月面白翼使徒 対 異次元怪獣
おまたせしました
来いよ、という美月の挑発に真音はグォオッと呻きながら突っ込んでゆく。その速さは由美ヰと対峙した時と比べて格段に早くなっており、ほぼ一瞬の内に美月を自身の間合いに捉えてしまう。そして自身の爪で柔らかそうなその幼肌を引き裂いてやらんと、真音は美月に襲いかかった。
だが、
ヒュルッ…
「ッ!」
美月はするんっと体を捻り、流れゆく風の如く真音の爪をかわすと、
「むんッ!!!」
ズンッ!!!! メリ……ッ!!!!
「オボゲェェッ!?」
自身の足先をメリメリ真音の腹に突き刺した。強固な体を貫き、肉を抉り飛ばしたわけではないが、それでも美月の蹴りは深く真音の腹にめり込んでいる。
「おぅらぁッ!!」
ギャルルルルッッ!!!!
「うごがぎいぃっ!!?」
しかもそれだけに終わらず、更に追撃と言わんばかりに美月は体を大きく捻り、岩盤を打ち砕くドリルの如く回転を加えた。すると回転を加えられたことで深く突き刺さった美月の脚は更に真音の腹にめり込み、内臓をぐわんぐわん掻き混ぜる。
「うぐご…ごっ…ごのぉっ!!」
ビュオッ!!
けれど、いつまでも喰らっているわけにはゆかぬと真音はギシリと歯を食い縛り、自身の腹を突き刺す美月を今度こそ捕らえんと腕を振るう。
「ふんっ」
パァンッ
しかし真音の腕は、宙を舞う鬱陶しい蚊の如く呆気なく美月に払われてしまうと、
「これでも喰らえッ!!!」
バリリルルルルルルルルルァァアッッ!!!!
「おぶばびぃ!!?」
すっからかんとなり、腹から顎にかけて隙だらけの真音の体を美月は下から上へ拳で掬い上げる。まさにスカイアッパーの如く一撃、しかも脚で宙を蹴って飛び上がりながら喰らわせた故、拳に乗る威力は非常に重い。
そんな一撃を腹から顎にかけて防御も出来ずに喰らってしまえば、いくら圧倒的な強度が自慢の真音の体といえどひとたまりもない。
だがしかし、美月が喰らわせた拳はただの拳でもなければ、神気を強く纏っただけのものでもなかった。
美月は自身の拳に自身の雷を込めていたのだ。拳に纏われた雷は真音の体を力強く走り、更なるダメージを与える。
それこそ、
「グギギ…ギ? か、体が……痺れて…?」
完封とはいかずとも、真音の体を痺れさせ、動きを多少は封じる程に。
「さぁて、まだまだ行くぜッ。まだぜんっぜん私の体はあったまってないんだからな」
「ウヌヌッ…そ、そんなんこっちだって! こんなの全然効かないもんねっ!! 僕だってまだ準備体操程度だッ!!」
そんな真音に美月は不敵な笑みを見せながら、まだまだ勝負はこれからだと言う。けれども相手に負けちゃいけないと真音も声を荒らげ、張り合うかのようにそう言った。自分だってまだ本気を出しちゃあいない、この程度自分にとっては準備運動なもんだと。
すると、
「ふぅん…ならさっさと済ませることだな。ボヤボヤしてっと準備体操の最中に終わるぞ」
美月は悪魔的笑みを見せながら真音にそう警告した。
そして次の瞬間、
バリルァッ!!!!
「うぶげっ!!?」
今までとは比にならない速度、まさに走る稲妻か、もしくは閃光と見紛う速さで美月は真音の顔面を蹴り飛ばす。
余りにも速過ぎる、明らかに変わり過ぎているその速度に真音の理解は追いつく間与えられない。
しかも、
ドズンッ!!!!
