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アンバランス・ワールド  作者: がおー
第1.9章 〜鬼の生き様〜
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実験用対実践用の戦い

おまたせしました

 ザフッ


 壁から降り地面に着地した俺はチラリと後ろの壁を見る。もう穏雅(おうが)は行ってしまったかと、既に無い気配が物語る。つまりここからは俺1人で俺の決着をつけなくてはならない。


 思い返せば、俺と穏雅(オリジナル)が過ごした時間は2時間ぐらいかそこらだった。いくら自分が穏雅(ソイツ)を元に作られた存在と言えど、自分と穏雅(アイツ)とは全くの他人だ。

 なのに俺はやつを頼り、協力を持ちかけ、短い時間ではあるが共に戦った。まるで永遠の約束を誓い合う友であるかのように。


「…ふんっ」


 俺は笑った、兵器らしくもなく。何で笑えたのかは分からないけど、笑ってしまったのだ。俺は芽生えた心がそうしたのだ、と勝手に結論付け、それ以上考えるのをやめた。


 『心』なんぞ計算で分かるもんじゃあないからな。


 そして俺は足早に自分の生まれた場所に乗り込むと、そこから先は目に付いたカメラが脱出の際に捉えた映像だけを頼りに中を進んだ。とは言え、敵は俺の現在地を発信器か何かで把握しているだろうから、全く見つからないってのは無理そうだ。


 何て考えているうちに、


 カンッ


「来やがったか」


 金属製の床と鋼が(こす)り合う音がすぐ背後から聞こえた。タイプは先程俺達が戦ったのとは別タイプ、いわば対人間に特化したものだ。単純なパワーなら先程のよりずっと上だし、攻撃速度も比にならないだろう。


「目標を確認。排除」


「チッ」


 それを前に俺は2、3歩後ろに下がり、臨戦態勢に入る。だがまともに戦っても勝ち目なんて無い。すぐさま組みつかれて、体を解体(バラ)されて、スクラップにされて終いだ。

 ならばどうするか、その答えは…


 ギュアッ!


「ふっ!」


 迫り来る攻撃をかわし、


 ズザッ!


 相手の股をすり抜け、


「ふんっ!」


 バゴッ!


 頸椎部(けいついぶ)に強い衝撃を喰らわせる。当然決定打にはならないが、メインコンピュータを振動させ少しは動きを鈍らせることくらいは出来る。その隙を突いて俺は全力で場を後にした。

 数秒後にはアイツも追って来るだろうから、全力で巻くことだけを考えて走る。そしてまた別の兵器と鉢合わせたならば、同じようにして巻く。そうして逃げながら、俺はただひたすら自分の求めるやつがいる場所を目指した。


(アイツなら…戦いながら成長とか出来るんだろうな…)


 そんな自分の姿と、穏雅(アイツ)の姿を、比べてしまう。アイツならきっと立ち止まり、戦いの中で成長を重ねるだろう。そして敵を打ち破る(すべ)を見出すか、もしくは自身をより強く、高みへとのし上げる。


 だが俺は違う。俺がどれだけ考えても、体は決して付いて来ない。むしろ戦えば体は痛みを蓄積し、性能は劣っていくばかりだ。それにどんなに頑張っても一度削った体力(バッテリー)が回復することはないし、こうしてただ平然としている間にも意思とは関係なくゴリゴリ減っていく。


 いくら自分が心を持った奇跡の存在だろうとそれだけは揺るがない。


 ああ、羨ましい。進化してゆく人間が、先を行ける人間が、自分達にはそれが出来ない。自分より強いもの、そうでなくとも機能がよいものは今までのもの達から無情に存在価値を奪っていく。与えられた力はそれ以上を生み出さず、それだけを持って戦わなくてはならない。一度決定付けられた実力の差はどう足掻いても(くつがえ)らない。


 『制御及力量実験用特殊仕様』


 この烙印(らくいん)が自らの体から剥がれることは決してない。



 ザギッ ザギッ 


「チッ…まぁ、そうだよね」



 そうこうしているうちに、前からも後ろからも来た。そりゃそうだ、敵はいつでも前や後ろから来るわけじゃない。こうやって集団で取り囲むのも立派な戦略だ。


「万事休す…か」


 俺はやれやれと首を振ると、いよいよ本気で力を出すかと身構える。敵の数は視界に見えるだけでも10以上は確実。後ろにもまだまだ控えているだろうから、そう簡単にはいかない。

 はてさてどうしたものか、と冗談抜きで悩んでいると、


 カンッ


「零号機を視認、排除命令を実行」


 兵器達の間を掻き分け、1人の少年が現れた。


 それを見た瞬間、俺は即座に理解した。



 コイツこそが『実践用』なのだと。



「お前は何だ」


「対国家殲滅用特化型装置搭載型軍事又兵器引率用兵器、実践及対象惨殺用特殊仕様、弍号機」



 俺がそう尋ねると、ソイツは自らの名を名乗った。どうやら俺の予想通り、コイツはマジな兵器だ。最初から相手を殺すためだけに生まれた存在なのだ。制御及力量実験用の俺とは根本的な性能も作りも違う。


