運命の糸、絡まる時
おまたせしました
俺は…誰だ。
ここは…何処だ。
目の前のものは…何だ。
何をすれば…いいのだ。
生まれた心は、そんな疑問を次々にぷかぷかと浮かばせては、解決もせず放ったらかしにした。何故ならその兵器にはまだ思考を持って物事を解決する力が十分に備わっていなかったからだ。
兵器はゆっくりと目に内蔵されたカメラを回し、辺りの情報を得ていく。そこにあるのは自分の腕、脚、体、そこから生えているケーブル、冷たく硬い床、金属質で無機質な壁、透明度の高いガラス。
そしてその奥にいる、憎しみで作られた心が殲滅しろと訴える顔ぶれ。
それを視認した時、兵器の拳は鋼より硬く握られており、次の瞬間、
ガァンッ!
元々備わっていた力を存分に振るい、目の前にある邪魔で透明な壁をぶち割る。ガラスは一瞬にして砕け散り、兵器に製作者と同じ空気を吸わせた。
バチンッ! バツンッ!
兵器は体から伸びている可動に障害が発生するケーブルを力任せに引き千切ると、完全に己の身を自由にした。
そんな状況下に兵器を作り出した者達が混乱しないわけが無く、一同騒然、泰山鳴動してパニックに陥った。
「くそっ、どうなってるっ! 何で零号機が制御下を離れるんだっ!」
「分かりませんっ! それに擬似思考回路も訳分からないデータとエラーで埋め尽くされてますっ! まるでこんなの…」
「いいから早く主電源を切れっ! さっさとコイツを処分するんだっ!」
「ダメですっ! 内部電源はすでに充電完了してますっ、止めるのは…」
研究員達は血眼に稼働停止を試みるが、心を持ち、自立した兵器にそれは最早不可能だった。兵器は留まるところを知らず、ついに研究員の1人に掴みかかると、
(殺す…)
グォンッ!
まるで子供の球遊びみたく、軽々と壁へ投げ飛ばした。その顔は無情ながらも憤怒に包まれ、場にいた者全員を凍てつかせる。ただ無情に、何の躊躇いも戸惑いも無く怒りと憎しみを持って対象を殲滅にかかっている。
その姿は皮肉にも、彼らが兵器に求めたものだった。振るうべき相手が違うだけであって。
そしてもう1つ研究員達は気が付いた。自分らの制御下を離れた兵器はまるで怒り狂っているように動いているのだ、と。兵器の動きに機械特有の無機質さが感じられない、と研究員の目には映り、人間特有の怒りを前にした時と同じように自身らが怯えているのだと察した。
だが恐怖に体を支配された研究員に、最早兵器の殺戮は止められない。彼らはここで自分らが生み出した兵器に殺されるのだと、誰もがそう思った。
その時、
ガチッ
バシュゥッ!
「……!」
ズドゴォンッ!
研究員の1人がすぐ側の武器庫から散弾銃に近いものを取って、やって来た。その武器は一般の猟師が扱うものより2回りほど大きく、銃口も銃弾がより高い破壊力を生み出す設計になっていた。心を持ってしまったが故なのか、意識外からの攻撃に対応出来なかった兵器はそのまま部屋の壁へと叩きつけられた。
だがそれでも兵器には全く応えていないのか、すぐにムクリと起き上がる。
そんな兵器の目に映ったのは、
「くたばれっ! 失敗作がっ! 心持ったみたいに動きやがってっ!」
自身を作った親が、自分自身を見捨てる姿だった。
ただの兵器なら、もしくは人間の言葉など到底響かない畜生なら、または元より感情や思考など無いムシケラなら、それを聞いても何とも思わなかっただろう。
しかしこの兵器は違う。先程も、心があるせいで憎しみなるものが生まれ、それで視界が狭まっていたから不意打ちに気付かなったのだ。
そして今も、心を持ってしまったが故に、
「……っ」
親からの心無い言葉に、らしくもなく動きを止めてしまったのだ。
バジュッ!
バギグンッ!