「ガッ……!!」
真音が吹き飛ばされる方向に先回りし、その無防備な背中を美月は方向転換と言わんばかりに再度蹴り、ぶっ飛ばす。その威力たるや勢いよく吹っ飛んでいる真音の巨体の進路を変え、更に上空へとぶっ飛ばしてしまう程。
だが美月の攻撃は終わらない。
サッカーボールのように、時にはサンドバックのように美月は真音の体を蹴り飛ばし、殴り飛ばした。それこそ真音の体のみを追えば、狭い部屋の中で勢いよく叩きつけられ、壁や床、天井を縦横無尽に弾み転げるゴムボールのように。
しかし普通のゴムボールの弾みと違うのは、弾かれる際に勢いよく美月がそのボールをぶっ飛ばしていることだ。つまり普通ならば弾んだ分だけボールの速度や弾む大きさは衰えてゆくのだが、美月の場合は殴る蹴るをして随時威力を与えている故、一向に真音がぶっ飛ばされる速度や大きさは変わらない。
加えて、
ゴロロロ…
「あがぐっ…グギ…ッ! み、見え…ない……ッ」
美月が呼び集めた厚い雷雲は真音の体を完全に包み込んでいる故、4つの目があれどその視界はほとんどゼロの状況で戦うことを強いられた。目で見るのではなく、相手の神気を捉えられるようになれば視界が悪くても相手のことは見えるようにはなるが、だが真音にはまだそんなこと出来ない。
そしてもちろん世界最強の神獣の下で修行している美月には雷雲の中でも真音の姿は見えており、完全に真音の巨体を捉えている。
しかも、
バリルルルルルルッッ!!!!
(雷雲の中なら雷はほぼ使い放題…。神気を雷雲にも伝わらせれば…雷の軌道も操れるッ!! よしッ!! 修行した通り、形に出来てるッッ!!!)
美月は雷雲に自身の神気を伝わらせることで、その中を走る稲妻や雷の軌道を好きに操ることが出来ていた。加えて雷を絶えず雷雲から補給出来るため、実質雷落とし放題の状況も作り出せている。
これも師匠との修行の賜物。全てはにっくき巨乳バカの怪物を倒すため、美月は自身の雷を操る能力を遺憾なく発揮出来る戦い方を目指した。
「ぐっ…うぐご…こ、コンチクショォ……。うるぁっ!!」
ファンッ…!
「ま、まぁたバラバラ…にぎぎぎぎっ!!」
ヒュルルルッ…
(コイツも…たしかに成長速度は速いけれど、あくまで私に追い付こうと素早くなる程度…。それじゃあ私を捕らえることは出来ないな)
そして自身の体を無数に羽に分離することで真音の反撃をかわし続ける故、どれほど真音が成長し、速くなっても美月には対応出来なくなることはない。
ズンッッ!!!!
「ヴァグ…」
ズドォンッ!!!!
「ガキ…ッ」
ドグォンッッッ!!!!
「グゾォ…ッ!」
巨大な暗雲を走る稲妻、その中では美月による圧倒が真音を苦しめていた。いかんせん真音の相手常識がほとんど通じない故、由美ヰの時みたく成長を繰り返しただけでどうにかなるものではない。
ドフォンッ!!
