因縁の戦い
おまたせしました
「ふぅー…やっと出れた…」
「お疲れ様、よく頑張ったじゃないか」
天界のとある一室から1匹の鬼と1人の天使が姿を現わす。鬼の方の服…というより衣はボロボロに破れ落ちているが、隙間から覗かせる肉体には傷1つ無い。つまり衣を破くほどの攻撃を受けたとしても、それが癒える時間があったというわけだ。さらに後から出て来た天使の体には傷どころか汚れ1つなく、また疲れた顔を浮かべる央力に対しこちらはまるでそんな様子はない。
「こうして出れた以上、もう天界に用は無いだろ? そもそも早く行ってやらないとだからな」
「そうですか、ならば早く行きなさい」
天使はそう言って出口の方を手で示す。
「けっ、あんたからはアイツの匂いがするかさっさとそうさせてもらうぜ。つかもうこの服脱いでいい?」
「構いませんよ。 代えの服もここにありますし」
「おう、さっさと返せや」
央力は反抗的な口調で言いながら天使から自分の服をふんだくると、パッパと急いで着替えた。そして久しく着る服の質感を懐かしみつつ、自分を鍛えてくれた師の方を振り向くと、
「それじゃ行って来る。また会うかな? 大天使さん」
と言ってぺこりと頭を下げた。それはまさに感謝の表れ、弟子が師匠に示す敬意だった。そんな敬意を払った央力は少しだけ口角を上げると、
ボワッ
全身に神気をまとい、さも当然のように空を飛んだ。
そんな弟子の巣立ちを天使は黙って見送る。すると、
「まさか貴方が本当に『究極の闇』を育てるとは…我らの主が何と言うか…」
また1人の天使がその天使の側に現れた。
「別に構わないでしょう。いざという時は私が止めますよ。サキスミファエルさん」
「…貴方の師として、過信と軽率は命取りとだけ言いましょう。私はそのことも教えて来た筈ですからね。さて、このことを我らの主に伝えに行きますよ、ラフサナファエル」
サキスミファエルと呼ばれる天使はそう言ってラフサナファエルという天使と共に主人の元へと向かった。
――
その間に央力は猛スピードであの階段を目指し、それに沿って堕ちて行った。行きの時とは違い、階段を下る央力の表情には苦悶や苦痛は微塵もなく、あっという間に地獄へと堕ちていった。
「さぁて、戻って来たな…」
「お久しぶりです、ご主人様」
地獄が近づくと、それに伴って徐々に娘達の声も戻って来る。修行期間中は会うどころか会話すら許されなかったし、そもそも存在すら感じなかった。だからこうして再び娘達と言葉をかわすことも央力は長らく待ち望んでいたことなのだ。しかし今は呑気に感傷に浸れるような暇はない。
「すまんな、始まりを司る闇。再会の喜びはまた後でだ」
「そうですか…パルムもこの時を楽しみにしていたのですが…ご主人様の意向なら仕方ありませんね。他の者達には私から伝えておきましょう」
央力は残念そうに始まりを司る闇に言うと、アダムは落ち着いた口調でそう返した。央力だって娘達との再会を楽しみにしていたのだ。それを分かっているからこそ、アダムは何も言わず、落ち着き払った口調で命に従ったのだろう。
その判断は正しく、央力が冷静さを保てるよう促し、さらに自らの敵1人のことを考えられるよう思考をクリアにしてくれた。
「決着を付け、やられた分の借りは返す」
それだけを考えながら央力は地獄にいる宿敵を一直線に目指す。新たな力をその手に持って。
そして閻魔大王の間をすり抜け、地獄目指して飛んでいる最中、
ズァアアオオオオオオオオオッ!!
と眩い光が央力の瞳を包む。それと共に激しい衝撃波と爆音が央力の全身を襲い、進行を一時的に止めてしまう。反射的に背中を丸め、腕を体の前で交差し、それを基盤に神気の防壁を形成する。
「何なんだ一体…」
それが落ち着いたと見るや央力はそろそろと防壁を解き、状況を確認する。
「おぉ〜、なかなか派手にやるじゃないか」
すると遠くにそびえ立つ針山が見事に抉れているのが見え、衝撃波の原因はそれだと瞬時に理解する。それをやったのが穏雅かロボかは分からないが、とにかくそこに穏雅がいると分かっている以上行かないわけにはいかない。
ドヒュンッ!
央力は再び神気を満ち溢れさせながら地獄まで特急で急行する。
そこに見えたのは、分かりやすく神気を放つ穏雅とその前に立つ1人の女…いや蛇だろうか、央力もその娘達も未だに口にしたことのない生物がいた。
「じゃあね、美奈。清は家にいるのかな? すぐに見つけて後を追わせてあげる」
「やっ…やめて…」
そして穏雅の手が美奈の首に触れた瞬間、
ドォンッ!!
