決戦の日 〜後編〜
おまたせしました
ギュオオオオッ!!!
ロボの右腕から放たれた光線は一直線に目標へと伸び行き…
バッ……
見事命中。
その瞬間…
カッ!!
と辺りが白一色の光に包まれたかと思えば、
ズァアオオオオオオオッッ!!!
激しい爆音と爆発が辺り一面に響き渡り、地獄の大地を大きく揺るがした。さらに追撃するかのごとく異常な威力を持った衝撃波が襲い来る。その鋭い空気の刃はロボの周辺にまで牙を剥き、まるでバターナイフのように大地や岩肌を切り裂いていく。もちろんロボのそれの対象でない筈がなく、鋼の体に襲いかかる。
しかしさすが地獄の3匹の鬼と謳われ、穏雅や央力を始め、数多の受刑者を相手にして来た実力は嘘では無く、その刃に負けるような玉では無かった。吹き荒れていた暴風風や大きく揺れる大地はやがて収まり、辺りは再び静寂に包まれていく。
だが、
「……っ!」
その光景を目の当たりにした唯一の存在である美奈は地獄の変わりように言葉も出なかった。発射された光線の行先である針山が、炒飯を散蓮華ですくい取ったかのごとく、一部分だけバックリと抉れているのだ。それも遠目からでも分かるくらいに。
いったいどれだけの威力があの一撃に込められていたのかと美奈は想像するが、戦いに身を置く立場でない彼女の頭では答えを導き出すのは不可能だろう。
そんな美奈でもとにかく桁違いだということだけは理解出来るほどに、光線の威力は凄まじかった。
「…ロボッ」
風の刃が止むのを見計らい、美奈はロボに近寄る。これで終わった、あの光線の前に夫は散り、もう帰って来ないという現実を噛み締めながら。決してロボを責めるために近づくのでは無いが、ただ何となく何かをロボに言ってやらなくては心の気は済まなそうだった。
しかし、
「近寄るなっ!!」
というロボの声に思わず美奈は体をビクつかせてしまう。何で、と問う間も無く、
「まだ終わってないっ!!」
とロボは続けて叫ぶ。その言葉に一瞬わけが分からなくなるが、自分が今ここにいるべきでないということはロボの強い口調から察せた。美奈は慌ててもといた岩の後ろに身を隠すと、影からそっとロボの姿を覗き込む。
するとロボは射撃状態に変形した右腕をいじりながら、
「クッソ…迎撃地点に高エネルギー反応……やっぱ一撃じゃ無理か…っ」
とボヤいていた。その言葉に美奈は心の高ぶりと不安を同時に覚えた。脈絡としては決して繋がってはいないけれど、ロボがああ言って第二射を放たなくてはならないということはつまり…
(穏雅はまだ生きてる…っ!)
そう思った瞬間、口元からは笑顔が溢れる反面、心の中では本当に喜んでいいものかと葛藤が生まれていた。死なない夫だとしても中身が本当に変わり果ててしまったのなら、それこそ今度こそ本当に拳を振るわれるかもしれない。自分の言葉が届かない存在に成り果てているかもしれない。けれどそこにいるのは紛れもなく夫の顔をした存在なのだ。
その板挟みに苦しむ美奈を置いて、ロボは第二射の準備を始める。
ガゴンッ
ガギッ…シュウウウウウウッ……
「冷却急げッ……総バッテリー、メインとサブ合わせて52.6%……か」
ロボはフラフラな足取りで再充填と冷却システムを機能させると同時に二撃目を放つ態勢に入る。バッテリーは家の中で満タンにして来たにも関わらず、たった1発で全体の半分も持ってかれたのだ。まだまだ改良の余地を残しつつ、ロボは目標に向かって腕を伸ばす。揺れる体を抑えるため、とうとう地面に膝をつきながら。
キィイイイイイイイイッ…
冷却が終了し、再び右腕にエネルギーが収束していく。右腕内部の『超粒子』は今度こそ標的を葬らんと、轟々と音を吹き荒らしながら放たれるその時を待つ。ロボの息子、世継の、美奈とその娘、清の、そして地獄の未来はこの光線に託されたのだ。
そしてついに再びその引き金が引かれる。
バシュウッ!!
大地が切り裂かれる痛みに叫び、空気がその目を焼かれ、氷は高温に悶え、炎は嘆く間も与えられず消えていく。
ズッ……ッ!!
そして強烈な光が地獄中を包んだかと思えば、
ズァアアオオオオオオオオオッ!!!
