鬼の死に様、そして歩む道
おまたせしました
地に堕ちた光松田 穏雅、魔界から来た魔物士圭二、天界兵器ハルファフルエル、といった異変を乗り越えた地獄は久方ぶりの平穏に包まれていた。
厄介者だった央力が蘇生したこともあり、つい100年程前から日常茶飯事だった殴り合いの騒音はパタリと止んでしまった。
そんな全ての異変に立ち会って来た者達はどうしているのかと言うと…
「今日で地獄の仕事も終わりか〜、いやぁ大変だったなぁ」
「ほんっとそれ、闇堕ちとか本当に勘弁してくれって思った」
「ごめんごめん。でもさ、俺が死神の仕事に戻っちまったら、地獄はお前だけだぜ。たった1人で大丈夫か?」
「ふん、天界で生まれ変わった俺を舐めんなよ? お前がいなくたってやってけるっつぅの。まっ、不安なら残ってくれてもいいんだぜ?」
いつもみたく笑いながら話し合っていた。しかし話の内容は2人の表情と反対に暗いもので、ロボにとっては2度目の別れ話だった。
央力と違い、簡単に会えなくなるというわけではないが、それでも前より会う頻度が少なくなるのは確実だ。
「寂しいか? 俺と会える時が短くなるのは」
「けっ、腐っても俺はお前専用の殺戮兵器だぜ。寂しいなんて思わねえよ」
「へぇ、そう、じゃあ別れは惜しくないな。俺も特に悲しくねぇから、ここからさっさとおさらばさせてもらうぜ。じゃあな…」
「ああ…」
穏雅は少し早口になりながら地獄に、ロボに背を向ける。そんな抹殺対象にして戦友である穏雅の背中を、ロボは焼き付けるように見つめた。
これが永遠の別れじゃない、会おうと思えばまた会える、その筈なのに、頭の中では理解しているのに、何故か胸が苦しく込み上げて来るものがある。
「……」
「……」
ほんの一瞬、穏雅の足が止まりかける。同時にロボの顔がわずかに緩む。
「…」
「…」
しかしまるで気のせいだったかのように、また穏雅は歩き出す。
それからもう二度と振り返ることも立ち止まることも無く。そんな穏雅の背中をロボはらしくもなく、ハァと深いため息を付くと、何も言わず地獄へと戻っていく。
鬼の目に涙は無い、空念仏など決して読まない、無いツノを折ることはない。
けれども2人の顔は何処か寂しそうで、心にシクシクと針が刺さるような感触を覚えていた。しかしその表情は誰にも見せず見られず、2人は互いの仕事へ励んだ。それから10秒とかからぬうちに、2人は前を向き、そして自分のやるべきことに明るい表情で腕を振るっていた。
「さて…と、死神業も久しぶりだな…まっ――」
「随分静かになっちまったなぁ…それでも――」
「「頑張りますかぁっ!!」」
あれから数日後、死神業に復帰した穏雅は大鎌片手に新たな狩場を探していた。地獄の決して高くない給料は穏雅の家計にとって大きな痛手となり、何とか穴埋めをしないと財産がマイナスな方へ行き兼ねない。
しかし死神の給料はより強く、より厄介な者を相手にしない限りボーナスは出ない。それ即ち安定した給料の確保が難しいということだ。だから何とかして対策を練る必要がある穏雅は今日も今日とてうんうん悩んでいるのだ。
そんな穏雅の元に1人の死神が話しかける。
「どうした穏雅、お前でも悩み事があるんだな」
「そりゃそうですよ…ハァ…何か強い霊が集まりやすいとことかないですかねぇ。今ちょっと金に困ってるんですよ」
「ふむ、なるほど。それなら」
悩みごとがあるのならばと聞こうと、気さくな態度で。穏雅はため息混じりに現在金銭面で少々困っていることを告げると、
「『妖怪の村』にでも行ったらどうだ?」
その死神は穏雅に新たな狩場として、『妖怪の村』というのを勧めた。
「妖怪の村…?」
「そう、妖怪の村。他の死神達は滅多に近づかないけどね。何せあそこにいる霊は動物や人間の霊とは比べ物にならないくらい強いんだ」
「そういや魔物の霊はかなり強いって聞いたな…現にそうだったし。場所は?」
妖怪の村に強い興味を持った穏雅は、どこにあるのかとその死神に尋ねた。その死神は少し惜しみながらも、穏雅ならまぁいいかと言うように、
「こっから山を3つほど超えた先の山さ。そこに妖怪の村があるってよ」
と遥か彼方の山を指差しながら答えた。
「ありがとっ、んじゃ早速行ってくる」
「気を付けろっ、あそこにゃおっっそろしい狐の妖怪もいるらしいからなぁ」
「こちとら元々おっっそろしい地獄の鬼だっ。どっちも同じようなもんだろっ」
ボゥッ!!
