なんと美しいことか、君と一緒に見る世界は
お待たせしました
「04の奴…出来損ないのくせに…この私に劣化複製などと…。まぁいい、ななしも美月も2774も04も皆殺しにしてやる。あの怪獣さえいれば…私の計画は叶えられる…っ!」
央力達究極の闇から逃げ果せた劣化複製は負け惜しみを言いながらレーダー片手に森の中を歩き続ける。オリジナルにいつまでも固執し続ける私が劣化複製などと、そんなわけがある筈ないと。
「もう少しだ…レーダーの反応が近づいている…。あの出来損ないが生きているということは…その側には必ずあの怪獣がいる筈だ…」
レーダーはポー・ジャイディの複製の腕に取り付けられている手錠の発信機が出す信号を受信し、液晶画面にその位置情報を映し出している。不幸にも怪獣の頭の内部に取り付けた爆弾に備わっている発信機とは連動していない故、怪獣の居場所は割り出せない。だがあの複製が生きているということは、あの水のような怪物から生き残ったということは、高い確率で怪獣も生きており、そして複製と共にいる可能性が高い。
何しろあの複製はオリジナルみたく自分の大切な子の側にいたから。怪獣はを見捨てて自分だけ助かるなんてことはしないだろう。
そう考える劣化複製の顔は不吉に歪み、近づきつつあるレーダーの反応を目指して歩き続けた。
――
それと同時刻、真音は自身のお父さんを背中に乗せて、空気が澄み、景色のいい山まで来ていた。お父さんは見栄えがよく、かつ人気の少ない場所に着地するよう真音に指示し、真音と共にその場に降り立つ。
「んーっ…すふぅっ…、綺麗な景色だ…」
「そう…だね」
大自然と人の作りし建物が混じり合う光景を前に、お父さんはんーっと腕を伸ばしながら感銘する。しかしその隣にいる真音にはまだ美しいものを美しいと思えるだけの心が育っていない故、愛想笑いを交えてそう言った。
「無理に理解する必要はないさ。色んなものを見て、色んなことを感じて、少しずつこれは綺麗、これは美しいって思えるようになればそれでいいんだよ。大丈夫、焦らずゆっくりやっていこう」
「うんっ」
そんな真音を見てお父さんは、何かを美しいと思える心はすぐには育たない。だから焦らずゆっくり育てていこうと真音に教える。お父さんの優しい言葉を聞いて真音はほっと安心するように頷くと、だったらもっともっとお父さんの行きたいところに行きたいと真音は目を輝かせる。
だが、
「…ここに人はいないな。これなら万が一のことが起きても……」
お父さんはキラキラ目を輝かせる真音のことを見て、その頭の中にある危険物のことを思い出してしまう。
これがある限り真音は自由にはなれないし、いつ誤爆して真音の命を奪うかも分からない。
だから、
「真音、私の行きたい場所に向かう前に…少しだけいいか?」
「ん? なぁに」
「お父さんが耳掃除してあげよっか。気持ちいいぞ」
真音の命を脅かするようなゴミは、自分がこの手で取ってやる。そう意気込んでお父さんは怪獣の耳掃除をしてやることにした。
「まずは右耳からやろうか。んじゃ寝そべって、真音」
「耳掃除かぁ……ちょっとドキドキして来た…」
「慎重にやるけれど、痛かったら痛いって言っていいからね」
「う、うんっ…」
お父さんはそう言って真音をうつ伏せに寝かせると、自分なんか軽く一呑みに出来そうな程大きな真音の頭に近づく。
そして耳にかかるくらい長く伸びた白髪をそっと退けると、その裏にある大きな耳の穴に手を伸ばした。真音の耳の穴は多種の動物と比べて非常に大きく、お父さんの腕1本くらいの細さならば、手錠の輪が付いていても何とか中に入って行けるのだ。もちろんその中にはいかなる侵入者をも許さない耳毛が生え揃っている故、お父さんが自身の腕を入れられたとしても、その中を楽々進んで行けるわけではない。
ゴソッ……ゴゾッ……
「んふふっ、ちょ、ちょっと、くすぐったいよっ。でも…たしかにちょっと気持ちいいかも」
「痛くない? 大丈夫か?」
「全然痛くないよ。平気平気」
だがそれでもお父さんは真音の耳の奥にある爆弾目指して腕を、手を、指を伸ばす。真音が生まれる際、今まで通り頭の中に埋め込むよりも脳に近い耳の奥に爆弾を設置した方が簡易的だからだ。だからこうして手を伸ばせば、いつかはきっと爆弾に辿り着ける。
お父さんの耳掃除開始から数十後、お父さんの5本の指は懸命に耳奥にある爆弾を探し続けた末、
ゴリッ……