激しい爆音と衝撃波が再び暴れ狂う。それは離れていたロボや美奈はもちろん、激闘をそのレンズやマイクに抑えようと乗り込んでいたマスコミ達にまで及んだ。ましてや針山付近に生息していた蟲や生物など、消えることに抗うことも苦しむこともなく消滅したことだろう。
シュウウウウウウ……
しばらく経ち、衝撃波も収まると、煙の中から惨劇の傷跡が顔を出した。標的が凄んでいた針山は頂上から3分の1くらいが消し飛んでおり、その背はだいぶ縮んでしまった。そうでなくとも山の周りは衝撃波でズタズタになっているのだから直撃した針山が遠くから目に見える以上に甚大な被害を受けたのは間違いないだろう。
だがその光線はきっと地獄の脅威を取り除いてくれたに違いない。
「ロボォッ!!」
美奈は再びロボの元へ走り寄る。亡き夫を想い目に涙を浮かべながら。
「……」
「ロボッ…?」
だが美奈の言葉にロボはまるで反応を見せず、ブシューッと煙を吹き出し、両手をガクッと下ろし、シンッと俯いたまま動かない。彼女は不思議そうにロボに手を伸ばすと、
シュウウウウウ…
「あちっ!」
体に触れる前に高温が彼女の手のひらを襲った。すぐさま手を引っ込めたから火傷はしなかったものの、このままでは引っ叩いて起こすことも出来やしない。美奈はふんっと鼻で息をしてから手頃な大きさの石を拾うと、
「目ぇ覚ましてよっ」
ゴォンッ!
と目覚ましの代わりにそれをロボの体へと投げつけた。
だが、
「……」
それでもロボは目覚めず、受け身も取らずに地面へドシンッと倒れ込んだ。その姿に美奈は不思議に思いつつ、まだ煙が上り続けるロボの体に手を伸ばす。
「もう起きないよ、だってバッテリー切れだもの」
その瞬間、美奈の上から声が聞こえて来た。彼女は頭が理解するより早く、反射的に振り向くとそこには、
「穏雅……っ!!」
愛する夫の姿だけがあった。服はボロボロに破け、体のいたるところに傷跡があるものの、特に気にもしていなかのように穏雅は振る舞う。とても針山を消し飛ばせる光線を2発も受けたとは思えない。しかしその考えを踏みにじるかのごとく、穏雅は妻の前に立った。
「いやぁ、正直死ぬかと思ったね。あんな攻撃、直で受けたら流石にやばかった」
「な、何で…何で…」
「ん? おいおい、俺はお前の夫だぜ。お前を残して死ねるかっての。あっ、台詞が臭いっていう台詞は勘弁な」
「…嘘っ……」
自分を前に高笑いしながら話す穏雅に美奈は恐怖すら覚えていた。普段ならくっさい台詞吐いてんじゃないって突っ込むのに、今は何故かそれが出来ない。いつもみたくビンタも出せない。
逆らえば首が飛ぶ、と思わせるくらい穏雅の笑顔には邪悪さが滲み出ていた。その恐怖は美奈の喉を縛り付け、体からは一切の自由を奪う。元来、月とスッポン、注連縄と蛇のごとく力の差がある。しかも穏雅と彼女なら尚のこと。
ダッ…
「…ロボッ!! ロボッ!! 起きて!! 起きてよっ!!」
「あーあー、夫の目の前で浮気かよ」
完全に恐怖に背筋も何もかも凍らせた美奈は地面に倒れ伏せるロボに助けを求める。恐怖に駆られ、冷静さを狩られた彼女には最早自分以上の存在に助けを求める他なかった。彼女は未だに煙を出すほど高熱を持つロボの体を必死に揺するが、それでもロボが目を覚ますことは無い。
「そんなっ…」
「言っただろ、バッテリー切れだって。ほら、右手にDanger Emergency って表記されてるじゃん。ロボなんだからバッテリーが尽きればただの鉄屑なんだよ」
穏雅がそう言って指差した先にはたしかにその文字がロボの右腕に浮かんでいた。つまり新たにエネルギーを供給しない限り、ロボは決して動くことはない。もちろんひたすら大声で呼びかけるだけでは目覚めないことなど言うまでもない。
「さて…美奈、もういいだろ。央力もロボもいない。あとは…お前だけだ」
そう言いながら穏雅は美奈の元へゆっくりと近づく。最早痛みまで感じられるほどの殺気を放ちながら。
「おっ…お前なんか、穏雅じゃないっ!!」
体を震わせる美奈は何とかその言葉を絞り出す。
「ふぅん、じゃあ愛しの夫に助けでも求めりゃいいじゃねえか。ソイツは絶対にお前を守るって言ったんだろ?」
そう言いながら穏雅は美奈の首めがけて手を伸ばす。そこにあるのは愛など微塵もない明らかな殺意と、命などゴミ同然のように扱う目つき。最早彼女が愛し、愛された者の姿は、彼女の言う通りどこにも無かった。
「じゃあね、美奈。清は家にいるのかな? すぐに見つけて後を追わせてあげる」
「やっ…やめて…」
そしてついに穏雅の手が美奈の首に触れた。
次回の投稿もお楽しみに




