぇと」
そして美月がここにいる理由は、先日由美ヰから聞いた怪獣のことを探すためだった。話によると怪獣自体はそこまで強くはないが、成長速度が異常なまでに早く、油断しているとあっという間に潰されるとのこと。
そんな怪獣が次なる敵となれば、早めに手を打っておかなければ厄介なことになり兼ねないと、怪獣のものと思しき神気を辿って美月はやって来たのだ。
グォンッ!!
「倒すッ…アイツを倒すんだっ…!!」
「…向こうからお出ましか。探す手間が省けて助かるッ」
と、自分のことを探している最中の美月に真音はぐぁっと大口を開けて襲いかかった。
それを見て美月は探す手間が省けたと、即座に臨戦態勢に入り、
「グァオオオオオオッッ!!!」
ブンッ……!!!
襲い来る真音の手を難なくかわすと、
「ガルッッ…!?」
バキッ!!!!
「ボギャッ!!?」
カウンターの蹴りをその顎に喰らわせ、吹っ飛ばす。
「オグゴゴゴ…アッ…アゴがっ……」
ゴキッ
「ん治ったぁ…ん?」
しかし真音はすぐさま空中で止まり態勢を立て直すと、顎をゴキンと治しながら追撃に備えた。
だが美月は追撃に移らず、余裕な態度で真音に近づく。
すると、
ゴロロロロ……
「な、何で雲が…? さっきまであんなに晴れてたのに…」
美月と真音の周りにだけ分厚き雷雲が立ち込め、ゴロゴロと雷が鳴り出す。突然現れ、自分らを取り囲む雷雲に真音はギョッと困惑していると、
「話によると随分頑丈なんだって? 私の敵として立ちはだかるってんなら丁度いい。あの巨乳バカに挑む前に、お前で1つ腕試しと行こうか」
ニタリと悪魔のような笑みを見せながら美月はそう言い、構えた。
「ぐぬぬ…でも、僕は強くなるんだっ! 強くなってお父さんと一緒にいるんだッッ!! お前にだって、僕は負けないぞッッ!!! グァアルルルルッッ!!!」
「ふぅん…。なら、来いよ」
次回の投稿もお楽しみに
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