「惜しかったな、零号機。貴様の目標である創造主様の部屋はすぐそこだった」


「ケッ、何ならすぐ退()いてもらおうか。俺は貴様らに用は無い」


「それは出来ない。排除を行う」


「そうかよ…っ!」


 俺と同じく、喋るだけの機能は搭載されているようだ。だがそこには何の感情もこもっておらず、何とも機械的で無機質なものだ。もし自分に心なるものが芽生えていなかったら自分もこんな風になっていたのだと、想像すると恐ろしい。


 もう引くわけにはいかない。コイツを倒さなくては、俺の意思は叶わない。


 俺は立ち向かった。自分以上と分かっているが、引くことが叶わないのなら進むだけだ。


 しかし、


 グギッ!


「ぅぐっ….」


「弱いな」


 ソイツは俺の予想を遥かに上回る存在だった。力、スピード、攻撃精密度、その全てが俺以上。今の自分では全く歯が立たないと思い知らされる。


 ガァンッ!


「…っ!」


「たかが実験用が惨殺用に勝てると思ったか、浅はかな」


 俺を首を絞め付けながら壁に押し付けると、ソイツは淡々と言う。たしかにコイツの言う通り、俺とコイツとじゃあれっきとした性能の差たるものが存在する。その差はどう足掻いても埋まらないだろう。


 けれど、


「…ゥゥウラァッ!」


 ドガッ!


 そんな差、すぐにでも埋めてやる。最後の最後まで取って置くつもりだったが、もう出し惜しみなんてしない。最大出力でぶっ潰す。

 今の蹴りはほんの挨拶代わりだ、と俺はまだ自由である脚でソイツを蹴り飛ばした。何とかソイツの腕を引き剥がすことは出来、俺の体は自由を取り戻す。蹴り飛ばしたソイツは反対の壁に叩き付けられるが、特に大したダメージにはなっていないようだ。


「そんな攻撃が通じるわけがないだろう」


「その言葉、そっくりそのまま返すぜ。俺だって貴様の攻撃程度じゃあくたばらん」


戯言(ざれごと)だ」


「さぁどうかな? 案外そうとも限らないかもよ」


 力で勝てなくとも、精神面じゃ負けない。いや、目の前の敵にそんなもの無いだろうから、会話上では負けないとでも言おう。

 そしてまたソイツは俺に襲い来る。やつの手は一直線にこちらの首を取りに来て、かわせばすぐさま追尾して来る。


 しかしその攻撃はあまりにも一直線過ぎる。まるでただ目の前の敵を潰す以外考えていないような…



 いや、そうかっ。そもそもコイツらは命令をただ実行するだけの兵器。俺みたいに目標達成ための回り道なんてしないやつらなのだ。



 ならば、手はあるかもしれない。一直線に攻めて来るだけの敵に対し、俺が出来ることはまだある。思えばさっきからコイツ、ただひたすら俺の首を取りに来ることしかしない。おかげでかわすだけなら体が慣れてしまった。まぁ、このままずっとかわし続けてたらバッテリーが切れるんだけど。


 だが何故、コイツは首を取りに来ることしかしないのか。



 その答えは簡単だ。先程コイツは、俺の目標まで後少しと言っていた。いわばここで自分と敵がドンパチ殴り合えば、その被害に俺を作ったやつらが巻き込まれるわけだ。

 つまり今のコイツは本気でやれない。もし本気を出せば決定的被害が出るからだ。


野鼠(のねずみ)みたいに逃げているな。それだけの力は備わっていたか」


「ふん、汚い便所の下水管で腐って死んでる溝鼠(ドブネズミ)の糞を垂れ流しにも満たない攻撃なんか喰らわねえんだよ」


 俺は攻撃をかわしながらソイツにそう言ってやった。心なんて持ってないやつに俺の言葉を聞いても何とも思わんだろうが俺はスッとしたし、よしとするか。


「少し力を入れるか。貴様を潰すにはそれだけで十分だ」


「どうせなら全力出した方がいいんじゃない?」


 ザ…


「期待なんかしないけど」



 俺がそう言ったのが合図だった。ソイツは先程より速度を上げて、俺の首を取りに来た。しかしあまりにも直線的過ぎる。つまりそれだけ単調な動きしか出来ないってわけだ。


 まぁ、所詮コイツは弍号機。コイツだって試作機の俺の2番目に生まれたやつだ。差は歴然だろうと、隙を取れない程ではない。



 ヒュバッ!



「っ!」


「馬ー鹿」



 ドグォンッ!



 向かい来るソイツをかわすと同時に、俺の力も込めてソイツの体を壁へ押しつけてやった。壁に突っ込んでいったソイツはその勢いのまま激突、して作り出した大きな穴の向こうへと消えていった。



 その穴から覗く光景はまさに、俺が目指していた場所だった。

次回の投稿もお楽しみに



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