そう言いながら穏雅は全身に神気を纏うと猛スピードで空を飛び、一直線に妖怪の村を目指した。そんな数秒とかからず彼方に消えていった穏雅の姿をその死神はやれやれと首を振りながら見送った。
「やれやれ…まぁ、穏雅さんなら別に大丈夫かなぁ…」
死神はそう呟くと、自分は安全な霊を狩ろうと穏雅とは真逆の方向、つまり動物や人間の霊がいるところへ向かった。
しかし、妖怪の村を目指す穏雅の姿を見ていたのは、その死神だけでは無かった。
「へぇ〜、死神って雑魚ばっかだと思ってたけど、強そうなヤツもいるんだなぁ。まっ、今は腹を満たしますかっと」
その存在はそう言うとフワッと辺りに白羽を散らしながら、穏雅が飛んで行った方とは反対方向へと向かった。見た目からして10歳かそこらの少女といったところだろう。少女は天の光を燦々と受けながら、青空の中を舞った。
だがそれも束の間、先程まで陽が出ていた空はみるみる暗雲が立ち込め、
ザァーーーッ
ゴロロロロッ…ビカァッ!!!
たちまち猛烈な雷雨へと変わってしまった。しかしその少女はまるでものともせず、むしろ豪雨に打たれることを喜びながら空を飛んだ。
「あめあめ、ふれふれ、母さんなんて知らんっ!!!」
そんな歌を雷に乗せながら。
死神と相対する存在、それは魂を喰らう悪魔である。不合理な条件を持ち出し、それを破った者を堕落させ、絶望させ、最後は命と魂を喰らい去る。そうして生きている悪魔にとって死者の霊とは即ち、剥き出しになって喰べ易くなった食物。そんな存在が蔓延れば死者をあの世へと導き、連れて行く死神にとってたまったものではない。しかし悪魔にとっても死神が仕事すれば自分らが喰べる魂が減る。
だから死神と悪魔は互いに距離を置きつつも、慣れ親しむことは無いのだ。
しかしその少女と穏雅が出会うのは、また別の話であり、まだ先の話である。
それに穏雅がこれから出会う妖怪達始め、魔物の数々、怪物達、厄介な呪い、そして1等身の者達。
まだまだ穏雅の周りに平穏は訪れない。今までの異変はこれから始まる異変の序章に過ぎない、とでも言うように。
いつか自身の夢が叶うその日まで、穏雅は今日も腕を振るう。
幼い頃夢見た、無敵を目指して。
しかしそんな夢とはまた別に、穏雅には守るべきものがある。
「ねぇ、穏雅。今度家族一緒にどっか出かけようよ」
「出かけるって何処へ?」
「んー、まだ決めてない。穏雅はどっか行きたいとこある?」
「えぇ…まぁ、そうだな。美味しいもんでも喰いに行くか」
「賛成っ!」
大事な家族を、美奈と清の笑顔を、守るため、穏雅はまだまだ高みを目指す。生まれ持ってあるこの『魔神の力』で、誰も彼も傷付けて来たこの力で、必ず家族を守ってみせる。
そう誓った男は、今日もまた己が夢のため、鮮血舞う日々に身を投じるのだった。
第2章、完
次回、新章突入
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