そこに割って入るかの如く、すぐ近くに央力は着地する。
「っ!」
「っ!?」
「よぉ」
目を丸くする2人に央力はスタスタと近づいていく。その瞳には荒ぶる敵意で溢れおり、すぐさま拳を交えようと体を疼かせている。
「…お、穏雅じゃない…?」
「…これはこれは、前に俺にぼろ負けした央力じゃないか。てっきり逃げ出したかと思ってたんだが?」
「はっ、貴様を潰さない限り俺は死なねーよ。つかそもそも不死身だし」
「ふん、ってことはまた俺にぼろ負けしに来たのか。わざわざご苦労様」
困惑する美奈を置いて穏雅と央力は互いにバチバチと火花を散らす。しかし央力の瞳には前のように憎悪を燃やさず、ただ純粋な敵意だけが燃えていた。普段の穏雅ならその違いに気づくだろうが、今の穏雅にそれは見えていないようだった。
「さて、何をしに来たんだ? まさか俺を殺しに来たなどという冗談は言わんだろう?」
「違うな…お前を完膚なきまでに叩き潰しに来たんだ」
「へぇ…」
穏雅も央力も互いに余裕そうな態度を見せながら戦闘態勢に入る。完全に蚊帳の外にいる美奈はあたふたと困惑の顔を隠さずにいる。そんな彼女に央力は、
「お前は離れてろ。巻き添え喰らうぞ」
と手を振りながら言う。その仕草に美奈はパクパクと頷きながら、避難所と化した岩の後ろに慌てて隠れる。動かない鉄屑と化し、体もまぁまぁ冷めたロボをずるずると引きずりながら。
「邪魔者はいなくなった。じゃ、やろうか?」
「そうだな、今度は前見たく瞬殺で終わってくれるなよ?」
「その言葉、そっくりそのまま返していいか?」
「ほう、舐められたもんだな…」
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ…
両者の神気が体から溢れ出し、それだけで地面が揺れ動く。その光景を美奈は動かないロボに巻き付きながら見守る。
シュゥウウウウウウ…キィイイイイイイイイッ!!
ギュウウッ…
…ゴォッ!! ボワッ!!
穏雅の体からは煌々と輝く光の神気が溢れ、その身を『黄金の戦士』へと変える。
キュインキュインッ…キィイイイイイイイイッ!!
ボワッ…
ゴォッ!! ボシュウッ!!
央力の体からは悠々と揺らめく闇の神気が放たれ、その体を『黄金の戦士』へと変えていく。両者の凄まじい神気がぶつかり合い、ビリビリと空気が裂けんばかりに空気が音を立てている。
「ちょっとは強くなったのか? でもそんな風に余裕こいてるやつほどあっさりやられるもんだぜ」
「そうかそうか、そりゃごもっともだな」
穏雅の煽りに意外にも央力は乗らず、呆れたような顔を浮かべる。今のところ神気の総量は穏雅の方が圧倒的に多いのだが、何故か央力の顔から余裕の色は消えない。
「それじゃ、いくぜっ!」
そんな央力に向かって穏雅は殴りかかる。その速度はかつての『黄金の戦士』である自身を超え、威力も格段に上がっていた。
しかし、
ビュオンッ!!
「っ!」
穏雅の拳は当たるどころかかすりもせず、ただ空を切るだけだった。たしかに自分は敵の顔を捉え、かわすことなど出来なかった筈だ、と困惑の色が穏雅の脳裏に浮かび始める。
そんな穏雅の背後に央力は余裕綽々に立つ。
「っ…テメェッ!」
「はぁ…わざわざこんな雑魚を倒すために、俺はあんな苦労を…」
さらに央力は煽るかのように残念そうな顔を浮かべてみせた。それは穏雅の怒りを逆撫でするのに十分な効果を持ち、神気を過剰に放出させた。
「まぁいいや。見せてやるさ、俺の新しい力を、な」
「何だと…っ?」
央力はため息混じりにそう呟くと、
「はぁああああっ…」
ゴォッ!!
と全身にさらなる量の神気を溜めていく。まだ体外に放たれていない筈なのに、底が見えないほどの神気の量は怒りに震える穏雅に冷静さを取り戻させた。しかしそれと同時に目の前の敵にわずかなりの不安を覚えさせる。
「むんっ!!」
ボワッ!!
バチッ…バチッ…
そしてついにそれが解放され、央力の周りに溢れ始める。その神気の荒々しさと放出される量が過剰故に辺りの空気とオーラが擦れ、バチバチと火花さえ散らしている。それはつまり今の央力が今までと明らかに別格の存在になっていることを示していた。
「なっ…お、お前、お前は央力だろっ!?」
「ふん、今更何を言う。俺はお前を潰す、ずっとそうして来ただろう?」
次回の投稿もお楽しみに




