表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンバランス・ワールド  作者: がおー
第2章 〜うちの主人は死神様〜
119/1000

伝承を塗り替えし者

おまたせしました

「ふん、今更何を言う。俺はお前を潰す、ずっとそうして来ただろう?」


 央力(おうり)がそう言った瞬間、


 ドボォッ!!


「……っ!!?」


「…ふん」


 電光石火で間合いを詰めたかと思えば、央力(おうり)の拳は()()()()()()()穏雅(おうが)の腹を貫かんとめり込んでいた。内臓を抉られた苦しみより先に間を一瞬で詰められたことと、腹を殴られたことによる困惑が穏雅(おうが)の思考回路を埋め尽くす。その場に呆然(ぼうぜん)と立つ肉人形と化すように。

 そして穏雅(おうが)の脳がやっと神経を通じて腹の痛みを感じ取ると同時に…


「でりゃあっ!!」


 バギッ!!


 央力(おうり)の回し蹴りが無防備になった穏雅(おうが)首元に炸裂した。防御すらままならない穏雅(おうが)はその攻撃をまともに喰らい、遥か彼方、岩にぶつかるまで吹っ飛んでいく。たったそれだけ、ほんの2発の攻撃のみで両者の間に絶対的な力の差があるのは誰が見ても一目瞭然(いちもくりょうぜん)であろう。現に完全に次元が違う美奈(みな)でさえ、その実力差を全身で感じ取れるのだから。

 それから2人の戦いは続くが、劣勢と優勢の状態が(くつがえ)ることは無かった。


「らぁっ!!」


 ビュオッ!!


「むんっ!!」


 ビュバッ!!


「…」


「く、くそったれがぁっ!!」


 穏雅(おうが)の拳は何度も空を切るだけで、央力(おうり)の体にはかすりもしない。常に拳の射程距離ギリギリのところで央力(おうり)は立ち振る舞い、最低限の動きで拳を避け続ける。そうなれば体力を削られるのは穏雅(おうが)の方だ。しかも『黄金の戦士』への変身による神気(じんぎ)の消耗もそこに乗算されている。


 反対に央力(おうり)の方はというと、変身時に見せたオーラは微塵(みじん)も出さないから、体力の消耗もまるで無さそうだ。それも相まり始めからあった戦力差もみるみる開いていく。もしもここで穏雅(おうが)が平常心を取り戻し、無駄な神気(じんぎ)摩耗(まもう)を抑えるために一度距離を置けたら立て直せるかもしれない。普段の穏雅(おうが)なら恐らくそうしただろう。


 しかし今の穏雅(おうが)にそのような発想は浮かばず、癇癪(かんしゃく)を起こした子供みたく闇雲に攻め続ける。そこに先ほどのような余裕も、今までのような華麗さも無く。


 バシィッ!!


「ぐっ!」


「ふん」


ついに穏雅(おうが)の渾身の拳も容易く防がれ、


「だっ!」


 ドッ!!


「ごはっ!」


 カウンターの蹴りを腹にねじ込まれるようになる。その蹴りが決定打となり、穏雅(おうが)は腹を抑え、苦悶の表情を浮かべながら後ずさる。


「ごふっ…ぐはぁ…」


「やれやれ、どうやら修行で差がつき過ぎちまったみてぇだな」


 ついに膝をついた穏雅(おうが)に向かって央力(おうり)は煽るように言う。たしかに少し前まで2人の実力はほぼ互角だっただろう。だからこそ100年近く互いにぶっ倒れるまで殴り合えたのだ。そして穏雅(おうが)が強くなれば跡を追うように央力(おうり)も強くなった。


 されど今は違う。たしかに穏雅(おうが)は強くなり、一度は央力(おうり)を退け、ロボの猛攻に耐え切った。だが天界での修行に励み、桁違いの強者を師として敬い、更なる力をその手にした。それは央力(おうり)にとってかけがえの無いものとなっただろう。何せ産まれて初めて()()()()という者に出会い、生活を共にし、力の出し方を学んだのだから。それまではずっと独学と本能に任せっきりで遮二無二(しゃにむに)かつ荒削りで強くなって来た央力(おうり)にそれは新鮮などという言葉では言い尽くせなかったであろう。


 央力(おうり)の師であるその天使には家族とはまた違った温もりがあった。巨大な力を持った存在に体を預けられる安堵感とでも言うのだろうか、はたまた年上のいとこ寄り添う年端もいかない子供のようなものだろうか、そんな感情を央力(おうり)はその天使に抱いていた。



 そしてその修行の成果は、今こうして伝承を塗り替えようとしている。『偽物は決して本物に及ばない』という伝承を。



「…こんなことが……こんな…こんなっ…!」


「まだやるのか、ま、そう来なくちゃな」



 腹を抑え、酔いどれの足で崩れ落ちる体を支えながら穏雅(おうが)は態勢を整える。しかし肉体の過剰な酷使と神気(じんぎ)の無駄使いがここに来て響き、今となっては黄金の戦士の変身を保っているので精一杯のようだ。

 そして残りわずかとなった神気(じんぎ)を右手に(まと)い、


 ゴォッ!!


