天界兵器最高戦力、ラファクルエル
おまたせしました
「……?」
気がついたロボはゆっくりと目を開け、辺りの様子を見渡す。たしか自分は天界兵器の攻撃をモロに喰らい、体の7割以上を大破してしまった筈。最後に大天使から聞いた言葉は、被害を受けた自分をお偉いさんが何とかしてくれるとのことだったが、果たしてそれはどうなったのか。
そう思っていると、
(クゥ〜…)
(世継…よかった、無事だったんだな)
心の中に息子の強い存在を感じた。もっとよく見ると、世継はスウスウと静かに寝息を立てており、何処も怪我をしていない様子だった。
そのことにホッと胸を撫で下ろしていると、
「やっと気が付きましたか」
自分のすぐ横から女の子みたく幼い声が聞こえて来た。その方をくるっと振り向くと、そこにはその声にぴったりの背丈の低い少女の姿があった。
「……誰だ?」
「初めまして、私の名はラファクルエル。ラフサナファエルが言ったお偉いさんとは私のことです」
「…なるほど、俺を直してくれたのもあなたが?」
「ええ、地獄の鬼と呼ばれている割には身体構造が非常に簡素な作りとなっていったので、然程時間はかかりませんでした。むしろ私達の兵器と比べ出力が低過ぎるので、全く元通りの力に戻すという方が難しかったくらいです。こんな簡素な作り過ぎると、バッテリーも専用のものを作らなくてはならないのが手間ですね。充電完了まであと数秒程待ってて下さい」
「……」
ラファクルエルは落ち着いた口調で修復したことをロボに告げる。だがその言動は妙に見下されているようで、思わずロボは黙ってしまう。しかし自分を直してくれたのも事実なようだから、ロボは出かけた怒りをぐっと堪えて耐えた。
「それにしても心を持った兵器が他にいたとは興味深い。しかも中に2人いるなんて、そうそうあるものではありませんよ」
「どういうこと? 他にもいるって…」
ラファクルエルの謎な言葉にロボはどういうことかと尋ねると、
「私ですよ、私も心を持つ兵器なのです。もちろん他の天界兵器に心を持つ者はいません」
何とラファクルエルもロボと同じく、心を持つ兵器だと言うのだ。そんな予想だにしていなかった答えにロボは数秒程硬直していたが、その間に、
「充電が終わりましたね。それでは地獄へお帰り下さい。帰り道は案内致しましょう」
ロボの充電が完了した。するとラファクルエルは自動的にロボの体を起こし、そして地獄へ帰還するよう促した。その切り替えの早さと鋼のような冷たさにロボは怒りを通り越して呆れつつも、いつまでもここに留まる必要はないと言われた通り立ち去ろうとする。
その時、
「……? やっぱり体が軽い…」
立ち上がった瞬間、異常なまでの体の軽さに気づき、驚いた。
「あんた…俺の体に何を…」
ロボは驚きを隠しきれないまま、側にいるラファクルエルに何をしたのか尋ねた。そんなロボとは反対になおも落ち着き払っているラファクルエルは、まるでそれが当然であるかのように答える。
「別に、私はただ貴方の体を直しただけです。しかし完全に元通りにするには少々貴方は私達に比べて弱過ぎました。故に体が軽いのは今まで以上の力を手にしたからでしょう」
「……なるほど、単純に強く作り直してくれたってわけか。ありがとな」
「大したことではございません。私達の役目は『世界の秩序を守ること』でありますので」
「ふぅん…その役目を負った最高戦力が地獄にやって来たのも世界の秩序とやらのためか?」
ラファクルエルの言う『世界の秩序』に、ロボは少し口調を強めて尋ねる。あの惨劇によって自分はボロボロになり、最悪消滅するところだった。もしもハルファフルエルも世界の秩序を守る存在であったとすれば、何故あんなことをしたのかはっきりさせてもらいたい。
そんな意思を込めて尋ねると、ラファクルエルは、
「えぇ、その通りでございます。ハルファフルエルは最高戦力の1人ですので、どんな時も世界の秩序のために」