(あっ…あった!! 後はこれを…)
ぐじゅっ…
「んんんっ…ちょっ…ちょっと…ゾワゾワするぅ…」
「我慢出来るか…? 痛いのなら無理にとは言わないからな」
「いや…大丈夫っ。大丈夫だよっ…」
真音の耳奥にある爆弾に触れることが出来た。幸いにもこの爆弾はある程度の衝撃では爆発しない、爆弾のスイッチを入れないても限りは起爆しない作りとなっている故、多少は力強く掴んでも問題はない。
しかしそれでも頑丈な真音の体を殺せるだけの爆弾である故、お父さんは慎重かつ丁寧に耳毛に絡まる爆弾を引っ張り、取り出す。
ゾワッ…ゴゾッ……ズゾッ…
「んんんっ…」
そして遂に、
ズボ……
「ほぅ……と、取れた…」
お父さんの手には、大きく害にしかならない耳垢があった。それを見ていて、ほぅと安堵のため息を漏らしているお父さんに、
「んはぁ…き、気持ちよかったぁ……。反対もやってやって」
と真音は気持ちよかったから左耳のお掃除もお願いと言った。
「ああ、任せろ」
「やった」
そんな真音を前にお父さんはやれやれまだやるのかと呆れながらも、純粋な笑顔で頼まれちゃあ断れないと、何も無い左耳の掃除も始める。
ゴソッ…ゴソッ…
「えへへ…気持ちいい。僕の指がお父さんみたくもっと細かったら、僕がお父さんの耳掃除をしてあげられるのに…」
「その優しい気持ちだけでお父さんは十分だよ」
そうして気持ちよくなる耳に夢中になる真音に夢中になりながら、お父さんは耳掃除を進めた。その結果…
「…お父さん…手臭い…」
「耳の中が臭いのは当たり前なんだよ…。次からはちゃんとした専用の棒でやろうか。本当は手や指でやると耳の中が傷ついて、声や音が聞こえなくなっちゃうからね」
長らく耳の中を弄り回していたお父さんの手は臭くなってしまい、その匂いに真音もお父さんも顔をしかしめていた。しかし耳の中が臭いのは当たり前、健康のためにも次からはちゃんと耳かきでやろうかとお父さんは自身の耳が臭いということに肩を落とす真音を励ます。
「う、うん。でもすごぉく気持ちよかったっ! またやって!」
「ああ、もちろんだ。それと…少し暗くなって来たから、今日はここでお父さんと寝ようか」
「わぁいっ!」
そしてお父さんは近づいて来た夜を前に、時間的に少し早いが今晩はここで夜を過ごそうと真音に言った。すると真音は初めてお父さんと一緒に寝れることにわぁいっとはしゃぎながら、ウッキウキで寝そべった。
すると時が進むにつれて少しずつ夜の光が、闇夜に瞬く星々がお父さんと真音の頭上で瞬き始める。辺りには他に灯りがないからか等級の低い星々もよく見え、気がつけばその満点の星空がお父さんと真音の上に広がっていた。
「うわぁ……綺麗……。お父さんからあれらは星だって教わったけど…こんな数…初めて見た…」
「そうだな…実はお父さんも見るのは初めてなんだ。しっかりこの目に焼き付けておかないとな」
(ポー・ジャイディ、貴方もこの星空を見たか…? 貴方の家族と共に…この景色を…)
果たしてポー・ジャイディはこの空を見たことがあるのだろうか。大切な家族と共に、この景色を。もしも見ていたとするならば、自分は今ポー・ジャイディと同じ景色を見ていることとなる、ポー・ジャイディもきっと心奪われたであろう光景を。そう考えると、お父さんの顔からは自然と笑みがこぼれてしまい、うっとりと目を細めてしまう。
するとその隣で、
「でも…あのおっきいのが1番輝いてるね。月…だっけ? それであの形は…三日月?」
真音は自分らの頭上で1番強く輝く星、月を指差してお父さんにそう尋ねた。
「ああ、よく覚えていたね、えらいぞ。そう、あれは三日月。時が経つに連れて少しずつあの形は変わっていってね、まん丸、いわば満月になった時なんかは凄く綺麗だ」
「へぇ、満月かぁ…見てみたいっ! お父さんとっ!」
その問いかけにお父さんはちゃんと合っている、教えたことを覚えていてえらいぞと返すと、真音は更に上機嫌になって星々に負けないくらい目を輝かせながら夜空に釘付けとなる。
そんな、楽しそうでいる真音を横目にお父さんは更ににこりと微笑むと、気の済むまで美しい星空を堪能した。
そして次第に真音とお父さんの瞼は下がって行き…そのまま微睡の中へと落ちて行った。
ザクッ
次回の投稿もお楽しみに
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