「グギ…グッ!」
「もう終わりだな。降参するか? それとも続行か? 好きに選んでいいぞ」
(にしても戦ってる中分かったが…コイツ…)
そうしてとうとう雷雲の外へぶっ飛ばされる頃には、もう真音はボロボロになっていた。大きく傷ついているわけではないが、絶えず何も出来ないことと意味不明の敵を相手にすることで精神的に追い込まれた真音は、ゼェゼェと疲労した顔で美月のことを睨みつける。
しかしそれ以外に何か出来るわけがなく、真音の頭の中は今の自分じゃあ美月には勝てないという考えでいっぱいになりつつある。
よもや敗色濃い状況、真音にはもう何も出来ない。
そして、
「くっ…クソッ…何故勝てないッ…!? 美月はななしよりも弱い筈…。なら、その複製である2774の力を超える貴様が美月に負けるわけが無いっ!!」
雷雲の中からボロボロになって吹っ飛ばされて来た真音を見て、複製はこんな馬鹿な話があるわけがないと顔を歪めていた。真音の強さは由美ヰよりも上の筈。ならば必然的にななしよりも真音は強い筈だから、当然ななしよりも弱い美月に負けるわけがない。
だのに目の前に広がる光景はどうだ、真音はボロボロになって出て来て、美月は余裕な表情でいる。
つまり真音は追い詰められているのだ、あろうことかななしよりも弱い筈の美月相手に。
「こんな馬鹿なことが…っ!」
ザッ
その時、
「だから言っただろう。あの子はまだ未熟なんだ、戦わせるには早いってな」
嘆く複製の背後に男が1人、やって来た。
「なっ…きっ、貴様はっ…」
「この際真音を連れ去ったことは何も言わない…。だが貴様は…貴様だけは許しておけない…ッ!!」
カチッ…
現れた男こそ真音のお父さん。巨大な雷雲の中で繰り広げられる激突を聞きつけ、その近くまでやって来たのだ。
お父さんは複製に隠し持っていた拳銃の銃口を向けながら、鬼気迫った顔でそう言う。
「もうこんなことはやめろッ。そしてこれからは誰にも迷惑かけず、世界征服なんか企まずに過ごすんだッ。そうでなければ…お前を殺してでも…!」
複製に銃口を向け、引き金に指をかけながらも、お父さんはこの場から逃げ出し、ひっそりと暮らすのなら許してやると言った。全てはここで終わらせる、複製の世界征服は自分がこの手で止めてやると、お父さんの決意は固かった。
しかし、
「ふっ……ふふっ……」
「何がおかしいっ…!」
銃口を向けられた状況にあるにもかかわらず、複製は何故か笑い出す。そして、
「貴様はオリジナルと似た心を持っている。出来損ないでありながら、本当によく出来た複製だ。だから私がこうやって…」
カチッ…
「ッ!」
「銃を構えても、貴様は撃てないだろう?」
余裕な笑みを浮かべながら、お父さんに向かって複製自身も持っていた拳銃を取り出した。しかしその一連の動作を見ても、お父さんは拳銃の引き金を引けない。
それもその筈、だって真音のお父さんは、
「何故なら貴様は、反吐が出るほど優しいあの出来損ないの複製なんだからな」
ポー・ジャイディという、誰かのために尽くした心優しい男の複製なのだから。どんなに吐き気を催す程に邪悪な者を相手にしても、殺すことなんか出来やしないのだ。
銃口を向ければきっと引き下がってくれる。自分の脅しに退いてくれる。
そんな淡いお父さんの想いは今、粉々に砕け散ってしまった。
「黙れっ!! 私が全てを終わらせるっ!! 今っ! ここでっ!!」
お父さんは懸命にそう叫び、銃を構えるが…
カタカタカタ…
「…震えているぞ。やはり撃てないんだろう。貴様はそういう奴の複製だからな」
その銃を握りしめている腕はカタカタと震えており、止める覚悟を出来ていても殺す覚悟までは出来ていないことを表している。
「怖いんだろう、出来ないんだろう。誰かを殺すことなんか、貴様に出来るわけがない。貴様の優しさはよく知ってるからな。いや、それともただの臆病者か」
もはやコイツは自分を撃つことなど出来やしない。そう確信した複製はニッと笑いながら、銃口をしっかりとお父さんの眉間に定めた。
「あぁ…たしかに怖い……。他者を殺すなんて…な」
その言葉を聞いて尚、自身の腕の震えを止められないお父さんは呟くように言う。
しかし、
「でも、お前を止めなければ…また、多くの者達が悲しむことになるっ…ッ!! その者達のことを…見殺しには出来ないッ…!!」
目つきは確かに変わった。未だ体は震えているが、たしかにお父さんの目つきは変わっていた。
まさにそれは何かを強く、硬く決意した証。1人の人間として、決意を固めた証だった。
「複製…お前を…止める…ッ!!」
瞬間、
ドンッ!
銃声が辺りに轟き、
ドサッ
人間が1人、地面に倒れた音が続いて聞こえて来る。
空気を裂くようなその音は遥か上空で対峙する美月と真音にも少しばかり遅れて聞こえ、思わずその方を振り返ってしまった。
次回の投稿もお楽しみに
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