至極あっさりとそう答えた。そんな態度にロボは強い憤りと理不尽さを覚えるが、同時に狂気とも言える秩序を守るという使命感の強さにたじろいでしまう。それを前に怒りの炎は小さくならざるを得なくなり、行き場をうろうろと見失ってしまう。だがどうにも堪えきれないロボは何とか反撃してやろうと、何かないか修復をしてくれた部屋を出ながら考えた。
そして思考の末にロボが出した反撃は、
「そういやとある書物にあったんだけどさ、天界にはその世界を守る竜がいるんだって? せっかく天界に来たんなら、見て行きたいな」
世継のデザイン元である、天界を守る竜についてラファクルエルに尋ねた。もし駄目だと言われても、世界の秩序によって自分自身は消滅しかけたという理由を付けて喰いつくつもりだった。
しかしそんなロボの考えとは反対に、
「構いませんよ、そのくらい。そういえば貴方の息子さん、世継と言いましたね。デザイン元をその竜とやらにしたと、直している最中に気づきましたもので」
ラファクルエルはあっさりロボの提案を飲んでしまうのだった。その意外さに思わずロボは怒りを忘れ、本当にいいのかと逆に困惑してしまう。しかし落ち着きを崩さないラファクルエルは、自分から頼んでおいて変なやつと言わんばかりの眼差しを送る。
そして天界を守る竜がいるという部屋に招かれる。
「ではここで今から天界を守る竜をお呼びしましょう」
「ほ、本当にいいんですか?」
「自分が頼んだのでしょう。それに見られたからと言って私達が弱くなることはないので」
「まぁ…それはそうかもですけど…」
招かれた部屋はロボを直した部屋とは全く違い、まるで兵器の発進場のようだった。そしてロボの想像は見事に的中し、
「ゼルクァサハエルッ」
ラファクルエルの呼出と共に、
クォーンッ
シュンッ
「…」
1匹の白竜が姿を現した。その体長はゆうに5mを超え、頭には2対のツノが生えている。しかし生物のような体表ではなく、あくまで天界兵器の名にふさわしき光沢感のある鋼で包まれている。強靭な2足の脚を地に付け、ズンッと佇む姿は紛うこと無き竜、それ以外の言葉は見つからない。
「紹介しましょう、名はゼルクァサハエル。私、ハルファフルエルと同じ天界兵器最高戦力です。貴方の言う通り、ゼルクァサハエルは天界含め、世界の秩序のために存在しているので、天界を守る竜というのもあながち間違いではないでしょう」
「な、なるほど……」
ラファクルエルがそう説明するとゼルクァサハエルはそっと小さく頷いた。まるで、よろしくとでも言っているかのような仕草をするゼルクァサハエルだが、口があるにも関わらず何故か言葉を発しようとしない。その点に付いてロボは尋ねようとすると、それより先にラファクルエルが割って入るようにして、
「ゼルクァサハエルは喋れません、喋る必要が無いので。天界兵器最高戦力の中で喋れるのは私とハルファフルエルのみなのです」
と答えた。それに対しロボはハァとしか返せず、ただこちらを見て来るゼルクァサハエルと名付けられた竜を見るしかなかった。
そうしてしばらくゼルクァサハエルを見ていたロボだったが、何でいつまでもここに留まっているのかと思い出す。
「そろそろ帰っていいですかね?」
「えぇ、天界を守る竜は存分に御堪能いただけましたか」
「あっ、うん。おかげさまで」
ロボはペコペコと頭を下げながら天界兵器を見せてくれたことに感謝した。ラファクルエルはそうですか、と相変わらず淡々とした反応で返す。そして…
「それでは帰り道までの案内は、お詫びも兼ねてハルファフルエルにさせましょう。私はまだやるべきことがありますので」
「えっ」
「ハルファフルエルッ」
と躊躇い無くハルファフルエルを呼び出し、
クォーン
シュンッ
「お呼びですか、ラファクルエル」
「この方を地獄まで案内しなさい」
「…分かりました」
ロボを地獄まで案内するよう命じた。その命令にハルファフルエルは機械のごとく答え、そしてつい先程消し飛ばし兼ねたロボの元へ歩み寄った。
そうしてロボは地獄へ帰るまで、自分をズタボロにした張本人と気まずい時間を過ごすことになったのだ。
次回の投稿もお楽しみに
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