それはまさに、親が子を捨てた瞬間であった。親が引いた引き金は我が子を拒絶した音であり、撃ち出された銃弾は親の心理を表すかのように子の心を破壊した。
「……」
兵器は何の反撃もしなかった。決してその銃弾で大事な機能がイカレたわけでも、関節が破壊されたわけでもないのに、胸が締め付けられるように痛いのだ。兵器である自分に痛みなどある筈がないのに。
次の瞬間、兵器はその場から逃げ出した。冷たい床を蹴り、冷ややかな視線を背に、決して振り返らなかった。
何で自分がこんなことしてるのか、自身にも分からなかった。
先程まであんなに殺しがっていた者達なのに、何であんなチンケな言葉がここまでの破壊力を持っているのか。
謎が謎を呼び、分からないことだらけ、それに悩むことすら出来ず、兵器はひたすら走った。ただただ走った。走っていればいずれ答えが見つかる筈もないのに。
けど走らずにはいられなかった。止まってしまえば、何なのか分からないナニカに追いつかれてしまいそうだから。
「……?」
気が付けば随分走った。見慣れない景色、嗅いだこともない空気が周りを包んでいる。
だが自分は知っている。目の前にあるコレは植物であり、上に広がる青いモノは空であり、自身の足元を歩いているソレは虫である。
何故知っているのか、答えはすぐに出る。
元より知っているのだ。自分はソレらが予め分かるように作られたのだから。だがこれから自分が何をすへばいいのかまでは分からない。
そう思った兵器は、今一度自分の知っている情報を整理した。自分は何者か、何のために生まれて来たのか、ソレらを辿った先にあったもの。それは…
「『穏雅』…『松田 穏雅』」
もしも心など芽生えなければ、自分の殲滅対象であった男だった。そして自分自身のデザイン元となった、いわばオリジナルとも言える存在である。
瞬間、兵器はその男を目指して歩いていた。その男に会えば何か分かるという確信があるわけでもないし、必ず会わなくてはならないわけもない。
だが兵器にとってその男に会えば何か分かると、そんな気がしてならないのだ。きっと自分に必要な何かを与えてくれる、と、何の根拠もない確信を持って。当然一度も会ったことも無い相手に、だ。
(俺…どうかしてんだな)
そう思いながら兵器は進んだ。その先に自分の求める相手がいると信じて。
(まず出会ったら何と言おうか。俺と共に俺を捨てたやつを滅してくれとでも頼んでみようか。まぁ、どんなやつかは分からないけど)
そして数時間後、2人が巡り合うのは決して偶然ではないだろう。鬼と殺戮兵器が出会うのは、なるべくしてなったことなのだ。
強大な力は惹かれ合う。必然的に出会うよう、運命が決まっているのだ。当然そんなこと、2人が気付く筈もないし、気付いたとしてもそれ自体に意味は無いであろう。
2人が出会う、その結果だけが2人の今後を左右するのだ。
そして時は2人が出会い、兵器の名があまりにも長いからと、俺が略して『ロボ』と呼ぶところから始まる。最初こそロボ自身はおいおいと突っ込んでいたが、なるほど確かに、いちいち自分の正式名称を名乗っていてはめんどくさいことだと気付く。
そうして俺とロボは、ロボの言う世界をぶっ壊すやつらを止めることについて話し合っていた。
「で、俺らでソイツを止めると…そこまではいいんだけど、何か策とかはあんの?」
「えっ、無いよんなもん」
俺の問いにロボはあっけらかんと答える。その顔は本当に何も考えておらず、そして今もそうですよって感じのものだった。
「おいおい…無鉄砲過ぎるだろ。相手だってお前が逃げたんだから、それなりの対応ぐらいして来るって」
「そりゃそうだけど…だって俺試作品だし…やつらに対してプログラミングされてる情報が少ないんだよなぁ」
「だからって特攻はなぁ…何か他にないの? 研究所内のデータとかさ」
「なーんも無しっ! プログラミングされて無いものはありませんっ」
何て使えないやつ…と俺は呆れ返った。だがこのままでは本当にコイツと共に特攻するという結論に行き兼ねない。それだけは何とかしなければ、と俺は思考を巡らした。
その時、
バキッ
「んっ?」
「あっ」
何者かが木の枝を踏んだ音がすぐ近くから聞こえ、話し合っていた俺らの意識はそっちに向く。
そこには、
「零号機及び穏雅の存在を確認」
明らかに敵って感じのやつが、早速お出ましと来やがった。
次回の投稿もお楽しみに
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