 と渾身の拳を央力(おうり)の顔めがけて振るった。それに腕を重ねるように、央力(おうり)は左手でカウンターを放つ。


 ズドォオオオンッ!!!


 巨大な力同士がぶつかり合う。そのエネルギーは衝撃波となって、激戦の爪の残る地獄の大地や空気をビリビリと震わせた。



「……」


「……」


 シィン……



 互いの拳が互いの頭を捉えたまましばらく動かなかい両者。果たして勝負の決着は、とその行方を(かたわら)で見守っていた美奈(みな)が唾を飲んだ瞬間、


 ズルッ……ドドォッ

 

 と片方の体が崩れ落ちた。


「ふん、前の時の方が痛かったぜ」


 最後まで立っていたのは央力(おうり)の方だった。央力(おうり)は口元からわずかに漏れた唾液を親指で拭いながら地面に倒れる本物にそう言った。

 伸びてくる相手の腕の上に自分の腕を滑らせ、玉砕覚悟で繰り出す技、そしてかつて自分を殺した技であるクロスカウンターで央力(おうり)は決着を付けたのだ。

 勝敗が決した以上変身している必要もないと、央力(おうり)はフッと黄金の戦士を解く。すると、


穏雅(おうが)っ!」


 夫の敗北に妻である美奈(みな)が倒れる穏雅(おうが)の元へ駆け寄った。その頰には大粒の涙がつたい、ボロボロになって目を閉じる穏雅(おうが)の体へと降り注ぐ。

 そんな本物を見下しながら央力(おうり)の表情は愉悦(ゆえつ)と寂しさを半々に含んでいた。産まれた時から今日の今日まで本物を倒すことを夢見ていて、たった今それが叶ったのだ。偽物の使命を果たした今、最早自分に偽物として過ごす必要は無い。そう思うと胸の中が酷く寂しくなる。文字通り生きがいの1つを奪われたのだから。


 だがかつてのように央力(おうり)の心を絶望が埋め尽くすことはなかった。何故なら央力(おうり)の側には手に負えないほどの愛すべき娘達がいるのだから。


穏雅(おうが)っ! 穏雅(おうが)っ! 目を覚ましてっ!」


 そんな感傷に浸る央力(おうり)を置いて、美奈(みな)はなお穏雅(おうが)の体を揺さぶり続ける。しかしそれでも穏雅(おうが)の意識が戻ることは無い。


 するとそんな2人に反応したのか、央力(おうり)の影の中から1人の娘が顔を出した。


依存を司る闇(セィ=ヘルニェム)か。どうした」

「いや…あそこから強い依存を感じるから…」


 そう言って出て来たのは依存を司る闇(セィ=ヘルニェム)だった。セィ=ヘルニェムは穏雅(おうが)美奈(みな)の方を指差して、自分が何かを感じ取っていることをご主人様である央力(おうり)に伝える。


「強い依存って…何なんだよ」

「さぁ? 近くに行かなきゃ分かりません」

「しゃーないな」


 央力(おうり)は膝を折り曲げて目線を合わせながら依存を司る闇(セィ=ヘルニェム)に尋ねた。するとセィ=ヘルニェムは近付かなきゃ分からないと言うものだから、央力(おうり)は泣きつく美奈(みな)と泣きつかれている本物のところへと足を運ぶ。そして強引に彼女を穏雅(おうが)から引き剥がすと、そこから先はセィ=ヘルニェムに任せた。


「むむむ…」


「な、何なのよ…ソイツ…つか、あんた…まさか…」


「黙って見てろ。詳しいことを話すのは後だ」


 不安そうな顔を浮かべる美奈(みな)を止めながら央力(おうり)依存を司る闇(セィ=ヘルニェム)の言葉を待った。

 そして解析が終わったのか、セィ=ヘルニェムは(おもむろ)に立ち上がると、


「分かりましたよ、ご主人様。コイツは()()()()()()()()()()()んです。元々そっちの依存が強くあったみたいですが、今までは誰かさんによって抑えられていたみたいですね」


 と答えた。


「へぇ、つまり穏雅(この馬鹿)がさらに馬鹿になったのは、その依存が爆発したからってことか?」


 それに対し央力(おうり)はそんな疑問を投げかけるが、依存を司る闇(セィ=ヘルニェム)はいまひとつ納得がいっていないかのように眉を寄せる。


「そうなりますけど…それでは急激なパワーアップの説明が付きません。それに…」

「それに…?」



「何故か今は、()()()()()()()()()()んです」



「…はぁ?」

次回の投稿もお楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